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えて!2024年6月からの新しい医療のルール ~診療報酬改定をやさしく解説~

みなさん、こんにちは! 2024年6月から、病院やクリニックで私たちが支払う医療費の計算ルール(診療報酬)が新しくなりました。ちょっと難しい話に聞こえるかもしれませんが、私たちの医療と深く関わる大切な変更点です。

このページでは、「何が変わったの?」「私たちにどんな影響があるの?」といった疑問に、できるだけ分かりやすくお答えします。一緒に新しい医療のカタチを見ていきましょう!

Table of Contents

Q1. 今回の診療報酬改定、一番の注目ポイントは何ですか?

A1. 今回の改定で特に力点が置かれているのは、医療を支える「人」を大切にすることです。具体的には、医師や看護師さんなど、医療現場で働く方々のお給料を上げて、これからも安心して働き続けられる環境を整えることを目指しています。これを「賃上げ」と呼んでいます。

その他にも、これからの日本社会を見据えた大切なテーマがたくさん盛り込まれています。

高齢化への対応:

お年寄りの方が増える中で、それぞれの状態に合った医療を受けられるように、病院の役割分担を見直します(病床機能の再編)。

住み慣れた地域で医療や介護を受けながら生活できるよう、地域全体で支える仕組みづくりを進めます(地域包括ケアシステムの構築)。

身近な医療の充実:

普段から気軽に相談できる「かかりつけ医」の役割をもっと大切にし、地域のクリニックなどがより機能を発揮できるようにします(外来機能やかかりつけ医機能の評価)。

新しい医療のカタチへ:

マイナンバーカードを使ったオンライン資格確認や電子処方箋など、デジタル技術を活用して医療をもっと便利で質の高いものにしていきます(医療DXの推進)。

医療と介護がもっとスムーズに連携できるようにします。

ひとことで言うと、「働き手を確保し、高齢化社会に対応しつつ、身近な医療をより良くし、未来の医療の仕組みを整える」のが、今回の大きなテーマです。

Q2. いつも払っている初診料や再診料、何か変わりましたか?

A2. はい、病院やクリニックで最初にかかるときに支払う「初診料」や、2回目以降にかかるときに支払う「再診料」、そして「外来診療料」の点数が少し上がりました。

これは、主に2つの理由からです。

  1. 感染対策の徹底: どこの医療機関でも、マスク着用や消毒といった基本的な感染防止対策を日常的に行っています。こうした取り組みをしっかり評価するためです。
  2. スタッフの待遇改善: Q1でも触れたように、医療現場で働く方々のお給料を上げるためです。

さらに、初診料には新しく3つの「加算」(特定の条件を満たした場合に上乗せされる点数)が仲間入りしました。

  • 発熱患者等対応加算: 発熱している患者さんなど、感染症の疑いがある方に対して、他の患者さんと分けて診察するなど、特別な対応をした場合に評価されます。
  • 抗菌薬適正使用体制加算: いわゆる「抗生物質」を本当に必要な場合にだけ処方するなど、お薬の適正な使用に取り組んでいる医療機関を評価します。むやみな抗生物質の使用は、薬が効かない耐性菌を生み出す原因になるため、大切な取り組みです。
  • 医療DX推進体制整備加算: マイナンバーカードによる保険証確認や、電子処方箋の導入など、デジタル技術を活用して医療の質を向上させる体制を整えている医療機関を評価します(詳しくはQ3で!)。

また、これまであった「外来感染対策向上加算」(より高度な感染対策を行う医療機関を評価)の条件が見直されたり、「医療情報・システム基盤整備体制充実加算」という名前だったものが「医療情報取得加算」へと変わり、内容も少し整理されました。これは、マイナンバーカードを使って患者さんの過去のお薬情報や健診情報などを医療機関が確認しやすくなる仕組みに関連するものです。

再診料では、「時間外対応加算」(診療時間外でも電話相談などに応じてくれる医療機関を評価)に新しい区分ができたり、「看護師等遠隔診療補助加算」という、看護師さんなどが医師の指示のもと、遠隔で患者さんの診療をサポートする場合の評価が新設されました。

これらの変更は、私たちがより安全で質の高い医療を受けられるようにするためのものです。

Q3. 「医療DX」ってよく聞くけど、今回の改定で新しい評価はありますか?

