医学 生物学

アルツハイマー病:揺らぐアミロイドβ仮説とレカネマブ・ドナネマブ

2024年6月、アルツハイマー病研究の歴史に深く刻まれるであろう一つの出来事があったことをご存じでしょうか。かつてこの分野で注目を集め、アミロイドβ仮説を裏付けていた2006年の学術論文が、世界で最も権威ある科学雑誌であるNature誌から正式に「撤回」された、というものです 1。この論文は、アミロイドβ(Aβ)と呼ばれるタンパク質がアルツハイマー病の記憶障害を引き起こす元凶である、という考えを、仮説から確信へと近づけた画期的な研究とされていました。しかし、その根拠となったデータに捏造の疑いが浮上し、詳細な調査の末に科学的妥当性が否定されたことは、単なる一つの論文の取り消しに留まらない、まさに「歴史に残る大事件」と言えます。

この一件は、私たちに根本的な問いを突きつけます。もし、アルツハイマー病の原因がアミロイドβであるという長年の定説が、これほどまでに脆い土台の上に築かれていたのだとしたら、私たちはこの病気について一体何を理解していたのでしょうか。この論文の撤回は、過去数十年にわたる研究の方向性、莫大な研究資金の投下、そして現在承認されている治療薬の理論的根拠そのものに、大きな疑問符を投げかけるものです。

この記事では、アルツハイマー病研究の歴史から最新情報までをご紹介します。まず、長年にわたり支配的であった「アミロイド仮説」がどのようにして生まれ、なぜこれほどまでに注目を集め、大きなうねりを生んだのかを明らかにします。次に、歴史的な論文撤回に至った事件の経緯、すなわち再現性のない実験から一人の研究者の告発、そして論文撤回を追います。さらに、この騒動が「レカネマブ」や「ドナネマブ」といった新しい治療薬にどのような影響を与えるのかを分析し、最後に、アミロイド仮説に代わる、あるいはそれを統合する新たな考え方として注目を集めている「感染症仮説」や「抗菌ペプチド仮説」という、新しい話題へと進みます。

改めて強調したいのは、科学というのはある意味で定説同士のぶつかり合いであり、一つの定説の崩壊と、新たな科学的思想が生まれるのは世の常である、ということです。今、あなたが信じていることは、明日、覆るかもしれない。研究不正は論外ですが、科学の進歩というものは突然起こるものとも言えるでしょう。

アミロイドカスケード仮説の誕生

アルツハイマー病の物語は、1900年代初頭にドイツの精神科医アロイス・アルツハイマー博士が、進行性の記憶障害に苦しんだアウグステ・Dという女性患者を報告したことから始まります 5。博士が彼女の死後に脳を解剖して発見したのは、後に「老人斑(アミロイドプラーク)」と「神経原線維変化(タウタングル)」と名付けられる二つの異常な構造物でした。これが、アルツハイマー病の病理学的特徴として、1世紀以上にわたり研究の出発点となります。

長い間、これらの構造物の正体や役割は謎に包まれていましたが、1980年代から1990年代初頭にかけて、科学は大きな転換点を迎えます。まず、老人斑の主成分が、アミロイド前駆体タンパク(APP)という大きなタンパク質から切り出される、アミノ酸が40から42個ほど連なった小さなペプチド、すなわちアミロイドβ(Aβ)であることが解明されました 7

さらに決定的だったのは、遺伝学の進歩です。ごく稀に存在する、若くして発症する家族性アルツハイマー病の家系を調べたところ、その原因がAPPや、APPを切断する酵素であるプレセニリンの遺伝子変異にあることが突き止められたのです 8。これらの遺伝子変異は、いずれも脳内でのAβの産生を異常に増加させるものでした。

この発見から、一つの仮説が生まれました。それが「アミロイドカスケード仮説」です 6。この仮説が提唱するところによれば、アルツハイマー病の病態は、Aβの産生と脳からの除去のバランスが崩れ、Aβが過剰に蓄積することから始まります。このAβの蓄積が最初の引き金(カスケードの起点)となり、それが神経細胞内でのタウタンパクの異常なリン酸化と凝集(神経原線維変化)を引き起こし、最終的に神経細胞の機能不全と死滅を招いて、認知機能の低下に至る、という直線的な因果関係を想定したのです 13

