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成長戦略実行計画案(令和3年6月18日)

目次

はじめに

成長戦略会議は、昨年12月に中間的な取りまとめを行った。

本成長戦略実行計画は、その後の経済財政諮問会議及び成長戦略会議並びに与党における検討を踏まえ、閣議決定を行うものである。策定にあたっては、経済財政運営と改革の基本方針2021の大きな方向性の下、成長戦略会議における有識者の意見及び与党の提言等を踏まえ、主な施策項目について、取りまとめたものである。

今後、本実行計画を断固たる意思を持って実行に移すこととする。

第1章 新たな日常に向けた成長戦略の考え方

1.成長と分配の好循環の実現に向けた労働生産性・労働参加率の向上と賃金上昇

経済成長率は、「労働参加率」の伸び率と「労働生産性」の伸び率を合計したものである。

2010年から2019年までの2010年代の日本の経済成長率は1.1%/年であり、G7諸国の中では、米国(1.5%/年)、ドイツ(1.3%/年)、英国(1.2%/年)に次ぐ水準である。

これを分解すると、労働参加率の伸び率は0.8%/年であり、G7諸国の中では最も高い。これは、2010年代に女性や高齢者の就業が拡大したためである。日本の労働参加率は、絶対値で見ても53.2%とG7諸国の中で最も高い。

問題は労働生産性である。労働生産性の伸び率は0.3%/年であり、G7諸国の中ではイタリアに次いで低い。日本の労働生産性は、絶対値で見ても7.5万ドルとG7諸国の中で最も低い。

経済成長率を上昇させるためには、労働参加率と労働生産性の向上が必要である。特に、労働生産性の上昇は労働者の実質賃金の上昇と密接な関係があり、実質賃金を引き上げていくためにも、その改善が必要である。その鍵はイノベーションである。

成長戦略によって労働生産性を向上させ、その成果を働く人に賃金の形で分配し、労働分配率を向上させることで、国民の所得水準を持続的に向上させる。これにより、需要の拡大を通じた成長を図り、成長と分配の好循環を実現する。

2.付加価値の高い新製品・新サービスの創出による日本企業のマークアップ率の向上

労働生産性の向上というと、コストに注目しがちだが、労働生産性は売値-コストを基礎とするため、売値が低くても、生産性は低くなる。

製造コストの何倍の価格で販売できているかを示すマークアップ率を見ると、日本は1.3倍に留まり、G7諸国の中で最も低い(図1)。また、米国や欧州企業は、2010年以降、急速にマークアップ率が上昇する一方、日本企業は2010年度以降も低水準で推移している(図2)。

さらに、OECDによると、新製品や新サービスを投入した企業の割合は、先進国の中で日本が最も低い(図3)。

このように、日本企業は新製品や新サービスを生み出せず、十分な売値が確保できていない。AIやビッグデータの活用やブランド力の強化のための事業構造の改革が必要である。日本企業が付加価値の高い新製品や新サービスを生み出し、高い売値を確保できる付加価値を創造することで、労働生産性の向上を図る。

3.国民がWell-beingを実感できる社会の実現

成長戦略による成長と分配の好循環の拡大などを通じて、格差是正を図りつつ、一人一人の国民が結果的にWell-beingを実感できる社会の実現を目指す。

4.コロナ禍により影響が出ている分野の事業の継続と事業再構築の支援

コロナ禍は、過去の経済危機と異なり、全産業に一律の影響を与えているわけではなく、悪影響を受けている企業がある一方、利益を伸ばしている企業もある。日本、米国、欧州の上場企業の利益率の変化を見ると、日米欧いずれも、悪化している企業と改善している企業が左右対称に近い形で存在している。利益率が5%以上向上した企業は、日本14.2%、米国19.0%、欧州23.8%となっている。一方、利益率が5%以上減少した企業は、日本10.7%、米国19.7%、欧州24.8%となっている(図4)。

日本のクレジットカードの購買データによると、日本の消費支出のうち、サービス業の消費支出の減少幅が大きく、特に宿泊、飲食、映画館・スポーツ施設・遊園地等の落ち込みが激しいことが確認される(図5)。

また、2020年3月から2021年3月への雇用者数の変化率を見ると、非正規雇用は、宿泊(▲23.3%)、生活関連・娯楽(▲11.9%)、飲食(▲10.8%)で大きく減少している(図6)。

さらに、正規雇用者は、コロナ禍の中でも、対前年で増加傾向にある一方、非正規雇用者は対前年で減少傾向にあり、特に女性は悪影響が大きい(図7)。この結果、2020年3月から2021年3月にかけて、正規雇用は54万人増加する一方、非正規雇用は96万人減少し、雇用者全体は42万人減少している。

以上のとおり、飲食、宿泊、文化芸術・エンターテインメントなどの業種にはコロナ禍によって大きな影響が生じていることから、事業の継続を支援するとともに、ポストコロナの時代に向けた新たな取組や業態転換といった事業再構築を支援する。

5.潜在可能性のある分野における積極的な成長戦略の強化

他方、コロナ禍の下でも経済を牽引している、デジタルやグリーンといった成長の潜在可能性のある分野については、将来に向けた積極的な成長戦略を進める。これにより、民間の大胆な投資とイノベーションを促し、ポストコロナの時代に対応した社会経済構造への転換につなげることで、Society 5.0の実現を目指す。

第2章 新たな成長の原動力となるデジタル化への集中投資・実装とその環境整備

1.デジタル庁を中心としたデジタル化の推進

未来志向のデジタルトランスフォーメーション(DX)を大胆に推進し、成長の原動力とするとともに、専門人材の強化を図り、全国民にデジタル化の恩恵を届ける。このため、デジタル庁を中心に、国・地方自治体、準公共分野、民間が、徹底した国民目線で、ユーザーにとって使いやすいデザインや内容等を確保したサービスを創出するための環境を整備する。

(1)国民目線のデジタル・ガバメントの推進

マイナポータル等の抜本的な改善を進める。各府省庁のウェブサイトのデザインや内容等の標準化・統一化を図る。

情報システム関連予算を段階的にデジタル庁に一括計上し、情報システムの整備・管理に関する基本方針に合致しているか審査した上で予算配分を行う仕組みを構築する。

情報システムの整備・運用にあたり、最新技術やアジャイル開発(システム開発において設計とテストを繰り返しながら迅速に開発を進める手法)等の導入を図る。

(2)デジタル社会の共通基盤の整備

来年度末にほぼ全ての国民にマイナンバーカードが行き渡ることを目指す。ガバメントクラウド等の官民の共通基盤を整備する。

2025年度を目標に地方自治体の基幹業務システムの標準化を実現するなど、地方自治体の情報システムの統一・標準化を推進する。

行政機関が保有する社会の基本的なデータをベース・レジストリとして整備する。各府省庁が設置しているデータセンターの立地環境を段階的に最適化する。

感染症等の社会経済のリアルタイムデータを迅速に収集し、分析能力を向上させ、きめ細やかな政策立案につなげる。

(3)包括的データ戦略の推進と準公共分野等における共通基盤の整備

データ流通を促進するルールの具体化やデータ取引の仕組みの整備など、包括的なデータ戦略を推進する。

医療、教育、防災等の準公共分野等において、データ標準の策定やデータ連携基盤の整備等を支援するプログラムの創設を検討する。

(4)デジタル人材の育成

来年度以降、国家公務員採用総合職試験の新たな試験区分「デジタル」の合格者の積極的な採用に努めるなど、行政機関におけるデジタル人材の採用・育成を進める。優秀な人材が民間、地方自治体、政府を行き来しながらキャリアを積める環境を整備する。

民間企業におけるデジタル人材の育成・活用を推進する。社会全体で求められるデジタル人材像を共有して人材育成・確保を図るため、経済界や教育機関等と協力して、教育コンテンツやカリキュラムの整備、実践的な学びの場の提供等を行うデジタル人材プラットフォームを構築し、地方における民間のデジタル人材育成の取組とも連携する。さらに、経済界との協力を含む体制整備を行い、各種デジタル人材のスキルを評価する基準を作成する。地方自治体のデジタル化を推進するため、地方自治体間の人材の共有も含め、デジタル人材の育成・確保を図る。

2.5Gの早期全国展開、ポスト5Gの推進、いわゆる6G(ビヨンド5G)の推進

安全・安心な5Gの情報通信インフラの早期かつ集中的な整備を推進する。今後の産業用途への拡大に必要な多数同時接続や超低遅延の機能が強化された5G(ポスト5G)、さらには6G(ビヨンド5G)の技術開発を推進する。

3.携帯電話料金の低廉化

利用者の理解と合理的な選択を助けるための情報提供の強化や環境の整備、乗換えを妨げる様々な障壁の引下げを推進するとともに、事業者間取引の適正化など競争環境の整備を進める。

4.デジタルプラットフォーム取引透明化法の着実な執行とデジタル広告市場の透明化・公正化のためのルール整備

デジタルプラットフォーム取引透明化法を着実に執行する。また、同法の対象にデジタル広告市場を追加するなど、透明化・公正化のためのルール整備を進める。スマートフォンなどのオペレーティングシステム(OS)を供給するプラットフォーム事業者が、デジタル市場における競争環境に与える影響について、欧米の動向も注視しつつ、競争評価を行う。

