エビデンス全般

医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第6.0版経営管理編

目次

【はじめに】

<経営管理編が想定する読者>

経営管理編は、主に医療機関等において組織の経営方針を策定し、意思決定を担う経営層に認識していただく考え方や関連法制度等を示している。具体的には、経営層として遵守・判断すべき事項や、企画管理やシステム運営の担当部署及び担当者に対して指示、管理すべき事項とその考え方を示している。

<医療機関等における情報セキュリティ>

紙やフイルムの媒体だけでなく、電磁的記録媒体や情報通信機器、情報通信環境を用いて電子的に医療情報を取り扱う医療情報システムの利用が進んでいる中、サイバー攻撃の脅威も近年増大している。その攻撃手法は日々高度化、巧妙化しており、対策が十分に行われていなかったことで、医療機関等の経営や地域医療の安全性に直接影響が生じる事案も生じている。また、サイバー攻撃の被害が一医療機関等内で止まることなく、直接的にサイバー攻撃を受けた医療機関等を踏み台にし、他の医療機関等にも被害が拡大するなど、一医療機関等に限定されない重大な影響を及ぼす危険性も生じている。 情報セキュリティインシデントが起きた場合、医療の提供が停止し、患者の生命・身体に影響を与える可能性が生じることはもちろん、安全管理上のリスクに対する対応の是非、さらには経営責任や法的責任が問われる可能性がある。その結果、行政処分の対象となったり、民事上の賠償責任などを負ったりする可能性があるほか、医療機関等の公共社会インフラとしての役割からの謝罪を求められたり、インシデントによる被害拡大の防止を図るための初動対応やインシデントからの復旧に多大な費用の捻出を余儀なくされるなど、医療機関等の経営や運営に大きな影響を及ぼすことも想定される。 安全管理対策は、事業継続性の確保やサイバー攻撃に対する防衛力の向上にとどまるものではなく、医療情報を高度に活用して、質の高い医療の提供や個人の健康の維持増進の前提にもなる。安全管理対策の実施を「コスト」と捉えるのではなく、質の高い医療の提供に不可欠な「投資」と捉えることも重要である。 本ガイドラインの「経営管理編」では、このような医療機関等の経営管理の観点から求められる医療情報システムの安全管理についての遵守事項やその考え方を示す。 医療機関等の経営層においては、本編を閲読し、理解した上で、必要な措置を講じることが求められる。

<経営管理編の構成と概要>

本編では、医療機関等における医療情報と医療情報システムの安全管理において、医療機関等の経営層が、経営管理上、遵守すべき事項とその考え方を5章に分けて示す。各章の概要は以下のとおりである。

  1. 安全管理に関する責任・責務
    • 医療情報の取扱いや医療情報システムの安全管理に関する法令上の遵守事項や義務など
    • 通常時や非常時における安全管理上の説明責任や管理責任
    • 医療情報や医療情報システムに関して委託や第三者提供を行う場合の責任
  2. リスク評価を踏まえた管理
    • 医療情報及び医療情報システムに対するリスク評価の重要性
    • リスク評価を踏まえた経営資源
    • 資産の安全管理に関する方針の策定、安全管理対策の必要性、情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)の確立
  3. 安全管理全般(統制、設計、管理等)
    • 意思決定・経営層による統制のもと、組織的な対応・技術的な対応として必要な体制や文書を整備し、リスク評価に基づく安全管理方針に従って、適切な安全管理対策を設計し、管理することなど
    • 安全管理対策の実効性を担保するための自己点検や監査の意義や必要性 ・情報セキュリティインシデントが発生した場合の対応
  4. 安全管理に必要な対策全般
    • 技術的な安全管理対策について、情報システムの構成を踏まえた分類(クライアント側、サーバ側、インフラ、セキュリティ)と各分類で採用する安全管理措置
    • 医療情報システム・サービス事業者(以下「システム関連事業者」という。)に対して委託を行う場合の事業者の選定、委託契約や体制の管理、委託先事業者との責任分界や役割分担の明確化と協働体制の確立と管理など
  5. 医療情報システム・サービス事業者との協働
    • 医療情報システム・サービス事業者(以下「システム関連事業者」という。)に対して委託を行う場合の事業者の選定、委託契約や体制の管理、委託先事業者との責任分界や役割分担の明確化と協働体制の確立と管理など

1.安全管理に関する責任・責務

1.1 安全管理に関する法令の遵守

【遵守事項】 ① 医療情報システムの安全管理に関係する法令等を遵守すること。 ② 医療機関等で業務に従事する職員や関係するシステム関連事業者等に対して、医療情報システムに関係する法令等を遵守させること。

1.1.1 医療情報システムに対する医療機関等の責任

➢ 医療情報は患者等に関する機微な個人情報であることから、患者等との関係において、医療情報を取り扱う医療情報システムを適正に管理する責任がある。 ➢ 医療は重要な公的社会インフラであり、医療サービスの提供の継続性を確保・維持することは公的な責務と考えられるため、医療サービスの提供を支える医療情報システムを適正に管理する責任がある。

1.1.2 医療機関等における法令上の責任

➢ 医療機関等における医療情報の取扱いに関する責任には、法律の観点から見ると、行政法上・刑事上・民事上の責任などがある。 ➢ 医療機関等における医療情報システムの安全管理に関する責任は、医療機関等の運営上の責任であることから、業法責任(行政法上の責任)が中心となる。また、医療機関等で業務に従事する職員や関係するシステム関連事業者等による秘密漏洩や医療情報の漏洩等による損害賠償を防ぐ責任もある。

1.2 医療機関等における責任

➢ 医療情報システムの安全管理に関する責任には、医療機関等の業務状況を踏まえ、通常時において対応すべき責任と、非常時において対応すべき責任が想定される。 ➢ 医療機関等が直接行う業務における責任のほか、医療機関等が業務の委託を行った場合の委託先事業者による業務における責任や、医療情報を第三者に提供する際に生じる責任なども存在する。 ➢ これらの責任についての概要を以下の表1−1に示す。

