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自由薬価の終焉? トランプ政権が断行する薬価改革と世界が直面する創薬コスト

薬の値段って、どうやって決まるんだろう? 特にアメリカでは「自由な価格設定」なんて言われるけど、本当にそうなのかな? この記事では、そんな薬の価格設定の仕組みや、トランプ前大統領がやろうとした「薬価改革」、特に「最恵国(MFN)待遇」っていう方針が、世界の新薬開発や私たち日本の製薬業界にどんな影響を与えるのか、そして、そもそも新薬を作るのになんでそんなにお金がかかるのか、っていう話を分かりやすく掘り下げていくよ。

アメリカの薬の値段の仕組みは、実は「完全に自由!」ってわけじゃないんだ。でも、トランプ前大統領が提案したMFN政策は、アメリカの薬の値段を他の国の安い値段に合わせようっていう、かなり大胆なものだったんだ 。これが実現したら、アメリカ国内の薬代は安くなるかもしれないけど、世界中の製薬会社が新しい薬を作るためのお金が減っちゃうかもしれない、っていう大きな問題をはらんでいるんだ 。

この記事のポイントは、国内の薬代を安くしたいっていう国の思いと、アメリカの高い薬価から得られる利益に頼って進められてきた世界の新薬開発をどうやって両立させるか、っていう難しい問題。MFN政策みたいな大きな価格コントロールは、この微妙なバランスを崩しかねないんだ。特に、アメリカ市場に大きく頼っている日本の製薬会社にとっては、これからどうするべきか、大きな分かれ道になるかもしれないね。

薬の値段、新しい薬の開発、そして世界中のみんなが薬を手に入れやすくするにはどうしたらいいのか。そんな複雑に絡み合った問題を、一緒に見ていこう。

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薬の値段はどう変わる?:「自由な薬価」は終わりに向かうの?

薬の値段の決め方は、国によって全然違うんだ。その国の医療制度や経済状況、それに国民の気持ちも反映されるからね。その中で、「自由な薬価」っていう言葉をよく聞くけど、特にアメリカの市場について話すときに出てくるこの言葉、実はそんなに単純じゃないんだ。

「自由な薬価」って何? 世界ではどうなってるの?

「自由な薬価」っていうのは、ざっくり言うと、政府があまり薬の値段に直接口出ししないで、製薬会社と保険会社みたいな支払側の交渉とか、市場の競争によって値段が決まる仕組みのこと 。

例えば、デンマークでは薬の値段は規制されてなくて、保険でカバーされるのは市場で一番安い価格が基準になるんだ 。シンガポールも薬価は規制なしで、標準的な薬リストに入ってるものは補助が出る 。ドイツは、薬が市場に出てから1年間は自由な価格で、その後交渉で決まるっていう仕組み 。これらの国では、政府が直接「この薬の上限価格はいくら」って決めないことが多いし、価格の情報がオープンだったり、患者さんが自分で選んで自己負担する選択肢があったりするんだ 。

でもね、「自由市場」の代表みたいに言われるアメリカでさえ、メディケア(高齢者向け公的医療保険)やメディケイド(低所得者向け公的医療保険)みたいな公的な保険制度では、いろんな規制や薬の買い方があるから、本当に完全に自由ってわけじゃないんだ 。だから、「自由な薬価」っていうのは、他の多くの先進国みたいに、政府が直接、集中的に薬の値段を決める仕組みがないですよ、っていう意味合いが強いんだ。

この「自由市場」っていう言葉が、実際とちょっと違うっていうのは大事なポイント。アメリカでも、メディケイドでのリベート(払い戻し)制度とか、340Bプログラムっていう低所得者向けの薬の割引制度みたいに、政府が結構大規模に価格に関わっている部分もあるんだ 。それに、特許制度とか、アメリカ食品医薬品局(FDA)が薬を承認するプロセス自体も、市場への参入のハードルになって、結果的に価格に影響を与えるから、これも一種の市場介入って言えるかもしれないね 。だから、アメリカの「自由な薬価」っていうのは、もっと正確に言うと、「多くのOECD(経済協力開発機構)の国々と比べて、新しい薬が出たときの一般の人向けの薬価に対して、連邦政府が直接的に価格をコントロールすることが少ない」っていう状態のこと。このニュアンスを分かっておくことが、薬価改革の話をするときにすごく大事なんだ。

アメリカのやり方と、他の国の規制されたやり方、どう違うの?

