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デジタル広告市場「パブリッシャーサイドからみた実務とSSP及びアドサーバー」

2021年8月18日

パブリッシャーサイドからみた実務

パブリッシャーの分類

  • 大手パブリッシャー
    ※ TV、新聞社、Yahoo!といった大手ポータル等。
  • 中規模パブリッシャー
    ※ 一定のトラフィック数を確保できる特定のターゲット層特化型パブリッシャーや、趣味特化型パブリッシャー等。
  • 小規模パブリッシャー
    ※ 個人ブログなど、個人レベルで運営されるウェブページ等。

パブリッシャーからみた実務のイメージ

  • 大手パブリッシャーのように訴求力のある一部のパブリッシャーについては、まず、広告主との間で予約型広告として直接販売することによって収益の最大化を目指す(予約型広告は運用型広告よりも収益が大きいといわれている。)。
    ※ ただし、ほとんどのパブリッシャーは、予約型での販売での売り切りは困難であり、売り切れない多くの広告枠を運用型広告に切り替えるなどして販売しているとの指摘がある。
  • また、ごく一部の大手パブリッシャーを除いて、パブリッシャー自らは、広告枠の営業要員やトレーディング・デスク(※)を有しておらず、後記②記載の SSP(Supply Side Platform)やパブリッシャー・アドサーバーの提供事業者に対して、広告枠の販売をいわば「一任」する傾向があるともいわれる。
    ※ SSP の管理や入札条件の設定等を担当する者。

SSP(Supply Side Platform)とアドサーバー

SSP とは

SSP は、パブリッシャーが広告枠の販売の効率化や収益の最大化を図るためのツール又はそのツールを提供する事業者をいう。複数の DSP やアドネットワークからのビッドの価格を比較し、リアルタイムビッディング(RTB)などにより、パブリッシャーが広告収益を最大化できる広告を自動的に選択するためのツールである。

※ 以前は、広告枠販売支援ツールとしての「SSP」と、バイサイドの複数のアドネットワークとの間でリアルタイムオークションを行う機能としての「アドエクスチェンジ」とは別の概念であったが、SSP とアドエクスチェンジは統合された概念となってきており、現在はほぼ同義で使用されることが多く、以下、SSP についてはアドエクスチェンジを含むものとして論じる場合がある。

パブリッシャー・アドサーバーとは

  • パブリッシャーのウェブページ上に広告を配信するに当たり、入稿・配信・広告枠管理・効果測定・販売・データマネジメント等を行うためのサーバー。
  • パブリッシャーは、複数のアドサーバーを使用する理由に乏しく、特段の理由(例えば、動画広告に特化した専用のサーバーが必要など)がない限り、単一のアドサーバーを利用するのが通常という指摘がある。

Google の圧倒的なアドサーバーシェア

  • Google は、パブリッシャーに対し、基本的には無料でアドサーバーを提供(一定量を超えると有料)。
    ※ Google 以外にも無料で貸与する例がある。
  • 公取委最終報告によれば、パブリッシャー・アドサーバー市場の市場シェア(配信インプレッション数ベース)は、グーグルが 80-90%、ツイッターが5-10%である(公取委最終報告 25 ページ参照)。

<参考>公取委最終報告

パブリッシャー側アドサーバー市場の市場シェア(媒体社に対する配信インプレッション数ベース)(2019 年度)

事業者名 市場シェア
グーグル 80―90%
ツイッター 5―10%
その他 0―5%
合計 100%

<参考>公取委アンケート調査

  • Google のアドサーバーを利用しているパブリッシャーの割合は 74.3%である(別紙1、131 ページ)。
  • アドサーバーを利用している理由については、「アドサーバーの利用料金が廉価又は無料であるため」(同 46.3%)、「複数のアドテクサービスが統合されており、アドサーバーの利便性が高いため」(同 41.2%)、「アドサーバーのアドエクスチェンジ、SSP 又はアドネットワークへの接続性が優れているため」(同 39.0%)が上位となっている。
  • 現在利用しているアドサーバーから別のアドサーバーへの切替えの容易さについては、「あまり容易ではない」「容易でない」の合計が 50.0%となっており、「大変容易である」「ある程度容易である」の合計(31.6%)を大きく上回っている。