表1−1 医療機関等における責任

1.2.1 通常時における責任

【遵守事項】

<説明責任>

① 医療情報システムの安全管理に関して、原則として文書化し、管理する体制を整えること。 ② 患者等への説明を適切に行うための窓口の設置等の対策を行うこと。

<管理責任>

① 医療情報システムの安全管理に関する管理責任を適切に果たすために必要な組織体制を整備すること。 ② 定期的に管理状況に関する報告を受けて状況を確認するとともに、組織内において監査を実施すること。

<定期的な見直し、必要に応じた改善を行う責任>

① 医療情報システムに関する安全管理を適切に維持するための計画を策定すること。 ② 医療情報に関する安全管理を適切に維持するために、定期的な見直しを実施し、必要に応じて、改善措置を講じるよう、企画管理者及びシステム運用担当者に指示すること。

<説明責任>

➢ 通常時における説明責任とは、医療情報システムの機能や運用について、必要に応じて患者等に説明する責任である。 ➢ 説明責任を果たすためには、医療情報システムの機能仕様や運用手順等を文書化しておく必要がある。また通常時の運用に関する仕様や手順が医療機関等の要求仕様や運用方針に則って機能しているか、定期的に監査を行い、その結果についても文書化することが求められる。 ➢ 監査の結果、問題や課題が覚知された場合は、真摯に対応し、対応の記録を文書化し、第三者が対応の妥当性等を検証することが可能な状態にする必要がある。 ➢ 医療機関等の規模に応じて、患者等への説明を行う窓口を確保することも必要となる。

<管理責任>

➢ 管理責任とは、医療情報システムの管理や運用を医療機関等が適切に行う責任であり、システムの形態や構成に関わらず、当該システムを利用する限りにおいて医療機関等で負う責任である。 ➢ 個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号。以下「個人情報保護法」という。)第23条において、「個人情報取扱事業者は、その取り扱う個人データの漏洩、滅失又は毀損の防止その他の個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければならない。」と規定されており、医療機関等はこの規定に従い、必要な措置を講ずる必要がある。 ➢ 定期的に管理状況に関する報告を受け、管理実態や責任の所在が明確になるよう、監督を実施する必要がある。

<定期的な見直し、必要に応じた改善を行う責任>

➢ 情報システムの安全管理に関する技術や手法は日進月歩であり、安全管理体制が陳腐化するおそれがあるため、安全管理の仕組みの改善を常に心がけ、評価・検討を定期的に行う責任がある。特に日々高度化、巧妙化するサイバー攻撃への対応を考えると、医療情報システムの安全管理を確保するためには、安全管理体制について随時必要な見直しが求められる。 ➢ 医療情報システムの管理に関する状況を定期的に検証し、問題や課題を洗い出し、必要な対策を講じて、管理方法や体制を改善することが求められる。 ➢ 医療機関等のみで最新の技術動向を随時把握することが難しい場合は、システム関連事業者に技術動向や管理手法等に関する情報提供を依頼する等により、安全管理の改善に必要な情報を収集することも考えられる。

1.2.2 非常時における責任

【遵守事項】

<説明責任>

① 情報セキュリティインシデントが生じた場合、その原因や対策等について患者、関係機関等に説明する体制を速やかに構築すること。

<善後策を講ずる責任>

① 情報セキュリティインシデントが生じた場合、医療機関等内、システム関連事業者及び外部関係機関と協働して、インシデントの原因を究明し、インシデントの発生や経緯等を整理すること。 ② 情報セキュリティインシデントが生じた場合、その原因を踏まえた再発防止策を講じること。 ③ ①②の対応を可能とするため、通常時から非常時を想定し、システム関連事業者や外部関係機関と協働関係を構築するとともに、再発防止策を検討できるよう、通常時から非常時を想定した体制や措置を講じておくこと。

<説明責任>

➢ 非常時における説明責任とは、医療情報システムの安全管理上望ましくない事象、例えば、情報漏洩や情報システム障害等の情報セキュリティインシデントが生じた場合に、事態の発生を公表し、その原因と影響、対応方針や対処方法等を説明する責任である。 ➢ 患者等への説明に加え、所管官庁への報告や公表なども必要である。

<善後策を講ずる責任>

➢ 情報セキュリティインシデントが生じた場合は、医療情報システムを用いた診療の継続に向けた業務復旧等を図るために、善後策を講じる必要がある。善後策を講ずる責任には、「原因を究明する責任」と「再発防止策を講ずる責任」が含まれる。 ➢ 「原因を究明する責任」とは、医療情報及び医療情報システムの管理上で生じた情報セキュリティインシデントの発生原因を明らかにする責任である。原因が不明のままであると、再発の可能性が解消されず、患者等が安心して医療情報を医療機関等に委ねたり医療サービスを受けたりすることができないため、可及的速やかに原因を究明することが求められる。 ➢ 「再発防止策を講ずる責任」とは、究明された情報セキュリティインシデントの発生原因に対して、同様の事象が再び発生しないよう必要な防止策を講じる責任である。具体的な再発防止策の検討に際しては、医療機関等のみでは容易でない場合もあるため、適宜、システム関連事業者や外部有識者などと連携して進めることが求められる。

1.3 委託における責任

1.3.1 委託(第三者委託)における責任

【遵守事項】 ① 医療情報システムの安全管理について、システム関連事業者に委託する場合は、法令等を遵守し、委託先事業者の選定や管理を適切に行うこと。 ➢ 医療情報システムの安全管理について、システム関連事業者に委託する場合は、医療機関等には委託先事業者を監督する責任がある。個人情報保護法第25条では、「個人情報取扱事業者は、個人データの取扱いの全部又は一部を委託する場合は、その取扱いを委託された個人データの安全管理が図られるよう、委託を受けた者に対する必要かつ適切な監督を行わなければならない。」と規定されており、具体的内容については、「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」の「Ⅳ 医療・介護関係事業者の義務等 7.安全管理措置、従業者の監督及び委託先の監督(法第23条~第25条)」において示されている。 ➢ 委託先事業者における医療情報システムの管理も、医療機関等の管理責任に含まれる。 ➢ 委託先事業者の過失による情報セキュリティインシデントについても医療機関等が責任を免れることはできず、医療機関等が患者等に対する責任を負うため、適切なシステム関連事業者の選定が求められる。

