エビデンス全般

生命科学・医学系研究 倫理指針 第2 用語の定義 (1) 人を対象とする生命科学・医学系研究

2021年5月9日

人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針 第2 用語の定義

  • 第2の規定は、この指針の各規定において対象となる客体、主体、行為等に関する基本的な用語の定義を示し、この指針の適用される範囲について定めたものである。
  • 「生命科学・医学系研究」には、人の基本的生命現象(遺伝、発生、免疫等)を解明する、「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針(以下「ゲノム指針」という。)」(平成 13 年文部科学省・厚生労働省・経済産業省告示第1号)におけるヒトゲノム・遺伝子解析研究(例えば、人類遺伝学等の自然人類学のほか、人文学分野において、ヒトゲノム及び遺伝子の情報を用いた研究)が含まれ、「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針(以下「医学系指針」という。)」(平成 29 年文部科学省・厚生労働省告示第1号)における医学系研究(例えば、医科学、臨床医学、公衆衛生学、予防医学、歯学、薬学、看護学、リハビリテーション学、検査学、医工学のほか、介護・福祉分野、食品衛生・栄養分野、環境衛生分野、労働安全衛生分野等で、個人の健康に関する情報を用いた疫学的手法による研究及び質的研究、AIを用いたこれらの研究)も含まれる。
    なお、医療、介護・福祉等に関するものであっても、医事法や社会福祉学など人文・社会科学分野の研究の中には「医学系研究」に含まれないものもある。
  • 「ヒトゲノム及び遺伝子」には、人の個体を形成する細胞に共通して存在し、その子孫に受け継がれ得るヒトゲノム及び遺伝子(いわゆる生殖細胞系列変異又は多型(germline mutation or polymorphism))のみならず、がん等の疾病において、病変部位にのみ後天的に出現し、次世代には受け継がれないゲノム又は遺伝子(いわゆる体細胞変異(somatic mutation))も含まれる。
  • 「遺伝子の構造又は機能、及び遺伝子の変異又は発現」の「構造又は機能」「変異又は発現」には、いわゆるエピゲノムに関するものやゲノム情報を基礎として生体を構成している様々な分子等を網羅的に調べるオミックス解析も含まれる。
  • 侵襲を伴わず、かつ介入を行わずに研究対象者から新たに取得した試料・情報を用いる研究や、既存試料・情報を用いる研究も「人を対象とする」研究に該当する。
  • 人体から分離した細菌、カビ等の微生物及びウイルスの分析等を行うのみで、人の健康に関する事象を研究の対象としない場合は、「人を対象とする」研究に該当しないものと判断してよい。
    ただし、患者から分離した病原微生物等の分析・調査から得られた情報を用いて、他の診療情報を組み合わせて、感染症の成因や病態の理解等を通じて国民の健康の保持増進又は患者の感染症からの回復等に資する知識を得ることを目的として実施される場合には、「人を対象とする」研究に該当する。

この指針における用語の定義は、次のとおりとする。

⑴ 人を対象とする生命科学・医学系研究

人を対象として、次のア又はイを目的として実施される活動をいう。

ア 次の①、②、③又は④を通じて、国民の健康の保持増進又は患者の傷病からの回復若しくは生活の質の向上に資する知識を得ること。

① 傷病の成因(健康に関する様々な事象の頻度及び分布並びにそれらに影響を与える要因を含む。)の理解
② 病態の理解
③ 傷病の予防方法の改善又は有効性の検証
④ 医療における診断方法及び治療方法の改善又は有効性の検証

イ 人由来の試料・情報を用いて、ヒトゲノム及び遺伝子の構造又は機能並びに遺伝子の変異又は発現に関する知識を得ること。

  • ⑴ア①の「健康に関する様々な事象の頻度及び分布」とは、疫学的手法を通じて得られる種々の保健指標、例えば、ある種の疾患の発生頻度地域分布性・年齢分布改善率、生存率、有病率健康寿命平均余命等を指す。また、「それらに影響を与える要因」としては、個人における喫煙、食事、運動、睡眠等の生活習慣、個々の医療における診療内容のほか、地域における環境的な要因、社会的な要因などが挙げられる。
    人を対象として、特定の食品・栄養成分の摂取がその健康に与える影響を調べる場合は、「研究」に該当する。
  • 傷病の予防、診断又は治療を専ら目的とする医療は、この指針でいう「研究」に該当しない。医療従事者が、そうした医療で自ら行ったものにおける患者の転帰や予後等について、次にあげるように、研究目的でない医療の一環とみなすことができる場合には、この指針でいう「研究」に該当しないものと判断してよい。
    • 以後の医療における参考とするため、診療録を見返し、又は退院患者をフォローアップする等して検討する
    • 他の医療従事者への情報共有を図るため、所属する機関内の症例検討会、機関外の医療従事者同士の勉強会や関係学会、医療従事者向け専門誌等で個別の症例を報告する(いわゆる症例報告)
    • 既存の医学的知見等について患者その他一般の理解の普及を図るため、出版物・広報物等に掲載する
    • 医療機関として、自らの機関における医療評価のため、一定期間内の診療実績(受診者数、処置数、治療成績等)を集計し、所属する医療従事者等に供覧し、又は事業報告等に掲載する
    • 自らの機関において提供される医療の質の確保(標準的な診療が提供されていることの確認、院内感染や医療事故の防止、検査の精度管理等)のため、機関内のデータを集積・検討する
江藤先生
すべて冒頭に「~~のため」とついているように、「何の目的でデータ集積や分析、情報共有や情報発信が行われるか」が重要です
  • 労働安全衛生法(昭和 47 年法律第 57 号)に基づく労働安全衛生規則第 14 条第1項第7号の規定による「労働者の健康障害の原因の調査」や、学校保健安全法(昭和 33 年第56 号)の施行規則第 11 条の規定による「保健調査」なども同様に、研究目的でない業務の一環とみなすことができ、「研究」に該当しないものと判断してよい。
    他方、それら法令の定める業務の範囲を超えて、当該業務を通じて得られたサンプル・データ等を利用する場合には、「研究」に該当する可能性がある。
  • 地方公共団体が地域において行う保健事業(検診、好ましい生活習慣の普及等)に関して、例えば、検診の精度管理のために、当該検診で得られたサンプル・データ等の一部又は全部を関係者・関係機関間で共有して検討することは、保健事業の一環とみなすことができ、「研究」に該当しないものと判断してよい。
    他方、保健事業により得られた人の健康に関する情報や検体を用いて、生活習慣病の病態の理解や予防方法の有効性の検証などを通じて、国民の健康の保持増進等に資する知識を得ることを目的として実施される活動は、「研究」に該当する。
  • 専ら教育目的で実施される保健衛生実習等、学術的に既知の事象に関する実験・実習で、得られたサンプルやデータが教育目的以外に利用されない場合には、「研究」に該当しないものと判断してよい。
  • 特定の活動が「研究」に該当するか否かについては、一義的には当該活動を実施する法人、行政機関、個人事業主の責任で判断するものであるが、判断が困難な場合には、この指針の規定する倫理審査委員会の意見を聴くことが推奨される。

参照

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hokabunya/kenkyujigyou/i-kenkyu/index.html

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