エビデンス全般

第30回地域医療構想WG - 今後の医療提供体制 - 新型コロナウイルス感染症対応 - 2020年12月9日版

1.はじめに

  • 地域の実情に応じた医療提供体制の確保に関しては、各都道府県において、
    • 「医療計画」を策定し、5疾病・5事業及び在宅医療ごとに、必要となる医療機能や各医療機能を担う医療機関等を定めるなどして、医療連携体制の構築に向けた取組を進めるとともに、
    • 「地域医療構想」を策定し、病床機能(高度急性期・急性期・回復期・慢性期)ごとに、2025 年の医療需要と病床必要量を推計した上で、地域医療構想調整会議において協議を進めるなどして、将来の医療需要を見据えた病床機能の分化・連携に向けた取組を進めているところである。
  • こうした中、今般の新型コロナウイルス感染症の感染拡大は、我が国の医療提供体制に多大な影響を及ぼし、局所的な病床・人材不足の発生、感染症対応も含めた医療機関間の役割分担・連携体制の構築、マスク等の感染防護具や人工呼吸器等の医療用物資の確保・備蓄など、地域医療の様々な課題が浮き彫りとなっている。
  • 厚生労働省においては、まずは、足下の新型コロナウイルス感染症対応に引き続き全力を注ぎつつ、この対応により得られた知見を踏まえ、今後、新興感染症等が発生した際に、行政・医療関係者が連携の上、円滑かつ効果的に対応できるよう、当該新興感染症等以外の医療連携体制への影響を勘案しながら、新興感染症等対応に係る体制を確保していく必要がある。併せて、引き続き進行する人口構造の変化を見据えた上で、新興感染症等が発生した際の影響にも留意しつつ、質の高い効率的な医療提供体制の構築に向けた取組を着実に進める必要がある。

※ 「経済財政運営と改革の基本方針 2020」(令和2年7月 17 日閣議決定)では、医療提供体制の構築に関し、「感染症への対応の視点も含めて、質が高く効率的で持続可能な医療提供体制の整備を進めるため、可能な限り早期に工程の具体化を図る。」とされているところ。

  • こうした観点から、新型コロナウイルス感染症対応を踏まえた今後の医療提供体制の構築に向けた考え方について、本検討会において、令和2年 10 月1日から○回にわたり議論を重ねてきた。また、この間、新型コロナウイルス感染症対応を踏まえた地域医療構想の考え方・進め方については、本検討会の下に設ける地域医療構想に関するワーキンググループにおいて、令和2年 10 月 21 日から○回にわたり議論を重ねてきた。

2.新型コロナウイルス感染症対応の状況

  • 今般の新型コロナウイルス感染症については、当初、当該感染症への対応に関する知見がない中で、医療現場においては、多くの医療資源を投入しながら、感染防止対策を講じつつ入院患者の受入れや疑い患者に対応するなど、患者数が増加する前から、医療提供体制には大きな負荷がかかってきたところである。
  • また、感染拡大により患者数が増加した段階では、当該感染症の重症化リスクや感染拡大防止等の観点から、入院医療を原則とせざるを得なかったことから、感染症患者の受入れについて、感染症病床だけではなく、一般病床の活用による対応が必要な状況となり、入院医療体制に大きな影響を及ぼしてきたところである。
  • 具体的には、一般病床を活用した感染症患者への対応に関し、個々の医療機関におけるゾーニング等の院内感染防止策やマンパワー確保等の取組、地域の医療機関間における感染症患者を受け入れる医療機関と感染症患者以外に対応する医療機関との役割分担など、感染症患者の受入体制構築を弾力的に行うための知見も明らかになってきている。

3.新興感染症等の感染拡大時における体制確保(医療計画の記載事項追加)

