臨床試験 規制

ICH-E12 降圧薬の臨床評価に関する原則

医薬審発第 0128001 号
平成14年1月28日

各都道府県衛生主管部(局)長 殿

厚生労働省医薬局審査管理課長

降圧薬の臨床評価に関する原則について

標記について、平成 11 年 4 月 8 日医薬発第 481 号医薬安全局長通知「医薬品の承認申請について」の記の第 2 の 3 に規定する試験の指針として、降圧薬の臨床評価に関する原則を別添のとおりとりまとめたので、貴管下関係業者に対する周知方よろしくご配慮願いたい。

また、本通知の施行に伴い、平成元年 3 月 31 日付け薬審一第 8 号厚生省薬務局審査第一課長通知は廃止する。ただし、既に治験計画書が作成され、臨床試験が実施されている場合に配慮し、既に実施されている臨床試験等については旧指針を参考とした事項があっても差し支えないこととする。ただし、そのような場合であっても本指針について可能な限り適用することとされたい。

なお、学問の進歩等を反映した合理的根拠に基づいたものであれば、必ずしもここに示した方法を固守するよう求めるものではないことを念のため申し添える。

降圧薬の臨床評価に関する原則

はじめに

本ガイドラインは、新たな降圧薬の開発に際して臨床評価を行うための一般的な原則をとりまとめたものである。なお、本ガイドラインはこれまで降圧薬の臨床評価についてわが国で基準として用いられてきた「『降圧薬の臨床評価方法に関するガイドライン』について」(平成元年3月31日薬審1第8号)を、日米EU医薬品規制調和国際会議( International Conference on Harmonization of Technical Requirements for Registration of Pharmaceuticals for Human Use, ICH)の議論を踏まえ、改定したものである。

また、本ガイドラインの規定は関連ある下記のICHガイドラインとともに検討する必要がある。

  • E1 致命的でない疾患に対し長期間の投与が想定される新医薬品の治験段階において安全性を評価するために必要な症例数と投与期間について(平成7年5月24日薬審第592号)
  • E3 治験の総括報告書の構成と内容に関するガイドラインについて(平成8年5月1日薬審第335号)
  • E4 「新医薬品の承認に必要な用量-反応関係の検討のための指針」について(平成6年7月25日薬審第494号)
  • E5 外国臨床データを受け入れる際に考慮すべき民族的要因について(平成10年8月11日医薬審発第672号)
  • E6 医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(平成9年3月27日厚生省令第28号)
    医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令の施行について(平成9年3月27日薬発第430号)
    医薬品の臨床試験の実施の基準の運用について(平成9年5月29日薬審第445号、薬安第68号)
  • E7 「高齢者に使用される医薬品の臨床評価法に関するガイドライン」について(平成5年12月2日薬新薬第104号)
  • E8 臨床試験の一般指針について(平成10年4月21日医薬審第380号)
  • E9 「臨床試験のための統計的原則」について(平成10年11月30日医薬審第1047号)
  • E10 「臨床試験における対照群の選定とそれに関連する諸問題」について(平成13年2月27日医薬審発第136号)
  • E11 小児集団における医薬品の臨床試験に関するガイダンスについて(平成12年12月15日医薬審第1334号)

1. 有効性評価の一般原則

降圧薬の有効性評価の基本は、薬剤の収縮期血圧及び拡張期血圧に対する効果である。以前は、多くの試験において拡張期血圧の変化が主要評価項目であった。しかし、現在、すべての降圧薬は拡張期血圧とともに収縮期血圧をも低下させること、及び収縮期高血圧又は収縮期血圧の上昇が顕著な高血圧は、重要かつ治療可能な危険因子であることが認識されているので、薬剤の収縮期血圧への作用についても明確な評価が要求される。

これまでの種々の予後試験では、利尿薬、β遮断薬等による治療は、心血管疾患の死亡率及び罹病率を低下させること、そしてこれらの効果は脳卒中について顕著であることが示されている。しかし、ある薬剤又はある種の配合剤が、他の薬剤に比べて全般的な予後又は特定の予後について、より優れた効果をもたらすか否かは不明である。