5.デジタル技術を踏まえた規制の再検討

モビリティ、金融、建築などの分野について、AI等のデジタル技術も用いて第4次産業革命時代にふさわしい規制制度に改革する。実証事業の結果を踏まえ、具体的な制度改革をまとめる。

(1)モビリティ分野

自動車の完成検査において、AI等を活用した検査が可能と考えられる検査項目について、検査員が行っている検査をAI等で代替することが可能となるよう、本年内に制度改正を行う。

(2)金融分野

金融商品販売における高齢顧客対応に関して、AI等の活用を含む投資家の能力や状況に応じて柔軟な顧客対応を図る制度改正について、本年度中に結論を得る。

(3)建築分野

外壁調査を行う赤外線装置を搭載したドローンについて、残された課題の検証を本年度に行う。一級建築士等による打診調査と同等以上の精度を確認の上、制度改正を行い、来年度以降、建築物の定期検査における外壁調査で使用可能とする。

6.ブロックチェーン等の新しいデジタル技術の活用

サプライチェーンの効率化や官民の様々なサービス間でのID(本人確認)連携など、ブロックチェーン等の新しいデジタル技術の活用方策の検討を行う。また、非代替性トークン(NFT)やセキュリティトークンに関する事業環境の整備を行う。

7.スマート農林水産業

デジタル技術や衛星情報を活用し、地方創生の中核である農林水産業の成長産業化を推進するため、通信環境整備やデジタル人材の育成等を進める。

具体的には、通信環境整備を進めるため、農村での調査、整備手法等をまとめたガイドラインを本年度中に策定する。デジタル人材の育成を強化するため、教育現場における外部人材の活用を進める。また、スマート農林水産業のプロジェクト推進に際し、地域の大学や金融機関をはじめ、多くの異分野の関係者が参画するコンソーシアムの組成を後押しする。スマート農林水産業に必要な機器のレンタルやシェアリング等の支援サービスを提供する事業者の地域への参入を促す。

第3章 グリーン分野の成長

1.2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略

(1)2030年排出削減目標を踏まえたグリーン成長戦略の枠組み

脱炭素化を目指し、グローバルにサプライチェーンの取引先を選別する動きも加速しており、温暖化への対応が成長の成否を決する時代に突入している。再生可能エネルギーを最大限導入する必要がある。2050年カーボンニュートラルという高い目標の実現に向けて、グリーン成長戦略の具体化を下記のとおり進める。その際、需要側である国民一人一人にどのようなメリットがあるのか分かりやすく発信する。また、2030年の排出削減目標を視野に入れて、更なる必要な投資を促す方策を検討する。なお、継続的に戦略の進捗状況のフォローアップと内容や分野の見直しを行う。

(2)分野横断的な主要政策ツール

①予算

2兆円の基金により、10年間にわたり、継続的に企業の挑戦を支援することを通じて革新的なイノベーションを促していく。

②税制

投資促進税制により、脱炭素化効果が高い製品の生産設備や生産工程等の脱炭素化を進める設備の投資を促進する。

③規制改革・標準化

グリーン投資を誘発するため、規制を総点検する。新技術の需要を創出するような規制強化、新技術を想定していない規制の緩和、新技術を世界で活用しやすくするような国際標準化に取り組む。

④国際連携

国内市場のみならず、新興国等の海外市場を獲得し、スケールメリットをいかしたコスト削減を通じて国内産業の競争力を強化する。あわせて、直接投資、M&Aを通じ、海外の資金、技術、販路、経営を取り込んでいく。

(3)分野別の課題と対応

①洋上風力・次世代型太陽光・地熱産業

洋上風力は、経済波及効果が期待されることから、魅力的な国内市場を創出することにより、国内外の投資を呼び込み、競争力があり強靱なサプライチェーンを構築する。さらに、アジア展開も見据えた次世代技術開発、国際連携に取り組み、国際競争に勝ち抜く次世代産業を創造していく。

具体的には、導入目標として、2030年までに1,000万kW、2040年までに浮体式も含む3,000万kW~4,500万kWの案件を形成する。

次世代型太陽電池の技術開発を通じ、2030年を目途に普及段階への移行を図り、既存の太陽電池では設置が困難な住宅・建築物等への設置拡大・市場化を実現する。地熱発電は、ベースロード電源となり得る再エネとして期待されることから、リスクマネーの供給や関係法令の規制の運用見直し、技術開発を通じて、大幅な導入拡大を図る。

②水素・燃料アンモニア産業

水素は、発電・産業・運輸など幅広く活用されるカーボンニュートラルのキーテクノロジーである。新たな資源と位置付け、自動車用途だけでなく幅広いプレーヤーを巻き込み、2030年に最大300万トンの導入、2050年に2,000万トン程度の供給拡大を目指す。そして、2050年に化石燃料に対して十分な競争力を有する水準、すなわち、水素発電コストをガス火力以下に低減(水素コスト:20円/Nm3程度以下)することを目指す。

燃焼してもCO2を排出しないアンモニアは、石炭火力での混焼などで有効な燃料である。混焼技術を早期に確立し、東南アジア等への展開を図るとともに、国際的なサプライチェーンをいち早く構築する。

③自動車・蓄電池産業

自動車分野においては、サプライチェーン全体でのカーボンニュートラル化を目指し、エネルギーの脱炭素化と合わせて、包括的な支援策を実施し、電動化を推進する。電気自動車・燃料電池自動車等の導入促進に加え、後述の電池の次世代技術開発・製造立地推進、水素ステーションの整備、電気自動車向けの急速充電設備の整備等により、電動車について、遅くとも2030年までにガソリン車並みの経済性・利便性を実現する。

④カーボンリサイクルに係る産業・マテリアル産業

カーボンリサイクルは、CO2を資源として有効活用する技術であり、カーボンニュートラル社会の実現に重要な横断的分野である。日本に競争力があり、コスト低減、社会実装を進めた上で、グローバル展開を目指す。

具体的には、CO2吸収型コンクリートは、2030年には需要拡大を通じて既存コンクリートと同価格(=30円/kg)を、2050年には防錆性能を持つ新製品を建築用途にも使用可能とすることを目指す。輸送機器用等のCO2と水素の合成燃料について、技術開発・実証を今後10年間で集中的に行い、2040年までの自立商用化を目指す。

マテリアル産業は、水素を用いた高炉製鉄法など、世界に先駆けゼロカーボン・スチールの技術開発・供給を行い、2050年に年間最大約5億トン、約40兆円と見込まれるグリーンスチール市場の獲得を目指す。

⑤住宅建築物産業・次世代電力マネジメント産業

住宅・建築物は民生部門のエネルギー消費量削減に大きく影響する分野である。高度な技術を国内に普及させる市場環境を創造しつつ、海外への技術展開も見込む。具体的には、規制的措置を含む省エネ対策の強化について、ロードマップ策定などの取組を具体化するとともに、住宅や建築物のエネルギー消費性能に関する基準や長期優良住宅の認定基準・住宅性能表示制度の見直し、住宅・建築物の長寿命化などにより、省エネ性能の向上を図っていく。

再エネの大量導入等に伴う、電力系統の混雑を解消するため、デジタル技術を活用して、より高度な系統運用が行える次世代送電網の構築を図る。また、デジタル技術を活用して、太陽光や風力などの変動性が大きい再エネと蓄電池等を組み合わせた電力需給の最適化サービスを提供する事業を促進する。

⑥次世代熱エネルギー産業

再生可能エネルギー由来等の水素とCO2から合成したメタンは、都市ガス導管など既存のインフラを活用して天然ガスを代替できるため、熱需要に必要なガスの脱炭素化において鍵となる。

合成メタンについて、技術開発を進め、2030年までに利用開始を目指す。2050年には、既存のガス供給インフラにおいて合成メタンを90%利用し、水素直接利用等の手段と合わせて、ガスの脱炭素化達成を目指す。

⑦原子力産業

原子力は、実用段階にある脱炭素の選択肢である。可能な限り依存度を低減しつつ、国内での着実な安全最優先の再稼働の進展とともに、米・英等で進む次世代革新炉等の開発に、高い製造能力を持つ日本企業も連携して参画し、多様な原子力技術のイノベーションを加速化していく。安全性等に優れた炉の追求など将来に向けた研究開発・人材育成等を推進する。

具体的には、2030年までに、国際連携による小型モジュール炉技術の実証、高温ガス炉に係る要素技術確立等を進めるとともに、核融合研究開発を着実に推進する。

⑧半導体・情報通信産業

カーボンニュートラルは、製造・サービス・輸送・インフラなど、あらゆる分野で電化・デジタル化が進んだ社会によって実現される。したがって、①デジタル化によるエネルギー需要の効率化と、②デジタル機器・情報通信自体の省エネ・グリーン化の2つのアプローチを、車の両輪として推進する。2030年までに全ての新設データセンターの30%省エネ化及び国内データセンターの使用電力の一部の再エネ化、2040年に半導体・情報通信産業のカーボンニュートラルを目指す。

⑨船舶産業

水素、アンモニア等の代替燃料を使ったゼロエミッション船について、技術開発を進め、2025年までに実証事業を開始し、従来の目標である2028年よりも前倒しで商業運航を実現するとともに、2030年には更なる普及を目指す。