アメリカの薬価制度は、たくさんの民間の保険会社と公的な保険プログラムがごちゃ混ぜになっていて、最近のインフレ抑制法(IRA)でちょっとだけ交渉が導入されるまで、ほとんどの薬について連邦政府が直接薬価交渉をすることを避けてきたっていう点で、ちょっと変わってるんだ 。

これに対して、ヨーロッパの国々やカナダ、日本みたいな多くの先進国では、政府の機関とか、国が医療費を支払う仕組み(単一支払者制度)が直接薬価を交渉したり、薬価を決めたりしているから、結果的にアメリカと比べて薬価が安く抑えられる傾向にあるんだ 。実際、2022年のランド研究所の報告によると、アメリカの薬価は、比較できる33カ国の平均の2.78倍も高かったんだって 。

規制が厳しい国では、医療費を抑えることが優先されることが多いけど、その結果、アメリカと比べて新しい薬が使えるようになるのが遅れたり、使える新薬の種類が少なかったりすることもあるんだ 。例えば、2011年から2018年に出た74種類のがん治療薬のうち、アメリカでは95%が使えたのに、イギリスでは74%、日本では49%しか使えなかったっていうデータもある 。

でも、デンマークやドイツみたいに、自由な価格設定とか市場の競争を重視する要素を取り入れている国の中には、革新的な薬へのアクセスが早いところもあるんだ 。これは、薬価とアクセスの問題が、必ずしも「安ければ遅い、高ければ早い」っていう単純な話じゃないかもしれないってことを示しているね。規制された制度だとアクセスが遅れがちな一方で 、デンマークみたいな市場重視のシステムは迅速なアクセスを実現している 。これは、透明性や競争がある、うまく設計された市場の仕組みがあれば、良いアクセスと両立できるかもしれないってことで、価格をコントロールすると必ずアクセスが悪くなるっていう単純な見方に疑問を投げかけているんだ。デンマークの制度は、薬価は規制されないけど、保険で支払われるのは市場で一番安い価格が基準になるから、企業間の競争が促されるんだね 。

トランプ前大統領の薬価改革:「最恵国(MFN)待遇」って何なの?

トランプ大統領の政権は、アメリカ国内の薬の値段が高すぎる問題に取り組むために、いくつか大胆な改革案を出しているね。その中でも特に注目されたのが、「最恵国(MFN)待遇」政策。これは、アメリカの薬価を決めるシステムに大きな変化をもたらす可能性があるんだ。

MFN政策のねらいと仕組み

MFN政策の一番のねらいは、アメリカの処方薬の価格を、同じような先進国で支払われている一番安い価格水準に合わせて、大幅に引き下げることだったんだ 。トランプ前大統領は、「一番安い値段を払っている国があれば、それが我々の手に入れる価格になる」って言ってたんだ 。

その仕組みは、大統領令に基づいて、保健福祉省(HHS)がMFN価格の目標を設定して、製薬会社が自分からそれに従わない場合は、HHSがMFN価格を強制するためのルール作りを提案する、っていうものだった 。これは、国際的な参照価格制度(他の国の価格を参考にする制度)の一種だね。

対象となる薬やプログラムは、主にメディケアパートB(お医者さんが投与する薬)で保険が使える薬だったけど 、もっと広く適用されるんじゃないかっていう話も出てた 。大統領令では、中間業者を通さずにMFN価格で患者さんに直接販売する仕組み(DTC販売)を進めることにも触れられていたんだ 。

この政策の根拠や正当性として、トランプ政権は、他の国が人為的に低い価格交渉をすることで「タダ乗り(フリーライド)」して、アメリカの患者さんが高い値段を払うことで、世界の医薬品開発や他の国の医療制度を実質的に助けている、って主張したんだ 。この政策は、この「ひどい不均衡」を正すことを目指していたんだね 。

もし従わなかった場合の強制措置や結果としては、ルール作りによる価格強制、薬の輸入の促進、独占禁止法の執行、輸出政策の見直し、さらには薬の承認取り消しなんかも含まれていたんだ 。