1.3.2 委託(第三者委託)における責任分界

【遵守事項】

① 業務等を委託する場合には、委託する業務等の内容や責任範囲、役割分担等の責任分界を明確にし、認識の齟齬等が生じないよう、書面等により可視化し、適切に契約等の取決めを実施し、保管すること。 ➢ 契約等の取決めを踏まえて業務等を委託する際には、以下の点に留意しながら、システム関連事業者と認識の齟齬等が生じないよう協議を行うことが求められる。 ・ 医療機関等が委託先事業者との間で締結する委託契約では、委託する内容や分担する役割を明確にし、その責任の所在を明確にした上で、契約書等に示す必要がある。特に複数のシステム関連事業者が関係する場合もあるため、医療機関等が負う責任をきちんと果たせるよう、医療機関等と各システム関連事業者における責任の内容を整理し、適切に管理する必要がある。 ・ 責任分界には、「法律上の責任の範囲を明確にする責任分界」「具体的な運用及び対応の範囲を明確にする責任分界」等が想定される。法律上の責任範囲を示す一般的な契約書などでは、具体的な対応の詳細まで記述することがなじまない場合があるが、情報セキュリティインシデントが生じた場合の原因究明のための具体的な運用及び対応範囲についても、法律上の責任の範囲を踏まえ、認識の齟齬等が生じないよう設定する必要がある。 そのため、契約上の責任範囲は可能な範囲で具体的に特定しつつ、具体的な運用及び対応範囲については、企画管理者やシステム運用担当者のマニュアル等に示して、システム関連事業者と共有し、明確にするなどの方法が考えられる。 ➢ 委託先事業者との責任分界については、「5.医療情報システム・サービス事業者との協働」も参照されたい。

1.4 第三者提供における責任

【遵守事項】 ① 医療情報を第三者提供する場合、法令等を遵守し、手続き等の記録等を適切に管理する体制を整備すること。 ② 医療情報を第三者提供する場合、医療機関等と第三者それぞれが負う責任の範囲をあらかじめ明確にし、認識の齟齬等が生じないよう、書面等により可視化し、適切に管理すること。 ➢ 第三者提供とは、第三者が何らかの目的で医療情報を利用するために行われるもので、医療機関等が外部の第三者に医療情報を提供する場合の対応については、個人情報保護法や「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」に示されており、医療機関等は、安全に医療情報を提供する責任を有している。 ➢ 提供された医療情報を受領した第三者は、当該情報を適切に管理する責任が生じる。なお、提供元の医療機関等においては、原則として適切な第三者提供がなされる限り、その後の当該情報の保護に関する責任は離れるが、情報を第三者に提供しても、提供元の医療機関等の側で当該情報を完全に削除しない限り、当該情報はなお当該医療機関等の下に存在するため、その場合は当該情報に対する適切な管理責任が残ることになる。 ➢ 第三者提供において、提供元の医療機関等と提供先の第三者との間で、医療機関等側から医療情報を送信し、第三者側で受信するまでの医療情報の取扱いに関して、責任の範囲を明確にすることが求められる。具体的な責任の範囲については、例えば医療情報連携ネットワークへの情報提供や患者等の指示による提供など実際に第三者提供を行う業務やその目的により異なるため、事象に応じて整理を行う必要がある。

2.リスク評価を踏まえた管理

2.1 医療情報システムにおけるリスク評価の実施

【遵守事項】 ① 取り扱う医療情報に応じたリスク分析・評価を踏まえ、対応方針を策定し、リスク管理方針(リスクの回避・低減・移転・受容)を決定すること。 ② リスク分析を踏まえたリスク管理が必要な場面の整理や、対策として求められる体制やルール等の企画や整備、管理について、企画管理者に指示すること。 ③ 経営層の方針やリスク分析を踏まえ、具体的にシステム面からの最適なリスク管理措置を検討し、実装、運用するよう、企画管理者に指示すること。 ➢ 医療情報システムは機微性の高い個人情報を取り扱い、かつ、効率的かつ正確に医療を提供するためにも有用であるので、リスクを回避・低減するためには高度な水準の安全管理対策が求められる。 ➢ リスク分析・評価は、医療機関等が医療情報システムを利用する上でのリスク管理の方針を決める基礎となるほか、医療機関等の特性や事情を加味して、実施可能な対策を選定するための資料にもなる。 ➢ 医療機関等が医療情報システムに関する各リスクに対してどのようなリスク管理方針(リスクの回避・低減・移転・受容)を決定し、対策を講じるのかの判断を行う際には、 ・医療機関等に求められる医療の提供の維持・継続等するために、どの程度の経営資源を投入し、どのような対策を講じるか、 ・各リスクに対して、選定したリスク管理方針に基づき、残存するリスクにどのような対策を講じるか(例えば、稼働率を100%に限りなく近づけることが厳しい医療情報システムの場合には、一部紙媒体等での代替方策で診療等を継続できるようにする等) を判断することが求められる。 ➢ リスク管理方針を検討するに際、情報セキュリティの3要素である「機密性(Confidentiality)」、「完全性(Integrity)」、「可用性(Availability)」のバランスを考慮することも重要である。 ➢ 企画管理者は、リスク分析を踏まえてリスク管理が必要な場面の整理や、対策を進める体制やルール等の整備、管理を実施する。 ➢ システム運用担当者は、企画管理者のもと、リスク管理方針やリスク評価を踏まえ、具体的なシステム面からの最適なリスク管理措置を検討、実装、運用する。