この仮説は、その単純さと遺伝学的証拠の強力さから、またたく間にアルツハイマー病研究の主流、すなわち支配的なパラダイムとなりました 5。それは研究者たちに明確な標的を与えました。病気の根本原因がAβの蓄積であるならば、その蓄積を防ぐか、あるいは脳から除去することができれば、病気の進行を止め、さらには予防できるはずだと考えられたのです。この仮説に基づき、世界中の製薬企業や研究機関は、その後数十年にわたり、莫大な研究資金と労力をAβを標的とした治療薬開発に注ぎ込むことになります。

Aβ*56と仮説の「証明」

アミロイドカスケード仮説が主流となる一方で、一つの大きな謎が残されていました。アルツハイマー病患者の脳に見られる巨大な凝集体であるアミロイドプラーク(老人斑)の量と、認知機能低下の重症度とが、必ずしも強く相関しないという事実です 5。認知機能が正常な高齢者の脳にも、プラークが大量に蓄積している例が少なくなかったのです。この矛盾から、研究者たちの関心は、目に見える不溶性のプラークそのものから、プラークを形成する前の段階に存在する、水に溶ける小さなAβの凝集体、すなわち「Aβオリゴマー」へと移っていきました 7。この目に見えないオリゴマーこそが、神経細胞に直接毒性を及ぼす真の犯人ではないか、と考えられたのです。しかし、どの種類のオリゴマーが最も悪影響を及ぼすのか、その正体は不明なままでした。

この謎に終止符を打ったかのように見えたのが、2006年に米ミネソタ大学のカレン・アッシュ氏とシルヴァン・レネー氏らによってNature誌に発表された、あの画期的な論文でした 19。彼らは、アルツハイマー病を発症するように遺伝子操作されたマウスの脳から、分子量約56キロダルトンの特定のAβオリゴマーを発見し、これを「Aβ*56(Aβスター56)」と名付けました。彼らの報告は衝撃的でした。このAβ*56は、マウスが記憶障害を発症し始める時期に脳内に出現し、さらに、このAβ*56を精製して健康な若いラットの脳に注入すると、ラットの記憶が著しく障害されたというのです 14

この研究は、長年探し求められてきた「失われた環」のように見えました。特定のAβオリゴマーを単離し、それが単独で記憶障害を引き起こすことを動物実験で示したことで、アミロイド仮説の正しさを決定的に証明する「決定的証拠(スモーキングガン)」だと多くの研究者に受け止められたのです 14。この論文は瞬く間に研究界を席巻し、2300回以上も他の学術論文に引用されるなど、絶大な影響力を持つようになりました 22。世界中の研究者が、このAβ*56を標的とした研究に公的な研究助成金をつぎ込み、新たな治療薬開発の希望を託しました 14

この熱狂の背景には、科学界に存在した一種の確証バイアスがあったと考えられます。アミロイド仮説はすでに十数年にわたり主流であり、多くの研究者がその枠組みの中で研究を進めていました。そこに、仮説の最後のピースを埋めるかのような完璧な研究が現れたのです。研究界は、この仮説が真実であってほしいと願うあまり、画期的な発見に対して本来向けられるべき厳しい懐疑の目を、当初は十分に向けなかったのかもしれません。この熱狂こそが、後に明らかになる大きな問題の温床となっていたのです。

再現性のない実験と募る疑惑

科学の世界において、新しい発見が真実として認められるためには、最も重要な関門を通過しなければなりません。それは「再現性」です。他の独立した研究者が、同じ実験手順に従って同じ結果を再現できること、これが科学的客観性の根幹をなします。しかし、Aβ*56に関する研究は、この最初の関門でつまずきました。

