ビジネス全般

2030年SDGs目標年に向けての我が国のグローバルヘルス戦略中間とりまとめ

Ⅰ.現状認識

我が国は、健康が開発・経済政策の基盤として重要であるとの認識のもと、長らくグローバルヘルスを国際協力の重点分野の一つとして推進し、貢献してきた。加えて、我が国は、「誰も取り残さない(No one will be left behind)」という「人間の安全保障」を主張し、その実現のために、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(Universal Health Coverage(UHC))の達成を重視し、これを我が国のグローバルヘルス戦略の中心に位置づけ、国際的にも主流化に努めてきた。また、近年は、財務・保健当局が連携して持続可能な保健財政制度の設計を行う必要性を世界に提起してきた。

2019年末から発生したCOVID-19によるパンデミックは、国際社会全体に大きな負の影響を与えている。全世界の感染者数や死者数といった直接的な影響だけではなく、経済面でも大きな影響を与えており、また脆弱な立場にある人々はより大きい影響を受けている。今やグローバルヘルスは、国内・国際経済、ひいては安全保障にも大きな影響を与える問題である。

また、COVID-19は世界保健機関(WHO)を中心とした現在の国際保健システムのガバナンス及びファイナンスの脆弱性を露呈させた。国際機関間の連携・情報共有の不足、各国医療・保健システムの脆弱性、財務・保健当局者の連携不足、途上国支援を含む感染症拡大時の大規模かつ迅速な資金動員の限界など、多くの課題が示された。このため、国際社会においては、COVID-19の収束のための努力とともに、将来のパンデミックへの予防・備え・対応(Prevention, Preparedness, Response (PPR))の強化に向けたグローバルヘルス・アーキテクチャーのあり方、ガバナンス及び資金双方の改革が議論されているところである。

同時に、保健システムの強化と公衆衛生危機への備えにも資するUHCの重要性が再認識されている。「持続可能な開発に関する2030アジェンダ」に掲げられた「誰も取り残さない(No one will be left behind)」という国際社会の誓いや持続可能な開発目標(SDGs)のゴール3「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する」という目標は、COVID-19を受けてますます重要性を増している。「すべての人が安全でなければ誰も安全でない(No one is safe until everyone is safe)」という国際的な認識のもと、COVID-19からの「より良い回復(Build Back Better)」を目指し、UHC達成に向けた道筋を軌道に戻し、SDGsのゴール3やその他関係するゴールの達成に向けた歩みを加速化させるための努力が求められている。

さらに、感染症対策や母子保健といった従来からの重要な保健課題のみならず、世界人口の高齢化や非感染性疾患(NCDs)などによる疾病負荷の増大等に伴う医療・介護サービス需要の増加も重要である。特に日本の近隣国においては各国の保健システムが直面する問題は大きく変化しつつある。このように、一層多様化する健康課題にも適切に対応できる社会を構築していくことが必要である。

COVID-19を契機として、デジタル化、気候変動といった地球規模で取組を進めるべき課題についても国際社会の注目が集まっており、これらの観点も踏まえてグローバルヘルスに取り組むことが求められる。例えば、保健におけるデジタル化(デジタル・ヘルス)は、COVID-19により大きく前進のあった分野であり、技術革新を保健システムでの活用を含め、途上国を含む世界において社会実装を推進することが求められる。気候変動については、気候の変化がマラリアのような感染症の分布を変える可能性が指摘されているほか、大気汚染による呼吸器系疾患の増加、農村部の荒廃、都市部の人口増加がもたらされ、健康への影響が指摘されている。
このような状況において、我が国が官民挙げてグローバルヘルスに貢献することは、国際社会全体の安定のために、その一員として貢献することであると同時に、我が国自身の安全を高め我が国国民を守ることであり、ひいては新しい産業の成長戦略でもあり、我が国自身の繁栄につながる「成長と分配の好循環」である。またさらには、個々の人々の「人間の安全保障」の観点のみならず、地球規模の課題に直面している今、人類社会全体、人類と地球との共存といった視座も持つべきである。

Ⅱ 我が国の基本方針

1. 政策目標

グローバルヘルスは、人々の健康に直接関わるのみならず、国家の平和と繁栄にも影響を及ぼし、さらには人類社会と地球との共存という視座からも、国際社会の最重要課題の一つである。我が国としては、外交、経済、安全保障政策の観点を踏まえて、グローバルヘルス戦略として、以下の政策目標を策定し、推進する。

パンデミックを含む公衆衛生危機に対する予防(Prevention)・備え(Preparedness)・対応(Response)(PPR)を強化し、ヘルス・セキュリティーに資する国際的な協力・協調体制として、グローバルヘルス・アーキテクチャーの構築に貢献する。

その上で、「人間の安全保障」を具現化するため、ポスト・コロナの新たな時代に求められる、より強靱(resilient)、より公平(equitable)、より持続可能な(sustainable)UHCを、各国での保健システム強化を通じて実現することをめざす。

2. 政策目標の基本的考え方

(1) 国際的な協力・協調体制としてのグローバルヘルス・アーキテクチャー

パンデミックを含む公衆衛生危機に対しては、危機事における迅速な対応(Response)とともに、平時からの予防(Prevention)・備え(Preparedness)が重要である。PPRを強化し、平時と危機事の双方に対応するためには、国際規範の制定、保健情報検知体制の整備、医薬品・医療関係機器の開発・生産・調達・配布、人材育成、情報伝達国内体制の整備、資金動員、各国の保健システムの強化など各分野を強化・改善するための包括的な取り組みが求められる。また、それはより強靱、公平かつ持続可能なUHCの実現にも資するものである。これらを実現するためには、関係する国際機関・官民連携基金の連携の強化、各国財務・保健当局の連携の強化を可能にする、グローバルヘルス・アーキテクチャーの構築が不可欠である。

