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第1部 第3章 今後の取組の方向性―プラットフォームサービスに関する研究会中間とりまとめ(案)

インターネット上の誹謗中傷及び偽情報の問題に対して、現状と課題、プラットフォーム事業者等による対応のモニタリング結果及び海外動向を踏まえ、以下のとおり今後の取組の方向性を示すこととする。

1 違法・有害情報への対応

インターネット上の誹謗中傷や偽情報といった違法・有害情報の流通に関しては、依然としてSNS 等のプラットフォームサービスの影響が大きく、プラットフォーム事業者を中心とした対応が求められる。

しかしながら、現在のインターネット環境においては、CDN 事業者によるコンテンツのキャッシュや、ホスティング事業者によるコンテンツのホストなど、インターネット環境の担い手が多岐にわたっており、違法・有害情報対策の実務では、これらのインターネット環境の複雑化に伴う情報の削除や発信者特定などの実効性の低下等が問題となっている。また、プラットフォームサービス以外の掲示板や、まとめサイト等のミドルメディアにおける違法・有害情報も問題となっている。

したがって、プラットフォームサービス以外の、CDN・ホスティング(クラウドサービス)・アプリマーケット・ミドルメディア等も射程に含め、コンテンツ流通メカニズム全体を踏まえながら、引き続き違法・有害情報対策に関する検討を行っていくことが必要である。

さらに、ヘイトスピーチ、部落差別、性被害、自殺誘引等、様々な類型の違法・有害情報が問題となっていることから、誹謗中傷や偽情報以外も含む違法・有害情報全般について対策を行っていくことが必要である。

違法有害情報対策全般に関する今後の取組の方向性

① ユーザに対する情報モラル及びICT リテラシーの向上のための啓発活動

誹謗中傷を始めとするインターネット上の違法・有害情報の問題に関しては、まず、それぞれのユーザが他人を個人として尊重し、SNS を始めとするインターネット上での自らの書き込みに対して他人が傷つく可能性を想像し、誹謗中傷を行わないよう心がけるなど、ユーザ自身の情報モラルが最も重要である。その際、誰もが誹謗中傷の加害者になり得るし、誰もが偽情報を拡散する可能性があることを認識することが重要である。

次に、実態把握や分析結果に基づき、産学官民が連携し、引き続きICT リテラシー向上施策が効果的となるよう取り組み、体系的で多元的なリテラシー啓発を実施することが必要である。

具体的には、青少年だけでなく大人であっても誹謗中傷等のネット炎上に加担しているという分析結果を踏まえ、総務省は、情報の受信側・発信側の双方に関する啓発を推進し、これまでの「e-ネットキャラバン」等の青少年向けの取組に加え、大人も含め幅広い対象に対してICT リテラシー向上のための取組を実施することを検討していくことが必要である。また、様々な主体により行われている既存リテラシー施策について整理し、様々な主体の連携を促進するとともに、こうした総務省及び各ステークホルダーによる取組状況を把握し、ベストプラクティスを共有し、更なる効果的な啓発活動につなげていくことが必要であると考えられる。

②-1 プラットフォーム事業者の自主的取組の支援

違法・有害情報対策の前提として、まず、プラットフォーム事業者が、自身のサービス上でどのような違法・有害情報が流通しているのか、自ら実態把握とリスク分析・評価を行うことが必要である。

行政は、引き続きプラットフォーム事業者等による自主的な削除等の対応を促進することとし、プラットフォーム事業者等に対して削除義務を課すことや、個別のコンテンツを削除しなかったことに対して罰則等を設ける法的規制を導入することは極めて慎重な検討を要する。

他方で、取組の透明性・アカウンタビリティの確保方策が図られない場合は、それらに関する行動規範の策定及び遵守の求めや法的枠組みの導入等の行政からの一定の関与が必要である。

誹謗中傷や偽情報のみならず、ヘイトスピーチ、部落差別、自殺誘引等も含めて、違法・有害情報全般に共通する対応として、まず、違法な情報に対して、プラットフォーム事業者をはじめとするウェブサイト運営者は、プロバイダ責任制限法による免責規定を踏まえ、迅速に削除等の対応を行うことが求められる。