⑩物流・人流・土木インフラ産業

水素の輸入等のためのカーボンニュートラルポートの形成、スマート交通の導入、自転車移動の導入促進、グリーン物流の推進、交通ネットワーク・拠点・輸送の効率化・低炭素化の推進、インフラ・都市空間等でのゼロエミッション化、建設施工におけるカーボンニュートラルの実現に総合的に取り組むことで、物流・人流・土木インフラ産業での2050年のカーボンニュートラル実現を目指す。

⑪食料・農林水産業

みどりの食料システム戦略に基づき、生産、加工・流通、消費に至るサプライチェーン全体で、革新的な技術・生産体系の開発と社会実装を推進し、2050年までに農林水産業のCO2ゼロエミッション化の実現を目指す。

具体的には、農林業機械・漁船の電化・水素化等や、農畜産業由来の温室効果ガスの削減、農地・海洋における炭素の長期・大量貯蔵といった吸収源の取組、食品ロスの削減等を強力に推進する。

また、森林・木材によるCO2吸収・貯蔵機能を強化するため、高層木造技術の確立など建築物の木造化等を促進しつつ、間伐や成長に優れた苗木等を活用した再造林等の森の若返りにも取り組む。

⑫航空機産業

ICAO(国際民間航空機関)が2020年比でCO2排出量を増加させないことを決定した中、電動化・ハイブリッド電動化、水素等の代替燃料、機体向け炭素繊維複合材などにおける我が国航空機製造業の技術的優位性の確立を目指す。

具体的には、将来航空機の市場導入のタイミングに合わせ、2030年以降の電動化技術の拡大、2035年以降の水素航空機等に必要なコア技術の確立を目指す。

⑬資源循環関連産業

廃棄物のリデュース、リユース、リサイクル、リニューアブルについては、法律や計画整備により技術開発・社会実装を後押ししている。廃棄物発電・熱利用、バイオガス利用といった技術は既に商用フェーズに入り、普及や高度化が進んでいる。今後、これらの取組について、技術の高度化、設備の整備、低コスト化等により更なる推進を図る。循環経済への移行も進めつつ、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする。

⑭ライフスタイル関連産業

ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)・ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)や家電、給湯等の機器、動く蓄電池となる電気自動車等の組合せを実装し、住まいや移動のトータルマネジメントを推進する。ナッジやシェアリングを通じた行動変容を促す。CO2削減効果の検証のための技術開発・実証等に取り組む。

2.カーボンプライシング

カーボンプライシングなどの市場メカニズムを用いる経済的手法は、産業の競争力強化やイノベーション、投資促進につながるよう、成長に資するものについて躊躇なく取り組む。

国際的に、民間主導でのクレジット売買市場の拡大の動きが加速化していることも踏まえて、我が国における炭素削減価値が取引できる市場(クレジット市場)の厚みが増すような具体策を講じて、気候変動対策を先駆的に行う企業のニーズに早急に答えていく。

具体的には、足下で、J-クレジットや非化石証書などの炭素削減価値を有するクレジットに対する企業ニーズが高まっている情勢に鑑み、まずは、これらのクレジットに係る既存制度を見直し、自主的かつ市場ベースでのカーボンプライシングを促進する。

その上で、炭素税や排出量取引については、負担の在り方にも考慮しつつ、プライシングと財源効果両面で投資の促進につながり、成長に資する制度設計ができるかどうか、専門的・技術的な議論を進める。その際、現下の経済情勢や代替手段の有無等、国際的な動向や我が国の事情、先行する自治体の取組、産業の国際競争力への影響等を踏まえるものとする。

加えて、我が国は、自由貿易の旗手としての指導力を存分に発揮しつつ、これと温暖化対策を両立する公正な国際ルールづくりを主導する。その際、炭素国境調整措置に関する我が国としての基本的考え方を整理した上で、EU等の議論の動向にも注視し、戦略的に対応する。

3.カーボンニュートラル市場への内外の民間資金の呼び込み

(1)円滑な資金供給に向けた基盤整備

3,000兆円ともいわれる内外の環境投資資金を呼び込む。サステナブルファイナンスに向けた環境整備を図る観点から必要なガイドラインを作成する。

鉄鋼、化学、製紙・パルプ、セメント、電力、ガス、石油等の多排出産業のトランジションのための分野別ロードマップ策定やアジアの移行支援を進める。

企業年金等の機関投資家におけるスチュワードシップ・コードの受入れ、責任投資原則(PRI)への署名、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース:Task Force on Climate-related Financial Disclosures)の提言に沿った開示などの強化を促し、運用戦略の情報開示を求める。

(2)グリーンボンド等の取引の環境整備

グリーンボンド等の取引が活発に行われるグリーン国際金融センターの実現を目指す。金融実務からみて利便性が高い情報基盤の整備を図る。グリーンボンド等の適格性を評価する民間の認証枠組みの構築や評価機関の育成を後押しする。

(3)サステナビリティに関する開示の充実

コーポレートガバナンス・コード等を通じて、プライム市場(来年4月の東証の市場再編後、時価総額が大きく、より高いガバナンス水準を備える企業が上場する市場)上場企業等に対して、TCFD等の国際的枠組みに基づく開示の質と量の充実を促す。また、国際基準の策定に日本として戦略的に参加する。

(4)金融機関による融資先支援と官民連携

金融機関と事業者との積極的な対話やこれに基づく投融資を促進する。金融機関の気候変動リスク管理の向上を図るため、本年度中を目途に、金融監督当局によるガイダンスの策定や、地域金融機関への取組支援等を行う。

4.地域脱炭素ロードマップ

地域脱炭素ロードマップに基づき、少なくとも100か所の脱炭素先行地域において2030年までの民生部門の電力消費における脱炭素実現を目指す。また、重点対策を全国で実施し、先行地域を核に脱炭素ドミノを実現する。特に以下の事項を中心に、今後5年間で集中して取組を進める。

(1)地域の取組に対する継続的・包括的な支援

人材派遣・育成、情報・技術の共有、必要な資金の確保のため、先行地域をはじめとする地域の脱炭素取組を継続的・包括的に支援するスキームを構築する。

(2)ライフスタイルイノベーション

製品・サービスのCO2排出量の「見える化」、脱炭素型の製品・サービスの積極的選択を促すインセンティブ付与、ふるさと納税の返礼品として地域再エネの利用、ナッジの社会実装、アンバサダー等を活用した国民運動を展開する。

(3)脱炭素に向けたルールのイノベーション

環境保全や円滑な地域合意形成を図りつつ、事業者の予見可能性にも資する再エネ促進区域を設定し、同区域において、地域共生・裨益型の太陽光発電等の再エネを促進する。風力発電促進等のための環境アセスメントの最適化の検討、科学調査実施による地域共生型の地熱発電の開発加速化などに向けた制度的対応等に取り組む。

第4章 グリーン成長戦略に向けた新たな投資の実現

1.カーボンニュートラルに伴う産業構造転換

2050年カーボンニュートラルに伴う産業構造転換を支援する。例えば、自動車の電動化に伴い、エンジン部品サプライヤーが電動部品製造に挑戦したり、ガソリンスタンド・整備拠点が地域の新たな人流・物流・サービス拠点・EVステーション化したりする等の攻めの業態転換を支援する。あわせて、産業構造転換に伴う失業なき労働移動を支援する。

2.カーボンニュートラルに伴う電化とデジタル技術の活用

カーボンニュートラルは電化社会が前提となる。例えば、再生可能エネルギーを最大限いかすためには、電力ネットワークのデジタル制御が重要である。車、ドローン、航空機、鉄道、これらの自動走行は、デジタル制御である。製造もサービスも、現場をロボットがサポートする。グリーン成長戦略を支えるのは、強靱なデジタルインフラであり、グリーンとデジタルは、車の両輪である。環境関連分野のデジタル化により、効率的、効果的にグリーン化を進めていく。世界のグリーン産業を牽引し、経済と環境の好循環を作り出していく。

3.水素ステーションの整備

燃料電池自動車・燃料電池バス及び燃料電池トラックの普及を見据え、2030年までに1,000基程度の水素ステーションについて、人流・物流を考慮しながら最適な配置となるよう整備する。バスやトラックなど商用車向けの水素ステーションについては、事業所専用の充填設備も含め、整備を推進する。

4.電気自動車向けの急速充電設備の整備

充電設備の不足は、電気自動車普及の妨げとなる。急速充電設備を3万基設置し、遅くとも2030年までにガソリン車並みの利便性を実現するよう、強力に整備を進める。

5.石炭火力自家発電のガス転換等

鉄鋼、化学、製紙・パルプ、セメントといったエネルギー多消費型産業を中心に、石炭火力自家発電のガス転換や、低効率の高炉・コークス炉、工業炉などの設備の高効率化更新を推進する。

6.再エネ普及のための送電線網の整備

再エネ普及のための送電線網の整備を加速化するため、海底直流送電線に関する実現可能性調査(FS調査)やケーブルの製造設備等に係る設備投資を推進する。

第5章 「人」への投資の強化

1.フリーランス保護制度の在り方

実態調査によると、取引先とのトラブルを経験したことがあるフリーランスのうち、そもそも書面・電子メールが交付されていない者や、交付されていても取引条件が十分に明記されていなかった者が6割となっている。こうした状況を改善し、フリーランスとして安心して働ける環境を整備するため、事業者とフリーランスの取引について、書面での契約のルール化など、法制面の措置を検討する。