歴史的な背景としては、同じようなMFNモデルは2020年の後半にも提案されたんだけど、法的な問題に直面して、バイデン政権によって取り下げられた経緯があるんだ 。その後の大統領令は、この構想をほぼ復活させるものだったんだね 。

MFN政策は、アメリカの価格設定と世界の製薬市場との関係を根本から変えようとする、少しずつ調整するんじゃなくて、破壊的な試みだったと言えるね。その「一番安い価格に合わせる」っていう、オール・オア・ナッシングみたいなやり方は、少しずつ調整するんじゃなくて、変革を強いることを意図していたんだ 。この政策は、アメリカの新しい評価システムを提案するんじゃなくて、外部の、もしかしたら相容れないかもしれない価格決定を輸入するものだった 。他の複雑な事情は無視して、外部からの圧力で価格を引き下げることを主な目的としていたことを示唆しているね。

MFNアプローチへの賛成と反対の声

MFN政策は、その大胆さゆえに、いろんな方面から強い賛成と反対の意見が巻き起こったんだ。

賛成する人たちの意見(推進派の見方):

まず、アメリカの患者さんの薬代が安くなるっていうのが最大のポイントだった 。トランプ前大統領は、薬の値段が30%から80%も下がる可能性があるって主張してたんだ 。 次に、「世界的なタダ乗り」を終わらせるっていう点。アメリカが世界の研究開発費を不公平に負担させられているっていう不満を解消するってわけだね 。 そして、アメリカの交渉力を強くするっていうのもあった。世界最大の医薬品購入国としてのアメリカの立場を使って、もっと有利な取引を確保するってことだ 。

反対する人たちの意見(批判派の見方):

一方で、新しい薬の開発(イノベーション)に打撃を与えるっていう心配の声が大きかった。製薬会社のもうけが減ると、研究開発へのお金も減って、新しい薬の開発数が減ったり、治療法の開発が遅れたりするんじゃないかっていうんだ 。 それから、薬を手に入れにくくなる可能性も指摘された。MFN価格が厳しく適用されると、企業は安い値段の国で新しい薬を出すのを遅らせたり、やめたりするかもしれない。それはアメリカ市場も例外じゃないってわけだ 。 さらに、実務的・法的な課題もたくさんあった。この政策は簡単に回避されちゃうかもしれないし(例えば、海外でこっそりリベートを渡すとか)、過去の試みで示されたように法的なハードルも高い。それに、価値観の違う外国政府に価格決定を任せることになるっていう問題もあったんだ 。 アメリカの世界的なリーダーシップへの影響も心配された。アメリカのバイオ医薬品開発における主導的な地位を損なう可能性があるってことだね 。 製薬業界も大反対だった。アメリカ研究製薬工業協会(PhRMA)とか業界のトップたちはMFN政策に強く反対して、「アメリカの患者にとって悪い取引」で、イノベーションを邪魔するものだって主張したんだ 。

アメリカを対象としながらも、MFN政策は、製薬会社がアメリカでの価格引き下げを避けるために、参照される国(MFNの基準になる国)の市場から撤退した場合、逆にそれらの国々で価格が上がったり、薬が手に入りにくくなったりする可能性があったんだ 。これは、MFNが何の対策もなしに広く適用された場合、特に所得の低い国に損害を与える可能性があったことを意味するね。

MFN政策は、「アメリカ・ファースト」とか「巨大製薬企業との戦い」みたいな強い政治的なメッセージ性を持っていた。でも、最初の試みが失敗したり、批判する人たちが指摘する複雑さ()が示すように、実際にこれを実行するのは、経済的にも、法的にも、外交的にも、ものすごく大変なことだったんだ。理想と現実は、かなりかけ離れていたってことだね。

アメリカ国内への影響:薬市場はどう変わる?

MFN政策は、アメリカ国内の薬の値段、患者さんが薬を手に入れやすくなるかどうか、そしていろんな関係者に広い範囲で影響を与えると予想されたんだ。その影響がどれくらい広くて深いのかについては、たくさんの議論が交わされたよ。

アメリカでの薬価と患者さんのアクセスへの影響は?