2.2 リスク評価を踏まえた判断

2.2.1 リスク評価を踏まえたリスク管理

【遵守事項】 ① リスク評価を踏まえ、医療情報の重要性や医療の継続性、経営資源の投入やリスク管理対策の実施の継続可能性等を鑑みて、リスク管理方針を決定すること。 ② リスク評価結果、リスク管理方針に関する説明責任を果たすこと。 ➢ リスク管理方針は、情報・データや情報システム等の情報資産に対するリスク評価の結果を踏まえ判断される。一般的には、リスク管理方針には、リスクの回避(リスク発生の根源となる事業や行為を取りやめる)、低減(リスクを低減するための対策を講じる)、移転(発生したリスクを、保険等により移転する)、受容(リスクが実際に生じることを想定した上での対応を検討する)が挙げられる。 ➢ 医療機関等は公的社会インフラであり、患者のために医療サービスの提供の継続性を確保・維持する必要があることを踏まえると、医療機関等において選択される主なリスク管理方針は「リスクの低減」と考えられ、継続的に、リスク評価、当該評価を踏まえたリスク管理方針の決定、当該方針に基づくリスク管理を実施する必要がある。 ➢ リスク管理方針を策定する際、医療機関等の経営の視点、人事管理の視点等を入れなければ、医療機関等の運営継続そのものに支障をきたすことになりかねないため、注意が必要である。 ➢ リスク評価とリスク管理方針の策定は、医療機関等における情報セキュリティ対策に関する説明責任を果たすことにもつながる。

2.2.2 情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS:Information Security Management System)の実践

【遵守事項】 ① リスク管理方針を踏まえ、医療情報及び医療情報システムといった医療機関等における情報資産のセキュリティに関する管理を、通常業務の一環として整え、ISMSを策定し、実施すること。 ➢ 医療機関等におけるPDCA(Plan-Do-Check-Act)サイクルの実施については、「良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法の一部を改正する法律の一部の施行について」(平成19年3月30日付け医政発第0330010号厚生労働省医政局長通知)において、医療の安全管理としてその重要性が示されている。情報セキュリティに関しても、医療の安全管理と同様の考えのもと、リスク管理方針を踏まえ、ISMSを策定してPDCAサイクルを実施することが有効であると考えられる。

2.2.3 リスク分析を踏まえた要求仕様適合性の管理

【遵守事項】 ① 医療機関等のリスク管理方針に基づき、システム関連事業者が適切にリスク管理を実施し、医療機関等の要求仕様への適合性を確認し、管理すること。 ➢ リスク管理の実効性を維持・向上するために、リスク分析を踏まえた医療機関等の要求仕様に対する適合性の確認を行う必要がある。この確認において、医療機関等とシステム関連事業者との間で、医療情報及び医療情報システムに対するリスク管理への共通理解や共通認識を得る必要がある。 ➢ リスク管理対策の詳細は企画管理者やシステムシステム運用担当者が実施するが、経営層は医療機関等とシステム関連事業者との間でのリスク分析を踏まえたリスク管理や要求仕様適合性の確認が適切に実施されているかどうかを把握しておく必要がある。

3.安全管理全般(統制、設計、管理等)

3.1 統制

3.1.1 情報セキュリティ対策のための統制

【遵守事項】

① 統制の体系を理解し、医療機関等における情報セキュリティ対策に関する統制の実効性を確保するために必要な規程類、管理体制等を整備するとともに、適切に統制が機能されているかを確認すること。 ➢ 医療情報システムの情報セキュリティ対策は、医療機関等における医療情報の適正な取扱いの確保や保護を図る観点から、医療機関等における重要な経営課題の一つである。情報セキュリティを十分に確保するためには、具体的な情報セキュリティ対策の検討に加え、医療機関等においてどのような情報セキュリティ対策を講じていくのかを示した計画の策定、当該計画の内容を実現するために必要な規程類の整備、当該計画の内容の実施や進捗管理を行うために必要な組織体制の整備等による内部統制が適切に行われている必要がある。 ➢ 上記計画の策定に当たっては、その具体化のための予算計画と併せて策定することが求められる。 ➢ また、情報セキュリティ対策に関わる各組織(医療従事者等含む。)が適切に協働できるようにするために、具体的な業務内容や各業務を行う者の権限等を適切な粒度で明確化した規程類の整備が求められる。 ➢ 加えて、策定した計画を実現するために必要な組織統制が発揮されるよう、情報セキュリティに関する最高責任者や通常時・非常時の運用、対応する組織の構成、役割、職務権限等を明確にすることで、的確で迅速な情報セキュリティ対策の実現が期待される。 ➢ 医療情報システムの運営や利用に際しては、様々なシステム関連事業者も関与することから、医療情報システムの情報セキュリティ対策に関する統制の実効性の確保には、システム関連事業者との適切な協働体制等の整備が必要となる。(「5.医療情報システム・サービス事業者との協働」に、事業者の選定、管理、ならびに、事業者との間での責任分界管理に関する考え方を示す。) ➢ 情報セキュリティ対策に関する統制が適切に機能していることを確認することは、リスク管理方針や情報セキュリティ対策の見直しの観点からも重要である。そのため、情報セキュリティ対策に関する業務や措置の実行記録や行動証跡類を確保することも求められる。