フリーランスのセーフティーネットについて検討する。

2.テレワークの定着に向けた取組

テレワークの定着に向けて、労働基準関係法令の適用について、ガイドラインの周知を図る。

また、全国において良質なテレワークを推進するため、ICTツールの積極的な活用やサテライトオフィスの整備等を進める。

事業者にテレワークの実施状況について公表するよう促す。

3.兼業・副業の解禁や短時間正社員の導入促進などの新しい働き方の実現

多様な働き方や新しい働き方を希望する方のニーズに応え、企業における兼業・副業の選択肢を提供するとともに、短時間正社員等の多様な正社員制度の導入を促進する。産業構造の変化に伴う労働移動の円滑化を図るためにも、フェーズⅡの働き方改革を推進する。

選択的週休三日制度について、好事例の収集・提供等により、企業における導入を促し、普及を図る。

4.女性・外国人・中途採用者の登用などの多様性の推進

日本企業の成長力を一層強化するため、女性、外国人、中途採用者が活躍できるよう、多様性を包摂する組織への変革を促す。

留学経験者や国際機関勤務経験者など異なる文化を経験している方の活躍の場を広げる。

5.人事評価制度の見直しなど若い世代の雇用環境の安定化

子育て世代の収入の向上・安定を図るため、企業の人事評価制度の見直し等を通じて、若い世代の雇用環境の安定化を図る。

6.労働移動の円滑化

リカレント教育の推進など、産業構造転換に伴う失業なき労働移動を支援する。また、特に、コロナ禍により雇用が不安定化しているのは、前述のとおり、飲食・宿泊・文化芸術・エンターテインメントなどで働く非正規雇用労働者の方々である。特に、女性の非正規雇用労働者で20代~40代の方々への影響が大きい(図8)。

他方、女性の非正規雇用労働者の方々に非正規雇用を選択した理由を問うたところ、正規雇用の仕事がないからは10.3%であり、都合の良い時間に働きたい(39.9%)、家事・育児・介護と両立しやすい(19.7%)といった優先順位が高く(図9)、時間的制約があるため、フルタイムの職業への労働移動は困難なケースが少なくない。

これらの方々のために、現在増加している正規雇用職への労働移動と時間的制約の少ない職への労働移動の選択肢を提供する。

このため、非正規雇用の方々が、簡単なトレーニングを行って、時間的制約の少ない事務職などに失業なく労働移動できるシステムを検討する。同時に、企業側にも、勤務時間の分割・シフト制の普及や、短時間正社員の導入など多様な働き方の許容を求める。

7.ギガスクール構想の推進による個別最適な学びや協働的な学びの充実

ハード・ソフト・人材一体となった新しい時代の学びの環境の整備(ギガスクール構想など)を推進し、発達の段階や児童生徒の状況に応じた個別最適な学びや協働的な学びを充実するため、データ駆動型の教育への転換による学びの変革を推進する。

8.全世代型社会保障改革の方針の実施

昨年末に閣議決定した「全世代型社会保障改革の方針」を着実に実施する。

第6章 経済安全保障の確保と集中投資

1.経済安全保障政策の推進

技術覇権を巡る争いの激化等を受け、経済成長と安全保障の両面から大きな可能性を有する、半導体、AI、量子、5G等のデュアルユース技術(軍事転用可能な民生技術)への関心が高まっている。

こうした中、コロナ禍と長期化・構造化する米中対立によって、グローバルなサプライチェーンの脆弱性や、国家・地域間の相互依存リスクが顕在化した。

国際環境の変化を受け、各国は前例のない規模の国費を投じ、経済安全保障の観点から重要な生産基盤を自国に囲い込む政策を展開している。

このような非連続な変化に対応し、我が国として自由・民主主義、基本的人権の尊重といった普遍的な価値を守り、有志国・パートナーと連携して法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を実現するためには、我が国の経済成長と安全保障を支える戦略技術・物資を特定した上で、技術を適切に守ると同時に、従来とは一線を画する措置を講じ、自律性の確保と優位性の獲得を実現していく必要がある。このため、経済安全保障に係る以下の施策を総合的・包括的に進める。

以下の緊急を要する課題については、順次、対応方針を固め、既存事業との整理等を行いつつ、必要な取組を進める。

(1)経済安全保障の観点からの技術優越性の確保

①技術の特定

重要技術の特定に資するための調査分析等を行うシンクタンク機能を強化するため、本年度中に機能を立ち上げるとともに、推進体制を整備する。

②技術の育成

宇宙、量子、AI、スーパーコンピューター・半導体、原子力、先端素材、バイオ、海洋等の分野における経済安全保障の強化の観点から重要な先端技術について、関係省庁等が連携し、実用化に向けた強力な支援を行う新たなプロジェクトを創出する。

国際共同研究を円滑に推進し、我が国の技術的優位性を確保・維持する観点も踏まえ、重要な技術情報を保全し、共有・活用を図る仕組みを構築する。

③技術の保全
(a)輸出管理の見直し

既存の国際輸出管理レジームを補完する新たな安全保障貿易管理の枠組みの早期の実現を目指す。

(b)対内直接投資審査

有志国とも連携し、事前審査及び事後モニタリングに係る関係省庁の連携強化を進めつつ、地方出先機関が持つリソースも活用して、執行体制の強化を図る。また、指定業種の在り方に係る検討を進める。

(c)技術情報の水際での管理強化

留学生・研究者等の受入審査を強化し、そのための体制整備等を推進する。

(d)「みなし輸出」管理の対象の明確化

居住者への情報提供であっても、非居住者へ技術情報を提供することと事実上同一と考えられる場合には管理対象とすることとし、来年度中の実施を目指す。

(e)インテリジェンス能力の強化

経済安全保障に係る情報収集・分析・集約・共有等に必要な体制を強化する。

(f)研究の健全性・公正性の確保

大学・研究機関等において自律的に研究の健全性・公正性を高める取組を推進するため、政府においてガイドラインを策定する。また、競争的研究費への申請に当たり、本年度から順次、外国資金等の受入状況等について開示を求め、来年度には開示対象を拡大する。

(g)特許の公開制度の在り方

特許の公開制度について、各国の特許制度も念頭に、イノベーションの促進と両立させつつ、安全保障の観点から非公開化を行うための措置について検討を進める。

(2)基幹インフラ・サプライチェーンに係る脅威の低減・自律性の向上

通信、エネルギー、金融、交通、医療等の基幹的なインフラ産業について、機能の維持等に関する安全性・信頼性を確保するため、機器・システムの利用や業務提携・委託等を通じたリスクに対処する観点から現行制度・運用を点検し、必要な措置の検討を進める。

半導体、医薬品、電池、レアアースを含む重要鉱物等の先行的な重点項目とともに、基幹的なインフラ産業において不可欠な物資・技術について、サプライチェーンの分析を進め、国内における生産能力の確保・強化や調達の多元化など、サプライチェーンの強靱化に必要な対策を検討する。

(3)経済安全保障の強化推進に向けた中長期的な資金拠出等を確保する枠組みの検討

我が国の経済安全保障の強化推進に向けて、先端的な重要技術に係る研究開発力を強化するとともに、サプライチェーン上の重要技術・物資の生産・供給能力などの戦略的な国内産業基盤の確保を推進するため、主要国の動向も念頭に、中長期的な資金拠出等を確保する枠組みも含めた支援の在り方を検討し、早期の構築を目指す。

2.先端半導体技術の開発・製造立地推進

世界の半導体市場は、2019年に45兆円に拡大し、今後も更なる成長が予測されている。一方、日本企業の半導体の売上高シェアは、1988年の50.3%から、2019年に10.0%まで低下した(図10)。

日本の半導体需要のうち、国内生産比率は35.8%であり、64.2%は輸入に依存している。輸入先としては台湾(26.8%)や中国(8.9%)への依存度が高い(図11)。米国半導体工業会によると、10ナノメートル未満の先端半導体の製造能力は台湾が92%を占め、日本は28-45ナノメートルで5%、45ナノメートル超で13%のシェアを有するが、22ナノメートル以下の先端半導体の製造能力は有していない(図12)。

日本は世界で最も多くの半導体工場数を持つが、ローエンドの半導体工場が多数を占めている(図13)。

デジタル社会を支える先端半導体の設計やその製造技術の開発を、研究開発基金等で積極的に支援する。また、先端半導体の生産拠点については国際的に集中度が高いため、他国に匹敵する取組を早急に進め、先端半導体の生産拠点の日本への立地を推進することで、確実な供給体制の構築を図る。

3.次世代データセンターの最適配置の推進

デジタルインフラの中核であるデータセンター(大量のコンピューターを設置し、インターネット接続サービスやデータの管理・運用サービスを提供する施設)の立地場所は、以下の観点から重要である。

第一に、セキュリティの観点から重要なデータを他国のデータセンターに依存することは望ましくないとの指摘がある。

第二に、立地場所はデータの伝送遅延に大きな影響を及ぼす。例えば、東京に所在するユーザーの場合、データセンターがシンガポールにある場合の伝送遅延は0.069秒であるのに対して、データセンターが東京にある場合は0.001秒である(図14)。このような伝送遅延は自動走行の自動車の安全確保などにおいて問題となる。第三に、災害に対する強靱性の観点からは、国内における分散立地が必要となるが、日本国内のデータセンターの立地を見ると、その71%が関東に立地しており、東京都だけで49%を占める(図15)。