(2)保健システム強化

各国の保健システムを改善・強化するためには、それぞれの国のオーナーシップが重要であり、その上でドナー国・国際機関・官民連携基金による連携が必要である。保健システム強化においては、各国や地域の人口構造や疾病負荷を踏まえ、それぞれのニーズに応じた、良質な基礎的医療サービスおよび医薬品等への公平なアクセスの確保と健康格差の是正の観点が重要である。
また、特にコミュニティを保健システムの重要な基盤と位置づけ、コミュニティの社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)の豊かさが保たれるように配慮し、コミュニティの能力強化や、プライマリー・ヘルスケア(PHC)を推進し、人々の健康促進(ヘルス・プロモーション)を図る視点が求められる。

(3)強靱性

強靱性とは、各国の保健システム及び国際社会が危機に対し効果的に対応でき、必須サービスを危機時にも継続的に供給できることである。平時だけでなく有事においても人々の生命を守り、よりよい健康を達成するという強靱性の重要性はCOVID-19を受けてさらなる高まりをみせており、公衆衛生・感染症対策、保健システムへの平時からの継続的・長期的な投資が必要となっている。強靱な保健システム構築のためには、診断・治療・ワクチンなどの技術の開発及び、それらへの公平なアクセスの確保も不可欠である。

強靱性を確保するために、公衆衛生危機を早期に検知し対応することが必要であり、迅速な情報や検体の共有、専門人材の確保、医療物資の確保・公平な配分、財源の確保等を可能とする国際的な協力体制を構築することが重要である。

緊急時においても、必須保健サービスが継続されるよう体制を整備することが肝要である。

(4)公平性

保健における公平性とは、性別や人種・年齢やその人が置かれているあらゆる社会経済的環境によらず全ての人びとが公平な医療サービスを享受し、その結果、達成しうる良好な健康状態を享受すること、そのための経済的負担が支払い能力等を加味した公正なものであることである。COVID-19により顕在化したグローバルヘルスにおける国内および国際的な不公平や不公正な格差を是正することは急務であり、国民の健康安全保障と国際社会全体の持続可能な発展の両立に寄与することが重要である。

その際、保健・医療への公平なアクセスを保障するだけではなく、結果として得られる個々の健康状態における格差の改善に注目する。脆弱層(貧困層、小児、高齢者、障がい者、民族的・性的少数者、移民や難民など)の公正な保健・医療アクセスの実現には、保健システムの強化のみならず、社会福祉や年金などの社会保障制度、健康の社会的決定要因への介入、さらには医療社会保障制度を超えた健康に関するあらゆるセクターで連携した取り組みが重要である。

脆弱層に対しては一層の配慮を行うと同時に、公衆衛生危機に際しては、危機によってさらなる健康格差を助長することのないように、これら脆弱層への保護と能力強化が発揮される環境を整備することが重要である。

(5)持続可能性

持続可能性とは、保健システムが人口動態、疾病負荷、技術革新を含む社会の変容に伴う保健医療ニーズの変化、医療費の高騰などに対応し、サービス提供や医療保障制度を堅持できることであり、持続可能な保健財政に裏打ちされたものである。状況の変化に応じて、必要な対策を立案・実施できる能力を各国において強化することが重要である。

平時においては、保健予算のために持続可能な資金を確保するとともに適切な資源配分を行い、公衆衛生危機時においては必要となる大規模な資金動員が可能となる仕組みを検討することが重要である。

(6)分野横断的事項

保健分野とほかの分野(教育、水・衛生、栄養、人口開発、人権、経済、気候変動、持続可能な都市・コミュニティ等)との関連性を重視する。特に、貧困、経済格差、環境汚染、生活習慣、社会的ネットワークといった健康の社会的決定要因に対応し、人々の健康促進(ヘルス・プロモーション)を図る。

保健のあらゆる側面においてジェンダー平等と女性のエンパワーメント、および能力を発揮できる環境整備の観点を取り入れる。加えて、性と生殖に関する健康/権利 (Sexual and Reproductive Health and Rights)や性暴力防止、性搾取防止も重視する。

Ⅲ. 具体的取組

上記Ⅱの基本方針に掲げた1.の政策目標を実現するため、我が国の外交資源、人材、資金、知見、技術等を活用しながら、志を同じくする国や関係機関の理解を促しパートナーシップを築きつつ、具体的に以下のアクションに取り組み、成果を目指す。

1. グローバルヘルス・アーキテクチャーへの貢献

COVID-19の感染拡大を受け、G7、G20、WHOをはじめとする国際場裏においては、PPR強化の議論が本格化している。2021年5月のWHO総会では、パンデミックへの備えと対策に関するWHO強化作業部会の設立が決定、IHRの強化や新たな法的枠組み策定(パンデミック条約)の議論が行われている。G20では、2021年10月の第3回財務・保健大臣合同会議および首脳会議において、将来のパンデミックPPRに向け、「G20 財務・保健合同タスクフォース」の設立に合意、財務・保健の連携やPPR強化に向けた取組の制度化つついて、今後作業、報告することとなっている。