3.1.2 医療情報システムにおける統制上の留意点

【遵守事項】

① 医療機関等の規模や組織構成、特性等を踏まえた統制の内容を検討すること。 ② 医療機関等において安全管理を直接実行する企画管理者を設置すること。 ③ 情報セキュリティ対策に関する統制は、医療機関等内の組織や人事等の統制とは区別し、医療機関等全体における統制の一つと位置付けて、組織横断的に実施すること。 ④ 情報セキュリティ対策に関する統制の対象には、医療機関等に直接雇用されている職員だけでなく、システム関連事業者の担当者や派遣社員など、医療機関等が直接雇用していない者も含むこと。 ➢ 医療情報を取り扱う医療情報システムの情報セキュリティを確保するためには、組織全体として適切な統制がなされていることが重要であり、統制の実効性確保に当たっては、医療機関等の規模や組織構成、特性等に応じて留意すべき点が存在する。例えば、小規模の医療機関等や「個人経営」の医療機関等では、担当する業務ごとに区分された組織(部署)がなく、組織運営のための計画等がない場合がある。このような場合、情報セキュリティ対策に係る詳細な計画や規程類を策定したとしても、実効性が伴わず、単に医療機関等の負担が増大してしまうことにつながるため、こうした規程類の策定に当たっては、医療機関等の組織や規模等に鑑みてリスク評価を行い、そのうえで必要な内容を定めることが必要である。 また、実際の統制が患者等に対する説明や情報セキュリティインシデントが生じた場合の関係者への適切な報告として必要十分な内容となっているか、システム関連事業者に対する適切な管理を行うために必要十分な資料等が確保されているか、といった観点など、医療機関等において情報セキュリティ対策に関する説明責任や管理責任を果たしながら業務を運用できているかどうかも念頭に置きながら、医療機関等の規模や組織構成、特性等を踏まえた上で実効性のある統制の内容を考える必要がある。 ➢ 医療機関等において、情報セキュリティ対策に関する統制の実効性を確保するために、安全管理を直接実行する企画管理者を設置する必要があり、必要に応じて、企画管理者が行う管理を支援するための医療情報システム管理委員会等の組織を設置することも有用である。なお、医療機関等の規模、組織等を勘案して、経営層が企画管理者等の職務を兼務することは妨げられない。 ➢ 医療機関等の組織構成によっては、例えば人事権が各部局に帰属し、各部局でそれぞれ情報セキュリティ対策に係る組織編成を行っているような組織構成となっている場合があるが、情報セキュリティ対策に関する統制は組織全体の問題であり、組織横断的に実現されることが求められるため、情報セキュリティ対策に係る組織編成においては、人事権の帰属先を越えて、組織横断的な実働ができているかどうかに留意が必要である。 ➢ 情報セキュリティ対策に関する統制は、医療機関等に直接雇用されている職員だけではなく、医療情報システムに関係するシステム関連事業者の担当者や派遣社員など、医療機関等が直接雇用していない者も対象に含み、行われる必要がある。

3.2 設計

3.2.1 情報セキュリティ方針を踏まえた情報セキュリティ対策の整備

【遵守事項】

① リスク評価やリスク管理方針を踏まえて、情報セキュリティ方針を整備すること。 ② 情報セキュリティ方針に基づき、自医療機関等の実態を踏まえて、実施可能な内容で、実効性のある、適切な情報セキュリティ対策を整備するよう、企画管理者に指示し、管理すること。 ➢ 情報セキュリティ方針は、リスク評価及びリスク管理方針に基づいて策定されるものであり、情報セキュリティ方針に基づき、医療機関等は医療情報システムに対する情報セキュリティ対策を実装する。 ➢ 具体的な情報セキュリティ対策の検討や設計等は、企画管理者やシステム運用担当者が実施するが、経営層においても、情報セキュリティ対策の整備に関する理解は必要である。 ➢ 具体的な情報セキュリティ対策の整備に当たっては、自医療機関等の実態を踏まえて、実際に運用可能な内容を整備することが求められる。例えば、他の医療機関等で策定された運用管理規程やアクセス管理規程等をそのまま自医療機関等の規程等に転用したとしても、実態と合致していない場合、情報セキュリティ対策の運用ルールが適切に示されていないことになり、却って情報セキュリティリスクが増大する危険性が生じる。また、極端に厳格な内容の規程類を整備しても、実際の運用が困難である場合には、実質的には死文化してしまうこととなり、有効な対策とはならない可能性がある。 ➢ 規程類の整備に際しては、参考資料を利用する場合でも、実態との整合性を図ることが求められ、実際に運用可能なものであって、適切な内容が記載されたものを整備する必要がある。

3.2.2 情報セキュリティ対策を踏まえた訓練・教育

【遵守事項】 ① 整備した規程類を適切に利用し、情報セキュリティ方針を遵守した対策が実施できるよう、通常時から情報セキュリティ対策に関する統制対象者すべてに対して定期的な教育・訓練を実施すること。 ➢ 規程類が適切に整備され、また、必要な情報セキュリティ対策が医療情報システム上で実装されているとしても、その内容が医療情報システムの利用者をはじめ、関係者に認知されておらず、適切な対策が実行されていなければ、当該規定類が遵守されていないことと同義であり、情報セキュリティ対策の水準向上を望むことはできない。また災害やサイバー攻撃、システム障害に起因する非常時の対策についても、実際の状況下で適切に実行できない可能性が高い。 ➢ このため、整備した規程類や情報セキュリティ対策については、関係者が認知し、その上で遵守することができるよう、通常時から定期的に教育・訓練することが重要である。この教育・訓練については、医療情報システムに関係する者全員に対して行うことが重要である。 ➢ 教育・訓練は、過度の負担にならない範囲で定期的に実施することが求められ、医療情報システムを取り巻く情報セキュリティに関する脅威が日々変化していることも踏まえると、その対策も随時更新されるものであるため、更新内容に応じた教育・訓練の実施が重要である。

3.3 安全管理対策の管理

3.3.1 安全管理状況の自己点検

【遵守事項】 ① 医療機関等において医療情報システムに関する安全管理対策が適切に実施されていることを確認するため、企画管理者やシステム運用担当者に定期的に自己点検を行うよう指示し、その結果報告を受け、必要に応じて改善に向けた対応を指示すること。 ➢ 情報セキュリティ対策の実効性を担保するためには、医療情報システムに関する安全管理対策が適切に実施されていることを確認し、その結果を把握・分析する必要がある、具体的には、規程類に基づく医療機関等内の運用状況のほか、規程類を踏まえた医療情報システム・サービスの機能の実装状況、運用状況、利用者における遵守状況等を内部で点検することが必要である。 ➢ 当該点検は、医療機関等の各システム運用担当者が自ら行うことが想定される(「自己点検」)。自己点検により、医療機関等における医療従事者や職員等が自らの役割に応じて実施すべき対策事項を実際に実施しているか否かを確認することができ、日常業務における個々の情報セキュリティ対策の妥当性を確認することができるため、組織全体の情報セキュリティ対策の水準の確認に資することも期待される。 ➢ 経営層においては、企画管理者やシステム運用担当者に定期的に自己点検を実施するよう指示し、その点検結果を把握した上で、必要に応じて、改善に向けた対応を指示することが重要である。