今後のデジタル需要・データ通信量の急増に対応するとともに、データ保護や災害に対する強靱性を高めるため、高性能・低消費電力のデータセンターについて、新たに最大5か所程度の中核拠点と、需要を勘案しながら最大10か所程度の地方拠点の整備を推進し、国内における最適配置を図る。

4.電池の次世代技術開発・製造立地推進

電動車の重要性が高まる中で、その基幹部品である電池は、将来の自動車産業の競争力を左右する。サプライチェーン強靱化の観点から、次世代電池の研究開発及び、一定以上の規模を有する電池や部品などの大規模生産拠点の立地を図る。

5.レアアース等の重要技術・物資のサプライチェーン

レアアースを含む重要鉱物の開発や生産拠点の多元化を進めるとともに、医薬品等国民が健康な生活を行う上で重要な製品について、サプライチェーンの強靱化を推進する。

6.ものづくり基盤の強化

コロナ禍や米中対立などの中で、サプライチェーンに不測の事態が発生した場合にも柔軟・迅速に対応できるよう、国内ものづくり基盤の強化を図る。素材・材料、ナノテクノロジー分野の研究開発を促進する。

第7章 ウィズコロナ・ポストコロナの世界における我が国企業のダイナミズムの復活~スタートアップを生み出し、かつ、その規模を拡大する環境の整備

我が国のスタートアップの数は近年増加傾向にあるが、企業年齢0-2年の企業が企業全体に占める割合は13.9%にとどまり、米国(20.5%)、英国(22.4%)、フランス(22.8%)に比べて低い(図16)。

また、我が国の上場企業は、ソニーや本田技研工業など1945-1954年に設立された企業が119社と最多である一方、米国の上場企業は、アマゾンやフェイスブックなど1995-2004年に設立された企業が124社と最多である(図17)。

さらに、我が国では成長するスタートアップが少なく、ユニコーン(時価総額10億ドル超の未公開企業)の数は、2021年3月1日現在、米国274社、中国123社、欧州67社であるのに対して、日本は4社に留まる(図18)。

ウィズコロナ・ポストコロナの世界を見据えて、我が国においても、未開拓の分野に進出し、成長の担い手となる企業を創出する環境整備を図る必要がある。

1.新規株式公開(IPO)における価格設定プロセスの見直し

新規株式公開(IPO)による資金調達額を見ると、2019年から2020年にかけて、米国、アジア、欧州は増加する一方、日本では、1件あたりの資金調達額が少ないことに加え、減少している(図19)。

また、学術研究によると、日本のIPOでは、上場後初めて市場で成立する株価(初値)が上場時に起業家が株を売り出す価格(公開価格)を大幅に上回っている(+48.8%)。これは、米国(+17.2%)や英国(+15.8%)など、諸外国と比べても非常に高い水準である(図20)。このため、IPOによる起業家の資金調達額が少なくなっている。

加えて、上場時の株式の割当比率を見ると、米国は、サラリーマンの年金などが77%を占めているのに対し、我が国では個人投資家が70%を占めている状況にあり、サラリーマンの年金などの資金が投資されにくい状況となっている(図21)。

また、日本のIPOのプロセスでは、公開価格に基づく株式取得の割当先は、9割は裁量的に割当が可能である。

こうしたプロセスにおいて、スタートアップは、公開価格による販売合計額から、証券会社の手数料を差し引いた金額を受け取ることとなる。一方、初値が公開価格を上回った場合、公開価格で株式を取得した特定の投資家が差益を得るが、スタートアップには直接の利益が及ばない。このため、同じ発行株数でより多額の資金調達をしえたはずとの指摘があった。

こうした点を踏まえて、IPO時の公開価格設定プロセスの在り方について、実態把握を行い、見直しを図る。

2.SPAC(特別買収目的会社)制度の検討

米国では、非上場企業が創業直後に上場できるSPAC(特別買収目的会社)が新規株式公開(IPO)と同様に活用されている(図22)。また、SPACは米国のみならず、海外の主要取引所で導入・活用されている(図23)。

具体的には、以下の流れでSPACを活用したスタートアップの上場が行われる。

  • ①企業の目利き能力を持つ運営者がSPACを設立。
  • ②運営者は、SPACを株式市場に上場し、最初の資金調達を行う。
  • ③SPAC上場後、運営者は、買収先候補のスタートアップを選び、買収を交渉。
  • ④運営者は、買収についてSPACの株主総会で提案し、株主(一般投資家を含む)の承認を得る。
  • ⑤上場により一般投資家から調達した資金は信託しなければならず、一般投資家は買収に反対であれば資金の返還を受けることができるなど、投資家保護の仕組みがある。なお、買収が実施される際には、機関投資家等から追加の資金調達が行われる。
  • ⑥SPACに買収されることにより、スタートアップが上場企業となる。

我が国のスタートアップからは、SPACでは買収時にスタートアップと投資家の双方が合意して価格を決めるため、お互いに納得した価格で上場できる仕組みであり、公開価格が低すぎることで資金調達額が少なくなる現在の上場の問題を解決する上でも意味があるとの意見があった。他方で、投資家保護が必要との指摘もある。

我が国においても、SPACの上場時の基準や開示、買収に反対した場合や買収が成立しない場合の一般投資家への資金の返還等のSPAC運営者に対する規律、買収先企業に関する投資家の判断を支える開示義務など、投資家保護策等の観点から、SPACを導入した場合に必要な制度整備について、米国をはじめとする海外の規制当局の対応やSPACをめぐる市場の動向、我が国の国際競争力の強化の視点を踏まえつつ、検討する。

3.私募取引の活性化に向けた環境整備

我が国の資本市場は、未上場の企業への投資について、個人投資家による投資手段が限定され、ベンチャーキャピタル以外の投資家の裾野が狭い。未上場のスタートアップへのリスクマネーの流れを太くする観点から、特定投資家について、職業経験や保有資格に応じて柔軟化するなど、その範囲の拡大等を図り、より幅広い層が使いやすい制度とする。

4.スタートアップと大企業の取引適正化のための競争政策の推進

スタートアップと大企業との連携における問題事例とその具体的改善の方向や、独占禁止法の考え方を整理したガイドラインを策定したところであり、周知徹底を図るとともに、公正取引委員会による法執行を強化する。

また、スタートアップ企業と出資者との契約の適正化に向けて、新たなガイドラインを策定する。

5.スタートアップのエコシステム形成に向けた包括的支援

スタートアップのエコシステムを形成するため、新SBIR制度に基づくスタートアップからの政府調達の増大、雇用を増やすスタートアップに対する金融面などの支援、経営者保証ガイドラインの見直し、兼業・副業の促進など、包括的な支援策を立案する。この際、産業界に対して、新卒時や転職時の選択の幅の拡大を求めることなどを通じ人材の流動化を図る。また、今後、スタートアップの柔軟な会社経営を可能とする制度の見直しやレイターステージの資金獲得に係る課題への対応等について、引き続き検討を行う。

第8章 事業再構築・事業再生の環境整備

コロナ禍の中で、日本企業の債務残高は、2019年12月末の570.5兆円から、2020年12月末に622.5兆円となり、52.0兆円増加した(図24)。

これに伴い、コロナ禍の中で債務の過剰感があると感じる企業は、2021年4月に大企業14.5%、中小企業34.5%となっている(図25)。

事業再構築を進めるためには、債務処理の問題は避けて通ることが出来ないことを踏まえ、事業再構築・事業再生の環境整備を図る。

1.大企業・中堅企業の事業再構築・事業再生の環境整備

(1)資本性資金の供給強化及び優先株の引受け推進

企業の財務基盤を強化するため、コロナ禍において、政府金融機関の民間協調融資原則の一時停止、利子補給等による資本性劣後ローンの金利水準の当初3年間1%程度への引下げなどの対応を行ったところであるが、必要に応じて資本性資金の供給や優先株の引受けを更に推進する。

(2)私的整理等の利便性の拡大のための法制面の検討

私的整理は、法的整理と異なり、事業性・収益性の毀損を防ぐことができる。こうした私的整理による事業再生を円滑化するため、債権者保護に配慮しつつ、私的整理の利便性の拡大に向けた法制面の検討を図る。

また、法的整理についても、私的整理である事業再生ADRから法的整理である簡易再生手続への円滑な移行を推進する。

2.中小企業の事業再構築・事業再生の環境整備

(1)中小企業の私的整理等のガイドライン

中小企業の実態を踏まえた事業再生のための私的整理等のガイドラインの策定について検討する。

(2)個人破産への対応

中小企業の倒産時に、個人保証を行う経営者が個人破産となるケースが多いことは、中小企業の経営者にとって事業再生の早期決断の大きな阻害要因になっているとの指摘がある。経営規律の確保に配慮しつつ、対応措置を検討する。

(3)金融機関等の取組

事業再生に関わる私的整理等に対する金融機関等の取組を促す施策を検討する。

3.企業の収益力の回復

事業再構築・事業再生には、様々な手法がある。債務整理はそのオプションの一つであり、本源的な収益力の改善が不可欠である。事業再構築・事業再生を進めるにあたっては、企業が自律的・持続的な成長に向けた収益力の改善に取り組むことを前提とする。

