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電子的な受取証書についてのQ&A

目次

電子的な受取証書(新設された民法第 486 条第2項関係)についてのQ&A

令和3年7月
内閣府
法務省

問1.受取証書の交付の請求に代えて、その内容を記録した電磁的記録の提供の請求を可能とする、今回の民法改正の趣旨は何か。

  • 近年、インターネットを用いた電子商取引が増加するなどの状況の中で、一部の弁済者にとっては、受取証書を受領するよりも、保存や検索が容易な電子的手段によって受取証書の内容を記録したものの提供を受ける方が便利だとされる場面が増加しつつある。これに加えて、特に、新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から、社会全体として在宅勤務が推奨されている中、主に勤務先における税務処理等の観点から必要とされる受取証書の受領、保管等の事務を行うためだけに出社を余儀なくされたという声もあり、受取証書ではなく電磁的記録の提供を受けたいというニーズがあった。
    また、弁済受領者側においても、特に非対面取引が増加する中で、受取証書の印刷費や郵送費の負担や、受取証書の交付のための体制・設備の整備を求めることが過度な負担となる場面も出てきつつある。
  • 以上のとおり、弁済者側において受取証書の交付を受けることに代えて電磁的記録の提供を受けたいというニーズがあること、弁済受領者側においても、受取証書の交付が過度な負担となる場面が生じていることなどの環境変化や、今後ますます取引実務のデジタル化が進むと考えられることに鑑みて、受取証書の交付の請求に代えて電磁的記録の提供の請求を行うことができるよう措置を講ずることとしたものである。
  • 他方、弁済受領者の中には、スマートフォンやパソコン等を用いて電磁的記録の提供を行うことが不可能あるいは困難な者も少なくないと考えられるため、上記の措置と併せて、これらの者に不相当な負担を課すことのないよう配慮した措置を講ずることとしている。

問2.電子的な受取証書(新民法第 486 条第2項の規定する電磁的記録をいう。以下同じ。)にはどのような情報を記録する必要があるのか。【新民法第 486 条第2項における「その内容」について】

  • 書面の受取証書と同様に、受領文言及び債務を特定することができる情報(金銭債務が弁済された場合の受取証書においては、通常、①弁済受領者(債権者)、②弁済者(債務者)、③弁済の日付、④ある債務の弁済として一定金額が受領された旨の情報。②については、弁済者の求めがない場合には省略しても差し支えないと考えられる。)があれば足りると考えられる。
    • 受取証書は、その形式に制限はなく、取引観念上適切なもので足りるとされており、また、民法第 486 条の趣旨が弁済者に弁済の証拠を提供するところにあることを踏まえると、上記のように解される。
    • 売買契約に基づく代金債務の弁済にあっては、記録されている情報全体から債務が特定される場合(例えば、頻繁には取引を行っていない当事者間で提供された電子的な受取証書に、弁済の日時が正確に記録されている場合など)、売買目的物たる品目等の情報は必ずしも民法上求められるものではない。
    • 飽くまで民法上の要件として必要であると考えられる情報であり、税務関係等他の法令上の要件とは必ずしも合致しない(問8参照)。
  • なお、民法上の取扱いを離れて述べれば、電子的な受取証書の利活用の観点に立ち、例えば品目等、経費精算に必要とされる情報や家計簿アプリ等との連携を想定した情報を加えて記録することも有用であると考えられる。

