ビッグデータ

新たなデータマネジメントの在り方

CPSFにおける第3層(サイバー空間におけるつながり)

CPSF概論

サイバー空間とフィジカル空間が高度に融合した産業社会においては、製品・サービスという価値を生み出す工程(サプライチェーン)が従来の定型的・直線的なものから、多様なつながりによる非定型的なものへと変化している。このような新たな価値創造過程(バリュークリエイションプロセス)のセキュリティ上の課題とその対策を整理することによって、新たな産業社会のセキュリティを確保していく考え方をまとめたものが、サイバー・フィジカル・セキュリティ対策フレームワーク(CPSF)である。CPSF では、「バリュークリエイションプロセスのセキュリティ確保に当たっては、従来のサプライチェーンで想定されているマネジメントの信頼できる企業間のつながりによって付加価値が創造される領域を越えて、フィジカル空間の情報が IoT によってデジタル化され、データとしてサイバー空間に取り込まれ、そうしたデータがサイバー空間で自由に流通することで、多様なデータが新たなデータを生み出して付加価値を創出することや、新たに創出されたデータが IoT によってフィジカル空間にフィードバックされることで新たな製品やサービスを創出するという、新たな付加価値を創造するための一連の新たな活動を視野に入れる必要がある」とし、企業間のつながりに信頼性の基点を置く第 1 層、フィジカル空間とサイバー空間のつながりに信頼性の基点を置く第 2 層、サイバー空間におけるつながりに信頼性の基点を置く第3 層という異なる 3 つの信頼性の基点を設定し、これらの基点を中心に経済社会全体のセキュリティ上の課題の洗い出しとその対策をまとめている。

第3層の位置づけ

あらゆるモノがネットワークにつながっていくことでサイバー空間が急激に拡大し、それらの間で行き交うデジタル化されたデータが爆発的に増大している。サイバー空間の中では、データが自由に流通し、物理的な距離に縛られることなくデータを入手して編集・加工したり、これまでは処理が容易ではなかった大量のデータを様々な切り口から分析してインテリジェンスを抽出するような、新たな価値を創造する活動が加速度的に拡がっている。ネットワーク越しに提供される新たなサービスは、サーバなどの物理的な情報システムの上で展開されているが、その多くにおいてサービスを生み出す活動は物理上の特性ではなく論理によって実現され、付加価値を創造しているのは物理特性に依存しないデータである。データは基本的にシステムや組織に対して中立性を持つものであり、それが求められる規範等に則って適切に扱われることによって、自由に流通・活用される。こうした活動、サイバー空間におけるつながりが展開される場が第3層であり、ここでは、データがサイバー空間で付加価値を創出する基礎となる。

第3層におけるデータの生成・移転・加工等のライフサイクルの各工程には、第1層においてマネジメントの信頼性が確認された企業(組織)のみが関わる訳ではない。データのライフサイクルには様々な主体が関与し、関与した主体による不適切な措置によって誤ったデータが流通し活用されることになれば、そのデータが関わったバリュークリエイションもまた価値をもたらすことはなく、有害な結果をもたらすことにもつながりかねない。例えば、サイバー空間から発信されたIoTシステムへの動作指令が誤った内容であるならば、第2層における“転写”する機能の信頼性を確保することに成功していたとしても、IoTシステムはサイバー空間から届いた誤った指令を“正しく”転写して忠実に動作することで物理的な損害を発生させてしまうかもしれない。

つまり、第3層においては、データそのものが正しいことが最も重要な前提であり、付加価値の創出(バリュークリエイション)の基礎となるデータが、バリュークリエイションプロセスの信頼性を確保するための信頼性の基点でなければならない。

データの信頼性確保:データマネジメントの考え方の確立

CPSFは、サイバー空間とフィジカル空間が高度に融合した産業社会において動的に構成されるサプライチェーンをバリュークリエイションプロセスとして捉え、産業社会に対して3つの層を設定してこれに合わせて信頼性の基点を導入することで、動的かつ複雑な姿を見せるバリュークリエイションプロセスにおけるリスクを包括的に洗い出し、対応策を実施できるようにするためのフレームワークである。その中の第3層の位置づけは既に述べたとおりだが、データ自体に信頼性の基点を置いて包括的なセキュリティ対策を実施するためには、データのライフサイクル全体にわたってリスクを洗い出し、セキュリティ確保のための様々な措置を実施することが必要となる。

ここで留意すべきことは、第3層では信頼性の基点をデータに置いている一方、データのライフサイクルは第3層の中に閉じるものではないということである。

CPSFでは、「第3層においては、サイバー空間のデータおよび、その加工・分析・保管という諸機能の信頼性を確保する」ことが必要であるとするとともに、「フィジカル空間からサイバー空間に転写されたデータは第2層の転写機能の信頼性を確保することによってデータの信頼性が確保されるが、サイバー空間では様々なデータが生成・編集・加工され、自由に流通し、かつ、こうした過程はマネジメントの信頼性が確認された企業(組織)によってのみ扱われるわけではない」とし、データが生成される場所については第3層ではなく第2層に属する場合があることを明確にし、第3層と第2層とを組み合わせることでデータ生成における信頼性を確保する考え方を示している。

