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マクロ経済運営について
竹森俊平 慶應義塾大学経済学部教授
まず、コロナ感染が未曾有の重大な危機だという事実を強調したい。
この危機の全体的な経済費用だが、アメリカについては、米議会予算局(CBO)が10年間ぐらいの視野で試算を行い、長期的なGDPへのマイナス効果を7.6兆ドルと見積もっている。
100を掛けると760兆円になる。この数字を基に、元財務長官のローレンス・サマーズは死亡などの人的被害を加えるとおそらく16兆ドルに上ると述べている。1600兆円。
これはアメリカのGDPの75%だが、それぐらいの巨大規模の問題と考えるべきと言う。
日本についてのマクロの数字だが、資料1-2の図表1に今日発表されたGDPギャップがある。34兆円という規模。
GDPギャップは供給に対する需要不足であり、デフレを生み出す要因なのだが、いずれ、供給過剰を企業が整理していくと、その分だけの生産能力が消えてなくなることになる。
日本の経済から34兆円分の生産能力がボコッと消えてなくなる問題が存在すると考えていただきたい。
サマーズもCNNのニュースで、声涙ともに下るように語っていた。これだけの規模の経済が失われることを考えれば、それを防ぐための経済費用は雀の涙でしかない。
それを惜しむべきではないと言っていて、まったくその通りだと思う。
では、一体何に経済費用を使うべきか。図表2を参照していただきたい。
定額給付金の効果は、はっきりと出ている。
しかし、近時点では雇用者報酬がどんどん減っていることが明らかだ。
要するに所得が稼げなくなっている。その結果、いずれ総需要にボカっと穴が空くことを覚悟しなければならない。
ようするに総需要を生み出す必要がある。どこに総需要を生み出すかと言えば、IT化、デジタル化、グリーン化、こうした目的のための投資の拡大を我々は提案している。
普通なら、消費が伸びて、それを見込んだ上で投資が伸びるのだが、今はそんな悠長なことさえ言っていられない状況だ。
時代が変化することを見込んで、それに対応した投資を企業に積極的にしてもらうことを考えるべきだ。
世の中には業績の悪い企業がある一方、Amazonがあって、Zoomがあって、テスラがある。
これらの企業は株価も上がっているし、業績も非常に良い。デジタル化、グリーン化といったものは長期的には確実に進むものだが、現在、コロナにより緊急性も増している。
日本でもブームを今作るべきだ。さもないと、34兆円のブラックホールにより日本経済が埋没する危険がある。
では、こうした必要な投資をどうやって伸ばすのか。M&Aを活発にする。構造変化が起こるようにする。
投資が拡大するようにする。これらを導くためには投資減税が明確に有効な政策だ。
それには財源が必要。しかも今までのペイ・アズ・ユー・ゴーのルールの中で、ほかの措置との合算で、どのように財源をひねり出すかという考え方をしてはいけない。
まずは必要な投資を伸ばすために投資減税をする。
その上で、全体の予算をバランスするには、他のところを削って帳尻を合わせるという考え方が必要。
当然、世の中が変わるなら、人間も変わらなければいけない。
そのためにリカレント教育、それから、人材移動の自由化を進めなければいけない。
それから、この改革が地方に進むためには、地方にも改革の司令塔がなければいけない。
前回申したように、地銀がやはり司令塔になるべきであって、そのために地銀の経営強化と人材の強化が必要。
こうやって人材、金融、構造改革、これらを一度に進めて、下手をすると日本経済にボカっと空いてしまう穴を、何とか今、現在の時点で埋めることが必要。
試しにやってみるのではなくて、今、この時点で絶対に穴を埋めるという覚悟が必要。
梶山弘志 経済産業大臣
経済産業省としては、経済対策について、第1にグリーン社会、デジタル改革の実現に力点を置く。
具体的には温室効果ガスの排出を全体としてゼロとするカーボンニュートラルを一気に進めるための措置、デジタル社会の基盤となる半導体の製造基盤強化、ポスト5G情報通信システムの開発、さらにはクリーンエネルギー自動車やサポカーの導入促進を検討する。
第2に、経済構造の転換、イノベーション等による生産性向上。規模拡大など経営転換に挑戦する中小企業への支援、事業再生、事業承継に対する支援、年度末に向けた資金繰り対策、中小企業のDX化支援などの検討をしていく。
加えて、サプライチェーンの強靭化などを推進していく。これらについてしっかりと検討を進めていく。
武田良太 総務大臣
今回の経済対策について一言申し上げる。
総務省としては、デジタル改革の実現として、国・地方を通じたデジタルガバメントを推進する。
自治体の情報システムについて、クラウド活用を原則とした標準化・共通化に向けた自治体の取組を支援するほか、マイナンバーカードの普及・利活用の促進のため、市町村による普及促進や交付体制の充実などに取り組む。
