ビジネス全般

循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業(令和4年度厚生労働科学研究)

1.研究事業の目的・目標

【背景】

WHO によると、がん、循環器疾患、糖尿病、COPD などの生活習慣病は世界の死亡者数の約6割を占めている。わが国においても生活習慣病は医療費の約3割、死亡者数の約6割を占めており、急速に進む高齢化、社会保障の維持のためにも、生活習慣病の発症予防や重症化予防について、早急な対策が求められている。

循環器疾患、糖尿病等のがん以外の代表的な生活習慣病は、様々なライフステージを含んだ長い経過の中で、不適切な生活習慣が引き金となり発症し、重症化していくことが特徴である。また、わが国の主要な死亡原因であるとともに、特に循環器疾患に関しては、介護が必要となる主な原因でもある。そのため、人生 100 年時代における、国民の健康寿命の延伸および生涯にわたった生活の質の維持・向上に向けて、包括的かつ計画的な対応が求められている。

生活習慣病の発症予防・重症化予防には幅広い年齢を含む、すべてのステージにおいて栄養・食生活、身体活動・運動、休養・睡眠、飲酒、喫煙及び歯・口腔の健康といった個人の生活習慣の改善、健康づくりが重要である。それと同時に、健診・保健指導の利活用による1次、2次予防の推進、生活習慣病の病態解明や治療法の確立、治療の均てん化等による生活習慣病患者の2次、3次予防を進めることで、国民の健康寿命の延伸を図ることができる。

これまで、健康日本21(第二次)に基づいた国民健康づくり運動を進めてきたが、令和4年度末までに新しい国民健康づくりプランを策定することになったため、これに資するエビデンスづくりが必要となる。

循環器病については、令和元年 12 月に施行された「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法」に基づき、令和2年 10 月に閣議決定された循環器病対策推進基本計画に基づいて研究を推進する。

【事業目標】

がん以外の代表的な生活習慣病対策について、疫学研究、臨床研究、臨床への橋渡し研究を通じ、保健・医療の現場や行政施策につながるエビデンスの創出を目指す。

【研究のスコープ】

研究内容を以下の3分野に分けて、生活習慣病にかかる研究を着実に推進し、健康日本21(第二次)や循環器病対策推進基本計画などで掲げられている健康寿命の延伸や健康格差の縮小、生活習慣病にかかる各目標を実現していく。

  • 「健康づくり分野(健康寿命の延伸と健康格差の縮小、栄養・身体活動等の生活習慣の改善、健康づくりのための社会環境整備等に関する研究)」においては、個人の生活習慣の改善や社会環境の整備等による健康寿命の延伸に資する政策の評価や、政策の根拠となるエビデンスの創出を目指す。
  • 「健診・保健指導分野(健診や保健指導に関する研究)」においては、効果的、効率的な健診や保健指導の実施(質の向上、提供体制の検討、結果の有効利用等)を目指す。
  • 「生活習慣病管理分野(脳卒中を含む循環器疾患や糖尿病等の対策に関する研究)」においては、生活習慣病の病態解明や治療法の確立、治療の均てん化、生活習慣病を有する者の生活の質の維持・向上等を目指す。

【期待されるアウトプット】

以下に各分野の代表的なものを挙げる。

「健康づくり分野」

  • 健康無関心層も含めた予防・健康づくりの推進や自然に健康になれる環境づくりに資するエビデンスの創出
    • 栄養)行政栄養士の人材育成プログラムの開発
    • 運動)運動・身体活動指針の改定に向けたエビデンスの整理
    • 睡眠)睡眠指針の改定を目指した「睡眠の質」評価及び向上手法確立
    • 喫煙)受動喫煙対策による社会的インパクト評価

「健診・保健指導分野」

  • 健康診査・保健指導における健診項目等の必要性、妥当性の検証
  • PHR(Personal Health Record)事業者等が健康等情報を提供するモデルの提示
  • 地域・職域連携の推進状況の評価や課題の整理、効果的な事業評価指標の提示

「生活習慣病管理分野」

  • 循環器病領域における、情報提供・相談支援プログラムや、各都道府県で使用できる有用な目標指標の作成
  • NDB データを用いた日本全国規模の糖尿病有病者数、合併症等の実態把握

【期待されるアウトカム】

健康日本21(第二次)に基づいた国民健康づくり運動を進めてきたが、令和4年度末までに新しい国民健康づくりプランを策定する予定である。新しい国民健康づくりプランの策定に資するエビデンスの創出により、効果的な国民健康づくりプランを策定し、健康寿命を延伸する。

また、特定健診等を含めた健診や保健指導の定期的な見直しに向けて、本研究事業の研究成果が活用されることが期待される。

循環器病については、令和元年 12 月に施行された「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法」に基づき、令和2年 10 月に閣議決定された循環器病対策推進基本計画に基づいた研究を行い、健康寿命の延伸や循環器病の年齢調整死亡率の減少を目指す。