A3. はい、あります! 「医療DX(デジタルトランスフォーメーション)」とは、デジタル技術を使って医療の仕組みやサービスをより良いものに変えていこうという取り組みです。今回の改定では、この医療DXを後押しするための新しい評価ができました。

その名も「医療DX推進体制整備加算」です。これは初診料の加算の一つで、以下のような体制を整えている医療機関が評価されます。

  • オンライン資格確認システムの活用: マイナンバーカードを保険証として利用し、患者さんの最新の保険情報や過去の診療情報(お薬の情報や特定健診の情報など)をオンラインで確認できる仕組みを導入し、それを実際の診療に役立てていること。
  • 電子処方箋の導入: 紙ではなく電子データで処方箋を発行・管理する仕組みを導入していること(または導入予定であること)。
  • 電子カルテ情報共有サービスの活用: 複数の医療機関で患者さんの診療情報をスムーズに共有できる仕組みを導入していること(または導入予定であること)。

つまり、デジタル技術を活用して、より安全で効率的、そして質の高い医療を提供しようと努力している医療機関が評価されるようになったのです。患者さんにとっては、自分の医療情報が正確に共有されることで、重複検査や重複投薬を防いだり、より適切な診断や治療を受けやすくなったりするメリットが期待できます。

さらに、ご自宅で療養されている方向けの「在宅医療」の分野でも、「在宅医療DX情報活用加算」という新しい評価ができました。これは、訪問診療などを行う際に、患者さんの同意を得てオンライン資格確認システムなどを通じて薬剤情報などを取得し、それを活用して診療を行った場合などに評価されます。在宅医療でも、医療DXによって情報共有がスムーズになり、より質の高いケアが提供されることが期待されます。

Q4. 「特定疾患療養管理料」の対象になる病気が変わったって本当ですか?

A4. はい、その通りです。「特定疾患療養管理料」とは、高血圧症や糖尿病、脂質異常症(コレステロールや中性脂肪が高い状態)といった、継続的な治療や管理が必要な特定の病気をお持ちの患者さんに対して、医師が計画的に治療管理を行った場合に算定できるものでした。

今回の改定で、この対象疾患から「糖尿病」「高血圧症」「脂質異常症」の3つの病気が外れました。

「えっ、じゃあこれらの病気の管理は手薄になるの?」と心配になるかもしれませんが、ご安心ください。これらの生活習慣病については、新しく「生活習慣病管理料(Ⅱ)」という評価が作られ、そちらでより手厚く、かつ効率的な管理を行っていくことになります(詳しくはQ5で!)。

一方で、特定疾患療養管理料の対象には、新たに「アナフィラキシー」と「ギラン・バレー症候群」が追加されました。

  • 「アナフィラキシー」は、食物アレルギーや蜂刺されなどで起こる、急激で重篤なアレルギー反応のことです。
  • 「ギラン・バレー症候群」は、急に手足の力が入らなくなるなどの症状が現れる神経の病気です。

このように、医学の進歩や社会の変化に合わせて、評価の対象となる病気も見直されています。

Q5. 「地域包括診療加算」や「生活習慣病管理料」では、何が重視されるようになったのですか?

A5. 「地域包括診療加算」や「生活習慣病管理料」は、主に「かかりつけ医」としての役割を評価するものです。「かかりつけ医」とは、日頃から私たちの健康状態を把握し、何かあったときに最初に相談できる身近なお医者さんのことです。

今回の改定では、この「かかりつけ医」の機能をさらに強化することが重視されています。具体的には、以下のような点が新しくなったり、より大切にされるようになりました。

医療と介護の連携強化:

かかりつけ医と、介護サービスの計画を立てるケアマネージャーさんとの情報共有をより密にすることが求められます。これにより、医療と介護が一体となった切れ目のないサポートが期待できます。

認知症への対応力アップ:

かかりつけ医が、認知症の早期発見や相談対応、専門医との連携などをよりスムーズに行えるようにするための取り組みが評価されます。

お薬の適切な管理:

リフィル処方箋の活用:

症状が安定している患者さんに対して、医師が認めた場合に、同じお薬を最大3回まで繰り返しもらえる「リフィル処方箋」の活用が促されます。これにより、通院の負担が軽減されることが期待されます。

長期処方の推進:

こちらも症状が安定している場合に、一度に長期間分のお薬を処方することの検討が促されます。

患者さんの意思決定をサポート:

患者さん自身が治療法などを選ぶ際に、医師が丁寧に説明し、患者さんの意向を尊重した医療が進められるように、適切な意思決定支援が評価されます。

医療DXの推進:

Q3でも触れたように、オンライン資格確認などを活用して、より質の高い医療を提供することが求められます。

そして、Q4でも少し触れましたが、「生活習慣病管理料」については大きな変更がありました。

従来の「生活習慣病管理料」は「生活習慣病管理料(Ⅰ)」となり、これに加えて、より患者さんの自己管理を重視し、多職種(医師、看護師、栄養士など)が連携して療養計画書を作成・説明し、検査を包括する形(検査費用が管理料に含まれる)の「生活習慣病管理料(Ⅱ)」が新設されました。

この(Ⅱ)では、患者さん自身が治療に積極的に参加し、生活習慣の改善に取り組むことを後押しする仕組みが取り入れられています。また、医療機関にとっては、個々の検査ごとに点数を算定するのではなく、包括的な評価となるため、より柔軟な対応が可能になる側面もあります。

これらの変更を通じて、かかりつけ医が中心となって、より質の高い、そして患者さん一人ひとりに寄り添った医療が提供されることを目指しています。

Q6. 家で療養する「在宅医療」でも、何か新しい評価が増えましたか?

A6. はい、高齢化が進み、住み慣れた自宅で最期まで過ごしたいと願う方が増える中で、「在宅医療」の重要性はますます高まっています。今回の改定でも、在宅医療を支えるための新しい評価(加算)がいくつか作られました。

特に注目したいのは、Q3でもご紹介した「在宅医療DX情報活用加算」です。

これは、訪問診療などを行う際に、患者さんの同意を得てマイナンバーカードによるオンライン資格確認システムなどを活用し、過去のお薬の情報や他の医療機関での診療情報などを確認・活用して診療を行った場合に評価されるものです。これにより、ご自宅での療養においても、より安全で質の高い医療が提供されやすくなります。

その他にも、以下のような新しい評価が加わりました。

救急患者連携搬送料:

在宅療養中の患者さんの容態が急変した際に、かかりつけ医が他の医療機関と連携し、救急搬送をスムーズに行った場合などを評価します。

在宅がん患者緊急時医療情報連携指導料:

在宅で療養されているがん患者さんの急変に備えて、かかりつけ医が、患者さんの情報をまとめた文書を作成し、連携する他の医療機関や訪問看護ステーションなどと共有し、患者さんやご家族に説明を行った場合などを評価します。

往診時医療情報連携加算:

往診(医師が患者さんの自宅に出向いて診察すること)の際に、オンライン資格確認システムなどを活用して患者さんの情報を取得・活用した場合に評価されます。

介護保険施設等連携往診加算:

介護老人保健施設や特別養護老人ホームといった介護施設に入所されている方に対して、施設の医師ではなく、外部の医療機関の医師が計画的に往診を行った場合に、施設と医療機関の連携を評価します。

これらの新しい評価は、在宅で療養される患者さんが、いざという時にも安心して適切な医療を受けられるように、そして日頃のケアの質を高めるために、医療機関同士や介護との連携をより一層強化することを後押しするものです。

Q7. お薬の処方について、長めにもらえたり、繰り返しもらえたりする仕組み(長期処方・リフィル処方)に関する変更はありますか?