3.3.2 情報セキュリティ監査

【遵守事項】 ① 医療機関等内で、企画管理者やシステム運用担当者から独立した組織による内部監査、または医療機関等とは異なる機関による外部監査を実施し、管理責任を果たすこと。 ② 内部監査や外部監査の結果を踏まえ、必要に応じて、安全管理措置の改善に向けた対応を企画管理者やシステム運用担当者に指示するとともに、その対応結果をフォローすること。 ➢ 医療機関等における主な説明責任の1つとして、医療情報システムの運用等が適切に行われていることを患者等に説明できるようにすることがあげられる。この説明責任を果たすために、医療情報システムの仕様や運用方法を明確に文書化し、情報セキュリティ方針に基づき、機能・運用しているかどうかを定期的に監査し、その結果を文書で整理することが必要である。 ➢ 監査は、結果の信頼性という観点から、例えば、企画管理者や医療情報システムの運用担当者から独立した組織による内部監査や、外部機関による監査など、独立性を有する者により実施される必要がある。 ➢ 監査の結果で課題や問題点が明らかになった場合は、経営層や情報セキュリティに関する最高責任者においては、安全管理措置の改善に向けた対応を企画管理者やシステム運用担当者に指示し、必要な対応を講じさせるとともに、その対応結果を適切にフォローすることが重要である。

3.4 情報セキュリティインシデントへの対策と対応

3.4.1 事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)の整備と訓練

【遵守事項】 ① 情報セキュリティインシデントの発生に備え、非常時における業務継続の可否の判断基準や継続する業務内容の選定等に係る意思決定プロセスを検討し、BCP等を整備すること。 ② 情報セキュリティインシデントにより、医療機関等内の医療情報システムの全部又は一部に影響が生じる場合に備え、医療情報システムの適切な復旧手順を検討するよう、企画管理者やシステム運用担当者に指示するとともに、当該復旧手順について随時自己点検を行うよう指示した上で、その結果報告を受け、必要に応じて、改善に向けた対応を指示すること。 ③ 通常時に整備していたBCPが、非常時において迅速かつ的確に実施できるよう、通常時から定期的に訓練・演習を実施し、その結果を踏まえ、必要に応じて改善に向けた対応を企画管理者やシステム運用担当者に指示すること。 ➢ 情報セキュリティインシデントが発生し、医療情報システムの稼働(可用性)が損なわれるような非常時に備えて、通常時から、非常時における医療情報システムの運用に関する対応を整理し、業務継続の可否の判断基準や継続する業務内容の選定等に係る意思決定プロセスを検討した上で、BCP等を整備することが求められる。また、上記の非常時に至る主な原因としては、災害、サイバー攻撃、システム障害等が想定されるが、これらの原因の違いに応じて、適切な対応をとることが求められる。 ➢ 医療情報システムの情報システム面において、非常時の対応として重要なことは、稼働が損なわれた情報システムを非常時発生前の状態に適切に復旧できることである。そのためには情報システムやデータ等のバックアップを適切に確保・保管することが重要である。 ➢ また、非常時において、医療情報システムの利用が困難な場合の対応や復旧に至るまでの対応についても、通常時から明らかにしておく必要がある。例えば、電子カルテシステムが止まっている間、紙運用で診療業務を継続するのか等、経営層はその対応内容について、BCPに応じて判断しなければならない。 ➢ 情報セキュリティインシデントにより、医療機関等内の医療情報システムの全部又は一部に影響が生じる場合に備え、医療情報システムの適切な復旧手順を検討するよう、企画管理者やシステム運用担当者に指示するとともに、当該復旧手順について、情報システムの更新・改変時等、随時自己点検を行うよう指示した上で、その結果報告を受け、必要に応じて、改善に向けた対応を指示する必要がある。 ➢ 通常時に整備していたBCPが非常時において迅速かつ的確に実施できるよう、経営層においては、通常時から定期的に訓練・演習を実施し、その結果を踏まえ、必要に応じて改善に向けた対応を企画管理者やシステム運用担当者に指示する必要がある。 ➢ なお、医療機関等が管理する医療情報の取扱いに関して、情報セキュリティインシデントが生じた場合の対応も考慮する必要がある。例えば、情報セキュリティインシデントには情報漏洩なども含まれており、これらは直ちに医療情報システムの稼働自体に影響を及ぼすものではないが、患者情報は大変機微な情報であり、患者の生命、身体に大きな影響を及ぼす危険性があるほか、医療機関等の経営にも大きな影響を及ぼす可能性があるため、情報漏洩等が起こった場合の対応についても、あらかじめ整理しておく必要がある。

3.4.2 情報共有・支援、情報収集

【遵守事項】 ① 情報セキュリティインシデントの発生に備え、システム関連事業者や外部有識者と非常時を想定した情報共有や支援に関する取決めや体制を整備するよう、企画管理者に指示すること。 ② 情報セキュリティインシデントの未然防止策として、通常時から医療情報システムに関係する脆弱性対策やEOS(End of Sale, Support, Service:販売終了、サポート終了、サービス終了)等に関する情報を収集し、速やかに対策を講じることができる体制を整えるよう、企画管理者やシステム運用担当者に指示すること。 ➢ 情報セキュリティインシデントの発生に備え、システム関連事業者や外部有識者と非常時を想定した情報共有や支援に関する取決めや体制を整備するよう、企画管理者に指示することが重要である。特にサイバー攻撃の場合、初動の対応が重要であるとされることから、速やかに情報共有等が行えるよう、緊急連絡網(システム関連事業者、情報セキュリティ事業者や外部有識者等の連絡先)、医療機関等外を含む情報開示の通知先一覧を整備し、医療機関等において対応に従事するシステム運用担当者に共有しておくことは有用である。また、システム関連事業者とは、このような対応も見据えた取決めを事前に交わすことが重要である。 ➢ 情報セキュリティインシデントの未然防止策として、通常時から情報機器等を含めた医療情報システムに関係する脆弱性対策や重要なアップデート(更新)、ならびに、EOS(End of Sale, Support, Service:販売終了、サポート終了、サービス終了)等に関する情報を収集し、速やかに対策を講じることができる体制を整えるよう、企画管理者やシステム運用担当者に指示することは重要である。