MFN政策を支持する人たちは、これでアメリカの薬価が30%から80%も下がると主張したんだ 。これは主に、値段が高いブランド薬、特に医師が投与する薬(メディケアパートBでカバーされる薬)に影響すると考えられていた 。薬価が下がれば、特に自己負担額に上限がない人や、自己負担額が高い保険プランに入っている人にとっては、自己負担額(コペイやコアインシュアランスと呼ばれるもの)が軽くなる可能性があったんだ 。

一方で、批判的な立場からは、製薬会社がもうけが出る価格を確保できなければ、アメリカで新しい薬を出すのを遅らせたり、今ある薬を市場から引き揚げたりする可能性があって、それによって革新的な治療法への患者さんのアクセスが損なわれるんじゃないかっていう心配の声が上がったんだ 。

MFN政策の大統領令は主にメディケアみたいな政府のプログラムを対象としていたから、民間の保険に入っている人への直接的な影響ははっきりしなかった 。でも、波及効果とか、もっと広い範囲の法律ができたりして、こういう価格設定が広がる可能性も否定できなかったんだ。

大統領令では、PBM(医薬品給付管理者)や保険会社を通さずに、MFN価格で患者さんに直接薬を販売するDTC販売を進めることにも言及されていた 。これは、一部の薬については現金で買う市場ができて、「まず自己負担して、後で保険で払い戻してもらう」っていうシステムにつながる可能性があったんだ 。

MFN大統領令は主にメディケアパートBの薬を対象としていたけど 、その言葉遣いはしばしば、アメリカの全ての薬の価格にもっと広い影響があるんじゃないかって思わせるものだった。この曖昧さが、たとえ最初の法的な範囲が限られていたとしても、業界の中に広い範囲で不確実性と心配を生じさせたんだ。「適用範囲が広がるんじゃないか」とか、MFNを拡大する将来の法律ができるんじゃないかっていう可能性は、重大な心配事だったんだね。

アメリカの関係者(製薬業界、保険会社、患者団体)の反応は?

MFN政策に対するアメリカ国内の反応は、立場によって大きく違ったんだ。

まず、製薬業界(PhRMAや企業のCEOたち)は、強く反対した。MFNは新しい薬の開発(イノベーション)を邪魔するし、薬へのアクセスを制限することで患者さんに害を与える。それに、アメリカの薬価が高い根本的な原因(例えば、中間業者の役割とか、外国のタダ乗りとか)には対処しないって主張したんだ 。武田薬品工業は、MFNがメディケイド(低所得者向け公的医療保険)に適用された場合、10年間で業界に最大1兆ドルもの影響が出る可能性があるって試算したんだ 。

次に、支払う側(保険会社やPBM)の反応は、資料の中ではそれほど目立たなかった。でも、PBMはトランプ政権の言葉の中で、コストを吊り上げる中間業者としてよく標的にされていたんだ 。MFN政策は、DTC販売を通じてPBMを迂回したり、直接価格を設定したりすることで、PBMのビジネスモデルに影響を与える可能性があった。トランプ政権はPBMをコスト高騰を招く中間業者として批判したけど 、MFN政策は製造業者の価格に焦点を当てるから、PBMのやり方を直接改革するものじゃなかったかもしれないね。DTC提案 はPBMを迂回する一つの試みだったけど、それが本当にできるのか、PBMが主導するシステム全体への影響はどうなのかは疑問視されたんだ。

患者さんを支援する団体は、一般的に薬代を引き下げる措置を支持する傾向にある。高い薬価が患者さんに難しい選択を強いているからね 。でも、研究開発が抑えられた場合に、革新的な薬へのアクセスがどうなるかっていう心配も関係してくる。資料からは、薬代の引き下げに対する国民の幅広い支持が見て取れる(79%が「不合理だ」と感じている - )。

政策の専門家やシンクタンクの意見は分かれた。価格引き下げや「タダ乗り」への対処っていう目標を支持する声もあった(例えば、ホワイトハウスの声明 )。一方で、やり方や、イノベーションへの影響、法的に実現できるのかについて重大な懸念を示す専門家もいたんだ(例えば、American Action Forum や USC Schaeffer )。

患者さんへの影響は、良い面と悪い面の両方があった。自己負担額が下がるのは患者さんにとって明らかな利益だけど 、研究開発が縮小すれば将来の革新的な薬へのアクセスが低下するっていう、長期的なトレードオフの可能性があったんだ 。これは、患者団体や政策を作る人たちにとって、目の前の経済的な負担と将来の治療法の進歩という、難しいジレンマを生み出したんだね。