つまり、データの信頼性を確保するためには、CPSFの第3層の考え方を基礎とした上で、そのコンセプトの適用範囲を拡張し、データを軸として、データの生成・取得から廃棄に至るライフサイクル全体を視野に入れた対応、つまり、データマネジメントの在り方に関する枠組みを設定することが必要になる。この枠組みでは、データのライフサイクルの各工程において発生する様々な形の“関与”をデータマネジメントとして捉え、これをモデル化することでデータに関わるリスクの洗い出しと対応策の整理を行うことになる。

この考え方で整理を進めていくに当たって、以下の3つの視点を押さえておく必要がある。

①データマネジメントについて確立した定義は存在しない。

②データの信頼性の観点からデータマネジメントを捉える場合、データに関与する主体の視点からではなく、データを軸に置く必要があり、データがライフサイクルの各工程においてどのような関与を受けるかという視点で整理すべきある。

③データマネジメントをデータのライフサイクルの各工程おいて発生する様々な関与の総体を意味するものと整理した場合、関与する主体は同一・単一の主体に限られるものではないことから、データマネジメントは複数の主体による協同的活動(Collective Action)になることを排除しない。

①の視点から導かれることは、データマネジメントという言葉に対する各人の理解は現時点では一致しているわけではないということである。

本フレームワークは、他の機関等において整理された既にあるデータマネジメントの定義を持ち込むのではなく、CPSFを基礎としてデータを軸においてセキュリティ対策を検討するために必要なデータマネジメントの考え方を示すものである。ここで示すデータマネジメントの考え方を改めて共有することにより、これまで各組織や各国においてデータ管理に関する議論がなかなか噛み合わず、それぞれが整備したデータ管理に関するルール等の間の調整を図ることが難しかったところ、共通の尺度として本フレームワークを活用してデータマネジメントに関する共通の理解を得ることで、異なるデータ管理のルール等の間について、ルール間を跨いでデータが流通した場合でもデータのセキュリティが同じように確保されるために必要な調整を図ることが可能となる。

②の視点を強調しているのは、様々な団体等がこれまでに提示してきたデータマネジメントの考え方は「データという資産を組織が如何に生かすか」という視点で整理され、データのライフサイクル全般を捉えたものではないため、データの信頼性を包括的に確保するためのフレームとはなっていないことを明らかにする必要があるためである。

データの信頼性は、データが基本的に組織等からの中立性を持っていることを踏まえ、データを軸に置き、当該データの信頼性を確保するために求められる措置を整理して実施することで確保されるのであり、それに関与する主体の立場から整理された当該主体が実施すべき必要な措置は、データに対して本来求められる措置全体に対する部分的な措置でしかないことを改めて明確にする必要がある。

③の視点は、②の視点によってデータマネジメントが単一の主体によるマネジメントであるという考え方から解放されたことで、ライフサイクルの工程において関与する主体は一つのモノに限定されるのではなく、複数の主体が同時に関与し、かつ、関与する際に求められる措置も各主体によって異なることがあるということを明らかにするものである。この③の視点を導入することで、サービスを構成するシステムが複数のサービサーによって実現されるクラウドサービス(例えば、ユーザー企業A社が利用するB社のSaaSはC社のPaaSの上で展開し、C社のPaaSはD社のIaaSで展開されるようなケース)におけるデータの扱いを考える場合などにおいて各主体に求められることや、データがシステム等に対して基本的に中立性を持っていることを踏まえたゼロトラストの概念に基づくアーキテクチャを明確に整理することができることになる。

以上の3つの視点は、本フレームワークを理解するための基礎条件となるものであり、改めて、その重要性をここで強調しておきたい。

本フレームワークの目的

本フレームワークは、主体間を転々流通するデータの信頼性を確保することでバリュークリエイションプロセスが付加価値を生み出していくために、データを軸に置き、データのライフサイクルを通じて、データの置かれている状態を可視化してデータに対するリスクを洗い出し、そのセキュリティを確保するために必要な措置を適切なデータマネジメントによって実現することを可能とすることを目的としている。データのライフサイクルの各工程において直面するリスクは、単一の主体が実施可能な措置によって対応できるものに限定されるわけではないため、データのライフサイクルの工程に関与する主体がそれぞれ実施すべき措置を他の主体と協調して取り組むことによってデータのセキュリティを確保することが必要になる。なお、協調的な取組の一環として各主体においてそれぞれ行うべきとされた具体的な措置は、各主体のガバナンスのもとで適切に実施される必要がある。