アッシュ氏とレネー氏らの論文が発表された後、世界中の多くの優れた研究室が、その画期的な発見を追試しようと試みました。ところが、誰もAβ56を安定的に検出し、精製することに成功しなかったのです 22。アミロイド仮説の強力な支持者であるデニス・セルコー博士の研究室でさえ、ヒトの脳脊髄液中からAβ

56に相当する分子種を検出することはできませんでした 22。再現性の欠如は、元の論文の信頼性に対する深刻な疑念を生じさせます。もし他の誰も同じものを見つけられないのであれば、それは本当に存在するのでしょうか。

こうした疑念がくすぶる中、一人の神経科学者、マシュー・シュラグ氏が、より深くこの問題に切り込んでいきました 25。彼は当初、シムフィラムという別のアルツハイマー病治療薬の臨床試験データに疑問を抱き、その調査の過程で、偶然にもレネー氏らが発表した過去の論文群に行き着きました 25。シュラグ氏は、タンパク質を検出・定量するために広く用いられる「ウエスタンブロット法」という実験手法で示された画像に、不自然な点があることに気づきました。

ウエスタンブロットの画像は、通常、特定のタンパク質の存在と量を示す「バンド」として現れます。シュラグ氏は、2006年のNature論文を含むレネー氏の複数の論文で、これらのバンドが不自然に切り貼りされている可能性を示す痕跡を発見したのです 14。例えば、あるべきはずのないシャープな境界線があったり、背景のノイズのパターンが不連続であったり、あるいは全く別の実験から得られたはずのバンドが酷似していたりといった点です 29。これらは、望ましい結果を得るために、複数の画像を合成して一つの画像を作り上げた、すなわちデータを捏造したことを強く示唆するものでした。

歴史的論文の撤回とその衝撃

マシュー・シュラグ氏が突き止めた画像操作の疑惑は、個人の疑念に留まりませんでした。彼はその調査結果をまとめて、2022年に科学雑誌Science誌に提供しました。この告発を受け、Science誌は独自の徹底的な調査を開始します 25。編集部は、シュラグ氏とは独立した複数の画像解析の専門家やアルツハイマー病研究者に協力を依頼し、6ヶ月にわたる検証を行いました。その結果、専門家たちはシュラグ氏の指摘が正しく、画像が加工されている可能性が極めて高いという結論に達しました 22

2022年7月、Science誌はこの調査結果を大々的に報じ、科学界に衝撃が走りました 22。アミロイド仮説の根幹を支えてきた論文に、研究不正の強い疑いがかけられたのです。当初、論文の筆頭著者であるレネー氏は不正を頑なに否定し、責任著者であるアッシュ氏も、問題はあったものの結論は変わらないと主張していました 3。しかし、Science誌の報道後、他の共著者たちは次々と画像の不備を認め始めました 3

この騒動を受け、論文が掲載されたNature誌も調査を開始し、論文には「編集者が懸念を調査中である」との注意書きが付記されました 22。そして、2年近くにわたる調査と議論の末、ついに2024年6月、Nature誌は論文の正式な撤回を発表したのです 1。現在、この論文のウェブページには、各ページに大きく「RETRACTED ARTICLE」(撤回された論文)という赤いスタンプが押されています。これは、科学的記録からその信頼性が永久に失われたことを示すものです。

この一連の出来事がもたらした損害は計り知れません。この論文を根拠として、16年以上にわたり、数千の研究が計画され、何十億ドルもの公的研究費が投じられました 14。多くの研究者が、存在しない可能性のある分子を追い求め、貴重な時間と才能を費やしたことになります 27。これは単に一人の研究者の不正行為という問題に留まらず、科学界のシステムそのものの脆弱性を浮き彫りにしました。すなわち、権威ある雑誌に掲載された、主流の仮説に合致する「都合の良い」発見が、いかに疑われにくく、一度権威付けされると、その誤りが正されるまでにいかに長い時間がかかるかという、痛烈な教訓を私たちに残したのです 4