その際、法務省人権擁護機関等の関係機関からの削除要請を受けた場合には、それらの手続の正当性や専門性も踏まえ、迅速に削除等の対応を行うことが求められることから、プラットフォーム事業者は、我が国におけるトラステッドフラッガーの仕組みの導入や、適切な報告者の認定について検討することが望ましい。

この点、プラットフォーム事業者・総務省・法務省による実務者検討会の継続的な開催等により、削除に関する違法性の判断基準・判断方法や個別の事業者における削除実績等について関係者間で共有し、行政側・事業者側双方の削除に関する対応についての透明性を向上させ、円滑な削除対応を促進することが必要である。

また、個別の書き込みが違法な情報か有害な情報かどうかの判断が難しい場合も多いこと等を前提に、違法ではないが有害な書き込みについては、プラットフォーム事業者は、自らのポリシーや約款に基づき、適切に削除等の対応を行うこと求められる。

加えて、削除以外にも、それぞれのサービスの特性に応じた、アーキテクチャ上の工夫による違法・有害情報対策を進めることが期待されるところ、ヒアリング結果を踏まえ、特に一定の短期間の間に大量の誹謗中傷が集まった場合に、既存の機能・取組において効果的に対応が可能なのかという点について、プラットフォーム事業者は自ら検証を行い、仮に効果が見られない場合には、更なるアーキテクチャ上の工夫の導入について検討を行うことが望ましい。

②-2 プラットフォーム事業者による取組の透明性・アカウンタビリティの向上

ア モニタリング結果

モニタリング結果によると、プラットフォーム事業者の誹謗中傷等への対応に関する透明性・アカウンタビリティ確保状況には差異が見られる。ヤフー及びLINE は、我が国における誹謗中傷等への対応について、具体的な取組や定量的な数値を公表しており、透明性・アカウンタビリティ確保に向けた施策が進められている。

Google は、一部、我が国における定量的な件数が新たに示されているが、構成員限りで非公開となっている情報も残されており、部分的に透明性・アカウンタビリティ確保に向けた施策が進められている。

他方、Facebook 及びTwitter は、グローバルな取組や数値は公表しているが、我が国における具体的な取組や定量的な数値が公表されておらず、我が国における透明性・アカウンタビリティ確保が果たされていない。

これらの状況を踏まえ、我が国における透明性・アカウンタビリティ確保が図られていない事業者に関しては、特に透明性・アカウンタビリティ確保の取組を進めることが強く求められる。

イ モニタリングの枠組み

我が国の利用者が安心してプラットフォームサービスを使えるように、引き続きプラットフォーム事業者の自律的な対応及び透明性・アカウンタビリティ確保に関する自主的な報告を求め、総務省はモニタリングと検証評価を継続的に行っていくことが必要である。

また、依然として透明性・アカウンタビリティ確保が図られない事業者について、その理由を深掘りした上で対応策を検討するとともに、いつまでに我が国において取組が実施されるのか把握することが必要である。

ウ 共同規制的枠組みの構築

次回以降のモニタリングにおいて、依然として事業者が自主的な報告を行わない場合や、我が国における透明性・アカウンタビリティ確保が実質的に図られない場合には、透明性・アカウンタビリティの確保方策に関する行動規範の策定及び遵守の求めや法的枠組みの導入等の行政からの一定の関与について、具体的に検討を行うことが必要である。

この点、透明性・アカウンタビリティ確保に関して、プラットフォーム事業者の自主的な対応及び自主的な報告に委ねた際、プラットフォーム事業者が果たすべき透明性・アカウンタビリティ確保の基準や水準が不明確となる可能性があることから、モニタリングの手続及び内容の妥当性を高め、事業者が行うべき取組や従うべきルールの確実性及び将来にわたる予見可能性を高めるという観点も踏まえ、法的枠組みの検討を行うことも必要であると考えられる。