グローバルヘルスの重要性に光があたっている今こそ、COVID-19への対応に加えて、PPRに必要な取組み・連携を制度化していくことが必要である。UHCと財務・保健の連携強化を主導してきた我が国の立場を最大限活かし、平時、危機時双方において必要とされるガバナンス及びファイナンスの強化に向けた議論を実効的な帰結に導くべく、国際的議論を主導するとともに政治的モメンタムを維持し、UHCの視点を踏まえたPPRの強化およびグローバルヘルス・アーキテクチャーの構築に取組む。

また、グローバルヘルス・アーキテクチャーを支える理念的な原則や国際的な規範について情報を収集・集積し、我が国自身の知見も改善・活用しつつ、国際的な規範設定及びその普及に貢献していく。日本が国際的な規範設定に貢献するにあたっては、分野を選定し、ともに取り組むパートナーとなる国、国際機関、対象地域などを選定して考えていく。

(1) 財務・保健当局および関係国際機関の連携枠組みの制度化
(2) グローバルなレベルでの保健システムに関する包括的なギャップ分析・提言・アクションを行うメカニズムの制度化
(3) 断片化・重複を排した、関係国際機関(WHOや世界銀行等の開発金融機関)や官民連携基金の連携促進、情報共有
(4) 平時の保健分野への資金配分の優先化(IDAほか)、危機時の機動的ファイナンス(サージ・ファイナンス)制度の強化
(5) パンデミックへの対応強化のため、WHOの枠組みで検討が進められている新たな法的文書の議論等、国際的規範設定への貢献
(6) PPRの強化およびグローバルヘルス・アーキテクチャーの構築における、非感染症対策を含むUHCの取組みの主流化

2. 国際機関等を通じた取組

PPR強化およびUHCの実現のために、国際機関や官民連携基金等を通じ、途上国の保健システムの強化を支援していく。国連、WHO、UNICEF、世界銀行等の開発金融機関、グローバルファンド、Gavi、CEPI (Coalition for Epidemic Preparedness Innovations(感染症流行対策イノベーション連合))、GFF (Global Financing Facility) などの国際機関、官民連携基金に対し適切に拠出し、G7やG20の場を含む国際会議などにおいて対話を行い、我が国の考えと他国・国際機関との調和を図り、各機関による取組における成果を適切に評価した上で、効果的な支援の実施を促す。我が国の考えに賛同する国際機関、官民連携基金を見出し(トラベリング・パートナー)、それら機関と連携を強化し、キャパシティを効果的に活用する(レバレッジ)。その際、官民連携基金の優位性(事業規模・スピード・現場における関係者の参加を促すパ-トナーシップ等)を活かし、開発効果を高める。また、これら国際機関、官民連携基金による支援をレバレッジし、民間資金や途上国の国内資金動員を促進する。

3. 二国間ODAを含む多様な協力ツールの活用

UHCの実現や公衆衛生危機の予防・備え・対応の強化を実現するためには、二国間ODAを含む多様な協力ツールを効果的に活用し、各国の保健システム強化に取り組む必要がある。日本の二国間ODAの強みは、母子保健や感染症対策といった保健医療サービスの質・アクセス改善と同時に、横断的な課題である保健行政能力や保健人材強化を通じた包括的な保健システム強化を目指して、技術協力と資金協力を組み合わせて相手国のオーナーシップを尊重しつつ取組を支援してきたこと、政策・制度レベルから現場のサービス改善まできめ細かく支援してきたことにある。そうした取組を通じ、保健指標の改善や保健サービスの質・量の拡充のみならず、それを支える人材育成や制度構築の実現を支援するとともに、さらには保健分野における結びつき強化(政策決定者と政策決定者、組織と組織、人と人の関係)に大きく貢献してきた。

こうした現場の取組における成果を適切に評価したうえで、今後は、二国間ODAを更に活用し、保健人材の育成、公衆衛生や医療の中核機関の強化、医療保障等の重要制度の整備等の保健システム強化を、技術協力・無償資金協力や、保健政策の策定を支援するための政策借款を含む円借款等も活用して支援する。また、母子保健・リプロダクティブ・ヘルス、健康危機対応を含む感染症対策、栄養改善などの従来の課題に加え、高齢化や非感染性疾患対策、気候変動対策などの新たな課題への対応も含め、対象国の保健指標の改善、健康格差の是正を目指す。さらに、ヘルス・プロモーションの観点から、人々の健康に影響を及ぼす保健分野以外の要因への取組み(マルチセクトラル・アプローチ)を推進する。

以上のような取組を通じ、日本の経験共有、技術・知見の提供にとどまらず、知識の共創、双方向の学びあいを促進し、途上国を含む諸外国の知見や技術を触媒とする日本国内の組織・制度の変革も模索していく。
二国間協力の成果をより発展・拡大するため、技術協力などを通じて取り組んだ手法に関するエビデンスを創出し、それらを多国間ODAや官民連携基金を通じて普及・拡大することを目指すべく、世界銀行やグローバルファンドなどの国際機関、官民連携基金との定期的な対話や案件形成における協力を検討する。

二国間ODAに加えて、国際機関等への拠出、OOFその他の公的な支援のほか、アジア健康構想及びアフリカ健康構想が推進するような双方の民間企業の連携や、大学・研究機関や市民社会団体間の連携など、あらゆる資源の活用により対象国とのパートナーシップを強化していく。特に日本よりも先進的な取組を行っているような分野(一例として医療データ等)では、学び合いも含む連携の効果が双方向に向くような形での実施も模索する。