抗アミロイド抗体薬の登場と臨床的意義

Aβ*56論文をめぐる混乱のさなか、アルツハイマー病治療の分野では、まさにアミロイド仮説を体現するかのような新しい治療薬が次々と登場し、大きな注目を集めていました。それが、エーザイとバイオジェンが開発した「レカネマブ(商品名レケンビ)」と、イーライリリーが開発した「ドナネマブ(商品名ケサンラ)」です 11。これらは、モノクローナル抗体と呼ばれる種類の医薬品で、脳内のAβに結合して、免疫システムを利用してそれらを脳から除去することを目的としています 33

これらの薬は、標的とするAβの種類に違いがあります。レカネマブは、神経毒性が高いと考えられている、プラークになる前の可溶性の中間凝集体「プロトフィブリル」に高い親和性を示します 11。一方、ドナネマブは、すでに脳内に沈着して固まった不溶性のプラークを主な標的としています 32。いずれにせよ、どちらの薬もAβを脳から取り除くという、アミロイド仮説の治療戦略に忠実なアプローチです。

臨床試験の結果は、ある意味で目覚ましいものでした。PET(陽電子放出断層撮影)スキャンを用いた画像診断では、これらの薬を投与された患者の脳から、アミロイドプラークが劇的に減少することが確認されたのです 31。これは、薬が生物学的な標的に確かに作用していることを示す強力な証拠でした。しかし、問題は、この劇的なプラークの除去が、患者の認知機能にどれほどの恩恵をもたらしたか、という点にありました。

臨床試験の結果を詳しく見ると、認知機能の低下速度は、プラセボ(偽薬)を投与された群と比較して、レカネマブで27%、ドナネマブで35%から36%程度、緩やかになったと報告されています 32。これは統計学的には有意な差であり、病気の進行に影響を与える初めての薬として画期的であると評価する声もあります 32。しかし、多くの臨床医や研究者からは、この差が患者や家族にとって「臨床的に意味のある」改善と言えるのか、という厳しい指摘がなされています 5。患者の認知機能は回復するわけではなく、悪化のペースがわずかに遅くなるだけなのです。

さらに、これらの薬には無視できないリスクとコストが伴います。副作用として最も懸念されるのは、「アミロイド関連画像異常(ARIA)」と呼ばれる脳の浮腫(腫れ)や微小出血です 31。重篤な場合には命に関わることもあります。また、薬そのものの価格が高額であることに加え、定期的な点滴投与や副作用を監視するための頻繁なMRI検査が必要であり、医療システム全体への負担も大きいという課題があります 32。この脳内のプラークを劇的に減らすという生物学的効果と、臨床的な症状改善の間の大きな隔たりは、アミロイド仮説そのものに対する根源的な問いを投げかけることになりました。

論文撤回が治療の根拠に与える影響

ここで、核心的な問いに戻りましょう。Aβ*56に関する2006年のNature論文の撤回は、レカネマブやドナネマブといった抗Aβ抗体薬の存在意義を揺るがすのでしょうか。

製薬会社の立場は明確です。例えば、レカネマブを販売するエーザイは、Science誌の報道直後に「論文の不正とレカネマブは関係がない」とする声明を発表しています 44。これは技術的には正しいと言えます。レカネマブが標的とするのはプロトフィブリルであり、論文で不正が指摘された、存在すら疑わしいAβ*56という特定のオリゴマーを直接の標的としているわけではないからです。

しかし、この問題をより広い視野で捉えると、事態はそれほど単純ではありません。Aβ56論文の撤回は、これらの薬剤の直接的な根拠を覆すものではないにせよ、それらが依拠する「アミロイド仮説」という大きな理論的枠組みそのものを著しく弱体化させます。Aβ56論文は、可溶性のAβオリゴマーを標的にすれば認知機能の低下を止められるという考え方を最も強く支持する、基礎科学からの証拠でした。その柱が崩れ去った今、残されたのは、臨床試験で示された「統計的には有意だが、臨床的には限定的」と評される効果だけです。