世界への影響:アメリカの政策と世界の医薬品エコシステム

アメリカの薬価政策、特にMFNみたいな大胆な提案は、国境を越えて世界の医薬品の研究開発、イノベーション、そして市場の動きに大きな影響を与えるんだ。

世界の医薬品R&D投資とイノベーションへの影響

MFN政策によってアメリカで薬価が大幅に引き下げられると、世界の製薬会社の収益が劇的に減って、研究開発(R&D)への投資が大幅に縮小するんじゃないかっていう議論が中心だった。なぜなら、アメリカ市場はR&D資金を賄うための主要な利益源だからね 。これにより、R&D支出が大幅に削減されると予測されたんだ 。

その影響を具体的に数字で示そうとする試みとして、シカゴ大学の研究では、MFNみたいな価格統制によって、2039年までに世界のR&Dが6,630億ドルから2兆ドルも減少し、結果として135から342もの新しい薬の承認が失われると推定されたんだ 。また、アメリカ議会予算局(CBO)は、インフレ抑制法(IRA)による価格設定で、今後20年間で新しい薬の数が10%減少すると推定した 。

こういう収益減と価格統制下での商業的な実行可能性の低下は、企業がR&Dの優先順位を変えて、リスクが高くてコストもかかる分野や、患者さんの数が少ない治療法の開発から手を引く可能性を示唆していたんだ 。特に、希少疾患やがん治療の研究が打撃を受ける可能性が指摘された 。

R&D資金の減少は、大手製薬企業の投資や協力に頼っている小規模なバイオテクノロジー企業や大学とのパートナーシップにも害を及ぼし、広い範囲のバイオ医薬品エコシステムに影響を与える可能性があった 。さらに、企業は、低い価格がアメリカに適用されるのを防ぐために、参照価格の低い国での新しい薬の発売を遅らせたり、見送ったりする可能性も考えられたんだ 。

R&D資金調達モデルのもろさが、この問題の核心にあるんだ。アメリカ市場へのR&D資金の過度な依存は、グローバルなイノベーションエコシステムを、アメリカの一方的な政策転換に対して脆弱にしている。MFNのような政策は、この脆弱性を露呈させ、少しずつ調整するんじゃなくて、システム全体にショックをもたらす恐れがあるんだ。

「グローバル・フリーライド」論争とイノベーションへの公正な貢献

トランプ政権とMFN政策の支持者たちは、アメリカが世界の医薬品イノベーションに不均衡に資金を提供している一方で、他の先進国は価格統制を課して、アメリカが資金提供したR&Dの恩恵を「タダ乗り(フリーライド)」していると主張したんだ 。アメリカは世界の製薬企業収益の約50%、利益の75%を占めているとされている 。

これに対する反論や複雑な側面も存在するよ。他の国々は、自国民のための価値と手頃な価格を優先する制度を構築していると主張するんだ 。単に最低価格を輸入するというMFNのアプローチは、アメリカの価格決定を、異なる医療優先順位と価値評価方法を持つ外国政府に委ねることになる 。批判的な意見としては、MFNが他国により多くの支払いを強いる可能性は低く、むしろそれらの市場からの医薬品撤退や秘密のリベートにつながり、最終的には世界のアクセスを害し、R&D貢献のバランスを再調整しないというものがあった 。

代替案としては、海外の不公正な価格政策に対処するための貿易交渉や、国の経済的支払い能力(例えば、一人当たり国民総所得GNI)を反映した価値に基づく価格設定を推進することが提案された 。

「グローバル・フリーライド」問題は複雑で、各国の医療優先順位、経済力、価値評価の違いが絡み合っているんだ。MFNが単一の最低価格を採用するというアプローチは、これらのニュアンスを無視した単純な「鈍器」であり、参照国でのアクセスを害するなど、深刻な意図しない結果をもたらす可能性があった 。

アメリカがMFNを導入し、他の大きな市場が価格をさらに抑制することで対応したり、製造業者がアメリカの価格を保護するために小規模/低価格市場から製品を引き揚げたりした場合、世界的にR&Dを阻害する価格の「底辺への競争」や、アクセスレベルが大幅に異なる医薬品市場の分裂(バルカン化)につながるリスクがあったんだ。

