近年,優れた新医薬品の地球的規模での研究開発の促進と患者への迅速な提供を図るため,承認審査資料の国際的ハーモナイゼーション推進の必要性が指摘されている。
このような要請に応えるため,日・米・EU 三極医薬品承認審査ハーモナイゼーション国際会議(ICH)が組織され,品質,安全性及び有効性の3分野でハーモナイゼーションの促進を図るための活動が行われている。
治験の総括報告書については,「医薬品の臨床試験の実施に関する基準」(平成元年10月2日薬発第874号薬務局長通知)により,各治験実施計画書ごとに作成することとされているが,本ガイドラインは,ICH における三極の合意事項に基づき,その作成のための標準的と思われる方法を示したものである。
貴管下関係業者に対し周知方よろしく御配慮願いたい。
序文
本ガイドラインは,治験の総括報告書の作成に当たっての,その構成と内容に関する指針を示すものである。本ガイドラインは,ICH ガイドライン“Structure and Content of Clinical Study Report”に基づいて作成されたものであり,本ガイドラインに基づいて作成された総括報告書の中核部分は,ICH 参加地域の全ての審査当局に共通に受け入れ可能となる。個々の審査当局が特別に必要とする資料は,要求に応じてこの中核部分に添付する付録として構成される。
本ガイドラインに記載された治験の総括報告書は,患者を対象として実施された治療薬,予防薬又は診断薬(以下,薬剤又は治療と略す)の個々の治験についての臨床及び統計上の記述,提示及び分析内容を一つの報告書に統合した「統合された」詳細報告書である。報告書には,表及び図を報告書本文中か本文の末尾に含め,付録には,治験実施計画書,症例記録用紙の見本,治験責任医師(治験実施施設において治験の実施に関して責任を有する医師又は歯科医師)等に関する情報,治験薬(被験薬又は対照薬として用いられる有効成分を含む製剤又はプラセボ)に関する情報,技術的統計的文書,関連する刊行物,患者データの一覧表,並びに計算式の導出,コンピュータ処理,分析及びコンピュータ出力などの技術的統計的な詳細に関する事項を含めること。別々の臨床及び統計報告書を単に合わせたものをもって,治験の統合された詳細報告書とすべきではない。本ガイドラインは,有効性及び安全性の評価を目的とした治験を主な対象としているが,ここに述べる基本的原則及び構成は,例えば臨床薬理試験のような他の種類の治験にも適用が可能である。試験の性質と重要性によっては,簡略化された報告書が適切であることもある。
本ガイドラインは,完備していて,不明瞭な点がなく,きちんと整理され,かつ審査が容易な報告書の作成のために,治験依頼者を支援することを目的としている。報告書には,治験の主要なデザイン上の特徴がどのように選択されたかを明確に説明し,さらに治験の計画,方法及び実施について十分な情報を含めること。それにより,治験の実施方法に関する不明瞭な点がなくなる。報告書には,付録を含めて,人口統計学的データ及び基準値を含む十分な個別患者データ並びに解析方法の詳細を提示すること。それにより,審査当局が望むときには,特に重要な解析をやり直すことも可能になる。さらに,全ての解析,表及び図に関しては,それらがどの患者集団をもとに作られたかが明確に同定できる情報を本文中又は図表の一部分に含むことが重要である。
例えば対照を置かない試験又は有効性を立証できるようにデザインされていない試験(しかし安全性に関する比較対照試験については完全な報告書を作成すること),重大な不備のある若しくは中断された試験,又は申請効能となる病態とは明らかに無関係な病態に対する比較対照試験などの場合には,要約したデータを用いたり,いくつかの章を削除した簡略化された報告書が受け入れ可能であろう。しかし,このような場合でも,安全性の側面については詳細な記述を含めること。簡略化された報告書を提出する場合には,デザイン及び結果についての詳細を十分に示すことにより,審査当局が詳細な報告書が必要かどうかを判断できるようにすること。詳細な報告書が必要かどうかについて疑問があれば,審査当局に相談することが役立つであろう。
治験の実施方法の詳細な説明としては,最初の治験実施計画書の記述を単に繰り返し述べることでよい場合もある。しかしながら,別の文書でより簡潔に試験方法を示すことが可能であることが多い。治験のデザイン及び実施について記述しているそれぞれの章では,治験実施計画書には十分に記述されていない試験の特徴を明らかにしたり,実際に実施された方法のうちどこが治験実施計画書と異なっていたかを明確にすることや,計画された治験実施計画書からの逸脱を吟味するために用いた統計手法や分析について考察することが特に重要である。
個々の治験の十分に統合された総括報告書には,個々の有害事象や臨床検査値異常に関する最も詳細な考察を含めること。しかし,通常これらは,どのような申請書類においても,利用可能な全てのデータを対象とする総括的な安全性の分析のなかで再吟味されるべきである。
報告書には,治験対象集団の人口統計学的特性(demographic characteristics)及びその他の予後に影響し得る因子を記述すること。さらに,治験が十分に大規模であって可能な場合には,人口統計学的な(例えば,年齢,性,人種,体重の)部分集団や,その他(例えば,腎機能や肝機能)の部分集団に関するデータを示すこと。それにより,有効性又は安全性に存在し得る差異を明確にすることができる。しかしながら,通常は,総括的な分析に用いられるさらに大きなデータベースにおいて,部分集団の反応は吟味されるべきである。
報告書の一部として要求されるデータ一覧表(通常は付録に含まれる)は,主要な解析の裏付けに必要なものである。報告書の一部としてのデータ一覧表は,審査官がすぐに使用可能なものとすること。したがって,限られた大きさの一つの表に多くの変数を含めることが望ましい場合もあるが,そのために明瞭さを犠牲にしないこと。データが多いからといって,単語又は理解しやすい略号の代わりに記号を過剰に用いたり,表示を細かくし過ぎたりしないこと。このような場合には,複数の一覧表を作ることが望ましい。
報告書においては,データを様々な程度の詳細さで提示することが要求される。重要な人口統計学的変数,有効性及び安全性の変数に関して全体的に要約した図表は,重要な点を示すために本文中に含めてもよい。その他の人口統計学的変数,有効性及び安全性の変数に関する要約された図表及び一覧表は,本文末尾の14章に提示すること。特定の患者群の個人データは,一覧表として付録16.2に添付すること。
いかなる図表やデータ一覧表においても,推定値又は計算により求めた値が使われたならば,それと分かるように明示すること。どのような方法でその値を推定又は計算したか,またどんな仮定に基づいているのかについて詳細な説明を示すこと。
以下に示した指針は詳細なものであり,申請後のデータの説明や解析の追加要求を可能な限り少なくできるように,通常提出されるべき情報が何であるかを申請者に示すことを目的としている。しかしながら,データの提示及び(又は)解析に関する個々の要求事項は,時代,薬効群,地域等の状況に左右される場合があり,一般的な形式には記述できない。それ故,可能な限り個別の臨床ガイドラインを参照したり,データの提示及び解析について審査当局と協議することが重要である。
どの報告書においても,ここに記載された全ての事項を(明らかに無関係でない限り)考慮すること。ある特定の治験において,別の方法がより論理的な場合には,事項の個々の順序や章分けを変えてもよい。
非常に大規模な治験の場合には,本ガイドラインの規定のいくつかが実際的でなかったり不適切であるかもしれない。そのような治験の計画時や報告時には,審査当局と連絡を取り,適切な報告書の書式について協議することが奨励される。
本ガイドラインの規定は,他の ICH のガイドラインと関連づけて使用されたい。