<参考>アドサーバー普及期(2000 年代以降)の経緯

  • 2000 年代から、Google は、検索連動型広告の戦略の一環として、アドサーバーを無料で提供している(2008 年に、アドサーバー等のサプライヤーであったDoubleClick を買収)。
  • 2000 年頃は他社もアドサーバーを提供しており、2010 年頃の時点では、Open Display Market では各社が拮抗した状況であったが、Google は検索連動型広告については既に圧倒的なプレゼンスを有しており、2010 年頃から、広告主側との接点を梃子に、SSP サイドでも攻勢をかけたとの見方がある。
  • 他社は、Google と比較して、資本力・機能面で及ばず、結果、シェアを獲得できず、最終的には、今から3〜4年ほど前には Google が圧倒的なシェアを獲得するに至ったとの見方もある。

パブリッシャーによる SSP との契約実態

  • パブリッシャーが SSP を選び契約を結ぶ際には、複数の SSP と契約することが多い(例えば、年単位の自動更新での契約)。
  • アドサーバー上の SSP の数が多過ぎると処理遅延が生じるため、2~3の SSP と契約することが多いようだが、パブリッシャーからすれば、複数の SSP と契約する場合に、アドサーバーの提供を受けている Google を外すという選択肢はあまりないのではないかとの指摘がある。
    ※ SSP の利用数については、パブリッシャーによりばらつきがある。パブリッシャーは平均5つを超える SSP を利用しているとの見解もあるが、グローバルと日本の実態に差があることも想定される。
    ※ Google のアドサーバーを利用する場合であっても、パブリッシャーがGoogle の SSP をオフにすることは可能である。
  • しかし、アドサーバー上で、複数の SSP を管理するためにはコストが生じるため、パブリッシャーによっては、単一の SSP のみ利用する事業者もいる。
  • また、細かい運用にこだわらず運用コストを抑えたいパブリッシャーからすれば、単一の SSP のみを利用して、運用をいわば「お任せ」状態にする例もあるとの指摘もある。
  • 広告主サイドとのマッチングは SSP が実施し、通常、パブリッシャー自身は関与しないといわれている。

アドサーバー及び SSP 市場におけるプラットフォーム事業者の強み

  • アドサーバー
    • アドサーバー機能の網羅性(特に、広告枠の売り方について細かいセッティングができること)
      ※ Google のアドサーバーについては、配信の仕方、スケジューリングなど、無料にもかかわらず網羅的な機能を備えており、他の事業者が単純にアドサーバー機能面で勝負しても勝てないとの意見がある。
  • SSP
    • 広告主の網羅性を基に、パブリッシャーに対して、多数・多様な広告主のオファーを提示できること
    • このほか、Google については、自らのアドサーバーに自らの SSP を搭載することによって、アドサーバーをいわば梃子として、広告が自らの SSP を介して取引される環境を確立したとの指摘がある。
      ※ Google 以外にも、自らのアドサーバーと SSP 機能をセットで提供する事業者も存在。なお、その場合でも、必ずしもセットで提供するわけではなく、パブリッシャーが既にアドサーバーを利用している場合には、SSP 機能のみを提供している。
    • 公取委最終報告によれば、SSP/アドエクスチェンジ市場の市場シェア(売上高ベース)は、グーグルが 50-60%、ヤフー及びツイッターが0-5%である(公取委最終報告 29 ページ参照)。

<参考>公取委最終報告

SSP/アドエクスチェンジ市場の市場シェア(広告仲介事業者に対して販売した広告サービスの売上高ベース)(2019 年度)

事業者名 市場シェア
グーグル 50―60%
ヤフー 0―5%
ツイッター 0―5%
その他 40―50%
合計 100%

<参考>公取委アンケート調査

  • 公取委アンケート調査(別紙1、177 ページ)によれば、パブリッシャーに対して、デジタル・プラットフォーマーと取引する理由について質問したところ、「広告主(広告代理店)の数」との回答が 68.5%みられる。
  • そのほか、「複数のアドテクサービスを統合することによるサービスの利便性」(同54.8%)、「膨大なデータ量を通じて高めたターゲティングの精度の高さによる適正な価格設定」(同 51.6%)が上位となっている。

参照

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