疫学

疫学における最近の旬な話題:2025年の動向と新たな展開

2025年は疫学研究において重要な転換点となっており、新たな機関の設立、重要な国際会議、そして感染症対策における展開など、注目すべき話題が多数存在しています。本報告書では、日本国内および世界的な疫学研究の最新動向について詳細に解説します。

国立健康危機管理研究機構の創設

2025年度、日本の感染症対策体制は大きな転換点を迎えます。国立感染症研究所と国立国際医療研究センターを統合し、新たに「国立健康危機管理研究機構」が創設される予定です。この機構は米国疾病管理予防センター(CDC)をモデルとしており、感染症その他の疾患に関する調査研究、医療の提供、人材の養成等を行う特殊法人として設立されます[2]。

この新機構の設立は、2023年5月31日の参議院本会議で可決・成立した法律に基づいています。国立健康危機管理研究機構は、国民の生命および健康に重大な影響を与える恐れがある感染症の発生および蔓延時において、疫学調査から臨床研究までを総合的に実施し、科学的知見を提供できる体制の強化を図ることを目的としています[2]。理事長・監事は厚生労働大臣が任命し、副理事長・理事は大臣の認可を得て理事長が任命する体制が整えられます。これにより、パンデミック対応における意思決定の迅速化と専門性の向上が期待されています。

第35回日本疫学会学術総会の開催

日本国内の疫学研究者にとって重要なイベントとして、2025年2月12日から14日にかけて高知市文化プラザかるぽーとにて第35回日本疫学会学術総会が開催されます。安田誠史氏(高知大学)を会長とし、「レガシーに立脚する疫学研究のイノベーション」をテーマに据えた本学術総会では、これまでの疫学研究の蓄積を基盤としながら、新たな方法論や技術を取り入れた革新的な研究アプローチについての議論が行われる予定です[1]。

この学術総会は、日本の疫学研究者が一堂に会し、最新の研究成果を共有するとともに、将来の研究方向性について討議する重要な場となっています。過去の学術総会では、2024年には「疫学が創る未来社会」、2023年には「総合知による健康・幸福の向上」、2022年には「社会と疫学」といったテーマが掲げられてきました[1]。これらのテーマの変遷からも、疫学研究が社会との接点を重視し、学際的なアプローチを強化していく傾向が見て取れます。

世界的な感染症対策の課題と展望

新型インフルエンザH5N1への懸念

2025年における世界的な疫学的課題として、高病原性鳥インフルエンザA(H5N1)ウイルスの成人感染が大きな懸念材料となっています。すでに米国ルイジアナ州では1名の死亡例が報告されており、職業上ウイルスに曝露される人々の間で個人防護具の使用が最適化されていないことが報告されています[3]。H5N1ウイルスの人への感染拡大は、次のパンデミックの可能性を秘めており、世界的な公衆衛生上の緊急課題として監視が強化されています。

WHO加盟国のパンデミック協定交渉

2025年5月の世界保健総会では、WHO加盟国によるパンデミック協定の交渉期限を迎えます。このパンデミック協定は、COVID-19やその他の将来のパンデミックに対応するための予防、準備、対応を目的としています。しかし、病原体情報の共有やワクチン・治療薬などの必須技術の共有に関する問題で各国間のコンセンサス形成が難航しています[3]。

世界がますます分断される中でのこうした連帯体制の構築は疑いなく困難な課題ですが、この協定が失敗すれば世界の公衆衛生にとって大きな損失となり、効果的な多国間保健機関としてのWHOの信頼性を著しく損なう可能性があります[3]。

WHOの優先課題と2025年の重点テーマ

執行理事会での討議内容

2025年2月現在、WHOの執行理事会では世界中の人々に影響を与える健康問題について討議が行われています。主な議題には、非感染性疾患(NCDs)、精神保健、皮膚疾患、社会的つながりなどが含まれています[4]。

非感染性疾患は世界の死亡原因の75%以上を占めており、糖尿病、口腔衛生、精神保健などの管理における進捗と課題、そしてグローバルな協調の加速の必要性について議論されています。WHOは各国のこれらの分野での取り組みを拡大するための支援を行っており、例えば2024年末までに少なくとも147カ国でヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンが導入され、子宮頸がん撲滅への取り組みの一環となっています[4]。