3.4.3 情報セキュリティインシデントへの対応体制

【遵守事項】

① 情報セキュリティインシデントの発生に備え、厚生労働省や都道府県警察の担当部署や所管官庁等に速やかに報告するために必要な手順や方法、体制などを整備するよう、企画管理者に指示すること。 ② 情報セキュリティインシデントが発生した場合に、厚生労働省等への報告のほかに、患者等に対する公表・広報を適切に行える体制を、通常時から整備すること。

➢ 情報セキュリティインシデントが発生した場合、医療機関等内の対応として、速やかに情報セキュリティの最高責任者への報告と関係者への連絡を行い、被害発生の事象特定、拡大防止等に努める必要がある。 ➢ 具体的には、情報セキュリティインシデントの発生に対して、影響範囲や損害の特定、被害拡大防止を図るための初動対応、原因の究明、再発防止策の検討を速やかに実施するためのCSIRT(Computer Security Incident Response Team(緊急対応体制))等を整備することが望ましい。特に一定規模以上の病院や、地域で重要な機能を果たしている医療機関等においては、地域医療に与える影響の大きさを鑑みると、CSIRTの整備が強く求められる。 ➢ 情報セキュリティインシデントが発生した場合には、法令等に基づく報告に加え、必要に応じて、所管官庁等の関係者に対して報告することも重要である。特に、サイバー攻撃を受けたまたはその疑いがある場合には、早急にその状況を所管官庁等に報告し、共有することにより、被害の拡大を防ぎ、復旧のための対策を講ずることが可能となるためである。 ➢ 不正ソフトウェアの混入などによるサイバー攻撃を受けた(疑い含む)場合や、サイバー攻撃により障害が発生し、個人情報の漏洩や医療提供体制に支障が生じる又はそのおそれがある事案であると判断された場合には、「医療機関等におけるサイバーセキュリティ対策の強化について」(平成30年10月29日付け医政総発1029第1号・医政地発1029第3号・医政研発1029第1号厚生労働省医政局関係課長連名通知)に基づき、所管官庁への連絡等、必要な対応を行うこととなっている。 ➢ また、患者の個人情報を含む医療情報の漏洩等が生じた場合には、個人情報保護法に基づく報告等が必要である(同法第26条、同法施行規則第8条)。

4.安全管理に必要な対策全般

4.1 必要な対策項目の概要

【遵守事項】

① 医療情報システムの安全管理に必要な対策項目(下表参照。)の概要を認識した上で、企画管理者やシステム運用担当者に対して、それぞれの対策項目に係る具体的な方法について整理する旨を指示し、それぞれの対策事項が対応できている旨を確認すること。 ② 対応ができてない対策項目がある場合、その理由を確認し、対応の要否を判断の上、必要に応じて対応を指示すること。

➢ 医療情報システムが情報セキュリティ上安全な状態を維持するために、企画管理者やシステム運用担当者が実施する具体的な技術的安全管理対策の項目を下表に示す。 ➢ 安全管理対策には運用管理に関する対策と技術的な対策の両方があるが、安全管理対策は運用的対策と技術的対策の両面でなされて初めて有効なものとなる。技術的対策には複数の選択肢があることが多いため、採用した技術的対策に相応した運用的な対策を実施していただきたい。

表4−1 技術的な対策(参照:システム運用編 6.安全管理を実現するための技術的対策の体系)

4.2 必要な措置

【遵守事項】 ① 医療情報システムの安全管理対策項目の特徴を認識し、企画管理者やシステム運用担当者に、必要に応じて、対策項目に掲げられる措置をするよう指示すること。 ➢ 対策項目の分類として、予防的措置と発見的措置が挙げられる。予防的措置は、想定されたリスクが実際に生じないようにするための措置であり、例えば許諾された者以外に患者の医療情報を閲覧できないようにするためのデータに対するアクセスコントロールなどが挙げられる。発見的措置は、仮にリスクとして想定する事象が発生しても、速やかに事象の発生を検知することで、具体的なリスクの発生を防止したり、被害拡大を防止したりするための措置であり、例えば医療情報に対するアクセス状況をシステム操作ログ等を用いて監査し、不審なアクセスがないかどうかを確認の上、必要に応じて措置を講じることなどが挙げられる。 ➢ 対策項目としては、可能な限り予防的措置を講じることが望ましい。リスクの発生を未然に防止することが妥当であるし、また費用や労力の点からも、発見的措置に比べて負担が大きくならない場合が多いことが想定されるためである。 ➢ 多様化・巧妙化が進む昨今のサイバー攻撃に対しては、必ずしも予防的措置だけでは十分な対応が難しいため、速やかに攻撃、あるいは攻撃された痕跡を検知するなどの発見的措置も、適宜組み合わせることが求められる。

5.医療情報システム・サービス事業者との協働

5.1 事業者選定

【遵守事項】

① 委託する事業者を選定する場合には、本ガイドライン及び法令等が求める要件を満たすシステム関連事業者を選定するよう指示すること。 ② 委託する事業者を選定する場合には、JIS Q 15001、JIS Q 27001又はこれと同等の規格の認証を受けているシステム関連事業者を選定するよう指示すること。