したがって、本フレームワークは、単独の組織のマネジメントの在り方について整理したものではなく、データを軸においてそのリスクに対処するという観点から、データに関与する主体=ステークホルダーが協調して、組織のガバナンスを含めた必要な措置を実施することを促進する枠組みとなる。

データのセキュリティを確保するために必要な措置自体については、これまでに公表されてきた情報セキュリティに関する様々な国際標準等が「データマネジメント知識体系(DMBOK)」として既にまとめられていることから、本フレームワークを使って洗い出されたリスクに対する措置はDMBOK等の既存文書を参照して具体的な措置内容を選択することが可能である。

また、本フレームワークは、データが置かれた環境におけるリスクを明らかにしてセキュリティを確保するという役割に加え、データの流通を促進するための環境を実現するために必要な条件を明確化する役割も果たすことが可能である。

本フレームワークは、データの置かれている状態を可視化することでリスクを洗い出し、リスクに対処するために関与する主体それぞれに求められる適切な措置を明確化する(as is の対策)が、この考え方を拡張し、データを異なった環境に遷移させようとする際にデータの状態がどのような条件を満たせば異なる環境でもセキュリティが確保され、問題なく遷移させることが可能となるかを明らかにする(to be の対策)ことができる。例えば、データ交換プラットフォームとなっている異なるシステムの間で、特別な措置を必要とせずに自由にデータ交換を行うことができる環境を実現するためには、システム間の機能連携のためのAPIを設定することに加え、両システムで共有するデータ交換のためのプロトコルを整備することが必要になるが、本フレームワークを活用することで、プロトコルの設計が容易になる。

また、本フレームワークの考え方が広く共有され、一般的な活動として定着すれば、影響力に違いのあるシステム間において強い立場にあるシステムがデータ交換に必要なプロトコルをブラックボックスにすることで当該システムに他のシステムを依存させようとする(「バンドルする」)ことを難しくさせ、オープン化された環境でデータ連携やシステムの組み合わせの自由を確保し、より効率的なデータ活用モデルを実現することが可能となる。

更に視野を広げると、データ管理に関わる制度間における、データのセキュリティの確保のために要求されている条件や措置の相違(ギャップ)を明確化するためのモデルとしても活用することが可能である。

各組織が整備したデータ管理に関わる制度は、プライバシー保護や情報の機微性保持等のそれぞれの目的からデータ管理に関する条件や措置を設定しているが、制度間で自動的に調整する機能がないことから、制度ごとに条件等が異なることで事実上データが一つの制度の中に“囲い込まれる”ことになり、データの流通が妨げられていることが少なくない。国際的にも、個人情報保護を目的としながらも、同じ目的であるにも関わらず各国で制度的な条件や措置が異なり、事実上国境を跨いでデータを流通させることが困難になってしまっているようなケースが見られる。

こうした制度で要求されているデータ管理に関する条件や措置は、同じ目的であるならばデータ管理についての条件や措置も同じ内容であるべきだが、実際には、データの状態に着目するのではなく、これに関わる主体を管理することを考慮して設定されたと思われることが少なくなく、このことが制度間のギャップをもたらしている。

本フレームワークは、データを軸にして、客体であるデータの状態を可視化し、データの状態が満たすべき条件や実施されている措置を明らかにするものであり、関与する主体の在り方などを過度に考慮することなく、データに対して本来求められる条件等を歪めることなく整理することが可能であることから、本フレームワークを活用して各国の制度間に存在するギャップ分析を行い、分析結果をモデル化し、データ流通を可能とするために必要なギャップの調整措置を明らかにすることが可能となる。

本フレームワークの想定読者

上記のとおり、本フレームワークは、データのセキュリティ確保のためのデータマネジメントを可能とする機能に加え、データを流通させるための環境を実現するための、データ遷移をする地点間のギャップの的確な分析を可能とする機能を持つものであり、データを管理する現場レベルでの活用から、データ管理に関する仕組みや制度設計、更に国際的なデータ共有の仕組み作りにまで活用することができるものである。

したがって、本フレームワークは以下のような者に活用してもらうことが期待される。

  • 真正であり、適切なセキュリティを確保することが求められるデータを扱う者、特に、データを利活用して価値を創造するバリュークリエイションプロセスに参加する者
  • データ利活用に関するサービスを提供する者
  • データ利活用に関するサービスを提供するシステムの設計・構築・運用に関わる者
  • データに求められる条件として適切なトラストを保証することが必要な場合の適切な水準のトラストサービスを提供しようとする者
  • データセキュリティに関わるガイドライン等のルール設定に関わる者

参照

「データによる価値創造(Value Creation)を促進するための新たなデータマネジメントの在り方とそれを実現するためのフレームワーク(仮)」案の意見公募について

-ビッグデータ

© 2024 RWE