再び、調剤ビジネスに大きな変革の時が訪れようとしています。
その変革とは、GAFAの一角であるアマゾン・ドット・コム(アマゾン)による、「処方箋医薬品のインターネット販売ビジネス参入」です。
アマゾンは、2023年に日本で処方薬のネット販売を検討しているというニュースが世間を騒がせていますが、11月25日時点でもアマゾンからの公式発表はない状況です。
そのため、"アマゾン薬局"の全容は明らかになっていませんが、以前から処方箋医薬品のインターネット販売については楽天の参入も噂されていたこともあり「いよいよか」と考えている識者も少なくありません。
実際、「アマゾンによる処方箋医薬品のインターネット販売」が実現した時の影響は無視できないでしょう。
調剤ビジネス従事者からは不安が、消費者からは期待が、それぞれ寄せられているのではないでしょうか。
様々な媒体で「薬剤師の淘汰」や「安泰だった薬局ビジネスの終わり」などの文字が踊っており、その注目度が伺われます。
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アマゾン薬局はどう始まる?
公式発表はまだなされていませんが、「アマゾン薬局」は、まずは「アマゾンマーケットプレイスの対象を調剤薬局に拡げる」ところから、その歴史が日本でも始まる可能性が高いです。
すなわち、アマゾンがインターネット上でオンライン調剤ビジネスを始める、というのは最初ではないということです。
オンライン調剤業務を行なうためには、服薬指導を含めた対人業務を担当する薬剤師を雇わなければなりませんが、そのためには初期費用が膨大になります。
そのため、まずアマゾンが提供するサービスは「調剤薬局と患者をつなぐ処方薬流通プラットフォーム」が手堅い落とし所と考えられます。
イメージとしては「調剤薬局版アマゾンマーケットプレイス」でしょう。
様々な規模の調剤薬局が、「調剤薬局版アマゾンマーケットプレイス」に出店するというのが2023年に予想されることです。
2023年にアマゾンが薬局業界に参入する理由は、「電子処方箋」が2023年1月から本格導入されることに起因するといえます。
電子処方箋が導入されると、病院やクリニックは希望者に対して「電子データ化された処方箋」を送ることが可能になります。
そして、電子処方箋の処方内容(控え)に記されている「引換番号」を、電子処方箋に対応している調剤薬局に伝えることで、オンライン上もで服薬指導を受けることが可能となります。
オンライン服薬指導を受けたあと、処方箋医薬品を宅配サービスを通じて受け取る、という流れです。
「アマゾン薬局」サービスが始まると、患者がアマゾンのウェブサイト上で「電子処方箋に記載されている引換番号」を入力し、確認が取れた処方箋医薬品についてはアマゾン商品と同じように配送される、ということが想定されます。
この「電子処方箋」の本格導入が最も大きな影響を及ぼしますが、その他にも3つ、「アマゾン薬局」サービスを促す法改正があるのでご紹介しましょう。
1.オンライン服薬指導
新型コロナ禍をきっかけに実用化が加速した「オンライン服薬指導」も、アマゾン薬局サービスの後押しになっています。
「オンライン服薬指導」は2020年9月に解禁されました。
オンライン服薬指導では、パソコンやスマートフォンなどを通じて、薬剤師が患者さんに薬の使用方法や注意点を説明・指導する、というものです。
つい最近までは、原則として薬剤師が対面で服薬指導することが「義務」でした。
技術的には可能でも、制度としてオンライン通話の利用を認めていなかった、というのがつい数年前のことなのです。
そのため、例えばオンライン診療を受けた場合であっても、患者さんは「郵送された処方箋を薬局に持参」して、わざわざ対面での服薬指導を受けないと、処方箋医薬品を受け取ることが出来ないという障害がありました。
オンライン服薬指導の解禁により、「オンライン診療→オンライン服薬指導」が可能になり、自宅にいながら診療と服薬指導をオンライン上で完結させる仕組みが整ったわけです。
ここに、「電子処方箋に記載されている引換番号」という最後のピースが埋まることで、「オンライン診療→オンライン服薬指導→処方箋医薬品の宅配」まで一気通貫で可能になる、というのが2023年1月以降の日本社会です。
2.リフィル処方制度
2022年4月から始まった「リフィル処方」制度も、アマゾン薬局サービスを後押しする制度です。
「リフィル処方」とは、「一定期間内であれば、1枚の処方箋を最大3回まで繰り返し利用できる」制度です。
「リフィル処方」=「処方箋の再利用」とも言えるかもしれません。
今までは、「処方箋は一回しか使えない」のが常識でした。
これが、「リフィル処方」では、2回目や3回目の処方箋医薬品の購入において、診療を受けなくても購入可能になる、というわけです。
「いつも飲んでいる薬が切れたから、受診しないと」というのが今までの"当たり前"です。
これからは、「オンライン服薬指導」と「リフィル処方」を組み合わせることにより、「いつも飲んでいる薬が切れたから、リフィル処方箋を使って薬局で処方箋医薬品を購入する」ほうが主流になる可能性があります。
例えば、慢性的な疾患の治療薬が切れそうなとき、薬を出してもらうため"だけ"に病院やクリニックを受診し、近くの調剤薬局で処方薬を受け取る(購入する)というのはありふれた光景です。
それが、リフィル処方箋が普及すると、2回目や3回目は受診せずに直接、調剤薬局で購入出来るようになるわけです。
そして、電子処方箋導入後は、「リアルの調剤薬局店舗」ではなく「アマゾン薬局」に電子処方箋を提出し、すべてをオンライン上で完結させることが理論上は可能になります。
現在、「オンライン服薬指導」や「リフィル処方」は、オンライン診療ほど知られていないように思われます。
これが、2023年1月以降の「アマゾン薬局」の始まりを契機に、急速に認知度が高まり、普及・浸透することも考えられます。
3.調剤業務の外部委託
これは少々未来の話ですが、2024年に解禁が検討されている「調剤外部委託」も、アマゾン薬局の後押しになります。
現在、患者から処方箋を受け取った薬局は、その薬局内で調剤しなければならない、と薬機法で定められています。
2024年に「調剤外部委託」が解禁された場合、調剤薬局は「服薬指導」は引き続き自分達で行いますが、「調剤や配送」を外部機関に委託することが可能になります。
「アマゾン」は、将来的には「調剤や配送を専門に行う外部機関」を目指している可能性があります。
2023年の参入は、そのための布石とも言えるでしょう。
これからの調剤薬局と薬剤師
これからの調剤薬局はアマゾン薬局のような「オンライン・時短型」と、従来の調剤薬局のような「リアル・ふれあい型」に二極化するでしょう。
慢性疾患で定期的に薬を服用している人や、忙しく薬局に行く時間が惜しい方々は「オンライン・時短型」の薬局がニーズに合うでしょう。
一方、面と人と向き合いながら、リアルの場で薬の説明を受けたい、安心感を得たいという方々には、「リアル・ふれあい型」の薬局の方が魅力的でしょう。
既に言われていることですが、リアル店舗型の調剤薬局では、薬剤師の仕事は、薬を調剤する「対物業務」よりも、服薬指導などの「対人業務」へ重きをおくことが求められていきます。
また、「2025年問題」とも言われるように、超高齢化社会の到来も目前に迫っています。
超高齢社会においては、在宅医療や在宅介護に対応した薬剤師の訪問サービスのニーズが高まります。
新たなニーズに応えられるビジネスモデルが求められているのは間違いないでしょう。