世界保健デー2025のテーマ

2025年の世界保健デーでは、「母子保健」に焦点が当てられる予定です[4]。母子保健は持続可能な開発目標(SDGs)の重要な要素であり、特に発展途上国における課題解決が急務とされています。疫学的アプローチによる母子保健の改善策が、世界的な議論の中心となることが予想されます。

結論

2025年の疫学研究は、COVID-19パンデミックから学んだ教訓を活かしつつ、新たな健康危機に備える重要な年となっています。日本国内では国立健康危機管理研究機構の創設や日本疫学会学術総会の開催、世界的にはWHOによるパンデミック協定の交渉や高病原性鳥インフルエンザへの対応など、多くの重要な動きが見られます。

これらの取り組みは、過去の経験に基づきながらも、新たな科学的知見や技術を取り入れた革新的なアプローチを模索するものであり、疫学研究の未来を形作る重要な転換点となるでしょう。特に、COVID-19パンデミックの経験を踏まえた国際協力体制の強化や、デジタル技術を活用した疫学調査手法の発展など、疫学研究の新たな方向性が示されています。

今後、これらの取り組みがどのように展開し、世界の健康危機管理にどのような影響をもたらすのか、継続的な観察と分析が必要です。疫学研究者には、過去の知見を尊重しつつも、常に新たな課題に対応できる柔軟性と創造性が求められています。

参照情報

  1. 学術総会 | 日本疫学会オフィシャルサイト https://jeaweb.jp/activities/annual_meetings/index.html
  2. 「国立健康危機管理研究機構」2025年度創設へ、参議院で可決 https://www.carenet.com/news/general/carenet/56527
  3. Infectious diseases in 2025: a year for courage and conviction https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(25)00036-4/fulltext
  4. WHO's Executive Board discusses health topics of interest to all https://www.who.int/news/item/03-02-2025-who-s-executive-board-discusses-health-topics-of-interest-to-all
  5. 全国の流行状況|SmallBaby - スモールベイビー https://www.small-baby.jp/rsvirus/trend.html
  6. 帝京大学「ハーバード特別講義2025」2025年1月6日から開催 https://www.agara.co.jp/article/446906
  7. 風疹に関する疫学情報(2025年) https://www.niid.go.jp/niid/ja/rubellam111/rubellatop/2145rubellarelated/8278
  8. [PDF] Communicable Disease Threats Report Week 7, 2025 https://www.ecdc.europa.eu/sites/default/files/documents/communicable-disease-threats-report-week-7-2025.pdf
  9. Epidemiologic Reviews - Oxford Academic https://academic.oup.com/epirev
  10. 年報 | 疫学情報センター https://jata-ekigaku.jp/nenpou/
  11. 新型コロナ・季節性インフルエンザ・RSウイルス リアルタイム流行 ... https://moderna-epi-report.jp
  12. 感染症情報 - 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/index.html
  13. 感染症発生動向調査週報 (IDWR) - 厚生労働省 https://www.niid.go.jp/niid/ja/idwr.html
  14. 感染症疫学センター - 厚生労働省 https://www.niid.go.jp/niid/ja/from-idsc.html
  15. 2025年わが業界はこれがくる!:健康、オカルト、家電 - 毎日新聞 https://mainichi.jp/sunday/articles/20250105/org/00m/040/004000d
  16. COVID-19 epidemiological update – 13 February 2025 https://www.who.int/publications/m/item/covid-19-epidemiological-update-edition-176
  17. Current Issue : Epidemiology https://journals.lww.com/epidem/pages/currenttoc.aspx
  18. 2025年の新着情報一覧 - 厚生労働省検疫所 https://www.forth.go.jp/topics/2025/index.html
  19. セミナー | 日本疫学会オフィシャルサイト https://jeaweb.jp/activities/seminars/individual.html?entry_id=2210
  20. Epidemiology - Latest research and news - Nature https://www.nature.com/subjects/epidemiology
  21. Journal of Epidemiology - J-Stage https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jea
  22. 【統計×専門医が教える】病気になりたくなかったら、「地中海食 ... https://diamond.jp/articles/-/359531
  23. 感染症の流行状況 2025年 第8週 - H・CRISIS https://h-crisis.niph.go.jp/archives/431833/
  24. Epidemiological alerts and updates - PAHO/WHO https://www.paho.org/en/epidemiological-alerts-and-updates
  25. 感染症発生動向調査週報ダウンロード2025年 https://www.niid.go.jp/niid/ja/idwr-dl/2025.html
  26. 東京都感染症情報センター https://idsc.tmiph.metro.tokyo.lg.jp

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