行政からの一定の関与の検討に際しては、①リスクベースアプローチに基づく検討、②特に、リスクの大きい巨大プラットフォームサービスについて、自らのサービスのリスク分析・評価の実施及び結果の公表、③リスクを低減するための合理的・比例的・効果的な対応の実施とその結果及び効果の公表、④政府及び外部研究者等による継続的なモニタリング、⑤モニタリングを可能とするデータ提供、といった大枠としての共同規制的枠組みの構築を前提に検討を進めることが適当であると考えられる。

具体的なモニタリング事項や法的枠組みの検討に関しては、既存のヒアリングシートを基本として、海外における制度や検討状況も参考にしつつ、我が国における有識者との議論を通じて、プラットフォーム事業者と対話を行いながら検討することが適当である。

その際、より適切な指標や項目があると考えられる場合には、プラットフォーム事業者は、自らのサービスの特性を踏まえ、代替案となる指標や取組を積極的に示すことが望ましい。

また、総務省は、継続的に諸外国の法的規制枠組みの検討状況を把握し、国際的対話を深めていくことが適当である。具体的には、グローバルにサービスを提供するプラットフォーム事業者における適切な対応について、諸外国の情報通信担当部局等と連携しながら、実効的な対応を検討していくことが必要である。

この点、G7デジタル・技術大臣会合における「Internet Safety Principles」の成果文書も踏まえ、グローバルにサービスを提供するプラットフォーム事業者においては、グローバルのみならず我が国における透明性・アカウンタビリティ確保が行われることが重要である。

エ 透明性・アカウンタビリティ確保に関するビジョン

今後のモニタリングの実施や、行政からの一定の関与を検討するに当たって、我が国において、プラットフォーム事業者に対してどのような透明性・アカウンタビリティが必要かについて、明確な「ビジョン」が示されることが重要である。

この「ビジョン」としては、「緊急提言」やこれまでの議論を踏まえ、

  • 利用者が安心・信頼してプラットフォームサービスを利用することができるよう、プラットフォーム事業者による自律的な情報の削除等の対応に加えて、それらの取組が適切に行われていることが利用者や社会全体に対して明らかにされること
  • 他方で、利用者の表現の自由を確保する観点から、プラットフォーム事業者によってそれぞれのサービスの規約やポリシーに照らして過剰な削除や不当なアカウント停止等の行き過ぎた対応が行われていないかという点についても明らかにされること
  • 違法・有害情報に関する利用者や第三者からの削除要請・苦情受付態勢及び苦情処理プロセスを適切に定め、わかりやすく公開し、適切に運用を行うこと

などが挙げられる。
また、具体的な方策としては、例えば、

  1. 違法・有害情報対策として、どのような種類・性質の情報又はアカウントに対して、どのような対応を行うのか、自らが提供するサービスの全体的な考え方や具体的な対応に関する規約やポリシーをあらかじめ明確に定めてわかりやすく公開すること
  2. 規約やポリシーに基づいて自らが実際に行った削除等の取組、アーキテクチャ上の工夫、AI を活用した取組等の結果を具体的・定量的なデータにより公開すること
  3. 削除要請や苦情に関する受付態勢・プロセスを設けるとともに、申立者及び利用者(発信者)に対して対応の可否に関する通知や適切な理由説明を行うこと
  4. 取組の効果について分析を行い、公開すること
  5. 自らのサービスにおける違法・有害情報の流通状況及びリスクについて分析を行い、公開すること。また、外部の研究者等が調査分析を行う際に必要な情報を提供すること

などの取組を実施することが望ましい。

さらに、自主的な報告では、特に海外事業者において、グローバルな取組状況について示されていても、我が国における取組状況が示されていない傾向にあることから、諸外国と我が国との間の誹謗中傷の流通状況、社会状況、法制度等の違いに留意しつつ、我が国における取組状況が我が国の利用者に対して適切かつ具体的に示されることが必要である。

具体的には、

  1. 日本語で我が国の利用者にもわかりやすい形で規約やポリシー、透明性レポートなどの情報を公開すること
  2. 我が国に特有の違法・有害情報に関する情報流通の問題にも適切に対応できる規約やポリシーを策定すること
  3. 透明性レポートを公開する際には、グローバルな対応件数の総数だけではなく、我が国の国内における対応件数についても併せて公開すること
  4. 日本語を正しく理解できるスタッフを十分確保した上で、日本語で手続可能な適切な削除要請・苦情受付態勢及び苦情処理プロセスを整備するとともに、国内での迅速かつ適切な救済メカニズムを確保すること。その上で、それらの態勢やプロセスについて国内のユーザにわかりやすく公開すること