第9章 新たな成長に向けた競争政策等の在り方

1.規制改革の推進

民間の活力を最大限引き出すべく、規制改革を一層推進していく。このため、国家戦略特区や規制のサンドボックス等の制度の利用を一層促進するとともに、その成果の全国展開を進めていく。

2.競争政策のリデザイン

成長戦略の鍵は、規制改革の推進と併せ、競争環境の整備を図る競争政策の強化である。時代の変化を踏まえ、競争政策をリデザインする必要がある。このため、以下の方向で取り組む。

(1)公正取引委員会の唱導の強化

欧米では、競争当局から他の政府機関等に対し、競争の活性化に関する唱導(アドボカシー;提言)が活発に行われ、競争環境の整備が着実に進められている。我が国でも、専門性の高い外部人材も活用しつつ、スタートアップ・中小企業の参入促進や通信等のデジタル市場・電力等のエネルギー市場といったインフラ分野などをはじめとして、公正取引委員会による唱導機能の実効性を強化する。

(2)公正取引委員会の体制及び執行の強化

公正取引委員会の体制及び執行の強化を図るため、量的・質的に人材面の充実を図る。

第10章 足腰の強い中小企業の構築

1.中小企業の事業継続と事業再構築への支援

今後もコロナ禍の影響を受ける中小企業の事業継続の支援に万全を期すとともに、積極的に事業再構築に取り組む中小企業を支援するため、事業再構築補助金の不断の見直しを図る。

2.中小企業の成長を通じた労働生産性の向上

中堅企業に成長し、海外で競争できる企業を増やすため、民間支援機関との連携により海外展開するまでの伴走支援を強化する。

中小企業の円滑な事業承継を後押しするとともに、中小企業がM&Aの支援を適切に活用できる環境を整備する。具体的には、①事業承継・引継ぎ支援センターの強化や、②簡易な企業価値評価ツールの整備、③M&A支援機関に係る登録制度や自主規制団体の設立など支援機関の適切な取組を促す仕組みの構築を図る。

ドイツのフラウンホーファー研究機構による強い中小企業群創出のモデルを参考に、既存の研究開発機関の機能強化の検討等を含め、意欲ある中小企業の支援態勢を検討する。

3.大企業と中小企業との取引の適正化

(1)下請取引の適正化

下請業者への取引価格のしわ寄せを防ぐため、監督体制を強化する。また、業界による自主行動計画の策定を加速するとともに、業界だけでなく、個別企業による取組強化についても、コーポレートガバナンスの改善の一環として促進する。

(2)大企業と中小企業の連携促進

大企業と中小企業の共存共栄を目指すパートナーシップ構築宣言について、官民をあげて周知や働きかけを実施し、本年度中に2,000社の宣言を目指すとともに、宣言の拡大などを通じ、大企業と中小企業の連携強化を図っていく。

(3)約束手形の利用の廃止

本年夏を目途に、産業界及び金融界による自主行動計画の策定を求めることで、5年後の約束手形の利用の廃止に向けた取組を促進する。まずは、下請代金の支払に係る約束手形の支払サイトについて60日以内への短縮化を推進する。さらに、小切手の全面的な電子化を図る。

(4)系列を超えた取引拡大

電子受発注システムの標準化等を通じて、中小企業のみならず発注側企業等も含めたシステムの利用を促進し、中小企業・小規模事業者の系列を超えた取引拡大を促す。

4.地域の中小企業・小規模事業者等への支援

地域の中小企業、小規模事業者等は、地域の雇用のみならず、人口が特に減少している地域社会において地域を支える重要な機能を果たしている。これらの事業者の生産性向上を図りつつ、生活に不可欠な機能の確保を図るため、地方自治体と国が連携して、地域づくりの担い手の創出や、中小企業・小規模事業者等による地域コミュニティを支える取組を強化していく。

5.官民連携による経営支援の高度化

コロナ禍から立ち上がろうとする事業者が、適切な経営支援を受けられるよう、各地域で民間も含む支援機関のネットワークを構築するとともに、個々の支援機関の専門性等の見える化を図る。その一環として、身近な支援機関である中小企業診断士に求められる専門分野の見える化を進める。

第11章 イノベーションへの投資の強化

上記記載のとおり、デジタルやグリーン分野のイノベーションに我が国として集中投資を行う。これに加え、下記の取組を実施する。

1.リバースイノベーションの推進

最先端技術を活用し、新興国ならではの課題を克服するための新製品や新サービスが創出され、先進国へ逆輸入されるリバースイノベーションが加速している。我が国においても、これを推進し、日本企業の企業文化の変革や国内の構造改革につなげることが重要である。このため、アジアの企業との共同プロジェクトを強力に推進する。

2.文理融合の推進

学部改革等により、理系、文系をはじめとする分野の垣根を乗り越え、研究開発の成果により、社会を変革させるとともに、研究人材育成のための投資を大幅に充実させる。

3.量子技術等の最先端技術の研究開発の加速

AIや量子技術といった最先端の研究開発を加速させることにより、感染症や激甚化する災害など直面する脅威に対応するとともに、次の成長の原動力とする。革新的研究開発を推進するため、ムーンショット型研究開発を抜本的に強化する。革新的環境技術、AI技術、バイオ技術、量子技術、マテリアル技術、宇宙開発利用等の重点分野の研究開発・社会実装・人材育成等を戦略的に推進する。

このため、今後5年間で政府の研究開発投資30兆円、官民120兆円の投資目標の達成に向けて取り組み、国際的な研究開発競争をリードする。

4.大学ファンドの創設などを通じた大学改革

優秀な人材と豊富な資金が集まる世界トップクラスの研究大学を目指し、10兆円規模の大学ファンドへの拡充について、本年度内に目途を立てる。大学改革に向けた新たな法的枠組みを早急に検討し、次期通常国会への提出を目指す。

また、博士後期課程学生支援を着実に実施するとともに、地方大学を振興するための支援策を強化する。

5.知的財産戦略の推進

スマートシティ、ビヨンド5Gなど重要分野を中心に、国際標準の戦略的な活用に向けた取組を加速する。

知的財産など無形資産投資を促進する。企業の知的財産への投資やその活用戦略を投資家や金融機関が適切に評価できるよう、本年中にその開示に関するガイドラインを策定し、開示を促す。

コンテンツ産業が持続的に発展する環境を構築するため、著作権制度の見直し、制作現場における生産性向上や取引環境の改善等を進める。

6.未来社会の実験場としての2025年日本国際博覧会

大阪・関西万博をポストコロナの社会の在り方を提示する場とするとともに、グリーンイノベーションを推進するための技術の実証など、新たな技術やシステムを実証し、Society 5.0を体感できる未来社会の実験場とすべく、官民一丸となって準備を加速していく。

7.福島における新たな産業の創出

福島イノベーション・コースト構想、福島新エネ社会構想等を推進する。

第12章 コーポレートガバナンス改革

中長期的な企業価値の向上に向けて、改訂されたコーポレートガバナンス・コードに基づき、以下の取組を推進する。

取締役会がその機能を適切に発揮するため、プライム市場上場会社は、独立社外取締役を少なくとも3分の1以上選任する。

上場会社は、女性・外国人・中途採用者の管理職への登用等、中核人材の登用等における多様性確保についての考え方と自主的かつ測定可能な目標を示すとともに、その状況を開示する。

第13章 重要分野における取組

1.ワクチンの国内での開発・生産

「ワクチン開発・生産体制強化戦略」(令和3年6月1日閣議決定)に基づき、ワクチンを国内で開発・生産し、速やかな供給ができる研究開発・生産体制を構築するため、世界トップレベルの研究開発拠点の形成、戦略性を持った研究費のファンディング機能の強化、治験環境の整備・拡充、薬事承認プロセスの迅速化のための体制・基準整備、ワクチン製造拠点の整備、ワクチン開発・製造産業の育成・振興等を進める。また、そのために必要な取組の財源を安定的に確保する。

2.医薬品産業の成長戦略

ライフサイエンスは、デジタルやグリーンと並ぶ重要戦略分野であり、安全保障上も重要な分野である。

革新的新薬を創出する製薬企業が成長できるイノベーション環境を整備するため、研究開発支援の強化、創薬ベンチャーの支援、国際共同治験の推進、国内バイオ医薬品産業の強化、全ゲノム解析等実行計画及びこれに基づくロードマップの推進と産官学の関係者が幅広く分析・活用できる体制の構築、医療情報を利活用しやすい環境整備、薬価制度における新薬のイノベーションの評価や長期収載品等の評価の在り方の検討、感染症に対するデータバンクの整備、臨床研究法に基づく研究手続の合理化等に向けた法改正を含めた検討、製薬企業の集約化の支援等を進める。

医療上必要不可欠であり、幅広く使用され、安定確保について特に配慮が必要である医薬品のうち優先度の高いものについては、継続的な安定供給を国民全体で支える観点から、薬価の設定や抗菌薬等の安定確保が必要な医薬品の原料等の国内での製造支援、備蓄制度、非常時の買上げの導入などを検討する。また、ワンヘルスアプローチ(人間及び動物の健康並びに環境に関する分野横断的な課題に対し、関係者が連携してその解決に向けて取り組むこと)による薬剤耐性(AMR)対策を推進する。