そのため、パートナーシップ国を選定し、オールジャパンによる取組をモデル的に推進していくとともに、そこから得られた経験・教訓を他国において活用していく。
ASEANやAUのような地域的な機構との連携も推進する。特に、地理的に近接している地域では、類似の疾病や人口動態にかかる課題を有することがあり、域内共通の課題に対しては地域的な取組や地域的な機構をカウンターパートとするODAの有効性にも留意する。

ワクチンや医薬品等の研究開発における迅速な治験を可能とする環境整備に向け、引き続きアジア地域における臨床研究・治験ネットワークを充実させる。さらに、薬事規制調和の分野における規範設定と普及へ貢献していく。

4. グローバルヘルス関連資金

グローバルヘルス政策の目標である公衆衛生危機下でのPPRの強化、「人間の安全保障」を具現化するポスト・コロナ時代のUHCの達成のためには、グローバルヘルスに関わる主体、官のみならず、民間、市民社会など様々な力を結集させて取り組むことが重要であるが、それは資金面においても同様である。官の資金として、日本のODAの分野別配分の検討も含め、保健分野に関するODAを倍増すべきであるとの意見が政財界、有識者から出されている。

我が国の援助額を検討した場合、2020年においては、COVID-19パンデミックによって保健分野で国際的な資金需要が高まり、我が国政府もこれに応えているため、前年に比して二国間・多国間援助も含を合わせた保健分野の援助額は大幅に増えていることが見込まれる。同様に、2021年も2020年と同等かそれ以上の数値となることが見込まれており、今後もグローバルヘルスの重要性にもかんがみ、国際的な資金需要に関する議論も踏まえ、我が国として保健ODAの量的拡充を引き続き図っていくことが必要である。また、平時からグローバルヘルス分野をはじめとする多様なステークホルダーなどとの対話を実施していく。

我が国の保健分野にかかわるODAのうち、二国間援助によるものの大部分は外務省および独立行政法人国際協力機構(JICA)の援助として行われている。他方、多国間援助によるものは外務省、財務省、厚生労働省の予算から各国際機関・官民連携基金への拠出金として払い込まれている。近年、グローバルヘルスを担う国際機関・官民連携基金は多様化しており、かつグローバルファンドやGaviやCEPIのように巨額の資金を必要とする機関もある。今回のCOVID-19パンデミックを契機として創設されたACT-A11は、これら機関・基金が連携して取り組む国際協力体制の枠組みであるが、1年半のうちに190億ドルを調達している。我が国としては、それぞれの機関・基金の戦略策定や運営に関与しつつ、日本の政策を実施する上での有用性、機関・基金のパフォーマンス、公的資金投入のアカウンタビリティなどを考慮して拠出を行っていく必要があり、この点も含め、内閣官房が中心となって関係省庁の連携を強化し、横断的な連絡調整を密に行うべきである。

また、医療・ヘルスケア分野における関係省庁・機関の事業を通じた民間企業等との連携をも含め、グローバルヘルス分野において民間資金を呼び込むためにはどのような方法が考えられるか、更に検討を行っていく。

5. 民間企業との連携

我が国が、グローバルヘルス戦略の下で保健外交を実施していく上で、民間企業の取組は益々重要性を増している。感染症への対応、高齢化や、それに関連する諸問題、非感染性疾患、栄養改善など、PPRやUHCの実現のために、民間企業の活力を活かすことは不可欠である。グローバルヘルスに関係する取組は、民間企業にとって、事業活動の基盤の形成や企業価値向上に資する新しい資本主義を体現する取組であるとともに、アジア健康構想及びアフリカ健康構想が目指すような、国際市場の潜在的な需要を取り込む新たな成長戦略の柱ともなり得る。

国際機関や、官民連携基金等と関係した民間企業のグローバルヘルスへの関わり方としては、国際調達(プロバイダー)、資金提供(ドナー)、プロジェクトへの投資や実施等の当該機関との協働・連携(パートナー)など、様々な形態がある。さらに、企業のその先のビジネスにもつながり得るような、戦略的な視点を持った取組が重要と考えられる。また、有事への対応の観点及び民間企業の競争力確保のためには、途上国のみならず海外諸国との連携を強化しておくことも重要である。

民間企業が途上国で様々な事業を行うことは、現地での雇用創出や人材育成、技術力の向上、それらの持続可能性の向上などに大きな効果があり、日本企業の持つ優れた技術やノウハウ、アイディアが期待されている。
こういった背景から、グローバルヘルスは新しい資本主義を具現化する格好の分野であり、我が国政府としては、医療・ヘルスケア分野を含めた幅広い業種の、かつ大企業から中小企業・スタートアップにいたるまで多岐にわたる民間企業等を重要なパートナーとして捉えることが必要であり、官民連携を強化し、その潜在能力を発揮できるよう環境整備を進めていくことは不可欠である。

具体的には、国際調達について、平時・危機時における国際機関や官民連携基金等の国際調達への貢献を視野に入れた、国際機関からの承認取得への支援といった取組を一層充実させるとともに、定期的に開催する国連調達セミナーも活用して調達に関する情報をタイムリーに共有し、有望案件の発掘にも資するような官民の幅広い関係者がそれぞれの強みを持ち寄り連携したプラットフォームを設置し、企業に伴走するような形での後押しを中長期的に実施していく。