かつては、この限定的な効果も「アミロイド仮説が正しい方向であることを示す、第一歩の証拠」と前向きに解釈することができました。しかし、その背後にあったはずの強力な基礎研究の裏付けが、実は砂上の楼閣であったことが明らかになった今、この限定的な効果は、むしろ「Aβを除去するだけでは不十分である」という、仮説の限界を示す証拠として見えてきます 5

つまり、皮肉なことに、アミロイド仮説の正しさを証明するために開発された治療薬が、その臨床結果を通じて、仮説の単純なバージョンが誤りである可能性を最も雄弁に物語っているのです。脳からAβを大量に取り除いても、認知機能の悪化をわずかに遅らせることしかできないという事実は、アルツハイマー病の病態が、Aβの蓄積という単一の要因だけで説明できるほど単純ではないことを示唆しています。Aβは病気の引き金の一つかもしれませんが、症状が進行した段階では、もはやAβの存在とは独立して、神経変性のプロセスが自律的に進んでしまうのかもしれません。あるいは、Aβの蓄積は、病気の「原因」ではなく、何か別の根本的な原因によって引き起こされる「結果」の一つに過ぎないのかもしれないのです。この疑問こそが、次なるパラダイムシフトへの扉を開くことになります。

感染症仮説の再浮上

アミロイド仮説がその輝きを失い始める一方で、かつては非主流とされながらも、一部の研究者によって粘り強く探求されてきた古い仮説が、再び脚光を浴びています。それが「感染症仮説」です 6。この仮説は、アルツハイマー病の発症や進行に、ウイルスや細菌といった病原体の感染が関与しているのではないか、という考え方です。

この分野の先駆者として特に重要なのが、英国の神経科学者ルース・イツハキ教授です。彼女は数十年にわたり、ごくありふれたウイルスである「単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)」がアルツハイマー病の重要なリスク因子である可能性を訴え続けてきました 46。HSV-1は、多くの人が幼少期に感染し、口唇ヘルペス(風邪の華)の原因となることで知られていますが、一度感染すると、神経節に潜伏し、生涯にわたって体内に留まります。

イツハキ教授らが示してきた証拠は、多岐にわたります。まず、高齢者の脳内、特にアルツハイマー病患者の脳のアミロイドプラークの内部から、HSV-1のDNAが検出されることが報告されています 47。さらに、アルツハイマー病の最大の遺伝的リスク因子である「APOE4」という遺伝子を持つ人がHSV-1に感染している場合、そうでない人と比べてアルツハイマー病を発症するリスクが劇的に上昇することも示されています 48。実験室レベルでは、ヒトの神経細胞にHSV-1を感染させると、Aβや異常なタウタンパクといった、アルツハイマー病に特徴的なタンパク質の蓄積が誘導されることも確認されています 46

そして、この仮説を強く支持する疫学データが台湾から報告されました。大規模な国民健康保険のデータを解析したところ、重度のヘルペス感染症と診断された人は、そうでない人に比べて認知症を発症するリスクが有意に高く、さらに重要なことに、抗ヘルペスウイルス薬(バラシクロビルなど)で治療を受けた人々は、治療を受けなかった人々と比べて、将来認知症になるリスクが劇的に低下していたのです 47。これは、ウイルス感染が認知症の単なる相関関係ではなく、因果関係にある可能性を強く示唆するものです。イツハキ教授は、ストレスや免疫力の低下によって脳内で潜伏していたHSV-1が再活性化し、それが神経細胞に直接的・間接的なダメージを与え、Aβやタウの蓄積を促すことで、アルツハイマー病の引き金になるのではないかと考えています。

アミロイドβは「悪玉」ではなかった?抗菌ペプチド仮説

感染症仮説の再浮上は、アルツハイマー病研究におけるもう一つの革命的な考え方、「抗菌ペプチド仮説」の登場によって、さらに強力な説得力を持つようになりました 6。この仮説は、長年「悪玉」と見なされてきたAβの役割を180度転換させるものです。すなわち、Aβは単なる病的で不要な老廃物ではなく、実は脳を感染から守るための「善玉」の分子、すなわち生来の免疫システムの一部である「抗菌ペプチド(AMP)」なのではないか、というのです 6