(1)医療計画上の位置付け

  • 今般の新型コロナウイルス感染症対応で得られた知見を踏まえ、今後の新興感染症等の感染拡大時に、広く一般の医療提供体制にも大きな影響が及ぶことを前提に、必要な対策が機動的に講じられるよう、基本的な事項について、あらかじめ地域の行政・医療関係者の間で議論し、必要な準備を行うことが重要である。
  • 地域の行政・医療関係者の間で、医療提供体制の確保に向けた考え方や施策等を共有し、取組を推進する枠組みとして、医療法に基づく「医療計画」があり、国が定める「基本方針」に即して、各都道府県は「医療計画」を策定し、5疾病・5事業及び在宅医療に関する医療連携体制構築等に向けた取組が進められている。
  • しかしながら、現行、新興感染症等への対応は医療計画の記載事項として位置付けられておらず(※1)、今後、広く一般の医療連携体制にも大きな影響が及ぶ新興感染症等の感染拡大時に備える観点から、厚生科学審議会感染症部会においては、感染症法に基づく「予防計画」(※2)との整合性の確保に留意しつつ、「医療計画」における対応の必要性に関する見解(※3)が示されている。
    1. 現行、「基本方針」には感染症に関する記載は無い。また、「基本方針」を踏まえた技術的助言である「医療計画作成指針」(医政局長通知)では、5疾病・5事業及び在宅医療のほか、都道府県における疾病等の状況に照らして特に必要と認める医療等について記載することとしており、その際、考慮する事項の一つとして「結核・感染症対策」(結核対策や感染症対策に係る各医療提供施設の役割、インフルエンザ・エイズ・肝炎などの取組)が挙げられているが、広く一般の医療連携体制にも大きな影響が及ぶような新興感染症等の感染拡大時における医療提供体制のあり方に関する記載はない。
    2. 感染症の医療提供体制の確保に関しては、国が感染症法に基づき定める「基本指針」に即して、各都道府県において同法に基づき「予防計画」を策定することとされており、具体的には、次の事項を定めることとされている。
      1. 地域の実情に応じた感染症の発生の予防及びまん延の防止のための施策に関する事項
      2. 地域における感染症にかかる医療を提供する体制の確保に関する事項
      3. 緊急時における感染症の発生の予防及びまん延の防止並びに医療の提供のための施策に関する事項
    3. 厚生科学審議会感染症部会(令和2年 10 月 28 日)資料3(抄)
      新興感染症等の感染拡大時は、医療計画により整備される一般の医療連携体制にも大きな影響を及ぼす中、医療機関や行政など地域の幅広い関係者により必要な対応が機動的に講じられるよう、本部会の議論も踏まえ、社会保障審議会医療部会においても必要な取組について議論を進めるよう求めることとしてはどうか。具体的には、医療計画の記載事項に「新興感染症等の感染拡大時における医療」を追加した上で、医療法に基づく「基本方針」等について、感染症法に基づく「基本指針」と整合性を図りつつ、医療計画においても必要な内容が記載されるよう見直しを行うこと等が考えられるのではないか。
  • こうした現状と課題を踏まえれば、広く一般の医療連携体制にも大きな影響が及ぶ「新興感染症等の感染拡大時における医療」(※)について、医療計画の記載事項として位置付けることが適当と考えられる。

※ 「新興感染症等の感染拡大時」については、厚生科学審議会感染症部会(令和2年 10 月 28 日)において、「国民の生命・健康に重大な影響を与えるおそれがある感染症(感染症法上の新型インフルエンザ等感染症、指定感染症、新感染症など)の全国的なまん延等であって、医療提供体制に重大な影響が及ぶ事態」と整理されているところ。

  • 今回の記載事項の追加については、様々な感染症(※)の中でも、広く一般の医療連携体制に大きな影響を及ぼし得る新興感染症等の感染拡大時の対応(一般病床等の活用など)を記載することを想定している。今後、実際に発生する新興感染症等については、発生時期、感染力、病原性などを事前に予測することが困難であることを前提に、新興感染症等の発生後、速やかに対応できるよう予め準備を進めておくことが重要である点が、災害医療と類似していることから、いわゆる「5事業」に追加することが適当と考えられる。

※ 一類感染症及び二類感染症は感染症病床における入院を前提としていること、また、三類感染症、四類感染症及び五類感染症はそもそも入院を前提としていないことから、広く一般の医療連携体制に大きな影響が及ぶ新興感染症等とは状況が異なる。

  • 今後、「新興感染症等の感染拡大時における医療」を医療計画の記載事項として新たに位置付けるに当たっては、厚生労働省において、計画の記載内容(記載すべき施策・取組や数値目標など)について詳細な検討を行った上で、「基本方針」(大臣告示)や「医療計画作成指針」(局長通知)の見直し等を行う必要がある。こうした状況を踏まえ、厚生労働省においては、厚生科学審議会感染症部会における感染症法に基づく「基本指針」等の見直しと整合性を確保しながら検討を進めるとともに、次の第8次医療計画(2024 年度~2029 年度)から「新興感染症等の感染拡大時における医療」に関する記載を盛り込むこととし、各都道府県における計画策定作業を進めることが適当と考えられる。その際、医療計画の策定主体である都道府県において、円滑かつ適切に検討作業を進めることができるよう、厚生労働省における「基本方針」や「医療計画作成指針」の検討状況等について、逐次、都道府県等に情報共有・周知することが重要と考えられる。

(2)「新興感染症等の感染拡大時における医療」に関する記載項目(イメージ)