5.1.1 事業者選定

➢ 医療機関等が外部委託により提供される情報システム・サービスを活用して、医療情報システムの安全管理を行うためには、実際に活用する情報システム・サービスが適切なものであることが重要である。情報システム・サービスの選定に際しては、それらの機能や仕様等が、医療機関等が要求・想定する内容と合致することが必要であるが、併せてそれらの情報セキュリティの観点からも十分な対策が講じられていることが求められる。 ➢ 情報セキュリティ対策に関する機能や仕様等については、システム関連事業者からの情報提供などにより、その安全性を確認する必要もあるが、併せてシステム関連事業者自体の評価を行うことも重要である。情報セキュリティ対策は情報システム・サービスにおける情報セキュリティ機能等だけではなく、システム関連事業者の組織としての情報セキュリティマネジメントが適切に講じられている必要もあるためである。 ➢ 個人情報保護法では委託先の監督が、個人情報取扱事業者の義務とされているが(同法第25条)、同法ガイドラインにおいては、適切な委託先の選定を行うことがその義務に含まれているとされており、安全管理措置が適切に行われている委託先を選定することとされている(「個人情報保護法ガイドライン 通則編」P53)。また、医療情報を医療機関等の外部に委託して保存する場合には、「診療録等の保存を行う場所について」(平成14年3月29日付け医政発第0329003号・保発第0329001号厚生労働省医政局長、保険局長連名通知。平成25年3月25日最終改正。)により、本ガイドライン及び「医療情報を取り扱う情報システム・サービスの提供事業者における安全管理ガイドライン(総務省・経済産業省)」を遵守しているシステム関連事業者であることが必要とされている。

5.1.2 事業者選定の基準

➢ 外部委託においては、医療情報の取扱いに関する内容が含まれることから、委託先事業者においても、個人情報保護等に関する対応の安全性が確保されていることが求められる。 ➢ 個人情報保護に関しては「JIS Q 15001 個人情報保護マネジメントシステム」(Pマーク制度と呼ばれる)があり、情報の安全管理に関しては「JIS Q 27001 情報セキュリティマネジメントシステム」(ISMSと呼ばれる)などの規格の認証により、システム関連事業者における情報管理等の安全性を確認することができる。 ➢ 医療情報の取扱いに関する委託先事業者を選定する際には、これらの認証を取得しているシステム関連事業者から選定することが求められる。委託する内容に応じて、適宜、第三者認証などを活用して、システム関連事業者に対する信頼性を確認した上で選定することも望ましい。

5.2 事業者管理

5.2.1 契約管理

【遵守事項】 ① 委託契約において、委託業務の内容やシステム関連事業者の体制、システム関連事業者との責任分界、システム関連事業者における情報の取扱い等、医療機関等が負う医療情報システムの管理に関して、協働する上で認識の齟齬等が生じないように、適切な契約の締結や管理を行うよう企画管理者に指示すること。 ➢ 外部委託先事業者との契約においては、委託業務の内容や委託先事業者の体制、委託先事業者との責任分界などについて示すほか、委託先事業者における医療情報の取扱いの状況を把握できることが重要である。委託先事業者の個人情報の取扱いに関する遵守義務や、委託先事業者の業務に従事する者に対する教育等の実施状況などを確認し、管理しておくことが必要である。

5.2.2 体制管理

【遵守事項】

① 委託するシステム関連事業者に対して、業務実行体制を明確にし、医療情報の取扱い及び医療情報システムの管理に関して再委託を行う場合には、事前に医療機関等に情報を提供し、協議・合意形成を経た上で承認を得ること等を契約の内容に含めるよう、企画管理者に指示すること。

➢ 外部委託先事業者における医療情報の取扱いに関しては、再委託先などの体制の監督も重要である。医療機関等が委託先の選定をしても、委託先が再委託しており、その再委託先における医療情報の取扱いに関する安全性が確保されていない場合には、意図しないリスクが生じることになる。特に海外のシステム関連事業者を再委託先とする場合には、個人情報保護法が求める要件を具備しない場合などもあることから、十分留意する必要がある。 ➢ 委託先事業者に対して、再委託等を行う場合には、事前に医療機関等に情報を提供し、協議・合意形成を経た上で承認を得ることが求められる。

5.3 責任分界管理

【遵守事項】

① システム関連事業者に委託を行う際の責任分界の管理に関する重要性を認識し、医療機関と委託先事業者との間での責任分界を明確にし、認識の齟齬等が生じないよう、書面等により可視化し、適切に管理することを、企画管理者やシステム運用担当者に指示すること。

➢ 委託先事業者との責任分界については、委託先事業者と委託する業務内容に応じて、具体的なセキュリティに関する責任の範囲も明確にする必要がある。責任の範囲が明確でない場合には、医療機関等が講じるべき情報セキュリティ対策のうち、一部が抜け落ちてしまう可能性などがある。特にサイバー攻撃などの非常時に、原因の究明は医療機関等と委託先事業者との間で協力して進めることが不可欠であるが、その前提としても責任の範囲を明らかにしておく必要がある。 ➢ クラウドサービスなどを用いる場合、サービスを提供する委託先事業者とクラウドサービス事業者等の間における責任関係が複雑になることが想定される。医療機関等においては、ネットワークサービスのほか、各種クラウドサービスを利用することにより、医療情報システムに支障が生じた場合には、どのシステム関連事業者と原因究明や対策を講じるべきかが不明瞭になることがある。また、クラウドサービス事業者においても、サービスのすべてをシステム関連事業者自らのシステム等で提供しているとは限らないことから、障害等が生じた場合の原因究明に時間を要することも想定される。 ➢ そのため、利用する医療情報システム・サービスに関連する情報機器等の管理が医療機関等とシステム関連事業者のどちらにあるのかを明確にし、これに対する安全性の確保の対応の役割分担についても明らかにする必要がある。情報機器の所有者、設置責任者、その安全管理措置のための保守管理者等、それぞれが異なる可能性もあることから、事前に明確にすることが求められる。 ➢ 外部委託を行う際の責任分界の重要性を認識し、医療機関等と委託先事業者との間での責任分界を明確にし、認識の齟齬等が生じないよう、書面等により可視化し、適切に管理するよう、企画管理者やシステム運用担当者に指示することが求められる。

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