ビジネス全般

肝炎等克服政策研究事業(令和4年度厚生労働科学研究)

Table of Contents

1.研究事業の目的・目標

【背景】

B型・C型肝炎は国内最大級の感染症であり、適切な治療を行わないまま放置すると肝硬変、肝がんといった重篤な病態に進行する恐れがある。肝炎の克服に向けた対策を総合的に推進するため施行された肝炎対策基本法に基づき、肝炎対策基本指針が制定された。その中で、①肝炎ウイルス検査のさらなる促進、②適切な肝炎医療の推進、③研究の総合的な推進、④正しい知識のさらなる普及啓発、⑤相談支援や情報提供の充実、等が基本的な方向性として示されている。これらを研究の側面から効果的に推進するため、肝炎研究 10 カ年戦略(今後の見直しに向けた中間取りまとめを行った)が制定された。同戦略では、利便性に配慮した検査体制の整備、肝炎ウイルス陽性者に対するフォローアップ体制の構築、肝炎に係る医療・相談体制、肝炎患者等に対する偏見・差別への具体的な対応策や就労支援、肝炎患者の実態把握等が課題となっており、これらの課題解決に資する行政研究および政策立案の基盤となる疫学研究の推進が求められている。

【事業目標】

肝炎対策を総合的に推進するための基盤となる疫学研究と行政的な課題を解決するために必要な研究を推進する。

【研究のスコープ】

①疫学研究

  • 肝炎ウイルス感染者数やウイルス性肝炎患者数や予後の実態把握等に関する疫学研究

②肝炎検査の実施体制の向上

  • 肝炎ウイルス検査の受検促進及び検査後の効率的なフォローアップに関する研究

③肝炎医療を提供する体制の確保

  • 肝炎対策の効果検証に資する指標等による適切な肝炎医療の推進に資する研究
  • 肝硬変、肝がん等の病態別の実態を把握するための研究
  • 地域における病診連携の推進に資する研究

④肝炎医療に関する人材の育成

  • 肝疾患のトータルケアに資する人材育成などに関する研究

⑤肝炎に関する啓発及び知識の普及並びに肝炎患者等の人権尊重

  • 肝炎ウイルスへの新たな感染の発生防止や肝炎患者への偏見・差別の防止に資する研究

【期待されるアウトプット】

①疫学研究

  • 肝炎対策の変化に応じた肝炎患者数の将来推計を行うための疫学資料を作成する。
  • モデル地域のウイルス肝炎の elimination 到達度を把握する。

②肝炎検査の実施体制の向上

  • これまでの受検勧奨等の施策の効果検証を行い、より効果的・効率的な受検・受診・受療・フォローアップのアプローチ方法を提示する。

③肝炎に医療を提供する体制の確保

  • 都道府県での肝炎対策計画における目標設定の参考となる指標の効果的な運用方法を提示する。
  • 肝がん・肝硬変治療ガイドラインの再発治療も含めた、診療ガイドラインの改訂版を作成する。
  • 地域の医療体制やインフラの整備状況に応じた診療連携を促進するための方法論を提示する。

④肝炎医療に関する人材の育成

  • 肝炎医療コーディネーターの現状の配置状況、活動状況を検証し、より効果的な養成・配置方法、職種に応じた活動マニュアルなどを提示・作成する。

⑤肝炎に関する啓発及び知識の普及並びに肝炎患者等の人権尊重

  • 肝炎患者等への偏見・差別の実態を事例集としてソーシャルメディア等を活用し提示するとともに、偏見・差別の解消に資する方法論を明らかにする。
  • 肝炎ウイルスに対する正しい知識の普及のために、e-learning システムを全国展開し、年齢層や職種に応じた肝炎教育の方法を提示する。

【期待されるアウトカム】

①疫学研究

  • 大規模な疫学調査結果から、肝炎対策基本指針、肝炎研究 10 カ年戦略に基づく国の施策の評価・改善を行うことができ、elimination に向けた肝炎総合対策の更なる促進につながる。

