疫学

曝露因子ってそもそも何?

2020年10月20日

今回は、疫学で欠かすことのできない「曝露」という概念について見ていきます。

ちなみに、曝露の「曝」という字は常用漢字にないらしく、曝露の代わりに暴露という漢字があてがわれることもあるようです。

ただ、「秘密を暴露する」のように「暴く(あばく)」という意味で使われるのが暴露なので、疫学においては暴露ではなくて曝露の字を使った方が「誤字かな?」と思われなくて済みます。

  • 参考リンク exposure/expositionは暴露か、曝露か

曝露とは?

曝露(英語ではExposure)という言葉は、アウトカムを説明あるいは予測する因子を表現する際に使われており、例えば下記のようなものがあります。

  • 環境(空気汚染)
  • 生活習慣(喫煙習慣、飲酒習慣)
  • 遺伝的特徴(血液型、目や髪の色など)

通常、「曝露」あるいは「曝露因子」という言葉で何かを表現する際には、健康に対して何らかの影響(往々にしてマイナスの影響)がある可能性があるもの、という意味合いで使われます。

「〇〇に曝露すると、△△の疾患を発症する可能性が■■倍になる」といった具合です。

曝露因子は、空気汚染や気候などの大局的(マクロ)なものから、その人がもつ遺伝的素因のようなミクロなものまで、幅広いものに対して用いられます。

また、ある疾患において「曝露因子」として表現されるものであっても、必ずしもほかの文脈では「曝露因子」としてみなされない場合もよくあります。

例えば、片頭痛の曝露因子として「低気圧」が考えられますが(低気圧の時には片頭痛の症状が起こりやすい)、脂質異常症の患者さんについて分析するときに「低気圧かどうか」というのは「曝露因子」として捉えられることはあまりないように見受けられます。

また、リスクファクター(危険因子)として挙げられるものと、曝露因子として挙げられるものは大体その文脈において一致するので、その使われ方はほぼ同義です。

アウトカムとは?

なんとなくさらっと「アウトカム」という言葉を使いましたが、アウトカムとは「何らかの疾患を発症した」「何らかのイベント(入院、アナフィラキシーショック等)が起きた」「何らかの医療行為が行われた」という事象に対して用いられる言葉です。「COVID-19による急性呼吸促迫症候群(ARDS)が生じた」というのも、アウトカムの1つでしょう。

アウトカムという言葉は英語としては「結果」というresultと近い言葉として広く使われる言葉なので、「健康関連アウトカム(health related outcome)」などと枕詞を付けて用いられることもあります。

曝露とアウトカム

曝露とアウトカムは、臨床研究における二つの重要な要素であり、これらが想定されていない臨床研究は皆無と言っていいでしょう。

通常、臨床研究あるいは疫学研究では、曝露とアウトカムの関係について明らかにする、というのが主目的になります。

分かりやすい事例として治験を挙げると、「新薬Aに曝露すると、疾患Bの患者さんの健康関連アウトカムが良くなる」というのが、乱暴ですが治験の典型例です。とてもシンプルですね。

次のような命題の真偽を判定するための研究も、臨床研究または疫学研究と言えます。

  • 喫煙習慣のある人は、肺がん又は咽頭がんに罹患しやすい
  • HPVワクチン接種者は、子宮頸がんに罹患しにくい

ここでお察しの方は、これはリサーチクエスチョンに密接に絡んでいるということを感じられたと思います。

いまさら聞けない?疫学の基礎ーその3「臨床研究の大まかな流れ(前編)」

いまさら聞けない?疫学の基礎ーその4「臨床研究の大まかな流れ(後編)」

まさに、曝露とアウトカムが何かを考えることは、リサーチクエスチョンの設定に直結します。曝露とアウトカムが設定されたら、あとはその修飾因子を考えたりと言った微調整に入ることになります。

研究の根幹あるいは大きな方向性は、曝露とアウトカムに何を設定するか、というところで大半が決まってしまうのですね。

曝露とアウトカムの逆転

面白いのは、研究の立て方によって、ある研究では曝露であったものが、別の研究ではアウトカムともなり得る、ということです。

例えば、「喫煙すると肺がんを発生しやすいか?」という研究では、喫煙しているかどうか、というのは「曝露」です。

ところが、「禁煙プログラムを実施することで、喫煙習慣を減らせるか?」という研究では、喫煙しているかどうか、というのは「アウトカム」になります。

「介入(人々の健康に影響のある要素の有無を調整したり、程度の強弱をいじること)」というのは、薬物を投与するだけではなく、行動様式を変えるということもあり得ます。

様々な曝露因子たち

例えば、糖尿病の場合、肥満や運動不足などの生活習慣が曝露因子となります。喫煙や過剰なアルコール摂取が肺がんや肝臓がんなどの発症に関連する曝露因子とされます。また、感染症の場合は、感染源や感染経路などが曝露因子となります。

曝露因子は、個人的な要因や環境的な要因に分類されます。個人的な要因には、年齢、性別、遺伝的素因などがあります。一方、環境的な要因には、気候、空気汚染、水質汚染、食品汚染、生活環境、職業などが含まれます。

曝露因子は、単独で疾患を引き起こすことはなく、複数の因子が相互作用することで疾患を引き起こすことが多いとされています。また、曝露因子は人々によって異なるため、個人のリスクを正確に評価することが重要です。

疫学における曝露因子の調査や分析は、疾患の予防や管理に役立ちます。曝露因子を正確に把握し、疾患を予防するための対策を講じることが、より健康的な社会を実現するための重要な一歩となります。

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