A7. はい、お薬のもらい方についても、患者さんの利便性向上や医療費の適正化の観点から見直しがありました。特に「長期処方」や「リフィル処方箋」を推進する方向での変更が加えられています。

処方料の変更点:

これまで、28日以上の長期処方を行う場合に算定できた「特定疾患処方管理加算」というものがありましたが、このうち「加算1」(処方期間が28日未満でも特定の条件を満たせば算定できたもの)がなくなりました。

そして、「加算2」(処方期間が28日以上の場合)は点数が少し引き下げられました。これは、長期処方をより一般的なものとして促していく狙いがあると考えられます。

処方箋料の変更点(お薬の量を適切にコントロールするために):

向精神薬(心療内科や精神科で使われるお薬の一部)を一度にたくさん処方する場合や、7種類以上の飲み薬を処方する場合、または向精神薬を長期間処方する場合には、処方箋料が減額される(減算される)規定が設けられました。

これは、いわゆる「ポリファーマシー」(たくさんのお薬を飲むことで副作用のリスクが高まる状態)を防ぎ、患者さんにとって本当に必要なお薬だけを適切な量で処方することを促すためのものです。

リフィル処方箋の推進:

Q5でも触れましたが、症状が安定している患者さんに対して、医師が認めた場合に、同じお薬を最大3回まで繰り返しもらえる「リフィル処方箋」の活用が、引き続き推奨されています。

お薬の安定供給への対応:

最近、一部のお薬が不足しているというニュースを聞いたことがあるかもしれません。こうした状況に対応するため、「外来後発医薬品使用体制加算」(ジェネリック医薬品の使用を積極的に進めている医療機関を評価)や「一般名処方加算」(お薬を商品名ではなく有効成分の名前(一般名)で処方することを評価)の条件が見直されました。

具体的には、これらの加算を算定する医療機関は、院内の見やすい場所にお薬の供給状況などを掲示することが求められるようになりました。これにより、患者さんもお薬の状況を把握しやすくなります。

これらの変更は、患者さんがより少ない通院回数でお薬を受け取れるようにしたり、多すぎるお薬による副作用を防いだり、そしてお薬を安定的にお届けできるようにするための工夫と言えるでしょう。

Q8. 今回の改定で、新しいタイプの病棟や入院料はできましたか?

A8. はい、今回の改定でも、医療の質の向上や、変化する医療ニーズに対応するために、いくつかの新しい病棟や入院料が作られました。

地域包括医療病棟入院料の新設:

これは、特に注目される新しい病棟です。主に、高齢の救急患者さんなど、急な病気やケガで入院が必要になったものの、必ずしも高度な急性期治療(手術や集中治療など)が長期間必要なわけではない患者さんを受け入れることを想定しています。

この病棟では、入院初期から集中的なリハビリテーションを行ったり、退院後の生活を見据えた支援(在宅復帰支援)を多職種(医師、看護師、リハビリ専門職、ソーシャルワーカーなど)で連携して提供します。

つまり、救急医療と在宅医療・介護との間をスムーズにつなぎ、高齢の患者さんが安心して地域に戻れるようにサポートする役割を担います。

新生児のための新しい評価:

「新生児特定集中治療室重症児対応体制強化管理料」が新設されました。これは、特に重症な状態で生まれてきた赤ちゃんに対して、より手厚いケアを提供できる体制を整えているNICU(新生児集中治療室)を評価するものです。

精神科医療における新しい病棟:

「精神科地域包括ケア病棟入院料」が新設されました。これは、精神疾患を持つ患者さんが、急性期治療を終えた後に、地域社会へスムーズに移行できるように、リハビリテーションや退院支援などを集中的に行う病棟を評価するものです。

集中治療室(ICU)に関する変更:

「特定集中治療室管理料」に、**専任の医師の配置要件を少し緩和した「管理料5・6」**が新設されました。これは、地域によっては専門医の確保が難しい場合でも、一定の質の集中治療を提供しやすくするための工夫です。

また、「特定集中治療室遠隔支援加算」という新しい評価もできました。これは、離れた場所にいる専門医が、情報通信機器(ICT)を活用して、現場の医師をサポートする「遠隔ICU」の取り組みを評価するものです。これにより、専門医が少ない地域でも、質の高い集中治療を受けられる可能性が広がります。

これらの新しい病棟や入院料は、さまざまな状態の患者さん一人ひとりに、より適切で質の高い医療を提供するための新しい選択肢となると言えるでしょう。

いかがでしたでしょうか? 2024年6月からの診療報酬改定は、私たちの医療をより良く、そして将来にわたって持続可能なものにするための大切な一歩です。

本記事が、皆さんのご理解の一助となれば幸いです。

 

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