などの取組を実施することが望ましい。

オ その他の観点

プラットフォームサービス以外のサービス(CDN・ホスティング(クラウド)・アプリストア等)における違法・有害情報対策に係る取組についても、必要に応じて今後ヒアリングを行い、透明性・アカウンタビリティ確保を求めていくことが望ましい。

また、SNS 等の投稿型のプラットフォームサービス以外においても、例えば検索サービスにおいては、アルゴリズムによりコンテンツについて評価を行った上で表示順位を決定していることから、違法・有害情報や信頼性の低い情報が表示されにくくする仕組みを引き続き改善していくとともに、それらの対応が適切に行われているかどうかについて、悪用の懸念にも留意しつつ、透明性・アカウンタビリティ確保を果たされることが望ましい。

加えて、モニタリング結果によると、AI の活用に関して、各社において深層学習を用いた自然言語処理モデルを活用した違法・有害情報への対応がすでに進められていることから、引き続き、これらの取組を進めることが有用であると考えられる。

他方で、AI の活用によるオーバーブロッキング等の懸念もあることから、AI の活用に関して具体的に透明性・アカウンタビリティ確保を図っていくことが望ましい。

③ 発信者情報開示関係

発信者情報開示関係については、改正プロバイダ責任制限法の法施行に向けて、関係政省令の制定を進めるとともに、関係事業者及び総務省の間で、円滑な新制度の施行に向けて、具体的な運用に関する協議を進めることが必要である。

その際、現在のインターネット環境においては、CDN 事業者によるコンテンツのキャッシュや、ホスティング事業者によるコンテンツのホストなど、インターネット環境の担い手が多岐にわたっており、違法・有害情報対策の実務では、これらのインターネット環境の複雑化に伴う情報の削除や発信者特定などの実効性の低下等が問題となっていることを踏まえ、プラットフォームサービス以外の、CDN・ホスティング(クラウドサービス)事業者等も加えて協議を進めていくことが適当である。

また、円滑な発信者情報開示制度の運用に向けて、プラットフォーム事業者は、前述の②-2に記載の透明性・アカウンタビリティ確保の取組の中で、我が国における発信者情報開示に関する申請や開示件数等について集計・公開することが望ましい。

総務省は、法務省や裁判所等と連携し、行政側でも現行制度及び新制度に関する発信者情報開示の件数等を把握することが適当である。

④ 相談対応の充実

総務省は、相談対応の充実に関して、「違法・有害情報相談センター」において、引き続き被害者救済のための円滑な運用を行うとともに、ユーザビリティに資するシステム更新等を随時検討していくことが望ましい。

また、「違法・有害情報相談センター」において、複数の相談機関間における連携強化を一層深めていくことが適当である。

さらに、相談を必要としている被害者に対して「違法・有害情報相談センター」等の必要とされる相談機関の相談窓口に関する情報が届くよう、複数の相談窓口の案内図について広く周知を行うなど、引き続き、被害者にとって相談窓口を分かりやすく示すための取組を行うことが必要である。

2 偽情報への対応

偽情報への対応については、2020 年2月に取りまとめた報告書において記載の偽情報への対策に関する10 の方向性について、継続的に議論を深めていくことが適当である。

この際、違法・有害情報対策全般にも共通する点は、本章1の中で対策を進め、それ以外の偽情報固有の対応については、以下のとおり取組を進めることが適当である。

偽情報対策に関する今後の取組の方向性

① 自主的スキームの尊重

我が国における偽情報への対応の在り方の基本的な方向性としては、引き続き、まずはプラットフォーム事業者を始めとする民間部門における関係者による自主的な取組を基本とした対策を進めていくとともに、プラットフォーム事業者等による自律的な対応及び自主的な報告を求め、総務省はモニタリングと検証評価を継続的に行っていくことが必要である。