問3.電子的な受取証書は、どのような方法で提供する必要があるのか。【新民法第 486 条第2項における「電磁的記録の提供」について】

  • 以下の事例のように、弁済者が電子的な受取証書を保存あるいは閲覧し得る状態となれば足りる(弁済者が現に保存し、又は閲覧したか否かは提供義務の成否には影響しない)。弁済者が電子的な受取証書をスマートフォンなどに保存することができることは「提供」といえるために必ずしも必要ではないが、保存することができない場合(下記①又は③など)には、弁済の証拠が必要と考えられる間、閲覧可能な状態を継続させることが必要であると考えられる(さらに、弁済の証拠を提供するという観点からは、例えば閲覧用の画面のスクリーンショットを撮影することができないような仕様とすることは望ましくなく、その画面が表示された状態を画像等として保存することができるようにしておくことが望ましい。)。
    1. アプリを通じて弁済者が見ようと思えば見られる状態にした場合
    2. ②弁済者のメールアドレス宛てに送信し、弁済者が閲覧・開封しようと思えば閲覧・開封できる状態にした場合
    3. (弁済者がID等の識別符号を入力することで)オンライン上で弁済者が見ようと思えば見られる状態にした場合
  • また、電磁的記録の形式について民法上は定めがなく、弁済者が特定の形式を指定しなかった場合、一般的な端末により表示される形式(PDFファイル、メール本文への記載など)又は特殊な形式であっても弁済者が利用できるもの(弁済者が利用可能なアプリ上の画面表示)で提供すれば足りると考えられる。
    • 民法上、「電磁的記録」とは、「電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるもの」(第 151 条第4項)と定義されている。
    • アプリ上で受取証書の内容を画面表示する仕組みが設けられている場合に、弁済者がそれを画像として保存したものは、電子的な受取証書そのものではなく、そのコピーとなることもあると考えられる。もっとも、アプリ上の表示を保存した画像にも、そのような表示がアプリ上でされたことを証明するものとして使用することはでき、ひいては弁済がされたことの証拠として一定の価値を有すると考えられる。

問4.弁済者が「書面の受取証書」の交付と「電子的な受取証書」の提供の双方を請求した場合、弁済受領者はいずれにも応じる義務があるか。

  • 弁済受領者は弁済者に対して「書面の受取証書」の交付請求と「電子的な受取証書」の提供請求の双方に応じる義務はない(弁済受領者は、特約がない限りいずれかを選択して応じれば足り、特約により書面の交付又は電磁的記録の提供のいずれかをするものと定められている場合にはそれに従えば足りる。)。
  • また、弁済者が「電子的な受取証書」の提供を請求してその提供を受けたのに、後日、「書面の受取証書」の交付も請求したという場合も、弁済受領者
    はその請求に応じる義務はない。
  • なお、弁済者が特定の形式を指定しないまま「電子的な受取証書」の提供を請求してその提供を受けたものの、自身の想定していた形式とは異なるとして別の形式での電子的な受取証書の提供を請求した場合(例えば、弁済受領者はアプリを通じて電子的な受取証書を提供したが、弁済者は自身のメールアドレス宛ての電子メールによる電子的な受取証書の提供を請求した場合など)も、弁済受領者が当初提供した電子的な受取証書の形式が一般的な端末により表示される形式や、弁済者が利用できる形式のものであった場合には、弁済受領者には新たな請求に応じる義務はない。

問5.弁済者が電子的な受取証書の提供を請求することができないのはどのような場合か。【新民法第 486 条第2項における「不相当な負担」について】

  • 以下は、一般論としての記載であり、最終的な解釈は、事案ごとの裁判所の判断による。
  • 弁済受領者が電子的な受取証書を提供することが困難であるといえる場合、例えば、以下のようなケースは、「不相当な負担」があるとして電子的な受取証書を請求することができない場合に該当すると考えられる。
    1. 請求時点において、弁済受領者側に電子的な受取証書を提供するための体制(情報システム等)が整備されていない場合
    2. 請求時点において、システム障害等のため即時に当該体制による電子的な受取証書を提供することができない状況にあったが、弁済者が直ちに電子的な受取証書を提供するよう請求した場合
    3. 弁済者が、弁済受領者の想定していた方法ではなく、不相当に手間のかかる方法での電子的な受取証書の提供を請求した場合(アプリを通じて電子的な受取証書の提供を自動的に行うシステムを導入している店舗に対し、弁済者が、弁済受領者のシステムが対応していない形式で作成された電子的な受取証書の提供を請求した場合等)
  • なお、上記のとおり、「不相当な負担」に当たるかどうかは、基本的には弁済者による請求時点の状態で判断されると考えられる。今回の改正は、改正民法施行時はもちろん、将来的にも、弁済受領者に対して情報システム等の体制整備を義務付けるものではないと考えられる。
  • 他方、弁済受領者にとって当該体制整備が真に「不相当な負担」に当たるかどうかの判断においては、弁済受領者の対応能力等も考慮されると考えられるところ、例えば、以下のようなケースは「不相当な負担」には当たらず、弁済受領者が電子的な受取証書の提供の請求に応じなかった場合、新民法第486 条第2項に反することとなり得ることに留意が必要であると考えられる。
    1. 企業間の取引において、電子的な受取証書を提供するための体制(情報システム等)が整備されているにもかかわらず、弁済者が電子的な受取証書の提供を請求したところ、弁済受領者が社内で前例がないことのみを理由にその請求に応じなかったケース
    2. 電子的な受取証書を提供するためのソフトや物的設備が整備され、それを操作する能力のある従業員がいる大規模小売店等において、顧客から電子的な受取証書の提供を請求された従業員がたまたまその操作方法を知らなかったことのみを理由にその請求に応じなかったケース