日本への注目:アメリカの改革と国内の課題への対応

アメリカの薬価政策の転換は、世界で3番目に大きな医薬品市場であり、多くの大手グローバル製薬企業を抱える日本にとって、特に大きな意味を持つんだ。

日本の薬価環境と最近の改革の概要

日本の薬価制度は、国民皆保険制度のもとで政府によって規制されていて、原則として2年ごとに薬価が見直されるんだ。薬価は一般的にアメリカやヨーロッパよりも低い水準にあるよ 。

歴史的に見ると、日本は「ドラッグラグ」(新しい薬が市場に出るのが遅れること)や「ドラッグロス」(新しい薬が日本で発売されないこと)といった課題に直面してきた。これは、収益性の低さや頻繁な薬価引き下げが原因とされてきたんだ 。厳しい価格統制は、歴史的に日本の製薬産業の革新能力を妨げてきた側面がある 。

最近の改革(例えば2024年)は、イノベーションを支援して、ドラッグラグ・ロス問題に対処するために薬価環境を改善することを目的としている。具体的には、価格維持プレミアム(PMP)の対象拡大、日本への早期導入を促す新しい加算制度、新薬創出加算の要件緩和なんかが含まれる 。

業界の受け止めは慎重ながらも肯定的だけど、特に中間年改定(例えば2025年の改定)や、費用抑制とイノベーションへのインセンティブとの全体的なバランスについては懸念が残っているんだ 。

日本での「ドラッグラグ」への対応とイノベーションの育成

厚生労働省(MHLW)は、より多くの革新的な治療薬を日本の患者さんに届けることを目指していて、政策改善の見返りとして、業界がドラッグラグ・ロスの削減に貢献することを期待しているんだ 。これに対して、先発医薬品メーカーがより多くの製品を日本に導入する可能性や、商社やCRO(医薬品開発業務受託機関)などが「ドラッグロス」資産を獲得しようとする動きが見られる 。

日本は、国際競争力の低下を認識して、国内の創薬能力とエコシステムの強化を目指している 。これには、大学と産業界の連携促進やバイオテクノロジーベンチャーの支援が含まれるんだ 。

アメリカのMFN政策が日本の製薬企業(武田薬品、第一三共、アステラス製薬、エーザイ)に与えるかもしれない影響

多くの日本の大手製薬企業は、収益のかなりの部分をアメリカ市場から得ていて、アメリカの価格政策の変更に対して弱い立場にあるんだ 。

例えば、武田薬品工業は総収益の約半分をアメリカ市場から得ているし 、アステラス製薬も2024年度のアメリカでの収益は全体の約45%を占めている 。第一三共にとっても北米は主要な市場の一つだ 。エーザイもアメリカでの医薬品事業の売上が大きい 。

MFNによってアメリカで薬価が引き下げられると、これらの企業の収益と利益性に直接的な打撃を与えて、研究開発予算の削減や戦略の再編成を強いる可能性があるんだ 。実際に、トランプ前政権のMFN政策提案のニュースは、日本を含むアジアの製薬企業の株価を大幅に下落させた 。アメリカでの収益性が低下すると、日本の企業がどこに研究開発投資を行い、どのプロジェクトを進めるかの決定に影響を及ぼし、グローバルな研究開発拠点やアメリカ市場への注力に影響を与える可能性があるんだ 。

日本は、国内の複雑な薬価制度を改革してイノベーションを促進しようとすると同時に、最大の輸出市場であるアメリカからの外部ショックにも非常に影響を受けやすいという二重の課題に直面している 。アメリカのMFN政策は、日本の製薬企業投資にとって安定的で魅力的な環境を創出しようとする日本の努力を著しく複雑化させるんだ。

アメリカの政策転換に対する日本政府と産業界の対応

日本の薬価問題(特に2025年の中間年改定)は、アメリカの業界団体が在米日本大使館に正式に異議を申し立てるなど、通商問題へとエスカレートしている 。これは双方向の圧力があることを示しているね。日本政府は、アメリカの潜在的な関税や価格圧力への対応の一環として、医薬品開発のためのイノベーションエコシステムの構築と医薬品輸入への依存度低減を目指す措置を推進している 。