特に、プラットフォーム事業者等に対して削除義務を課すことや、個別のコンテンツを削除しなかったことに対して罰則等を設ける法的規制を導入することは極めて慎重な検討を要する。

他方で、違法・有害情報全般に関する透明性・アカウンタビリティ確保と同様に、次回以降のモニタリングにおいて、偽情報への対応に関して、事業者が自主的な報告を行わない場合や、我が国における透明性・アカウンタビリティ確保が実質的に図られない場合には、透明性・アカウンタビリティの確保方策に関する行動規範の策定及び遵守の求めや法的枠組みの導入等の行政からの一定の関与について、具体的に検討を行うことが必要である。

② 我が国における実態の把握

偽情報に関して、研究者による実態把握や分析が進められているものの、依然として我が国における偽情報の流通状況が明らかになっているとはいえないため、偽情報特有の問題の検討に資するよう、以下の点に着目して、引き続き偽情報の実態把握を行うことが適当である。

特に、研究者によるサービス上の情報流通についての調査によると、我が国において偽情報の問題が顕在化しているにもかかわらず、モニタリング結果では、プラットフォーム事業者は自らのサービス上の偽情報の流通状況についてそもそも実態把握ができていない場合や、「偽情報の問題は生じていない」旨の回答があったため、プラットフォーム事業者の認識や実態把握と調査結果とのギャップが生じている。

したがって、プラットフォーム事業者は、自らのサービス上で生じている我が国における偽情報の問題について適切に実態把握を行うとともに、研究者が分析を行うために必要な情報についてプラットフォーム事業者から無償で情報提供が行われることが望ましい。

コンテンツ側の偽情報流通の実態把握・分析に当たっては、プラットフォームサービスのみならず、ミドルメディア等も含めた情報流通環境全体を捉えた視点により実施されることが望ましい。特に、ミドルメディアを中心とした偽情報の生成・拡散・流通メカニズムに関して、実態把握と分析を進めていくことが必要であると考えられる。

また、SNS 上の偽情報が偏った複数の集団・ネットワーク(クラスター)に分かれて拡散しているケースが見られることから、これらの既存の分析をもとに、引き続き偽情報の拡散状況や特徴について実態把握及び分析を行い、偽情報の拡散に有効なプラットフォームサービス上のアーキテクチャ上の工夫や、偽情報に関するリテラシー向上に関する取組など、必要な対応について検討していくことが望ましい。

③ 多様なステークホルダーによる協力関係の構築

偽情報への対応に当たっては、多面的な解決策を検討していくことが必要であり、その際、プラットフォーム事業者のみならず、産学官民の多様なステークホルダーによる協力関係の構築を図り、対話の枠組みを設けることが重要と考えられる。

モニタリング結果によると、「Disinformation 対策フォーラム」や「Innovation Nippon」などにより、我が国において、産学官民の多様なステークホルダーによる協力関係の構築や偽情報への対策の検討が進められている。

したがって、引き続き、「Disinformation 対策フォーラム」や「Innovation Nippon」等の産学官民の連携の場において、継続的に偽情報への対策に関する議論や研究が行われることが望ましい。

特に、「Disinformation 対策フォーラム」においては、このフォーラムにおける中間とりまとめの記載のとおり、今後、①伝統的なメディア・学術研究機関等と協力を行いながら、ファクトチェックを持続的かつ総合的に行う主体についての具体的検討を進めること、②情報リテラシーの向上のため、多様な主体によるコンテンツの作成や、総務省や関連団体とも協力して総合的な普及啓発の取組を促進することが期待される。

また、総務省は、多様なステークホルダー間の協力関係の構築を支援するコーディネーターとしての役割を果たしていくことが適当である。

④ プラットフォーム事業者による適切な対応及び透明性・アカウンタビリティの確保

モニタリング結果によると、いずれの事業者においても、自らのサービス上で生じている我が国における偽情報の問題について適切に実態把握が行われていない。また、我が国における偽情報への対応及び透明性・アカウンタビリティ確保の取組の進捗は限定的であった。