また、イノベーションによる経済再生・地域活性化を実現するため、Beyond 5G研究開発基金の創設や、AI、量子暗号通信の研究開発体制の整備などを推進する。
あわせて、誰もがデジタル化の恩恵を得られるよう、サイバーセキュリティの確保やデジタル格差解消に向けた支援体制の構築などに取り組む。
この他、総務省としては、耐災害性の強化やDXの推進を含めた消防防災力・地域防災力の充実強化を図り、防災・減災、国土強靱化を推進していく。
麻生太郎 副総理 兼 財務大臣
資料1-1にあるように、民間企業における現預金約300兆円を成長につながる投資に振り向けていくことが重要。
また、感染拡大の防止を更に徹底させつつも、社会経済活動の維持向上といったものにはこれまでの自律的な民需の回復を止めないことがまずもって最重要。
前回の経済財政諮問会議でも申し上げたように、民需の回復を脇に置いて現時点の経済の落ち込み約30兆円等を全て公需で埋めるべきといった議論が聞かれるが、公需主体で経済を支え続けなければならないという議論は適当ではない。
今後、新型コロナ感染状況等を十分に見極めながら、経済構造への変化への対応や生産性の向上に前向きに取り組んでいく主体への支援を軸足に移していくことで、民間企業の現預金を活用した自律的な民間投資を促して、未来に向けた成長力の強化につなげていくことが肝心なのではないか。
また、税制の改正について言えば、減収を伴う要望は基本的に大企業向けの措置が中心になるが、現下の経済情勢でも全体として見れば現預金の高い水準が続いていることを踏まえると、既存の租税特別措置の中で優先度が低いものとか必要性が薄れてしまっているというものについて見直しを行うことでしっかりと財源を確保して、税制中立として個人や中小企業から見た公平感にかなう税制改正にしていきたい。
中西宏明 株式会社日立製作所 取締役会長 兼 執行役
前回の全世代型社会保障検討会議は欠席して大変申し訳なかった。方向付けは総理にしていただいてはいるが、経済界を代表する立場で一言だけ言わせていただきたい。
資料5-3だが、もともと、この全世代型社会保障検討会議は、高齢者に偏りがちな社会保障の流れを若い方のほうに一歩でも進めていくという方向性が非常に大事であるということを、再三にわたって経済界として主張してきた。
全世代型社会保障改革に向けた考え方
この際、様々な重い課題を抱えながらも、その方向性が明確に出ることが非常に大事であるし、その一歩が明確になることで、菅総理が最初におっしゃった自助・共助・公助のメリ張りの利いた日本の将来の方向性が出てくるのではないか。この2点を再度強調させていただき、お願いする。
新浪剛史 サントリーホールディングス株式会社 代表取締役社長
資料5-1をご覧いただきたい。
先ほど竹森議員より説明のあった、34兆円にも上る大変な規模のGDPギャップについて。
忘年会、そして新年会も開きにくくなり、消費がものすごく縮んでいく。
冬のボーナスも非常に厳しいという企業が大変多い。
10月は少し消費マインドが戻ってきていたが、ここに来てその低下は避けられない。
このような状況下においては、大胆な規模の経済対策が不可欠ではないか。
これ以上の感染拡大防止のためには経済を止めるのも甘受すべき、という意見もあるが、これによる弊害も見過ごすべきではない。
現実的で辛い話だが、10年間減少を続けてきた自殺者が7月以降増えている。
男性も増えているが、特に女性が増えている。10月の女性の自殺者数は女性が851人、去年は466人だった。
これは想像するに、失業した非正規労働者の女性割合が高いことと密接に関係しているのではないか。
すでに明確に示されていることとして、失業率と自殺者の相関関係がある。
こういったことを考えると、経済を回さないことで大変厳しい状況に陥るのではないか。
そのため、コロナ対策と経済対策を同時に両立するということは大変難しいが、命を守る観点からも、やはり経済が大変重要であることが明確に表れているのではないか。
こうした点を踏まえれば、Go To事業は地域経済を支え、消費に結びつき、結果として命を守ることにもつながっているという大変意義が深いもの。
ただし、現下の感染状況を踏まえれば、利用する国民の皆さん、また、受け入れる地域の皆さん双方が一定程度安心できる方策が必要。
例えば、事前に100%リスクがなくなるということは難しいが、希望者に対して相当の国費負担によるPCR検査やCOCOAの利用を推奨するなどしていくべきではないか。
アクセルとブレーキをマッチングさせてやっていくべき。そしてまた、経済対策を逐次導入するのでは対策が後手後手になるので、大胆な規模で徹底的に実行すべき。これは歴史が語っている。
また、デジタルやサステナビリティに対する投資も大変重要であり、中期的な投資も必須。
民需によってこの投資を行うべきということは、麻生副総理、梶山大臣がおっしゃるとおり。
一方で、直近の問題として、ある一定のカンフル剤が必要。そういった意味で、今、申し上げたGo To事業のような経済活動を促すことに加え、貧困世帯に限定した現金給付も再検討すべきではないか。