後発医薬品メーカーが品質確保・安定供給・データの信頼性確保に責任を持つ体制を構築するため、製造販売業者による適切な製造・品質管理体制の確保を図る。共同開発の場合であっても、承認審査時にデータの信頼性確保に関する確認を行う。バイオシミラー(国内で承認されたバイオ医薬品と同等の品質等を有する医薬品)の開発・利用を促進するため、今後の政府目標について速やかに結論を得る。バイオシミラーの利用を促進するための具体的な方策について検討する。

オンライン診療は、安全性と信頼性をベースに、かかりつけ医の場合は初診から原則解禁する。

薬局で市販されるOTC診断薬等の使用推進については、安全性等を確保することが必要であり、個別品目ごとにOTC化の検討を進めるなどセルフケア・セルフメディケーションを推進する。

医療用医薬品の流通構造には、製薬メーカーが卸売業者に販売する価格が卸売業者から医療機関・薬局に販売する価格を上回る商慣行や、医療機関・薬局が購入する全品目の価格・割引率をまとめて交渉する商慣行が存在することから、これらの改善に向けて、流通改善ガイドラインの見直しを含めた対応策の検討を行う。

コロナ禍で新たな健康課題が生じていることを踏まえ、保険者努力支援制度や介護保険の保険者機能強化推進交付金等に基づく予防・重症化予防・健康づくりへの支援を推進する。

予防・重症化予防・健康づくりの健康増進効果等に関するエビデンスを確認・蓄積するための実証事業の結果を踏まえて、特定健診・特定保健指導の見直しなど、保険者や地方公共団体等の予防健康事業における活用につなげる。

データヘルス改革を推進し、個人の健康医療情報の利活用に向けた環境整備等を進める。また、レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)の充実や研究利用の際の利便性の向上を図る。

治療用アプリ等のプログラム医療機器の開発・実用化を促進し、開発企業の予見可能性の向上に資するため、審査体制全般について不断の見直しを進める。

漢方について、生薬の国内生産及び国内産業の競争力強化に資する国際標準化を推進する。

医薬品産業のエコシステムを確立するため、政府の司令塔機能の確立を図る。

3.海洋

経済安全保障や海洋関連産業の成長産業化の観点から、海洋状況把握の能力強化やカーボンニュートラルと資源開発に向けた海洋の取組強化を図る。

具体的には、海水温、海流、船舶通航量などの海のデータの活用・官民での共有を図るとともに、北極域研究船の確実な建造をはじめ北極域研究の加速等を図る。また、洋上風力発電の導入促進や世界に先行しているレアアース泥やメタンハイドレート等の海洋資源開発等を進めるほか、無人海洋観測技術の開発や観測システムの充実強化を図る。

4.宇宙

宇宙は成長産業であるとともに安全保障、防災、SDGs達成等にとって不可欠であるとの観点から、宇宙開発利用を強力に推進する。

アンカーテナンシー(国による一定の調達)推進等により、官民連携の下、小型衛星コンステレーションを構築する。また、軌道上データ処理・光通信等の次世代技術の実証を推進する。準天頂衛星や観測衛星などを活用した統合型G空間防災・減災システムの構築や、温室効果ガスの観測、宇宙太陽光発電の研究開発等により、社会課題への対応を図る。アルテミス計画や火星圏からのサンプル採取等の宇宙探査を進めるとともに、日米宇宙産業協力等も視野に入れ、宇宙港の整備などアジアにおける宇宙ビジネスの中核拠点化を目指す。

H3ロケットの完成と将来宇宙輸送システムの研究開発に取り組む。

5.PPP/PFIの推進強化

これまでの成長戦略のフォローアップを行うとともに、PPP/PFIの活用推進等に関する新たな課題について検討を行う。

6.国際金融センターの実現

1,900兆円の個人金融資産等の強みを生かし、海外と比肩しうる魅力ある金融資本市場への改革と海外事業者や高度外国人材を呼び込む環境構築に取り組む。このため、国内顧客に関する銀証ファイアウォール規制については、我が国資本市場の一層の機能発揮、国際金融センターとしての市場の魅力向上、より高度な金融サービスの提供を促すため、顧客の意向や利益相反管理・優越的地位の濫用防止等の観点から、見直しを行う。新規参入の海外銀行・証券会社への金融行政の英語対応や、高度金融人材の特性に応じた在留資格上のポイント付与等の円滑化・迅速化に向けた環境整備を行うとともに、年金等国内の大規模運用機関の運用方針を含む海外金融機関の関心が高い情報を戦略的に発信する。

7.対日直接投資の促進

新たな中長期戦略に基づき、安全保障上の観点からも万全を期しつつ、対日直接投資の促進に向けた政策・取組を総動員していく。これにより、対日直接投資残高を2030年に80兆円、対GDP比で12%とすることを目指す。

8.個別分野の制度改革

(1)自動配送ロボットの制度整備

ウィズコロナの時期が一定期間続く中で、利用者、従業者の安全につながる非接触型の自動配送サービスを実現するため、低速・小型の自動配送ロボットについて、①道路運送車両に該当しないこととした上で、②サービスを提供する事業者に対して連絡先やサービス提供エリア等の情報を事前に届出することを求め、③安全管理の義務に違反した場合には行政機関が措置を行えることとする、④機体の安全性・信頼性の向上が図られるよう、産業界における自主的な基準や認証の仕組みの検討を促すこと等を前提に、本年度のできるだけ早期に、関連法案の提出を行う。

(2)電動キックボードの制度整備

電動キックボードの公道での走行について、実証事業の結果を踏まえ、関連する制度を見直す。具体的には、最高速度等に応じた新たな車両区分の設定、走行場所、ヘルメットや免許の要否等、交通ルールに関する制度改正を検討し、その結果を踏まえ、本年度のできるだけ早期に、関連法案の提出を行う。

(3)ドローン等の制度整備

少子高齢化、過疎化、担い手不足など我が国が抱える諸課題の克服に向け、来年度中にドローンの有人地帯での目視外飛行を可能とするため、機体の安全性を認証する制度や操縦者の技能を証明する制度等の詳細な制度設計を進める。また、空飛ぶクルマについて、2023年の事業開始に向けて、機体や運航の安全基準、操縦者の技能証明基準などの制度整備を進める。

(4)キャッシュレスの環境整備

我が国では、キャッシュレス決済導入の拡大への課題の一つとして、クレジットカード加盟店手数料が高額であることが指摘されている。ヒアリングによると、加盟店手数料の約7割をインターチェンジフィー(クレジットカードでの決済があった際に、お店と契約する決済会社が、利用者と契約する決済会社に支払う手数料)が占めている。こうした点を踏まえ、公正取引委員会による調査や、市場の透明化に向けた関係省庁による更なる検討を実施する。

第14章 地方創生

新型コロナウイルス感染症の感染拡大を契機に、地方への関心が高まっている。テレワーク拡大やデジタル化といった変化を後押しすることで、地方への大きな人の流れを生み出し、東京一極集中の是正につなげるとともに、活力ある地方を創る。

1.観光立国の実現

観光は地方創生の切り札であり、事業の継続と雇用の維持を支援しつつ、感染拡大防止策を徹底した上で国内需要の回復に取り組む。魅力ある観光地域・コンテンツの整備を進める。さらに、国内外の感染状況等を見極めながら、インバウンドの段階的復活に取り組む。

2.農林水産業の成長産業化による活力ある農山漁村の実現

農林水産物・食品について、2025年に2兆円、2030年に5兆円という輸出額目標の達成に向け、27の重点品目、1,200以上の輸出産地・事業者への重点的な支援を行うなど、農林水産業を地域をリードする成長産業とするための改革を進め、所得を向上させ、活力ある農山漁村の実現を図る。また、木材の国際的な需給の逼迫状況を踏まえ、国産材の安定供給体制の構築を推進する。

3.地域金融機関の基盤強化

地域経済の核となる地域金融機関の経営基盤を強化するため、経営改革を進める地域金融機関に対する支援を行う。また、事業者支援に関するノウハウを金融機関の間で共有すること等を通じて、地域金融機関の地方創生に向けた取組を加速する。

4.地域企業のための経営人材マッチング促進

大企業から地域の中堅・中小企業への人の流れを創出し、地域企業の経営人材の確保を支援するため、政府のファンドに整備する人材リストを早期に1万人規模に拡充する。また、人材リストから経営人材を確保した地域企業に対する支援を行う。

5.地方創生に資するテレワークの推進など都会から地方への人の流れの拡大

地方創生に資するテレワークを更に推進していくため、サテライトオフィスの整備、利用を進めるとともに、進出企業による地域課題解決に向けた事業展開を後押しする。また、東京圏の大学等の地方におけるサテライトキャンパスの設置を推進する。さらに、地方への人材派遣や移住、企業の本社機能の移転を後押しする。

6.地域公共交通の活性化

地域経済を支える公共交通の維持・活性化を図るため、デジタル技術の活用等を通じて収益の改善に取り組む事業者を支援するとともに、共同経営など利用者の利便性向上を図る取組を促進する。