日本の業界団体や国際的な業界団体(日本製薬工業協会、PhRMA Japan、EFPIA Japanなど)は、価格改革に関して日本政府と積極的に関与し、安定性とイノベーション支援を提唱している 。

日本の「ドラッグラグ」解決策は、逆説的な状況に直面する可能性があるんだ。日本が早期の医薬品発売を奨励する努力 は、アメリカのMFN政策が日本を参照国として利用する場合、損なわれる可能性がある。日本の薬価が(独自の費用抑制策により)低く、それがアメリカの薬価設定に使用される場合、製造業者は日本での最初の発売をさらにためらうようになり、ドラッグラグを悪化させる可能性があるんだ。

アメリカのMFN政策は、日本の研究開発の国内回帰や多角化を増幅させる可能性がある。アメリカの価格統制の可能性と継続的な国内の価格圧力に直面し、日本の製薬企業は研究開発と製造の多角化努力を加速させ、他のアジア市場への注力や、アメリカの現行の高価格構造への依存を減らすための国内能力の強化を行う可能性がある 。

新薬開発コストの高騰

新しい薬を市場に送り出すためのコストは、近年ますます高騰していて、製薬業界にとって大きな課題となっているんだ。このコスト上昇は、薬価設定やイノベーションへの投資能力に直接的な影響を与えるよ。

主な原因:臨床試験の複雑化、規制のハードル、技術の進歩

新薬開発コストを押し上げる要因はいろいろあるけど、特に臨床試験が複雑になっていること、規制の要件が厳しくなっていること、そして新しい技術の導入が大きな影響を与えているんだ。

臨床試験の複雑化: コストと複雑さは密接に関連している。特に、いろんな患者さんを対象とした被験者集め、試験期間の長期化、革新的な治療法のための複雑な試験計画、そして膨大なデータ収集がコストを押し上げている 。アダプティブデザインみたいな柔軟性のある試験は、より多くのデータ量を生み出して、専門知識も必要になるから、人件費を増加させるんだ 。試験の複雑性が増すと、試験計画の修正も増えて、そのたびに数十万ドルのコストが発生するとも言われている 。2020年以降、登録される臨床試験の数が50%も急増したことで、リソース、患者さん、試験を実施する施設をめぐる競争が激化しているんだ 。

規制のハードル: 医薬品の製造、試験、保管、流通に関する厳しい規制要件(例えばGMP基準)は、コスト増につながる 。市販承認プロセスは長期間にわたって、たくさんのリソースを必要とする 。FDAへの新薬承認申請(NDA)のユーザーフィーだけでも、2024年度には約400万ドルにもなるんだ 。いろんな患者さんへの対応や、複数の国にまたがる複雑な製品ポートフォリオの管理も、コストと複雑性を増大させる要因となる 。アメリカのインフレ抑制法(IRA)みたいな不確実な規制環境も、研究開発コストを押し上げる可能性がある 。

技術の進歩: ナノテクノロジーや自動化・モニタリングのためのITシステムといった最新技術の利用は、品質と効率を向上させる一方で、導入と維持に追加コストがかかる 。細胞治療、遺伝子治療、バイオ医薬品といった新しい治療法の開発は、従来の低分子化合物よりも本質的に複雑で高コストなんだ(低分子化合物のシェア低下と新しい治療法の台頭から示唆される )。

その他の要因: 特許コスト(取得、維持、訴訟)、原材料、原薬、光熱費、人件費 、そしてサプライチェーンや事業運営費に影響を与えるインフレや地政学的な紛争なども、コスト上昇の一因となっている 。

より複雑な病気(希少疾患、進行がんなど)の治療法を追求することは、より高度な(したがって高価な)研究方法論、革新的な試験デザイン、および高度な製造プロセスを必要とする。これにより、科学の進歩自体が開発コストを押し上げるというサイクルが生まれるんだ。

世界の医薬品R&D支出の動向とCRO/CDMOの役割

世界の医薬品の研究開発(R&D)支出は増加傾向にあって、2014年の1,440億ドルから2022年には2,510億ドルに増加し、2029年には3,500億ドルに達すると予測されている 。バイオ医薬品分野への資金流入も2年連続で増加しているんだ 。新しい薬1剤あたりの平均開発コストは、21億7000万ドルから23億ドルと推定されている 。