これらの状況を踏まえ、プラットフォーム事業者は、我が国において生じている自らのサービス上の偽情報の問題について適切に実態把握とリスク分析・評価を行った上で、そのリスクに応じて偽情報への対応を適切に行うことや、具体的にどのような取組が効果的かについて分析を行うことが求められる。

さらに、プラットフォーム事業者は、前述の(1)②-2の記載内容と併せて、自らの取組に関する透明性・アカウンタビリティ確保を進めていくことが求められる。

この点、G7デジタル・技術大臣会合における「Internet Safety Principles」の成果文書も踏まえ、グローバルにサービスを提供するプラットフォーム事業者においては、グローバルのみならず我が国における透明性・アカウンタビリティ確保が行われることが重要である。

総務省は、これらの取組に関するモニタリングと検証評価を継続的に行っていくことが必要である。この際、プラットフォーム事業者に対して具体的にどのような対応や情報公開を求めることにより、偽情報への適切な対応が図られているかどうかを評価することが可能かについて、依然として検討が深まっていないことから、引き続き検討が必要である。

違法・有害情報全般に関する透明性・アカウンタビリティ確保と同様に、次回以降のモニタリングにおいて、偽情報への対応に関して、事業者が自主的な報告を行わない場合や、我が国における透明性・アカウンタビリティ確保が実質的に図られない場合には、透明性・アカウンタビリティの確保方策に関する行動規範の策定及び遵守の求めや法的枠組みの導入等の行政からの一定の関与について、具体的に検討を行うことが必要である。

⑤ 利用者情報を活用した情報配信への対応

ア ターゲティング技術の悪用による問題について

行動ターゲティングの技術による政治広告における悪用事例のように、利用者の脆弱性につけ込み偽情報を拡散する使い方が可能であるといった指摘がある。

モニタリング結果によると、いずれの事業者においても、偽情報を内容とする広告や、政治広告の出稿について、一定の制限を設けている。特に、LINE及びTwitter では政治広告が禁止されており、Google では日本において選挙広告は禁止されている。この点、複数の事業者が、偽情報を内容とする広告や政治広告はそもそも配信が禁止されているためターゲティング技術の対象とならない旨を説明している。なお、(出稿が許されている)政治広告について、どのようなターゲティング技術に関する対応が行われているかについては明確になっていない。

したがって、行動ターゲティング広告における利用者情報の取扱いについては、利用者情報WG においても議論が行われているところ、広告の種類・対応に応じてリスクや問題の差異を分析したうえで、特に、偽情報を助長しうるターゲティング技術の適用については、そのリスクを踏まえ、より注意深い対応と、それに伴う透明性・アカウンタビリティ確保が求められる。

イ 偽情報を掲載しているウェブサイトへの広告配信の問題について

コンテンツの内容が正しくなくてもページビューを稼げば広告収入で儲かる仕組み(アテンションエコノミー)が偽情報の生成を支えているといった指摘がある。

この点に関して、モニタリング結果によると、複数の事業者において、偽情報に関連する内容の媒体・ウェブサイトや、特定の信頼性基準に満たない媒体・ウェブサイトへの広告配信を制限する規定が設けられている。

したがって、広告収益を絶つことにより偽情報を拡散防止するという観点も踏まえ、これらのポリシーに基づき、アテンションエコノミーの弊害を防止するための実効性のある対応が行われることが求められる。

次回以降のモニタリングにおいて、偽情報に関する行動ターゲティング広告についての対応及び偽情報を掲載しているウェブサイトへの広告配信の問題に関して、事業者が自主的な報告を行わない場合や、我が国における透明性・アカウンタビリティ確保が実質的に図られない場合には、透明性・アカウンタビリティの確保方策に関する行動規範の策定及び遵守の求めや法的枠組みの導入等の行政からの一定の関与について、具体的に検討を行うことが必要である。

⑥ ファクトチェックの推進

ヒアリングによると、我が国においても、ファクトチェックの取組が徐々に広がってきているものの、ファクトチェッカーやファクトチェック記事件数は十分とはいえず、ファクトチェックの担い手や社会的認知度・理解度が不足しているという課題は依然として残されている。

