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社会保障改革 ~経済・財政一体改革の推進に向けた中期的重点課題~
2022年度からの団塊世代の後期高齢者化を考えると、社会保障改革は、いまだ道半ばである。
これまでも、自治体や保険者等の行動変容につながる取組を通じて無駄を排除し、公的主体と民間企業の協力により新たなサービスを生み出し、経済への下押し圧力を抑制しつつ公的支出を抑制する努力はしてきた。
しかしながら、一人当たり医療・介護費の半減・縮減や予防・健康づくりの産業化といった取組の進捗は十分とはいえない。
以下の取組を改革工程表に反映し、2021 年度以降、その取組を加速すべきである。また、今後、これまでの3年間の取組成果と課題をしっかり評価すべきである。
1.予防・健康づくりの産業化等
予防・健康づくりサービスの産業化に向けた取組はデータヘルス見本市の開催等にとどまっており、保険者による包括的な民間委託の活用も十分に進んでいない。
- 新たな技術を活用した血液検査等の特定健診等での活用、データヘルス計画の標準化・共同化の推進など民間企業等の参入拡大に向けた制度改革、民間委託を促す保険者へのインセンティブ強化、先進・優良事例の全国展開など予防・健康づくりサービスの産業化に向けた取組のパッケージを早急に検討・作成すべき。
- パンデミックを引き起こさないための国際貢献強化が重要。インフラ、エネルギー、水・衛生等ハード面中心の日本のODAについて、保健システムや健康安全保障の取組の充実、民間ノウハウ・資金の活用強化などもより積極的に行うべき。l 今回の新型感染症下での診療実績と健康等のアウトカムへの影響を分析し、今後の予防・健康づくりや適切な受診の在り方を検討していくべき。
2.一人当たり医療費・介護費の地域差半減・縮減
一人当たり医療費
年齢構成の違いを考慮に入れた上で、一人当たり医療費の地域差縮減が進んでいない背景には、①病床の地域差解消の遅れ、②医療費適正化計画の実効性の欠如、③都道府県の主体的機能強化とそのインセンティブの不十分さ、④医療サービスの標準化の遅れなどが指摘できる。今後は、新型感染症の経験を踏まえ、都道府県には、地域の医療提供体制や国保の財政運営等における主体性の発揮が求められる。
- 地域医療構想の実現や後発医薬品の使用割合などを必須目標として医療費適正化計画に盛り込むとともに、その目標達成を促すための都道府県へのインセンティブ強化、毎年度の医療費の見込みの改訂やKPIの検証と必要な取組への反映、保険者協議会の役割強化など毎年度のPDCAが機能するようにすべき。さらに、後期高齢者医療制度の都道府県への移管など一人当たり医療費の地域差半減に寄与する都道府県知事の役割や権限の強化を検討していくべき。
- レセプトに医療機関や医師等の供給側のデータを紐づけ、医師会や学会と連携しつつ、医療サービスの標準化を推進すべき。
一人当たり介護費
一人当たり介護費の地域差縮減に向けた取組は医療よりも遅れている。効果的手法の具体化・検証の遅れ、各市町村が作成する介護給付費適正化計画の実効性の欠如、保険者インセンティブと取組の連携の不十分さなどが指摘できる。
- 既存の介護給付費適正化事業の効果を検証し、ケアプラン点検へのAI活用を含め、より適正化効果の高い取組に重点化するとともに、市町村の実施状況を見える化すべき。
- より効果の高い給付適正化事業や、地域差が大きい軽度者の要介護認定率の地域差縮小のための予防推進、都道府県単位の介護給付費適正化計画の策定など、一人当たり介護費の地域差縮減に寄与する取組を具体化するとともに、その進捗状況や原因を検証できる KPI を設定すべき。
- 都道府県、市町村に対する保険者インセンティブの評価指標においては上記のKPI に重点化し、取組を促すべき。
- 2020 年度中に運用が開始される科学的介護データベース(CHASE; Care, Health Status and Events)を積極的に活用し、自立支援や重度化防止につながる質の高い介護サービスに向けた標準化を推進すべき。
3.医療・福祉サービスの生産性向上等
医療・福祉サービスの生産性向上の鍵となる介護ロボット等の社会実装が十分に進んでいない。また、給付と負担の在り方等の検討においてデータの活用が十分でない。
- 介護報酬によって、全国的に介護ロボットやAI等の社会実装を促すアプローチは、それまでにエビデンスの十分な蓄積が必要となる。これらの実用化を支援する地域医療介護総合確保基金等による介護保険制度外の補助制度を抜本的に強化し、社会実装を進め生産性向上を加速すべき。
- レセプトに記載する傷病名のルール化など医療・介護データの質の向上、レセプトと所得、出生、死亡等のデータとの連携に向けた工程を具体化すべき。