SDGsに資する取組として、グローバルヘルス分野への投資に取り組む企業も医療・ヘルスケア分野をはじめ多様な業種で出てきている。こういった動きを後押しするため、好事例の普及や、投資により見込まれる効果・インパクトの適切な測定・可視化について、更に企業のグローバルヘルスへの投資を促すようなフレームワークへの応用についても視野に入れつつ、官民共同で検討していく。例えば、こうした観点から、我が国企業が取り組んでいる健康経営やその情報開示の仕組みを国際発信していくことも重要と考えられる。また、途上国においても、ODAを活用した、企業投資により見込まれる社会的インパクトの測定やインパクト発現に貢献する民間企業活動・投資を促進する制度構築の支援も効果的と考えられる。

また、在外公館での側面支援や、ODA等を活用した中小企業を含む日本企業等の海外展開支援事業等を通じた海外展開の一層の後押しも推進する。日本企業等の海外展開促進に加えて、途上国の研究開発能力の強化にも繋がる取組みとして、さらに、臨床研究や治験における国際共同研究を推進することが必要であり、これまで二国間ODAで能力強化を支援してきた途上国の中核病院や医学研究所等と日本企業や日本の研究機関との、臨床研究・創薬研究等における協力を推進・強化する取組も重要である。

グローバルヘルス分野の発展においては、官民連携だけでなく、海外と日本の民間連携も効果的と考えられ、そういった取組を政府として後押ししていく。

6. 市民社会との連携

最も脆弱な立場に置かれた人々の権利を擁護する観点から、「誰一人取り残さない」社会を目指し活動する市民社会は、UHC 及びSDGs を達成する上で不可欠なステークホルダーである。

市民社会は、日本・海外のNGO とも、途上国現地で、政府間の援助の手の届きにくい地域で柔軟性に富んだ小回りの利く支援活動を行っているほか、社会的・経済的に脆弱性の高い人々やコミュニティと共に活動し、国境を超えたネットワーク、柔軟性、機動性、情報収集や現状把握、ヘルス・リテラシーの向上やリスクの早期発見等の強みを有する。このように、市民社会は保健サービス提供の重要な担い手であると共に、コミュニティの形成や能力強化、全ての人々の健康的な暮らしに不可欠な適正な技術・仕組みの開発・検証・普及、更に政府が説明責任を果たすことを求め、取組のモニタリング、レビュー、評価など、多様かつ重要な役割を担っている。市民社会の中には、政府や企業など多様なアクターと関係を構築し事業を実施するなど、産官学および市民・コミュニティとの連携を含め、マルチ・セクトラルな連携の強化に取り組む団体もある。

NGO はグローバルヘルスの政策面において大きな役割を有しており、グローバルファンド、GaviやCEPIをはじめ、国際機関や官民連携基金の事業実施やガバナンスにも積極的に参画している。UHC の達成、SDGs に示されている保健や関連領域の問題への取組の促進、パンデミックの予防・備え・対応に必要な予算の獲得、資源の配分、効果的な政策導入と実施のためには、ODA のあり方に関する政策議論、事業形成、国際支援枠組みのガバナンスや運営など、あらゆるレベルにおける日本を含む先進国および途上国の市民社会の参加やオーナーシップの確保が不可欠であり、我が国として、その確保に向けた積極的な支援を行う。

このように、市民社会がUHCの実現と公衆衛生危機への対応能力を強化するために担う役割は大きい。UHCの観点からは、保健サービス提供の担い手としての役割をもつだけでなく、社会的資本(ソーシャル・キャピタル)の増強や、個人やコミュニティの有する脆弱性の低減に市民社会が貢献することが可能である。これらは「人間の安全保障」の実現に寄与するものでもある。また、政府の実施する政策が裨益者の視点からレビューし、提言を行うことができる。一方、公衆衛生危機の観点では、コミュニティが強靱であれば危機を素早く察知し、適切に対処ができること、またメディアとの連携によりリスクコミュニケーションを適切に行うこと、などの貢献が考えられる。

我が国として日本の市民社会の活動を支援するとともに、我が国のグローバルヘルス戦略上の重要かつ対等なパートナーとして市民社会を位置づけ、国内外のNGO、とりわけ途上国の草の根レベルで活動する中小規模の現地NGO に対する協力・対話を強化していく。

具体的取り組みとして日本政府においては、外務省の日本NGO連携無償資金協力やJICA草の根技術協力など、日本の国際協力NGOへ資金を拠出し支援を行う仕組み、各大使館が現地NGOへ資金を拠出し支援を行うことができる草の根・人間の安全保障無償資金協力の仕組みなどを有している。今後、コミュニティ・ヘルスに取り組む現地NGO などに効果的な形で資金を拠出の上、支援を行うチャンネルの確保や多様な市民社会との協議・対話の場の確保などを検討する。市民社会の参加と包摂的なガバナンスを推進することで、不平等や格差、差別といった構造的な課題解決にもつながることが期待される。

7. 大学・研究機関等との連携

多様化・複雑化する世界の保健課題に対応したUHCの実現のためには、各分野での専門性を高めつつ、分野横断的な視点を持った調査・研究能力を高めていくことが不可欠である。大学には、教育機関としての側面、研究機関としての側面、社会貢献という側面があり、グローバルヘルスに関連する活動が、そのそれぞれの側面において、大学側の関心と合致する形での実施促進が必要である。

さらに、COVID-19の教訓を踏まえると、ワクチンや医薬品等の基礎研究や臨床研究において公衆衛生危機時に大学・研究機関等が果たすべき役割は大きく、また他の医療セクターとのデータ等の情報共有や国際的な連携にも大きな役割を有することが明らかになった。経済安全保障の観点からもこれらに取り組むことが重要である。一方、危機時に迅速に対応するために、平時より専門領域にかかる研究を推進することも必要である。また、公衆衛生や感染症、データサイエンスといった分野の専門人材養成に果たす役割も大きい。