問6.顧客がクレジットカードによる支払をした場合、①加盟店がカード利用時に提供するカード利用伝票、②クレジットカード会社が一般的に月次で提供する利用明細は、受取証書と認められるのか。

  • ①カード利用伝票又は②利用明細は、外観上、受取証書の内容として必要な情報(問2参照)が記載されていた場合(例えば、誰が誰からある債務の弁済として一定金額を受領した旨の記載がある場合)でも、受取証書には当たらないものと考えられる。
    • ①カード利用伝票、②利用明細は、クレジットカードを利用したことを表す書類ではあるが、弁済を受領したことを証する書類ではない(①及び②の提供時点では、加盟店及びクレジットカード会社のいずれも弁済を受けていない)と考えられるため、上記のように解される。
    • クレジットカード会社が加盟店に利用者の代金債務を立て替えて弁済し、利用者に求償するという法律構成を前提とすると、利用者は加盟店に対する代金債務を弁済するわけではないから、カードの利用の時点でも、また、クレジットカード会社に対する求償債務を弁済した時点でも、加盟店に対して代金債務の受取証書の交付を請求することはできない(利用者は、クレジットカード会社に対する求償債務の弁済の際に、求償債務の受取証書を請求することはできる。)。もっとも、利用者は、クレジットカードの利用明細や、その代金分が引き落とされてカード会社に支払われたことを示す銀行取引の履歴から、代金債務が消滅したことを立証することができるため、その証拠として代金債務の受取証書を請求する必要は乏しい。
    • 通常の消費者との取引では、清算・返品の便宜のため商慣行上、加盟店が利用者(消費者)に対し、代金債務の弁済を受領した旨の書面を交付することが多く、クレジットカードによる決済がされた場合も、このような書面が交付されることは多いと考えられ、そのような実務が否定されるべきものではないが、このような書面は民法上の受取証書には当たらない。
    • なお、(上述のとおり民法上の受取証書とは異なるが、)①カード利用伝票及び②利用明細の取扱いについては、割賦販売法(第30条の2の3)において規定されており、原則として、電磁的方法により提供することが認められている。

問7.利用者が小売店等で電子マネーによる支払をした場合、電子マネー事業者(資金決済事業者)が当該顧客に対して決済時に発行する決済完了情報は、電子的な受取証書として認められるのか。