この衝撃的な仮説を裏付ける決定的な研究が、2018年にNeuron誌に発表されました。この研究は、「アルツハイマー病に関連するアミロイドβはヘルペスウイルスによって急速に増殖し脳感染から保護する」という、そのものずばりのタイトルがつけられています 56。研究者たちは、マウスや3D培養ヒト神経細胞モデルを用いて、Aβペプチドがヘルペスウイルスの表面に結合し、ウイルスを絡め取るようにして凝集していく様子を明らかにしました。つまり、Aβが凝集してアミロイドプラークを形成するプロセスそのものが、脳に侵入してきた病原体を封じ込め、不活性化するための防御反応であるというのです 45

この「抗菌保護仮説」は、アミロイド仮説と感染症仮説を見事に統合し、これまで謎とされてきた多くの事象に合理的な説明を与えます。

第一に、「なぜAβは加齢とともに蓄積するのか」という問いです。従来の仮説では、加齢による異常なタンパク質代謝の結果とされていましたが、新仮説では、加齢による免疫系の衰えで脳内の潜伏ウイルスが再活性化しやすくなり、それに対する防御反応としてAβが産生される、と説明できます 6

第二に、「なぜ健常な高齢者の脳にもプラークが存在するのか」という問いです。これは、過去の感染に対する防御が成功し、病原体が封じ込められた「戦いの痕跡」と解釈できます 9

そして第三に、「なぜレカネマブなどの抗Aβ抗体薬の効果が限定的なのか」という最も重要な問いです。新仮説によれば、症状が出ている段階では、問題はプラークそのものではなく、プラーク形成を引き起こした持続的な感染と、それに伴う慢性的な「神経炎症」にあります 58。プラークを除去することは、火事が燃え広がった後に灰を取り除くようなもので、炎症という根本的な火種が残っている限り、神経変性は続いてしまうのです。

このように、Aβを「病気の原因」から「病気に対する防御反応」へと捉え直すことで、アルツハイマー病の物語は一変します。この病気は、タンパク質が異常に折りたたまれる「プロテインパチー」という内因性の疾患ではなく、外部からの病原体の侵入という引き金に対して、脳の免疫システムが過剰あるいは慢性的に応答した結果生じる「免疫疾患」としての側面が浮かび上がってくるのです。

脳の病原体叢(パソバイオーム)という新概念

アルツハイマー病に関与する可能性のある病原体は、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)だけにとどまりません。近年の研究は、私たちの脳がこれまで考えられていたような無菌状態ではなく、様々な微生物が存在しうる環境であり、そのバランスの乱れが病気につながる可能性を示唆しています。この考え方は、「脳のパソバイオーム(病原体叢)」という新しい概念を生み出しました。

この分野で注目されている病原体の一つが、慢性歯周病の主要な原因菌である「ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)」です 60。この細菌が産生する「ジンジパイン」と呼ばれる強力な毒素が、アルツハイマー病患者の脳から検出されています 61。ジンジパインは、神経細胞にダメージを与えたり、神経炎症を引き起こしたり、Aβの産生を促したりすることが動物実験で示されており、歯周病という身近な慢性感染症が、脳の健康に直接影響を及ぼす可能性を示しています 60

その他にも、胃潰瘍の原因菌として知られる「ヘリコバクター・ピロリ」の感染とアルツハイマー病リスクとの関連を示唆する大規模な疫学研究 68 や、HSV-1以外のヘルペスウイルス科のウイルスである「ヒトヘルペスウイルス6型(HHV-6)」や「7型(HHV-7)」が、アルツハイマー病患者の脳で増加しているという報告もあります 71

こうした多様な病原体が関与している可能性を踏まえ、この分野の研究を体系的に推進するために結成されたのが、「アルツハイマー病パソバイオーム・イニシアチブ(AlzPI)」という国際的な研究チームです 76。彼らの使命は、「感染症がアルツハイマー病の発症に中心的な役割を果たしていることを正式に証明すること」にあります 79。そのために、脳組織や血液、脳脊髄液など様々な検体から病原体を検出するための標準的な手法を確立し、どの病原体がどのように病態に関与しているのかを解明しようとしています 77