グローバルヘルス分野での研究領域を開拓し深化するために、大学や研究機関、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)、GHIT(グローバルヘルス技術振興基金)等の研究支援機関が連携して、グローバルヘルスに関連する事業等を通じ、地球規模課題の解決をリードしていくことは引き続き重要である。また、二国間ODAの実施段階などにおいて、アカデミア研究と実践をリンクするような形での連携も重要である。

さらに、途上国における研究・開発能力の強化も必要であり、その実施主体として大学・研究機関等の果たすべき役割は大きく、効果的に連携を強化して協力を進めていく。

途上国における研究・開発能力について、現地の事情を理解し、研究開発を通じて途上国の保健向上を目指す、非営利の医薬品開発パートナーシップ(PDP)は、様々なアクターを取りまとめ、研究開発を進めていく重要な役割を果たしている。大学のみならず、民間企業や、治験に応じる当事者コミュニティなど、異なるアクターの力を結集し、研究開発を推進することが求められている。

8. グローバルヘルス分野の人材強化

新しい時代のUHCや、PPRに対応するためのグローバルヘルス・アーキテクチャーの強化、さらに国際的規範設定にも貢献していくためには、相手との強い関係を築き、交渉力を高め、国際場裏での議論をリードしていけるよう、戦略的に国際保健に関わる人材を育成していくなど、外務省、厚労省等の関連省庁及びJICAやNCGM、NGO等国際協力に携わる組織・機関における国際保健人材を増強することが重要である。また、国際保健を担当する部署の強化を図ることが喫緊の課題である。さらに、相手国や国際機関等からの情報収集と日本国内での意思決定をつなぎ、現地との調整を行う機能の強化も重要であり、その役割を担う人材を配置する。また、民間やアカデミアとの連携を通じた国際機関における議論の場へのプレゼンスの強化も検討するべきである。

多様化する国際保健課題の解決に一層貢献するため、国際機関や官民連携基金といった主体の担い手となる、適切な人材を発掘・育成していくことも重要であり、外務省国際機関人事センター、国立研究開発法人国立国際医療研究センター(NCGM)グローバルヘルス人材戦略センター、国際協力人材・キャリア総合サイト(PARTNER)を運営するJICAなど関係機関を活用して、民間企業、市民社会との人材交流を強化する。

具体的には、NCGMグローバルヘルス人材戦略センターにおいて、従来の人材登録者プールだけではなく、より幅広い層から国際機関・官民連携基金の幹部になり得る人材を発掘し、意見交換を実施しているところである。同センターには今後ともかかる活動を拡充してもらう必要があるが、このような人材に関する情報を、同センター及び厚生労働省のみで保有するだけではなく、UNICEF、グローバルファンドやGaviなどを担当する外務省、世銀などを担当する財務省、二国間援助を担当するJICAとも共有して、人材プールの拡充を図る。その上で、政府関係者をはじめとした専門的な人材が、関係する国際機関・官民連携基金の適切なポストにおいて活躍出来るような後押しを政府全体として行う。

また、国際機関・官民連携基金にいる邦人職員の更なる昇進・キャリアの継続の手助けとなるよう、これら職員を、政府をはじめとした関係機関で「迎え入れる」体制を作るとともに、関係省庁―民間企業―国際機関・官民連携基金で転職・出向ができ、マルチセクターでリーダーシップを発揮できる人材を育成できるよう、日本全体で「リボルビング・ドア」となるようなモデルを構築することを推進する。国際機関・官民連携基金で活躍出来る人材を育成するためには、どの組織にどのような特性の人が求められるのか、日本にとって重要なポストはどこか等を特定し、それに適合する人材を発掘・育成するための具体的なアプローチが求められる。
二国間援助を担当してきた人材については、途上国における人的ネットワークを活かすとともに、これまで経験した分野と関連する重要な分野において活用していく。

9. 薬剤耐性(AMR)への対応を含むワンヘルス・アプローチの強化

AMR (Antimicrobial Resistance) については、COVID-19などの急速なパンデミックを起こす可能性が高いと考えられている感染症に比して、危機感が広く容易に認識され難いものであるが、他方で、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)やバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)等の 医療関連感染症の拡大に加え、医療機関外での市中感染型の薬剤耐性感染症が増加しており、中長期的にみて大変深刻な危機を生み出す脅威となる可能性が指摘されている。このため、タイミングを逸することなくAMR対策を実施するために、医療、公衆衛生について検討をする際には、ワンヘルス・アプローチを念頭に動物衛生の観点も考慮する必要がある。また、医療に関係する者はもちろんのこと、抗菌薬を始めとする抗微生物剤の適切な使用等の観点から医療サービスを享受する側、更には畜水産業の分野で抗菌薬を使用する生産者の側のヘルス・リテラシーを高めるような取組を推進しつつ、国際的な対策等についてのキャパシティビルディングを行うことが重要である。その際、農業・畜産業の依存度が高い地域など、対象国の状況に配慮する必要がある。