  • 前払い方式・即時払い方式の電子マネー決済では、その法律構成ごとに解釈の必要がある。主な法律構成(※)に応じた解釈は次のとおりであると考えられる。
  1. 代理受領構成の場合
    • 電子マネー事業者は小売店等から弁済受領権限を与えられているため、電子マネーの利用によって電子マネー事業者が利用者から代金相当額を受領した場合、代金債務は小売店等に対して弁済されたこととなる。その際に電子マネー事業者が利用者に提供する決済完了情報は、電子マネー事業者が、小売店等から当該小売店等に代わって電子的な受取証書を提供する権限を付与され、これに基づいて提供したと評価することができ、かつ、その内容が受取証書の内容として必要な情報(問2参照)を含んでいるときは、利用者がした代金債務の弁済に関する電子的な受取証書に該当すると考えられる。
  2. 立替払い構成・債権譲渡構成・免責的債務引受構成の場合
    • 法的には、利用者は、立替払い構成においては求償債務を、債権譲渡構成においては代金債務を、免責的債務引受構成においては債務引受の対価を、それぞれ電子マネー事業者に対して弁済することになる。電子マネー事業者が利用者に対して決済時に発行する決済完了情報は、利用者による上記各債務の弁済に関する受取証書の内容として必要な情報(問2参照)を満たす場合には、電子的な受取証書に該当する。一方、これらの構成においては、小売店等は利用者から弁済を受けるものではないため、利用者からの電子的な受取証書の提供請求に応ずる義務はないと考えられる。
      • もっとも通常の消費者との取引では清算・返品の便宜のため商慣行上、いわゆる「レシート」がやり取りされ、電子マネーを利用する場合であってもこのようなやり取りが行われることも多いと考えられる。
      • 小売店等が当該対価等を受領した時点(通常は店頭)で代金を受領していると評価できる場合には、その時点で代金債務の弁済がされたといえるため、①と同様、電子マネー事業者が当該顧客に対して決済時に発行する決済完了情報が電子的な受取証書として認められる場合があると考えられる。
    • なお、利用者が電子マネー事業者に対する債務を負う構成が採られている場合に、電子マネー事業者のサービス利用規約等において決済完了情報を書面で受け取ることが排除されているときは、新民法 486 条第2項の請求権が合意によって選択されたものと解される。この場合には、利用者が書面の受取証書の交付を請求しても、電子マネー事業者はこれに応ずる義務はない。
  • 一方、後払い方式の電子マネー決済では、決済完了情報は、その内容に受取証書の内容として必要な情報(問2参照)が外観上含まれていた場合でも、電子的な受取証書には当たらないと考えられる(問6のクレジットカード決済の考え方と同様。)。

問8.「民法上の受取証書」と「消費税の仕入税額控除の適用を受けるために保存が必要となる請求書等(以下「区分記載請求書等」という。)」の関係性はどうなっているのか。
また、令和5年 10 月より適格請求書等保存方式(インボイス制度)が導入されるが、「民法上の受取証書」と「適格請求書(インボイス)」の関係性についてはどうか。

  • 「民法上の受取証書」と「区分記載請求書等」では、必要とされる記載事項が異なる。ただし、「民法上の受取証書」に「区分記載請求書等」として必要な事項が記載されていれば、これを保存することにより消費税の仕入税額控除の適用を受けることができる。
    • 区分記載請求書等とは、請求書や領収書といったもので、①請求書発行者の氏名又は名称、②取引年月日、③取引内容(軽減税率の品目である旨)、④税率ごとに区分して合計した税込対価の額、⑤請求書受領者の氏名又は名称、の情報が必要(⑤については、不特定対数の者に対して販売等を行う小売業、飲食店業等に係る取引については省略可)が記載されているものを指す。区分記載請求書等については以下の国税庁HP掲載資料の4頁を参照
      https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/0020006-027.pdf
  • また、「適格請求書(インボイス)」は、区分記載請求書等に一定の記載事項を追加したものであるため、「民法上の受取証書」に「適格請求書(インボイス)」として必要な事項が記載されていれば、その「民法上の受取証書」を「適格請求書(インボイス)」とすることも可能である。
    • 適格請求書(インボイス)には、区分記載請求書等に必要な事項に加え、①登録番号(課税事業者のみ登録可)、②適用税率、③税率ごとに区分した消費税額等、の情報が必要であるとされている。インボイス制度については以下の国税庁HP等を参照
      https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/invoice.htm
  • このため、「民法上の受取証書」について、同一の電磁的記録をもって、消費税の仕入税額控除の適用のために保存が求められるものとして活用しようとする際には、区分記載請求書等として必要な記載事項を満たす必要がある。

以上

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