死亡率又は罹病率に関する予後試験は、通常は降圧薬の承認に際して必要ではない。しかし、現在進行中の多くの予後試験の成績が判明すれば、死亡率及び罹病率に関する試験の取扱いについての考え方が変更される可能性がある。新たな降圧薬の降圧効果が証明されたとしても、死亡率又は心血管系疾患の罹病率について悪影響が懸念される場合には、予後試験等長期にわたる試験が必要となるであろう。

2. 試験対象集団

新しい降圧薬の評価のための試験においては、多様な背景を有する本態性高血圧患者を対象とすべきであり、また試験の目的と特徴に応じて適切に被験者を選ぶことが重要である。多くは軽症ないし中等症の高血圧症例であり、拡張期血圧と収縮期血圧の両者の上昇を示す症例が含まれることが望ましい。また、収縮期高血圧及び重症高血圧の症例についての試験も必要である。脳卒中、冠動脈疾患あるいは糖尿病等の関連する合併症を有する症例については、それらの患者の治療に必要な薬剤が当該試験の評価に影響を与えない限り、また被験薬が合併症の治療に影響しない限り、試験の対象とすべきである。心不全を合併した患者は、その標準的治療に被験薬と同様な薬理学的作用により血圧に影響を与える薬剤が含まれることがあるので、対象とすることに注意が必要である。

一般的には、高血圧に起因する標的臓器障害を有する患者は、実対照薬との比較試験に組み入れることは可能であるが、プラセボとの比較試験には4週間程度の短期間の試験を除いては組み入れるべきではない。また、男性と女性、若年者と高齢者等、適切な背景を有する患者を対象とすべきである。また、高齢者については75歳を超える症例も含める必要がある。一般的には、これらのサブグループについては当該サブグループ毎に試験を行うのではなく、同一試験に組み入れるべきである。このことにより、同じ条件下における層別の比較が可能になるためである。例外は重症度に関するサブグループの試験である。対象例の重症度に応じて試験のデザインの変更が必要となる場合があるためである。二次性高血圧及び妊娠に伴う高血圧の患者並びに高血圧の小児については、もしこれらの集団に対する適応を申請するのであれば、そのための試験が別途必要である。

3.薬物動態試験及び薬力学的試験

薬剤の吸収・分布・代謝・排泄は薬剤により異なるので、健康成人における薬物動態試験は必須である。また、高血圧患者についての薬物動態に関する検討も必要である。しかし、腎障害を合併している高血圧患者での薬物動態試験は必須である。また、薬物動態上の特徴により、肝障害のある症例についての検討が必要な場合がある。更に詳細な薬物動態試験の実施が必要な場合がある。なお、試験実施に際しては、「医薬品の臨床薬物動態試験について」(平成13年6月1日医薬審第796号)を参考とすることが望ましい。

降圧薬の薬力学的な特徴を明らかにするために、血行力学的作用、腎機能に及ぼす作用、神経体液性因子に対する作用等について評価する試験が必要である。一般的には、その作用の強さ、用量反応関係、これらの作用の時間経過等を明らかにすることが有用である。

これらの試験は、原則として、プラセボを対照として実施されるべきである。

4. 降圧効果の評価

4.1 降圧効果評価の基本

降圧効果を評価するための試験における主要評価項目は、対照薬群と比較した場合における被験薬群のトラフ時(次回の服薬直前)の血圧の治療前値からの変化値である。副次評価項目として、あらかじめ定めておいた判定基準に従った評価を行ってもよい。一般的には、試験終了時の血圧に及ぼす影響が主要評価項目であるが、効果の発現する時間的経過もまた重要である。この点は、1週又は2週ごとにトラフ時の血圧変化を調べることによって明らかにすることができる。降圧効果及び用量反応関係は、4ないし12週間の短期間の試験で検討し、またこれらの短期間の試験においては、プラセボを対照として使用すべきである。効果の持続及び治療薬の使用を中止した際の影響を検討するためには、長期(6ヶ月及び1年)の試験を実施すべきである。