薬剤耐性微生物の出現への危機対策・備えとして、2015年の「AMRに関する国際行動計画」に基づき、各国はAMR対策について行動計画を策定することとされ、さらに同年のG7エルマウサミットではワンヘルス・アプローチの強化と新薬等の抗微生物剤の研究開発に取り組むことを確認した。日本は2016年にAMRについて、普及啓発・教育、動向調査・監視、感染予防・管理、抗微生物剤の適正使用、研究開発・創薬、国際協力への目標と取組を含む「AMR対策アクションプラン」を策定した。2021年12月に開催されたG7財務大臣会合において、各国が自国のアクションプランに基づいて戦略を実施していくことが改めて確認された。このため、今後、アクションプランを確実に実施しつつ、同プランの内容を更新していく。

10. 革新技術の活用

COVID-19を契機にもたらされた大きな変革の一つである技術革新については、デジタル技術の活用や社会実装の促進により、医薬品等の開発、遠隔地での医療アクセス向上、デジタル技術による医療サービスの高度化、保健サービスの効率の向上、危機時の対応及び基礎的なサービスの継続提供等の実現可能性が高まる。また、疫学情報の迅速な共有などにおいても技術の活用が求められる。このため、日本企業の技術・イノベーション含めリープフロッグ的な革新技術の活用を推進することを通じUHC達成を加速化することが重要である。一方、デジタル技術へのアクセスの格差がUHCに与える影響や、AIの深層学習がもたらす社会バイアスなどの側面にも留意する必要がある。

11. 情報発信

グローバルヘルス戦略の実施にあたっては、国民からの理解や支持を得ることが重要であることから、政策の意義、支援の実績、成果の評価などにつき十分な情報提供を丁寧に行っていく。また、国際的な第3者評価の枠組みに我が国の援助データを積極的に提供し、国際的にも透明性、説明責任の一層の向上をはかる。

更に、国際社会に対しても積極的な情報発信に努めることは、国際社会の議論を牽引する上で重要であるほか、我が国の貢献の認知度向上にも資するものである。2013年と2015年には、安倍総理大臣(当時)が主要な医学専門誌であるランセット誌に寄稿し、保健医療分野における我が国の取組について国際社会に広く発信したが、このような取組は、国際社会の関係者に対し、日本がUHCについての議論を牽引し、リーダーシップを取っていく上で、非常に高い効果が期待出来るものである。

特に、2022年にはCOVID-19発生後から初となるアフリカ開発会議(TICAD)が、2023年にはG7サミットが日本で、2025年には「いのち輝く未来社会のデザイン」を掲げる万国博覧会がライフサイエンス集積地である大阪・関西で開催予定である。こういったこれらの国際的な舞台を十二分に生かし、日本の官民の貢献を発信し、我が国のプレゼンスを高めていけるよう、今から具体的な方策を検討していく必要がある。

また、JapanGovなどの内閣官房のホームページをはじめ、外務省、厚労省などの関係省庁やJICA,NCGM等実施機関のホームページやSNSを通じた広報や、連携している国際機関・支援団体を通じた広報も効果的に利用していくことが必要である。また、必要に応じて成果を取り纏め、それら成果の発信を行っていくことも、国内外への広報にあたって有効である。

12. WHO UHCセンター

2030年SDGs目標年に向けて、世界各国のUHC達成と日本のUHCの持続のためにWHOと連携の上で、国内にUHCセンターを設置することについて検討を開始する。UHCセンターに求められる機能としては、
(1) 21世紀のメガトレンド(人口・疾病構造の変化や、デジタル技術・大規模データの活用など)を踏まえた現代社会にふさわしい新たなUHCの研究・推進機能
(2) 各国の実情に応じたUHCの導入・実施支援するカントリー・サポート機能
が考えられる。

2022年より、設置検討のためのタスクフォースを日本政府とWHO共同で設置し、2023年の発足を目指して、機能と運営形態について検討する。

13. 関連施策との整合性の確保

上記の取組を進めるにあたっては、ワクチン開発・生産体制強化戦略等、関連する政策と整合的に進めることが重要である。

14. 分野横断的・学際的アプローチ

グローバルヘルス戦略の検討及び実施にあたっては、以下のような幅広い分野から、公衆衛生学に加えて、社会科学を含む分野横断的・学際的アプローチにも配慮しながら検討・実施していく必要がある。

(1) 教育

教育は、保健と並ぶ重要な社会サービスであり、人々、特に子供にとっては生活の重要な両輪である。また、教育を通じて人々の保健リテラシーを向上させることも極めて重要である。

(2) 水・衛生

水・衛生は、保健と極めて強い関連性を持つ分野であり、水・衛生のアクセスに加えて、特に保健医療施設における水・衛生や手洗い等の衛生行動の改善などの保健へのインパクトは大きい。それをふまえて、これらの分野への取り組みを強化する。

(3) 栄養

栄養は、人々の健康を保つために必要なものであり、持続可能な開発と経済成長の基盤である。新型コロナの影響により、あらゆる形態の子どもの栄養不良が著しく増加している。特に子どもの成長過程における栄養不良は知能や身体発達に影響し、生涯にわたり負の影響を及ぼす可能性があり、子どもや母親の栄養改善の取り組みを強化することが必要である。そのために、栄養を保健システムに盛り込むとともに、食料システム・農業・人道食糧援助・教育等との分野横断的な取組が必要である。

(4) 人口と開発

人口動態(高齢化、人口移動、移住など)は、都市化など人間、社会、経済の発展のあらゆる側面に影響を与え、健康に影響を与える。

(5) 人権

保健サービスを受けることは、人々の基本的な権利である。したがって、社会的差別や低い所得ゆえに保健サービスを受けられないということはあってはならず、また特定の疾病や障がいゆえに差別を受けるようなことがあってはならない。