興味深いことに、AlzPIのメンバーの一部は、Aβやタウタンパクを、脳における病原体に対する最前線の防御線、すなわち免疫応答に必要な分子であると明確に位置づけています。これは、抗菌ペプチド仮説と完全に一致する考え方です。彼らの研究は、アルツハイマー病を単一の原因による疾患としてではなく、様々な病原体の引き金と、それに対する宿主の免疫応答の相互作用によって生じる、より複雑な症候群として捉え直そうという、大きなパラダイムシフトを象徴しています。

遺伝的要因—APOE4の役割

アルツハイマー病が感染症によって引き起こされる可能性があるとしても、なぜ同じ病原体に感染しても発症する人としない人がいるのでしょうか。その答えの鍵を握るのが、遺伝的要因です。特に、孤発性(非遺伝性)アルツハイマー病の最大の遺伝的リスク因子として知られているのが、「アポリポプロテインE(APOE)」遺伝子の「E4」というタイプ(APOE4)です。このAPOE4を持つ人は、持たない人に比べてアルツハイマー病の発症リスクが数倍から十数倍高まることが知られています。

感染症仮説と抗菌ペプチド仮説の枠組みの中で、このAPOE4がどのようにしてリスクを高めるのか、そのメカニズムが近年、驚くほど明確になってきました。APOE4は、二重の打撃を脳に与えることで、病気への扉を開くと考えられています。

第一の打撃は、「感染に対する脆弱性」です。前述の通り、APOE4を持つ人は、脳内で潜伏している単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)が再活性化しやすいことが報告されています 48。これはつまり、病気の最初の「火種」となる感染イベントが、APOE4キャリアの脳内ではより頻繁に起こりうることを意味します。

第二の打撃は、「免疫応答の麻痺」です。最近、Nature Immunology誌に掲載された画期的な研究は、APOE4が脳の主要な免疫細胞である「ミクログリア」の働きを麻痺させてしまうことを明らかにしました 83。通常、ミクログリアは脳内で異常なタンパク質の凝集体や細胞の残骸を見つけては、それを貪食して掃除する「清掃員」の役割を担っています。しかし、APOE4が存在すると、ミクログリアはこの清掃モードに切り替わることができず、本来の機能を果たせなくなってしまうのです。その結果、感染への応答として産生されたAβプラークが、効率的に除去されずに脳内に蓄積し続けてしまいます。

つまり、APOE4は、病気の引き金となるウイルスの再活性化を促進する一方で、その結果生じたAβという「燃えカス」を掃除する免疫細胞の能力を奪うという、まさに「マッチポンプ」のような働きをするのです。この遺伝的背景と感染という環境要因が交差するところに、慢性的な神経炎症と神経変性へと続く悪循環が生まれる、というのが、現在の最も有力な病態モデルの一つです。

新たな治療戦略と予防

アルツハイマー病の理解が「タンパク質の異常」から「感染と免疫の異常」へとシフトすることは、治療戦略にも大きな変革をもたらします。これまでのAβ除去一辺倒のアプローチから、より根本的な原因に介入する、多様で有望な道筋が見えてきました。

その筆頭が、「抗ウイルス療法」です。もしHSV-1の再活性化が病気の引き金になるのであれば、抗ヘルペスウイルス薬でその再活性化を抑えることが、病気の進行を遅らせる、あるいは予防につながる可能性があります。この考えに基づき、現在、米国では軽度のアルツハイマー病または軽度認知障害(MCI)で、かつHSV陽性の患者を対象に、抗ウイルス薬「バラシクロビル」の有効性を検証する第II相臨床試験が進行中です 46。この試験の結果は、感染症仮説の妥当性を臨床的に証明する上で、極めて重要となものとなるでしょう。