血圧測定は、無拘束下血圧測定(ABPM)による測定を除き系統的な偏り(バイアス)を生じやすいこと、血圧の自然変動が大きい場合があること、また、被験薬の効果がしばしば小さいことがあること(収縮期あるいは拡張期血圧の変化がプラセボに比べて4ないし5 mmHg程度の差しかないこともある)から、降圧効果を厳密に評価するための試験においては、プラセボを対照とした二重盲検比較試験が必須である。

以下に短期間のランダム化(無作為化)比較試験の実例を示す(別紙参照):

  1. 単一固定用量とプラセボとの比較
  2. 任意漸増(反応に基づく)とプラセボとの比較
  3. 強制漸増とプラセボとの比較
  4. 固定用量による用量反応とプラセボとの比較(ランダムに割り付けられた固定維持量に達するまで強制漸増を行ってもよい)
  5. 上記いずれかのデザインに実対照薬を加えたもの

4.2 血圧日内変動測定

近年、ABPMを用いる血圧日内変動測定は高血圧の診断・評価のみならず、用量反応試験及び対照薬との比較試験等にも用いられている。また、この方法は被験薬の薬効持続の評価、即ち、薬物血中濃度が最も高いと推定される時間帯(ピーク時)及び次回服薬直前の薬物血中濃度が最も低い時点(トラフ時)における血圧測定にも有用である。血圧日内変動測定には、自動血圧測定装置による家庭血圧測定を利用できる場合があるが、その場合には測定装置の精度検定が必要である。

ピーク時とトラフ時の血圧が著しく異なる場合には、投与回数を増やした試験において降圧効果のトラフ/ピーク比(T/P比)を評価する必要がある。T/P比については厳格な規定(例えば、プラセボの効果を差し引いたT/P比が少なくとも50%)が提案されているが、一般的にこの比は弾力的に解釈してよい。重要なことは、投与間隔の終わりの時点においても良好な降圧効果が維持されていることを確認することである。また、投与間隔を長くすることを望むあまり(例えば、短時間作用型の薬剤について1日1回投与の承認を得るために)、ピーク時において過度な血圧低下をきたすことは避けなければならない。ABPMを実施する際には、血圧の測定間隔、患者の状態等の測定法を詳しく記載し、標準化しておく必要がある。

4.3 用量反応試験

降圧薬の降圧作用及びその他の作用についての用量反応関係を、ランダム化した固定用量を用いた用量反応試験により、詳しく検討する必要がある。これらの試験においては、用量群を増やすことにより、より適切な評価が可能となる。できれば、プラセボに加え少なくとも3用量の試験が必要である。通常、これらの試験には、ランダム化した固定用量の並行群間比較が用いられるが、プラセボを対照薬とした漸増試験法が用いられることもある。この場合、適切に解析することにより、固定用量試験で用いられるべき用量の範囲を決め、また個人ごとの用量反応関係の特徴を明らかにできることがある。これらのデザインのいずれか又は両者を用いることにより、降圧効果を確認することができる。これらの用量反応試験により、用量反応曲線の重要な部分、すなわち、最小有効用量、用量反応曲線の急峻な部分、及び増量してもそれ以上の効果がないか又は増量効果が小さくなる時の用量(最大有効用量)を明らかにすることが必要である。用量反応関係に正の傾きが認められた場合には、プラセボを用いなくても有効性を証明することができると考えられるが、最小有効用量についての情報は得られない場合がある。

4.4 標準治療法との比較

新薬を現在用いられている標準的治療法と比較する試験の必要性は高い。降圧効果を評価するためには、これらの試験において分析感度を確かめるためプラセボ群を置くか、あるいは終了期にプラセボを対照としたランダム化治療中止の時期を設ける必要がある。短期間の試験においては、3群(被験薬群、実対照薬群及びプラセボ群)の比較試験は、その薬剤の有効性を示すのみならず、標準治療との比較をも可能にするので、特に有用である。降圧効果が非常に小さい場合には、これが対象集団によるものか、試験の他の特徴(被験薬と実対照薬がともにプラセボに比べて効果が少ない)によるものか、あるいは被験薬(プラセボに比して実対照薬が被験薬より効果が大きい)によるものかを検討する必要がある。