大変難しいことは分かっているが、今の困窮されている方の家計の問題を解決するということも大変重要で、それがあって将来の持続的な成長があるということではないか。
同時に、民間資金の有効活用のためには、フィデューシャリー・デューティー、つまり、機関投資家の受託者責任の徹底や強化を図り、企業経営者に対し、余剰資金活用についての資本市場からのプレッシャーを与えることも必要。
例えば、3~4年の期間を設けて、余剰資金の活用計画が実行されなければ投資した資金を返してもらう、戻ってきた資金を成長企業に投ずるといった有効活用をするためにも、今一度、コーポレートガバナンス・コード及びスチュワードシップ・コードの活用徹底を図り、株主と投資家が向き合い、投資家サイドからの適切かつ合理的なプレッシャーの下、資金の有効活用の道を探るようにすべき。
もう一つ、そういった中で成長分野への労働移動をしっかり行うことが重要。
何度も申し上げているが、そのためにはリカレント教育、職業訓練など、個人の能力の強化が必要。
それを支援するための雇用保険2事業の財源が枯渇しつつあるが、是非とも一般会計から繰り入れて、意欲のある個人への支援を柔軟かつ徹底的にやっていただきたい。
また、残念ながら衰退せざるを得ない産業が大手企業も含めてある。
その意味で業界再編は中期的に不可避であり、日本政策投資銀行を中心に、資本保有も念頭に置きつつメガバンクを巻き込む形で、業界再編を主導していくのが有効な方策ではないか。
そして、このコロナ禍というピンチで本当に実行していかなければいけないのは東京一極集中の是正。
そのためには、まず中核都市で地産地消の再生可能エネルギーを活用したスマートシティをつくっていくべき。
是非ともこのピンチをチャンスにするということを実現していただきたい。
そのためのあらゆる手段を考えてやっていただきたい。
柳川範之 東京大学大学院経済学研究科教授
資料5-2をご覧いただきたい。ここに書いてあることを追加しながらお話しさせていただく。
今も何人かの議員の方からお話があったように、やはり34兆円というGDPギャップをどうやって埋めていくのかというのが大きな課題であろう。
足下、経済環境に関する悲観的な見方がかなり広がっている中だと、場合によっては、この34兆円以上のギャップが広がりかねない。
そう考えると、やはりここで書いたように総需要をしっかり落ち込ませないための対策というのは欠かせないのだろうと思う。
ただし、それは単純にお金を積むというよりは、やはりしっかりとした将来の成長につながる、それから、皆さんの安心につながるようなところに対策をしっかり打っていくということが重要だと思っている。
この民間議員ペーパーに書いたところは全て対策として重要だと考えているが、やはり麻生副総理からもお話があったように、民需をしっかり出していくための政策というのは欠かせないと思うし、それを促していくための金融側、株、エクイティの機能を発揮した金融側の行動というものもかなり対策としては重要だと思う。
それから、ある種のパッケージ化の政策が必要だと思うが、やはりデジタル化、カーボンニュートラル、イノベーション推進と書いてあるが、デジタル化という観点では、武田大臣からのお話があったように、自治体の情報システムの投資というものは非常に重要な、もう明らかに必要なことなので、こういうものを前倒しでしっかりやっていくということも欠かせないのではないかと思う。
加えて、新浪議員からもお話があったが、やはり人をしっかり動かしていくというところでいくと、資料5-2に書いたように大胆なスキルアップ支援は欠かせないし、それを使って企業間、あるいは都市と地域、こういう形で新しい人の流れをつくっていくこと。
このための総合対策が経済対策としては非常に重要ではないかと思う。
その点では、雇用調整助成金は必要なことだが、やはり労働移動支援に軸足を移していくべきだと思う。
何よりもやはり新浪議員からもお話があったように、やや今、足下の雇用が失われつつある。
非正規の方々を中心に雇用が失われつつあって、それが貧困や、場合によると自殺者の増加を生み出している可能性を考えると、雇用をしっかりつくり出していくということが、しっかり考えなければいけない対策の一つではないかと思っている。
その点では、前回も申し上げたが、雇用をしっかりつくり出してくれるような人材を育てていく。
場合によっては海外からそういう人材をしっかり呼び込んでいくことも重要だと思う。
それから、新浪議員から給付というお話があったが、やはり本当に困っている人たちに焦点を当てて支援をしていくということは重要ではないか。
これは次の資料2で書いているが、例えば奨学金の返済に困っている方々、明らかに困っていることが分かっている人たちに支援の手を差し伸べることも技術的に可能なのであれば、こういうところを充実させていくこともしっかり考えるべきではないかと思っている。