2.これまでの研究成果の概要

  • 「健康増進施設の現状把握と標準的な運動指導プログラムの開発および効果検証と普及促進」(令和元年度終了)においては、「運動型健康増進施設」が提供している運動指導プログラムの現状を把握し、調査結果と先行研究のレビュー結果を基に「健康増進施設」が提供すべき標準的な運動プログラムを開発した。
  • 「社会経済格差による生活習慣病課題への対応方策案に向けた社会福祉・疫学的研究に関する研究」(令和2年度終了)においては、教育歴や所得等の社会経済的要因等を踏まえた食生活、身体活動・運動、口腔、喫煙等の実態と課題を明確化した。
  • 「健康診査・保健指導の有効性評価に関する研究」(平成 30 年度終了)において、健診制度を検証し、現状の制度や健診項目で期待される効果、今後充実させるべき内容、事業実施の問題点と今後の方向性について知見を得た。
  • 「地域におけるかかりつけ医等を中心とした心不全の診療提供体制構築のための研究」(令和2年度終了)においては、わが国における心不全の現状を把握し、「地域のかかりつけ医と多職種のための心不全診療ガイドブック」を作成した。
  • 「循環器病領域における治療と仕事の両立支援の手法確立に向けた研究」(令和2年度終了)においては、脳卒中及び心血管疾患の復職の現状把握を行うと共に、「脳卒中の治療と仕事のお役立ちノート」が作成された。

3.令和4年度に継続課題として優先的に推進するもの

「健康づくり分野」

  • 現代の社会生活に応じた適切な睡眠・休養取得のための行動変容促進ツールの作成及び環境整備のための研究
    本研究では、次期国民健康づくり運動の休養・睡眠対策の検討に向けた資料の作成や、睡眠指針の改定の材料の創出が求められており、次期国民健康づくり運動の計画策定(令和4年度の予定)や、これを受けた睡眠指針の改正を目指しているため、より充実した研究が求められる。

「健診・保健指導分野」

  • 新しい生活様式における適切な健診実施と受診に向けた研究
    新しい生活様式に適した健診のあり方として、新たな技術を活用した血液検査など負荷の低い健診に向けた健診内容の見直しや簡素化についての検討が必要とされており、これらに関するエビデンスの収集・構築や、実行可能性のある健診方法の提案等により、次期(令和6年度予定)「標準的な健診・保健指導プログラム」の改訂に研究結果を反映させることを目的としているため、その改定へ向けた準備としてより充実した研究が求められる。

「生活習慣病管理分野」

  • 循環器病対策推進基本計画に基づいた、都道府県の有用な目標指標の設定のための研究
    令和2年 10 月に循環器病対策推進基本計画が閣議決定されたが、全国で統一的に使用可能な、目標となる指標は設定されていない。本研究では、各都道府県の計画内容を把握し、各自治体において重要性が高く、抽出しやすい施策及び指標を抽出し、全国で統一的に使用可能な、適切な目標・指標をデータと共にまとめる必要がある。
  • 循環器病に係る急性期から回復期・慢性期へのシームレスな診療提供体制の構築に関する研究
    循環器病は、急性期から回復期、慢性期まで総合的な対策を行うことが求められているが、循環器病の急性期、回復期、慢性期それぞれにおける診療のシームレスな移行の在り方については未だ確立しておらず、その方策を早急に検討する必要がある。

4.令和4年度に新規研究課題として優先的に推進するもの

「健康づくり分野」

  • 国民の健康づくり運動の推進に向けた健康教育や健康相談事業の実施状況把握とその推進のための研究
    自治体等で行われている健康教育・健康相談の実態把握と課題の整理を行い、事業の見直しのための基礎資料を得る。実施主体の支援のため、必要に応じて手法の開発や評価、普及等を行う。

「健診・保健指導分野」

  • 特定健康診査・保健指導における健診項目等の必要性、妥当性の検証等のための研究
    健康診査・保健指導については、より効果的な実施方法等について定期的に見直しを行う必要があり、第4期特定健診等実施計画の策定に向けて、健診項目や保健指導方法の等に関する科学的な知見を収集する。

「生活習慣病管理分野」

  • 循環器病の再発・重症化リスク因子について、重み付けを明らかにする研究
    循環器病の再発・重症化に、年齢、男性、肥満、糖尿病、高血圧症、脂質異常症、高尿酸血症、慢性腎臓病、喫煙などのうち、どの因子が強く関わっているのかを検討し、各リスク因子の循環器病に対する寄与度を順位付けする。また、どのリスク因子に対して介入することが、費用対効果に優れるかについても検討する。

5.令和4年度の研究課題(継続及び新規)に期待される研究成果の政策等への活用又は実用化に向けた取組

  • 現代の社会生活に応じた適切な睡眠・休養取得のための行動変容促進ツールの作成及び環境整備のための研究
    次期国民健康づくり運動の休養・睡眠対策の検討や、睡眠指針の改定に向けた資料を作成する。また、自治体や企業等が取り組むスマート・ライフ・プロジェクトの活動にも役立つ材料を提示する。
  • 特定健康診査・保健指導における健診項目等の必要性、妥当性の検証等のための研究
    特定健診項目や保健指導方法の等に関する科学的な知見を収集し、第4期特定健診等実施計画の策定に向けた検討の材料とする。
  • 循環器病の医療体制構築に資する自治体が利用可能な指標等を作成するための研究
    医療計画に記載するとされている「脳卒中」と「心血管疾患」の循環器病に関する医療提供体制に関して、各都道府県が構築状況の把握・評価に利用できる簡便で信頼性の高い指標を提示し、第2期の循環器病対策推進基本計画への反映を目指す。

参照

令和4年度厚生労働科学研究の概要

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