4.5 長期試験

長期試験は長期の安全性評価に必要である。その際に実対照薬を用いることにより、被験薬の長期効果の特徴をより明確にすることができる。この場合には、分析感度の確認及び治療中止の影響を評価するために、治療期の終了時にプラセボを対照としたランダム化治療中止試験を行うことが望ましい。実対照薬を用いる長期試験で分析感度を検証するためのもう一つの方法は、被験者を最初に3群(被験薬群、実対照薬群及びプラセボ群)に分け、プラセボは短期間(例えば1ヶ月)に限るという方法である。長期の非盲検試験においても、引き続きプラセボを対照としたランダム化治療中止試験を行うことにより、長期の有効性を示すことができる。

5. 安全性の評価

ICH E1においては、長期に使用される薬剤の場合には、通常約1,500例のデータベース(6ヶ月間について300例ないし600例、1年間について100例)があれば十分であるとされている。しかし、降圧薬は長期にわたり広く使用される薬剤であることから、より多くの症例の検討が望ましい。

通常の安全性の評価に加え、血圧の過度な低下(低血圧)、起立時の変化(起立性低血圧)及びリバウンド現象についての注意が必要である。薬剤の作用の特徴あるいは観察された事項にもよるが、心調律や心伝導系への作用、冠血流スチール現象、心血管系の危険因子に及ぼす影響(血糖値及び脂質レベル等)並びに心臓、腎臓等の主要臓器に及ぼす影響を検討することも重要である。

6. 他の降圧薬との併用療法

高血圧の治療にはしばしば併用療法が用いられるので、新薬の併用療法についても、その効果と安全性を調べることは重要である。併用療法についての情報は、要因試験(7.1参照)、並びに長期及び短期の臨床試験における併用使用により得ることが可能である。

ある降圧薬により血圧を適切にコントロールできない患者を対象とした試験により、当該薬剤に被験薬を上乗せした際の情報を得ることができる。また、適切な反応を得るために、被験薬に他の薬剤を上乗せする試験も有用である。

7. 配合剤

配合剤の安全性と有効性を検討するには、二つの方法がある。

7.1 要因試験(Factorial study)

要因試験は、併用によりいずれの薬剤の単独投与よりもより大きな効果が得られるということを示すために行われる。この試験においては、プラセボ、被験薬及びもう一つの薬剤の一用量又は複数用量の組合せについて短期間のランダム化比較試験を行い、降圧効果を検討する。適切な固定配合比を明らかにするための最も有用な方法は、下表に示すように、各薬剤、すなわち被験薬(T)及びもう一つの薬剤(D)のいくつかの用量、並びにそれらのいくつかの用量の組合せを用いた要因試験である。低用量同士の組合せを用いた要因試験も必要な場合がある。

プラセボ T1 T2 T3
D1 T1D1 T2D1 T3D1
D2 T1D2 T2D2 T3D2
D3 T1D3 T2D3 T3D3

(T:被験薬、D:もう一つの薬剤。数字は用量の種類を示す)

この試験デザインによって被験薬及びもう一つの薬剤の単独使用時、並びにこれら2薬剤の各用量との組合せにおける用量反応関係を示すことができ、また、一つ又は複数の配合比の情報を得ることができる。これらの試験において、すべてのグループのデータを用いることにより、反応曲面関係(response surface relationship)を示すことができる。

7.2 各薬剤に対する効果が不十分な症例を対象とした試験

配合剤の安全性と有効性は、各薬剤の単独治療では効果が不十分な症例を対象として、それらの薬剤を組み合わせた際の効果を検討することにより評価することができる。

参照

https://www.pmda.go.jp/int-activities/int-harmony/ich/0018.html

 

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