(6) 公衆衛生危機時の適切な経済運営

COVID-19の例が示す通り、公衆衛生危機時においては、国民経済が大きな影響を受ける可能性がある。人々の生活の困窮化、格差の拡大を避けるために、各国政府は適切な経済運営を図る必要があり、かつ国際協力を進める必要がある。

(7) 気候変動がもたらしうる健康上のリスク等との関係

気候変動の影響は、大気汚染、病気、異常気象、強制移住、食料不安、精神的な圧迫など、新たな健康リスクと認識されており、気候変動に強い健康システムや食料システムを構築する必要がある。また、気候変動の影響を受けやすく、保健インフラが脆弱な地域への備えと対応への支援を強化する。

(8) 貿易分野との関係

新型コロナウイルス感染症は、貿易取引や対外直接投資の減少等経済に影響を及ぼした。またグローバルサプライチェーンによる保健医療サービスへの影響、知的財産権による医薬品等へのアクセスへの影響等、貿易分野の健康への影響を勘案する必要がある。

Ⅳ.グローバルヘルス戦略の推進・フォローアップ

グローバルヘルス戦略については、内閣官房、外務省、厚労省、財務省をはじめ、関係省庁・機関において取組を進める。その状況については、必要に応じてグローバルヘルス戦略推進協議会を行い、取組のフォローアップや重要事項の協議を行うものとする。

Ⅴ.今後の日程

本中間取りまとめを踏まえ、今後早急に検討を進め、2022年6月までの可能な限り早いタイミングで最終的な取りまとめを行う。
なお、2023年には我が国がG7議長となる予定であり、国連総会における首脳級のUHCハイレベル会合及びSDGサミットが開催予定であること、また、2025年は万国博覧会が大阪・関西で開催予定であることにも留意する。

本戦略は、2030年に向けてのものであるが、それまでの間必要に応じて改定するものとする。

(別添1)

我が国のグローバルヘルスについての貢献

我が国は、世界的にも早い時期に乳幼児死亡率を低下させ、1961年には国民皆保険制度を導入し、世界でトップクラスの健康長寿を実現した。また、優れた医療技術、コミュニティでの健康増進、官民の連携といった特徴に加え、経済情勢変化、少子・高齢化、震災復興などへの対応を通じて培った強靱性を持つ保健制度を有している。こうした経験を踏まえ、我が国は、1990年代にはODAのトップドナーとして幅広い分野で円借款、無償資金協力、技術協力、多国間協力による途上国援助を展開し、グローバルヘルスを国際協力の重点分野の一つとして推進してきた。

2000年の九州・沖縄サミットにおいては、当時の深刻な問題であるエイズ感染拡大を踏まえ、議長国として、感染症を重要な議題の一つとして掲げた。2003年には、日本が提唱して作成された「人間の安全保障報告書」において、グローバルヘルスは重要な一分野として位置づけられた。

2008年のG8北海道洞爺湖サミットにおいては従来の疾病対策中心の対策に加え疾病横断的な保健システムの強化を重要なテーマとした。我が国は、「人間の安全保障」の具体的実現として、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC) の達成を重視し、2013年に策定した国際保健外交戦略の中心に位置づけた。また、国連持続可能な開発目標(SDGs)策定において各国に働きかけた結果、SDGsのターゲットの一つ(ターゲット3.8)としてUHCを据えることに大きく貢献した。

2016年のG7伊勢志摩サミットでは、エボラ出血熱への国際的な対応を踏まえ、公衆衛生上の緊急事態への対応強化、強靱な保健システムと健康危機への備えを含むUHCの達成、薬剤耐性 (AMR)対策等を盛り込んだ「国際保健のためのG7伊勢志摩ビジョン」を取りまとめた。

2019年G20大阪サミットでは、G20において初となる「財務大臣・保健大臣合同会議」を開催し、経済発展の早い段階でUHCに取り組み、財務当局と保健当局とが連携して持続可能な保健財政制度を設計することの重要性等、保健システム強化に係る議論を行った。その結果、「途上国におけるUHCファイナンス強化の重要性に関するG20共通理解」をまとめ、UHC達成に向けた優先課題の一つとして、UHCのためのファイナンス(保健財政の分野)を位置付けた。このような議論を経て、UHCの推進を含むグローバルヘルスの取り組みが、保健政策のみならず開発・経済政策として重要であることが、G20各国や国際機関(世界銀行、IMF、OECD等)といった多くの関係者に共有された。

こうした累次の国際社会に対するUHC達成の重要性の提起とその主流化の努力の結果、我が国は、志を同じくする国と協力して、2019年9月の国連UHCハイレベル会合を成功に導いた。

2019年末からのCOVID-19の国際的感染拡大にあたっては、我が国は、誰の健康も取り残さないことを目指し、UHCの達成に向けた国際的な取組を推進した。支援にあたっては感染症危機の克服、保健システムの基盤強化、感染症に強い環境の整備という、多層的な取組について資金貢献を含め迅速に展開した。また、国際的なワクチン供給の枠組みであるCOVAXを含む国際的な新型コロナ対策の枠組み作りや資金動員に貢献し、ワクチンの現物供与やコールド・チェーンなどのデリバリーに関する「ラストワンマイル」支援を含め喫緊のニーズを踏まえ対応している。

参照

eGOV パブリックコメント トップ > 案件一覧 > 2030年SDGs目標年に向けての我が国のグローバルヘルス戦略中間とりまとめに対する意見募集について

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