②肝炎検査の実施体制の向上

  • 肝炎ウイルス検査の受検率及びフォローアップ率の向上につながり、肝炎の早期発見、早期治療が促進され、肝硬変、肝がんへの重症化予防につながる。

③肝炎に医療を提供する体制の確保

  • 都道府県の肝炎対策の目標設定および評価基準が明確になり、地域における肝炎対策が向上する。
  • 肝がん・肝硬変患者への診療レベルが向上し、予後改善や QOL の改善につながる。
  • 地域の肝炎医療体制が充実し、慢性肝炎から肝硬変、肝がんといった重篤な病態への重症化予防につながる。

④肝炎医療に関する人材の育成

  • 肝炎医療コーディネーターの活動の活性化により、肝疾患対策の推進が加速される。

⑤肝炎に関する啓発及び知識の普及並びに肝炎患者等の人権尊重

正しい肝炎ウイルスの知識の普及により、肝炎患者等への理解と適切な対応に繋がり、肝炎患者等が不当な偏見・差別を受けることがない安心して暮らせる社会ができる。

  • 新規感染者の発生を抑制し、国民の健康寿命の向上と、肝炎関連の医療費の抑制につながる。
  • 全体として、肝炎患者等の早期かつ適切な肝炎医療の受診促進等の肝炎総合対策を推進することにより、肝硬変や肝がんへの移行者を減らし、肝がんの年齢調整り患率を現状の約 13%から約7%へ改善することを目標とする。

2.これまでの研究成果の概要

  • 「肝炎ウイルス感染状況の把握及びウイルス感染排除への方策に資する疫学研究」(継続中)では、NDB 等を用いてB型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスの感染者数や将来の感染者数を推計した。2030 年までの肝がん 75 歳未満年齢調整死亡率の将来推計を行い、2030 年には国内いずれの地域においても 10 万人対4人以下程度に低下すると推定された。ある県の複数自治体をモデル地区とし、疫学調査を実施し、elimination 到達度の評価を実施した。
  • 「新たな手法を用いた肝炎ウイルス検査受検率・陽性者受診率の向上に資する研究」(継続中)では、受検率の向上に寄与することが示された Nudge を活用した受検案内票、又はこれを参考にした受検票が全国の協会けんぽで採用、使用が開始された。また、モデル地域において非肝臓専門医(主に歯科領域)に対する肝炎講習会や肝炎予防に資するリーフレットの作成と配布を行い、肝炎ウイルス患者への対応を周知するとともに他の診療科から肝臓専門医への紹介を促進できる環境を構築した。
  • 「肝がん・重度肝硬変の治療に係るガイドラインの作成等に資する研究」(継続中)では、NCD(National Clinical Database)に登録する肝がん・肝硬変患者数の増加に伴い、生存調査についても施行した。
  • 「地域に応じた肝炎ウイルス診療連携体制構築の立案に資する研究」(令和2年度終了)で、かかりつけ医と肝疾患専門医療機関の診療連携に関するアンケート調査を実施し、診療連携を阻害する要因を明らかにした上で、その対応策を提示した。また、専門医療機関の受診確認率が、従来の確認用紙を用いた方法よりも ICT を活用する方法で2倍程度高く、受診確認に有効な方法であることが明らかとなった。また、モデル自治体において、肝炎ウイルス検査陽性の妊婦への出産前からのフォローアップ体制を確立した。地域における拠点病院及び専門医療機関とかかりつけ医との診療連携を促進するための様々な取組を紹介する好事例集を作成・公開した。
  • 「ソーシャルメディア等を活用した肝炎ウイルス感染者の偏見差別の解消を目指した研究」(継続中)では、患者代表や弁護士、マスコミ関係者等の協力のもと肝炎ウイルス患者等への偏見・差別を防止するための事例集や解説集を掲載したホームページを作成した。
  • 「肝炎ウイルスの新たな感染防止・残された課題・今後の対策」(令和2年度終了)で、一般生活者・保育施設勤務者・医療従事者を対象とした肝炎の伝播を防止する等の知識をできるだけ短時間で学習できる e-learning system を構築した。平成 28 年から開始されたB型肝炎ワクチン定期接種の効果検証を行っているところ、B型肝炎感染マーカー陽性児の割合が低下していることが示唆された。