  • 「新興感染症等の感染拡大時における医療」に関する具体的な記載項目については、厚生科学審議会感染症部会における議論や地域医療構想に関するワーキンググループにおける議論を踏まえ、例えば以下のような項目を医療計画に記載することが想定されるところである。
  • 引き続き、厚生科学審議会感染症部会等における議論の状況も踏まえつつ、記載項目や、施策の進捗状況を確認するための数値目標等について、具体化に向けた検討を進めることが適当と考えられる。
【平時からの取組】
    • 感染拡大に対応可能な医療機関・病床等の確保
      • 感染症指定医療機関(感染症病床)の整備
      • 感染拡大時にゾーニング等の観点から活用しやすい病床や感染症対応に転用しやすいスペースの確保に向けた施設・設備の整備(重症例や疑い症例等を想定した整備を含む。) など
    • ● 感染拡大時を想定した専門人材の育成等
      • 感染防止制御チームの活用
      • 感染管理の専門性を有する看護師(ICN)の育成
      • 重症患者(ECMO や人工呼吸器管理が必要な患者等)に対応可能な人材 など
    • 医療機関における感染防護具等の備蓄
    • 院内感染対策の徹底
    • 医療機関内でクラスターが発生した際の対応方針の共有(院内のマネジメントや医療機関の連携等)
    • 医療機関における PCR 検査等病原体検査の体制の整備 など
【感染拡大時の取組】
    • 個々の医療機関における取組の基本的考え方
      • 感染拡大時の受入候補医療機関(重症例や疑い症例等を想定した受入候補医療機関を含む)
      • 患者が入院する場所の確保に向けた取組(病床や病床以外のスペース等の活用など)
      • 感染症患者に対応するマンパワー(医師、看護師等)の確保に向けた取組(病院内の重点配置など)
      • 感染防護具や医療資機材等の確保 など
    • 医療機関間の連携・役割分担の基本的考え方
      • 救急医療など一般の医療連携体制への影響にも配慮した受入体制に係る協議の実施(感染症患者受入医療機関と感染症患者以外に対応する医療機関の役割分担等)
      • 感染症患者受入医療機関への医師・看護師など応援職員の派遣
      • 感染管理の専門人材による指導・コンサルテーションの実施 など
    • 感染症法や新型インフルエンザ等対策特別措置法等に基づき講じられることが想定される各種措置(臨時の医療施設や宿泊療養施設の開設など)
    • 外来体制の基本的考え方 など
  • なお、医療計画の記載項目等については、感染症法に基づく「予防計画」の記載項目と整合性を確保する必要があることから、厚生科学審議会感染症部会においても、引き続き、感染症法に基づく「基本指針」等の見直しについて検討を進めるよう求めていくことが適当と考えられる。

(3)医療計画の推進体制等

  • 医療計画の推進体制や圏域設定の考え方については、現在、以下のような取扱いとされている中、「新興感染症等の感染拡大時における医療」についても、以下の取扱いに沿って、各都道府県に対し、感染症対応に係る医療資源の状況など地域の実情に応じた計画の策定と具体的な取組を促していくことが適当と考えられる。
【医療計画の推進体制】
    • 医療法において、都道府県は、医療計画の策定に当たり、下記の通りとなっている。
      • あらかじめ都道府県医療審議会の意見を聴かなければならない
      • 他の法律の規定による計画であって医療の確保に関する事項を定めるものとの調和が保たれるように努めなければならない
    • また、医療計画作成指針(局長通知)において、都道府県は、下記の通りとなっている。
      • 5疾病・5事業及び在宅医療について、それぞれの医療体制を構築するため、都道府県医療審議会の下に、5疾病・5事業及び在宅医療のそれぞれに関する「作業部会」を設置すること
      • 必要に応じて、圏域ごとに関係者が具体的な連携等について協議する「圏域連携会議」を設置すること
      • 作業部会、圏域連携会議又は地域医療構想調整会議において、関係者が互いに情報を共有することにより、信頼関係を醸成し、円滑な連携が推進されるような体制を構築することが望ましい
【圏域設定の考え方】
    • 医療計画作成指針(局長通知)において、5疾病・5事業及び在宅医療のそれぞれに係る医療連携体制を構築する際の圏域については、従来の二次医療圏に拘らず、患者の移動状況や地域の医療資源等の実情に応じて弾力的に設定することとされている。
  • なお、「新興感染症等の感染拡大時における医療」が5疾病・5事業及び在宅医療のそれぞれの医療体制と密接に関連すること等を踏まえ、各都道府県においては、第8次医療計画の策定に当たり、作業部会間の連携等に十分留意しつつ、作業部会や圏域連携会議において実態を踏まえた効果的な議論が行われるよう配慮するなど、実効的な医療計画として機能するよう積極的に取り組むことが重要と考えられる。

4.今後の地域医療構想に関する考え方・進め方

※引き続き、地域医療構想に関するワーキンググループにおいて議論

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