したがって、引き続き、プラットフォーム事業者、ファクトチェッカー、ファクトチェック推進団体等が連携し、ファクトチェックの活性化のための環境整備を推進していくことが望ましい。

プラットフォーム事業者においては、①ファクトチェッカー・ファクトチェック推進団体との連携強化(サービス上の情報へのファクトチェック結果の紐付け等)、②資金提供等の取組がさらに進められることが期待される。ファクトチェッカーにおいては、③国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)への加盟、④ファクトチェック態勢等に関する透明性・アカウンタビリティ確保が進められることが期待される。

ファクトチェック推進団体においては、⑤人材の育成、⑥市民のリテラシー向上、⑦ファクトチェック支援システム等によるファクトチェックの容易化、⑧透明性・アカウンタビリティ確保、⑨複数のファクトチェッカーによる複合的なファクトチェック環境の構築に向けた取組等を推進していくことが期待される。

そのほか、今後、我が国におけるファクトチェック結果を積み重ねて分析を行うことにより、偽情報の傾向分析やそれを踏まえた対策の検討が行われることが望ましい。

加えて、「Disinformation 対策フォーラム」において、引き続き、プラットフォーム事業者・新聞や放送などの既存メディア・学術研究機関等との間で協力を行いながら、上記の観点を踏まえながらファクトチェックを持続的かつ総合的に行う主体についての具体的検討を進めることが望ましい。

その際、新聞や放送などの既存メディアにおいても、これまでの信頼性のある情報発信の取組の一環として自律的なファクトチェックの担い手となるとともに、ファクトチェッカーやファクトチェック推進団体等に対して、これまで培ってきた知見やノウハウの共有等の支援を行うことなどが期待される。

⑦ 情報発信者側における信頼性確保方策の検討

プラットフォーム上における偽情報の問題に対抗するためには、前述のファクトチェックの推進とともに、信頼性の高い情報の流通を増やし、利用者が容易にそれらを参照できるような環境整備が必要である。

この点、我が国においては、全国的に大きな影響力を持つ新聞や放送などの既存メディアにおいて、自律的なチェック態勢に基づく信頼性のある情報発信がこれまで行われてきたほか、例えば日本放送協会における「SoLT」のようなSNS 時代に対応した報道態勢が構築されつつある。その他、「Disinformation 対策フォーラム」におけるプラットフォーム事業者等との対話も進められている。

これらの状況も踏まえつつ、新聞や放送などの既存メディアにおける情報の信頼性の確保のための取組やノウハウも参考とし、これをネットメディアにも広げていくという考え方も取り入れつつ、引き続き、現代のメディア環境に対応した持続可能性のある情報の信頼性の確保の在り方について、メディア関係者の知見や経験を活用しつつプラットフォーム事業者との間で検討を深めていくことが望ましい。

プラットフォーム事業者においては、新型コロナウイルス感染症等に関して信頼できる政府機関・専門機関・メディア等の情報やそれらへのリンクをサービスの目立つ場所に掲示するなどの取組が積極的に行われているが、認知度が低い(1割程度)ことから、これらの取組を引き続き積極的に行うことが望ましい。また、前述のとおり、我が国におけるファクトチェック機関等との連携により、偽情報に対してファクトチェック結果を紐付けて表示する等の取組を進めていくことが望ましい。

ニュース配信プラットフォームサービスにおいては、ニュースや情報に関する選別・編集責任等に関するサービスの性質を踏まえながら、利用者のニーズに応じて信頼性の高い情報配信が行われるよう引き続き努めるとともに、情報配信に関する透明性やアカウンタビリティの確保方策を適切に実施することが望ましい。

また、偽情報の拡散要因について、インターネットにおけるニュースの生態系の問題として、ミドルメディアが大きな影響を与えていることがこれまでの分析により判明しつつある。

したがって、インターネット上におけるメディア全体の情報の信頼性をどのように確保していくかについて、ミドルメディアを中心とした偽情報の生成・拡散・流通メカニズムに関する実態把握と分析も踏まえ、「Disinformation対策フォーラム」等の場も活用しつつ、伝統的なメディア・ネットメディア・プラットフォーム事業者等の関係者間で、ミドルメディア運営事業者との連携可能性等も含め、今後検討をさらに深めていくことが望ましい。