3.令和4年度に継続課題として優先的に推進するもの

「肝がん・重度肝硬変の治療に係るガイドラインの作成等に資する研究」

肝がん・重度肝硬変治療研究促進事業のさらなる周知を図るための方法を開発し、効果的な普及に取り組む。肝がん・肝硬変患者の臨床情報を NCD に引き続き登録し、登録患者の臨床情報の解析や予後調査を実施し、肝癌診療ガイドラインの改訂を行う。

「肝炎総合対策の拡充への新たなアプローチに関する研究」

これまでに開発した自治体事業指標等の効果的な運用方法の提示、また実際の運用からのフィードバックをもとに指標の修正を行う。また、肝疾患専門医療機関向け肝炎医療指標を全国の医療機関で検証し、さらに、院内連携、病診連携の推進に資する指標を提示する。

4.令和4年度に新規研究課題として優先的に推進するもの

「Nationwide の肝炎ウイルス感染状況の把握及びウイルス性肝炎 elimination に向けた方策に資する疫学研究」

2016 年に WHO は 2030 年までのウイルス性肝炎 elimination に関する目標を定めており、この目標に向けて我が国も肝炎に関する感染状況等の推移を把握し、world wide な視点から国の肝炎総合対策の効果検証を行うことが必要不可欠である。これまで、疫学研究では、NDB 等のビッグデータを活用した全国規模の肝炎ウイルス感染者数や患者数等の推計を行い、様々な行政施策の立案に活かされてきた。しかしながら、肝炎ウイルスの感染状況や受検率、肝がん死亡率や治療の現状は、地域毎の差異があるために、全国一律に対してのみならず個別の肝炎対策の提示が求められている。

これらの課題に対して、オールジャパンの研究体制を構築し NDB 等のレセプト解析による感染者数の推計や実態調査、抗ウイルス療法が普及したことから治療薬販売実績に基づく将来の医療経済効果予測、ウイルス検査受検率を把握するための国民調査等の全国規模での調査を継続的に行い、精度の高い疫学データを得る。更に、より詳細に解析することによって、肝炎ウイルス感染者の地域別の動向を把握し、これまでの肝炎対策の効果を検証するとともに、地域別の elimination 到達度を検証・評価し、可視化することで、今後の肝炎総合対策に必要な地域の実情に応じたより細やかな方策を提示する。

5.令和4年度の研究課題(継続及び新規)に期待される研究成果の政策等への活用又は実用化に向けた取組

【新規】

「Nationwide の肝炎ウイルス感染状況の把握及びウイルス性肝炎 elimination に向けた方策に資する疫学研究」

肝炎ウイルス感染者数等の実態を明らかにしたこれまでの疫学調査結果と、現状の肝炎医療に関する疫学調査の分析から、将来のウイルス肝炎排除への道筋を示し、地域の実情に応じた効果的な対策について提言できる資料を提示し、ウイルス肝炎排除に向けた肝炎総合対策の更なる推進につなげる。

【継続】

「肝がん・重度肝硬変の治療に係るガイドラインの作成等に資する研究」

肝がん・肝硬変患者への肝炎医療の現状を調査し、予後や QOL の改善につながる方策を検討し、肝がん等の治療ガイドラインの改訂につながる資料を提示し、診療レベルの向上、予後改善や QOL の改善を図る。

「肝炎総合対策の拡充への新たなアプローチに関する研究」

肝炎対策の評価指標を有効に活用するシステムを構築し、地域毎での肝炎対策の目標設定が明確化し肝炎総合対策の更なる推進につなげる。

参照

令和4年度厚生労働科学研究の概要

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