この中で目立っているのが、CRO(医薬品開発業務受託機関)およびCDMO(医薬品開発製造業務受託機関)への支出の急増だ。2014年から2022年にかけて、CRO/CDMOへの支出は年平均13%増加し、全体のR&D支出の伸び(年平均8%)を上回った 。CRO/CDMOへの支出額は、2014年の320億ドルから2022年には820億ドルに増加し、2029年には1,350億ドルに達すると予測されていて、この外部委託の傾向は加速すると見られている 。

治療法の面では、臨床試験における低分子化合物のシェアが低下し、細胞治療や遺伝子治療といった新しい治療法が増加している 。また、初期段階の創薬においては、新興バイオ医薬品企業(EBP)が最大のシェアを占め、新規有効成分(NAS)の発売におけるEBP由来の割合も増加している(2020~2024年のNASの59%がEBP由来)。

CRO/CDMOへの依存度向上 は、専門知識や柔軟性を提供し、R&Dの一部の側面で効率を向上させる可能性がある。しかし、外部パートナーシップの管理において新たなコストと複雑性の層を導入し、慎重に管理されなければR&D支出全体の高騰に寄与する可能性もあるんだ。

高騰するR&Dの内部コスト(科学的および規制上の複雑性による)と、価格統制(MFNなど)への外部からの圧力との間には、根本的な緊張関係が存在する。開発コストが上昇し続ける一方で、収益の可能性が抑制されれば、特定の種類のイノベーションを追求する経済的実行可能性は必然的に問われることになるだろう。

まとめ:薬価、イノベーション、そして国際協力の未来

この記事で見てきたように、アメリカの「自由な薬価」とされてきた制度は、MFN政策みたいな価格規制を強める動きによって、大きな変わり目を迎えるかもしれない。この動きは、アメリカ国内の薬代の負担を軽くするという目標を追い求める一方で、世界の医薬品の研究開発投資、新しい薬を生み出す力(イノベーション)の将来、そして日本を含む各国の製薬市場に深刻な影響を与えるんだ。

一番難しいのは、患者さんにとって手頃な価格で薬を手に入れられるようにすることと、新しい治療法を生み出すイノベーションの仕組みを持続可能にすること、この二つの大切なことの間のバランスをどう取るかだ。MFN政策みたいなやり方は、このバランスを一方に傾けようとする試みだけど、もしかしたら大きな代償を伴うかもしれない。

世界的に見ると、アメリカや他の国々で薬の価格をコントロールしようとする圧力はこれからも続くだろう。「グローバル・フリーライド(タダ乗り)」をめぐる議論も続くと予想されて、単純に他の国の価格を真似るんじゃなくて、もっと洗練された解決策が求められるだろうね。価格設定や研究開発資金の調達について、国同士の協力が強まるかもしれないし、逆に対立が激しくなるかもしれない。

製薬業界は、変わりゆく価格環境に対応するために、研究開発戦略を変えていく必要があるだろう。本当に画期的なイノベーションに集中したり、薬の価値に基づいた契約をしたり、市場を多角化したりすることが考えられるね。

MFN論争や薬価、研究開発コストをめぐる広い問題は、各国の医療政策とグローバルな製薬イノベーションシステムが、お互いに切り離せない関係にあることをはっきり示している。アメリカみたいな主要な市場が一方的に行動すると、必然的に世界中に影響が広がって、もっと協調的か、少なくとも国際的に配慮した政策決定への移行が必要になるだろう。

価格統制だけに焦点を当てるアプローチ(MFNみたいなもの)は、一時しのぎにしかならないかもしれない。もっと積極的で持続可能なアプローチは、はっきりとした価値を提供することに特化したイノベーションエコシステムを育てて、その価値を適切に認識して報いる価格設定や保険償還システムと組み合わせることだ。これは、他の国のシステムから単純に価格を輸入するよりも建設的だろう。

最終的に、持続可能なモデルを見つけるためには、政府、産業界、支払う側、患者団体を含む、いろんな立場の人たちが協力するアプローチが必要になる。透明性があって、証拠に基づいた政策決定が、イノベーションを報いながら、手頃な価格と公平なアクセスを世界的に確保するための鍵になるだろうね。

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