⑧ ICT リテラシー向上の推進

モニタリング結果によると、総務省や一部のプラットフォーム事業者においては我が国においても偽情報に資するリテラシー向上の取組が行われているが、その他の事業者においては、既存のリテラシー向上に関する取組が偽情報に効果的な内容となっているか不透明、また、現時点では未実施となっている。

したがって、違法・有害情報全般に関するICT リテラシー向上の推進に向けた取組に加えて、偽情報特有の問題への対応のため、以下の点に着目して、偽情報に対抗するリテラシー向上の推進に向けた取組が行われることが望ましい。

具体的には、偽情報の実態把握や分析結果に基づき、スーパースプレッダーへの効果的な働きかけ、偽情報に対して効果のある「情報リテラシー」の分析、人間の認知の仕組み、偽情報のジャンル別に異なる有効な情報検証行動、インターネット上の情報の偏りやメディア環境の分析など、偽情報自体の特徴や偽情報が拡散する要因等を踏まえながら引き続きICT リテラシー向上施策が効果的となるよう取り組み、産学官民が連携し、体系的で多元的なリテラシー啓発を実施することが必要である。

また、偽情報に対抗するために必要なリテラシーについては、例えば、EU等で先行する取組も参考にしつつ、コンテンツを作成し実施していくことが望ましいと考えられる。

さらに、偽情報は青少年だけでなく大人であっても拡散しているケースが見られるという分析結果を踏まえ、青少年だけでなく、大人も含め幅広い対象に対して実施することが必要である。

その際、総務省は、「e-ネットキャラバン」や「インターネットトラブル事例集」等の青少年向けの取組に加え、例えば、「デジタル活用支援員」の仕組みも活用した取組を検討していくことが必要である。

プラットフォーム事業者は、日本向けのリテラシー向上のための取組を実施するとともに、多様な利用者に対して効果的にアプローチするため、行政機関・関連団体・研究者等と協力し、「Disinformation 対策フォーラム」等も活用して、総合的な普及啓発の取組を促進することが望ましい。

⑨ 研究開発の推進

モニタリング結果によると、ディープフェイクなどの新たな技術を悪用した偽情報が我が国においても出現しており、Facebook・Google・Twitter では、ディープフェイク対策の研究開発が行われている。

我が国においては、プラットフォーム事業者によるディープフェイク対策の研究開発は現時点で行われていないものの、研究者による偽情報対策の研究開発が行われている。

したがって、ディープフェイクに対抗にするための研究開発や技術コンテスト等の取組が我が国においても進められることが望ましい。

プラットフォーム事業者は、ディープフェイク対策のための研究開発を引き続き行うとともに、ディープフェイク等の偽情報に対応したポリシーを設けて、悪質度合いに応じて削除やラベルの付与等の適切な対応を行うことが望ましい。この際、日本語への対応や、日本人ユーザに対しても適切な形で対応可能な技術について研究開発を推進していくことが望ましい。

総務省は、諸外国及び国内での偽情報対策に資する研究開発の状況を継続的に把握し、関係者に対して情報共有を行うとともに、我が国における研究者が偽情報への対応に関する研究開発を行う際に必要なデータがプラットフォーム事業者から適切に提供されるよう、プラットフォーム事業者及び研究者と継続的な協議を行うことが望ましい。

⑩ 国際的な対話の深化

違法・有害情報全般に関する政策に加えて、偽情報に関する政策についても、国際的な対話の深化を深めていくことが望ましい。

引き続き、諸外国における検討状況を把握しつつ、我が国においても、偽情報に特有の問題や政策的対応について引き続き検討していくことが適当である。同時に、我が国における偽情報の流通状況や、産学官民の検討状況について諸外国に共有を行い、それらの対話を通じて、特にグローバルにサービスを提供する事業者における適切な対応について、諸外国の情報通信担当部局等と連携しながら、実効的な対応を検討していくことが適当である。

参照

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