7.スーパーシティ構想等の推進

スマートシティの形成を目指し、重点整備地域を中心に全国で、データ連携基盤等の実装事例の創出を進める。

スーパーシティ構想を強力に推進する。区域指定を速やかに進め、関係省庁の事業を集中投資するなど、同構想の早期実現に取り組む。

8.地域づくり人材の確保

人口急減地域特定地域づくり推進法に基づき、人口急減地域における地域経済等の担い手確保を図る。

9.土地政策

地域における迅速な社会資本整備を進めるため、所有者不明土地の円滑な利活用や管理を図るための仕組みの充実等を図る。

第15章 新たな国際競争環境下における活力ある日本経済の実現

1.自由で公正なルールに基づく国際経済体制の主導

コロナ禍がもたらした新たな国際競争環境下において、我が国は引き続き自由で公正なルールに基づく国際経済体制を主導する。

公平な競争条件の確保に向け、産業補助金などの市場歪曲的措置の是正や、電子商取引等のルール形成に取り組む。

RCEP協定の早期発効と各国の履行確保を進める。また、貿易関連手続のデジタル化や、その他の経済連携・投資協定交渉等を戦略的に推進する。

TPP11協定の着実な実施及び拡大に向けた議論を主導していく。

2019年6月のG20大阪サミットで合意された「信頼性のある自由なデータ流通(DFFT)」のための国際ルール作りを推進する。

2.基本的価値を共有する同志国との協力拡大

経済安全保障の観点も考慮し、気候変動や人権等も含めた基本的価値やルールに基づく国際秩序の維持・強化を図る。

自由で開かれたインド太平洋の実現に向けて、地域のサプライチェーン強靱化のための協力を具体化する。

米国や欧州諸国との対話やG7等の枠組みなども活用しながら、基本的価値を共有する国・地域との議論を進め、ワクチン供給や半導体等の重要物資の生産、新興技術協力、気候変動対応等の分野における連携を強化する。

第16章 フォローアップ

成長戦略の推進にあたっては、適切なKPIを設定し、その進捗状況を把握・分析した上で、不断に政策の効果検証を行い、政策の追加・修正を含めて、必要なフォローアップを行っていくこととする。

<出典一覧>

  1. 図1:Jan De Loecker and Jan Eeckhout(2018)「Global Market Power」NBER Working Paper No.24768を基に作成。
  2. 図2:Diez Leigh, and Tambunlertchai (2018) 「Global Market Power and its Macroeconomic Implications」IMF Working Paper No.18/137を基に作成。トムソン・ロイター社の上場企業データベースにおける1980~2016年、46.5万件のデータ(日本企業は8万件、米国企業は13万件)を使用した分析。
  3. 図3:OECD(2017)「OECD Science, Technology, and Industry Scoreboard 2017」を基に作成。企業向けアンケートにおいて、「2012-14年に新製品・サービスを導入(新機能の追加や用途の大幅な改善を含む。)を行った」と回答した企業の割合。
  4. 図4:Bloombergを基に作成。TOPIX500は、東証1部上場企業のうち、株式売買量や時価総額が大きい上位500社で構成する区分。S&P500は、米国証券取引所(ニューヨーク証券取引所、NASDAQ等)上場企業のうち、株式売買量や時価総額が大きい上位500社で構成する区分。STOXX600は、欧州17か国(英国、ドイツ、フランス等)の証券取引所上場企業のうち、株式売買量が大きい上位600社で構成する区分。2021年3月末時点の構成銘柄のうちデータ取得可能なサンプルを集計(日本:459社、米国:442社、欧州:290社)。
  5. 図5:株式会社ナウキャスト、株式会社ジェーシービー「JCB消費NOW」を基に作成。日本各地のJCBグループカード会員から、無作為抽出した100万会員のクレジットカード決済データを活用して作成した消費指数。サービス業は、外食、宿泊、旅行、医療、通信、交通、娯楽、コンテンツ配信など。1人当たり消費金額の変化と消費者数の変化の双方を織り込んだ数値。
  6. 図6:総務省統計局「労働力調査(基本集計)」(2021年4月30日公表)を基に作成。
  7. 図7:総務省統計局「労働力調査(基本集計)」(2021年4月30日公表)を基に作成。
  8. 図8:総務省統計局「労働力調査(基本集計)」(2021年4月30日公表)を基に作成。
  9. 図9:総務省統計局「労働力調査(詳細集計)」(2021年2月16日公表)を基に作成。各月末時点の回答の平均値。複数回答。
    「どうして今の雇用形態についているのですか」に対する回答結果(非正規雇用者に対する設問)。
  10. 図10:経済産業省資料(元データはOmdiaのデータ)を基に作成。
  11. 図11:経済産業省「平成29年 延長産業連関表(平成27年基準) 」、財務省「貿易統計」を基に作成。半導体素子、集積回路の合計の値。台湾と韓国の輸入額については、延長産業連関表で統合された値が公表されているため、貿易統計上の値を用いている。EUは、スウェーデン、デンマーク、英国、アイルランド、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、フランス、ドイツ、ポルトガル、スペイン、イタリア、マルタ、フィンランド、ポーランド、オーストリア、ハンガリー、ギリシャ、ルーマニア、ブルガリア、キプロス、エストニア、ラトビア、リトアニア、スロベニア、チェコ、スロバキアの合計。
  12. 図12:Semiconductor Industry Association(米国半導体工業会)、Boston Consulting Group “Strengthening the Global Semiconductor Supply Chain in an Uncertain Era”(2021年4月公表)を基に作成。ロジック半導体(制御や加工、演算処理などを行う半導体)の製造能力。
  13. 図13:経済産業省資料(元データはOmdiaのデータ)を基に作成。前工程(シリコンウエハの上に回路を形成してICチップを作るまでの工程)の半導体工場数。
  14. 図14:WonderNetwork「Global Ping Statistics」を基に作成。2021年4月時点における各都市と東京との「ping値」(データの送受信にかかる時間)。
  15. 図15:日本データセンター協会「2019年度 データセンター調査」を基に作成。2019年12月-2020年2月において、国内のデータセンター事業者78社に対して実施したアンケート調査の結果。各地域のデータセンターのサーバールーム面積が、全体のサーバールーム面積に占める割合。
  16. 図16:池内健太、伊藤恵子、深尾京司、権赫旭「日本における雇用と生産性のダイナミクス:OECD Dynemp/MultiProdプロジェクトへの貢献と国際比較」, RIETI Discussion Paper(2019年11月)を基に作成。対象は従業員50人未満の企業。英国・米国は2001-2011年の数値の年平均。フランスは2001-2007年の数値の年平均。
  17. 図17:Bloombergを基に作成。Bloombergデータに基づき、2020年3月末時点の構成銘柄を設立年別にプロットしたもの。
  18. 図18:CB Insights 「The Complete List Of Unicorn Companies」を基に作成。2021年3月1日現在におけるユニコーン企業(時価総額10億ドル超の未公開企業)の数の国別内訳(合計528社)。時価総額は、CB Insightsの推計値であることに留意。欧州は、英国(26社)、ドイツ(15社)、フランス(7社)、スイス(5社)、スウェーデン(3社)、オランダ(3社)、スペイン(2社)、ルクセンブルク(1社)、リトアニア(1社)、アイルランド(1社)、エストニア(1社)、クロアチア(1社)、ベルギー(1社)の合計。
  19. 図19:Dealogicデータを基に作成。上場する企業の所在国により集計(SPACの上場を含む)。
  20. 図20:Tim Loughran, Jay R. Ritter, Kristian Rydqvist(1994、2021年2月25日にデータ更新)“Initial Public Offerings: International Insights”, Pacific-Basin Finance Journalを基に作成。日本は1970-2020年の3,849件、カナダは1971-2017年の758件、フランスは1983-2017年の834件、イタリアは1985-2018年の413件、英国は1959-2016年の5,185件、米国は1960-2020年の13,409件、ドイツは1978-2020年の840件。初値を公開価格で割った上で1を引いた値(平均初値収益率)。
  21. 図21:金子隆(2019)“IPOの経済分析 過小値付けの謎を解く”、Boehmer et al. (2006) “Do Institutions Receive Favorable Allocations in IPOs with Better Long-Run Returns?”を基に作成。米国については、1997年から2001年にかけての米国のIPOが対象(サンプル数441件)。日本については、2006年から2017年の間のIPOが対象(サンプル数761件)。
  22. 図22:SPAC Analyticsデータを基に作成。米国は、4,000万ドル以上のIPO(上場時に公募しない形式を除く。)について集計したもの。SPAC(特別買収目的会社)は、非上場会社の買収を目的とする特別目的会社で、創設直後に上場し、一般投資家から資金を調達。
  23. 図23:各国の証券取引所の規定やホームページを基に作成。
  24. 図24:日本銀行「資金循環統計」(2021年3月17日公表)を基に作成。民間非金融法人企業と公的非金融法人企業(NTT、JR、NEXCO各社、地方道路公社など)における債務総額(金融機関貸出額、社債発行額)の変化。
  25. 図25:東京商工リサーチ「過剰債務に関するアンケート調査」(2021年4月15日)を基に作成。2021年4月1日-4月12日にかけて全国の大企業・中小企業を対象に実施したアンケート調査の結果。「貴社の債務(負債)の状況は、以下のどれですか?」との質問に対する回答割合(回答数:8,473社)

参照

https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2021/0618/shiryo_03.pdf

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