また、歯周病菌であるポルフィロモナス・ジンジバリス(porphyromonas gingivalis)が産生する毒素「ジンジパイン(Gingipain)」を標的とした阻害薬の開発も進められており、すでに臨床試験が行われています 61。さらに、感染症そのものを防ぐという観点から、ワクチンの有効性も注目されています。例えば、帯状疱疹(ヘルペスウイルスの一種である水痘・帯状疱疹ウイルスによって引き起こされる)のワクチンを接種した人は、認知症の発症リスクが低いという疫学データもあり 46、感染予防が認知症予防に直結する可能性を示唆しています。

この新しいパラダイムは、治療だけでなく、「予防」の重要性をこれまで以上に強調します。例えば、歯周病は治療可能であり、予防可能な疾患です。定期的な歯科検診と適切な口腔ケアによって口腔内の健康を保つことが、将来の認知症リスクを低減させるための、誰にでも実践可能な具体的な行動となりうるのです 93。これは、冒頭で紹介された、ヘルペスの再発患者に対して早期治療を勧めるという臨床医の提言が、最新の科学的知見と軌を一にしていることを示しています。確固たるエビデンスが確立されるのを待つだけでなく、現在利用可能な安全な手段でリスクを管理していくというアプローチは、極めて合理的と言えるでしょう。

複雑な病態の理解に向けて

本記事の出発点となった問い、「アルツハイマー病の原因はアミロイドβではないのか?」に対する答えは、単純な「はい」でも「いいえ」でもありません。Aβ*56論文の撤回によって明らかになったのは、Aβが2006年に提唱されたような単純な単一の原因ではない、という可能性です。それはAβが病態と無関係であることを意味するわけでもありません。Aβは今なお、アルツハイマー病の中心的な要素であり続けています。

一連の科学的探求を経て、今まさに新たなコンセンサスが形成されつつあります。それは、アルツハイマー病を、単一の原因による疾患ではなく、複数の要因が絡み合った複雑な症候群として捉える視点です。

それは、もしかしたらこんな仮説かもしれません。まず、単純ヘルペスウイルスや歯周病菌といった様々な病原体が、脳への侵入や再活性化という「引き金」を引きます。特にAPOE4のような遺伝的素因を持つ人々では、この引き金が引かれやすく、かつ、脳の免疫システムが適切に応答できない状態にあります。その結果、本来は脳を守るための防御反応であるはずのAβの産生と凝集が、過剰かつ慢性的に続き、制御不能な神経炎症を引き起こします。この慢性炎症こそが、タウの異常や神経細胞死といった下流の病理を駆動し、私たちの記憶や認知機能を蝕んでいく、というものです。

このパラダイムシフトは、Aβ*56論文の不正発覚という出来事をきっかけとしましたが、決して後ろ向きなものではありません。むしろ、長年の停滞感を打ち破り、アルツハイマー病研究を新たなステージへと押し上げる、希望に満ちた転換点と見ることもできるでしょう。病気の「結果」の一つであるアミロイドプラークだけを追いかけるのではなく、その上流にある「原因」、すなわち感染、炎症、そして免疫のダイナミクスに目を向けることで、私たちはこれまで以上に効果的な予防法や治療法を開発できる可能性を手にしたというわけです。

参照情報

  1. Daily briefing: Landmark Alzheimer's paper will be retracted - PubMed, https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38849470/
  2. Retracted Alzheimer's Paper Reshapes Research Landscape, but Progress Continues - ScienceBlog.com, https://scienceblog.com/retracted-alzheimers-paper-reshapes-research-landscape-but-progress-continues/
  3. Researchers Plan to Retract Landmark Alzheimer's Paper Containing Doctored Images, https://www.madinamerica.com/2024/06/researchers-plan-to-retract-landmark-alzheimers-paper-containing-doctored-images/
  4. Researchers Plan To Retract Landmark Alzheimer's Paper Containing Doctored Images, https://science.slashdot.org/story/24/06/07/2043250/researchers-plan-to-retract-landmark-alzheimers-paper-containing-doctored-images
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