ビジネス全般

健康安全・危機管理対策総合研究事業(令和4年度厚生労働科学研究)

1.研究事業の目的・目標

【背景】

健康危機管理は「厚生労働省健康危機管理基本指針」において、「医薬品、食中毒、感染症、飲料水その他何らかの原因により生じる国民の生命、健康の安全を脅かす事態に対して行われる健康被害の発生予防、拡大防止、治療等に関する業務であって、厚生労働省の所管に属するものをいう。」と定義されており、幅広い分野での対応が求められている。

【事業目標】

本研究事業は、国レベル、地域レベルで、これらの様々な健康危機事象に効果的に対応するために、

  • 関係機関等との連携に基づく健康危機管理体制の整備
  • 具体的な対応能力の向上のための人材育成の推進
  • 科学的根拠に基づいた対応方策の確立

などに資する具体的かつ実践的な研究を実施し、全国に普及でき、かつ政策反映に資する研究成果を産出することを目的とする。

【研究のスコープ】

地域保健基盤形成、水安全対策、生活環境安全対策、健康危機管理・テロリズム対策の四つの分野において社会のニーズに応じた研究を継続して推進していく。

① 地域保健基盤形成分野

国民の生活スタイルの変化、健康課題の変化、大規模な自然災害、食中毒事案の広域化、新型インフルエンザ、新型コロナウイルス等の新たな感染症の脅威など近年の地域保健を取り巻く状況は大きく変化しており、地域保健行政は、多様な役割が求められるようになっている。

具体的には、東日本大震災や熊本地震における対応等を踏まえ、来るべき災害に向け、被災地方公共団体の保健医療分野の指揮調整機能の円滑な実施のための応援を行う「災害時健康危機管理支援チーム(DHEAT)」の人材育成を各地方公共団体において図るとともに、資質の維持向上を図るための継続的な研修・訓練を実施することとなっており、大規模災害時に地域保健活動を推進するための管理体制の強化も求められている。

また、多様化する地域保健行政に対応する公衆衛生医師の役割が一層重要になっている一方で、多くの自治体で公衆衛生医師の確保や人材育成に苦労しているという現状がある。本研究分野においては、多様化する健康危機事象に対し、地域において適切かつ迅速な対応が可能となるよう、健康危機管理対策の研究を推進する。また、地域保健行政の方向性や役割を明確化し、人材の育成、情報収集や情報共有の体制や対応する組織の整備等に関する研究も推進する。

② 水安全対策分野

水道水源への汚染物質の流入や気候変動に伴う原水水質の変動の他、水道施設の老朽化、水道事業に従事する職員数の減少、人口減少に伴う給水収益の減少といった水道を取り巻く多岐にわたる課題に対応して、国民に対し安全・安心な水を安定して持続的に供給していくために、安全・安心な水の要件である水道水質基準を定期的に見直すための研究をはじめ、気候変動等に対しても清浄な水を可能な限り安定的に供給していくための水安全対策の強化のための研究、人口減少等に対応し持続的な水道事業を実現するための技術的方策に関する研究を推進する。

③ 生活環境安全対策分野

ICT の進展により、空気環境測定等の自動化が進んだり、新たな営業形態が生じたりしている状況を踏まえ、このような新たな事案に関し、生活環境の適切な保持のため、生活衛生関係営業の質の向上に資する研究や、建築物衛生法の基準策定に資する研究を推進する。

④ 健康危機管理・テロリズム対策分野

新型コロナウイルス感染症の流行を踏まえた CBRNE(※)テロ・特殊災害やデュアルユース研究等における体制整備や連携強化、大規模国際イベント等への健康危機管理対応の教訓の整理とリスクアセスメント・対応体制のモデル案の創出、我が国に欠如した健康危機管理センターの構築と多分野連携のあり方に資する研究を推進する。また、自然災害対策については、情報集約システムを活用した保健医療福祉調整本部における意思決定についての研究を推進する。(※CBRNE:Chemical, Biological, Radiological, Nuclear, Explosive

【期待されるアウトプット】

健康危機管理に関する政策の策定・運用に資するための成果を創出し、国レベル、地域レベルでの健康危機管理体制の整備、人材育成の推進、科学的根拠に基づいた対応方策を確立する。具体的には、以下のような研究成果や活用実績が挙げられる。

  • DHEAT(災害時健康危機管理支援チーム)事務局要領及び活動要領改訂
  • 水道水質基準値等の設定・改正に必要な化学物質等の毒性や監視・低減化等に関する知見の提供
  • 空気環境測定等の自動化の実用化に向けた提案
  • 大規模イベントにおける公衆衛生対策に関する国際シンポジウム開催による国際的な情報発信
  • 災害時保健活動マニュアルの策定推進
  • 災害フェーズ毎の都道府県本庁・都道府県保健所・市町村の保健師の具体的連携内容や方法の提案

【期待されるアウトカム】

上記の様な事業成果の導出により以下のようなアウトカムが期待される。

① 地域保健基盤形成分野

災害を含む健康危機事象発生時に被災地及び支援者のスムーズな連携等適切に対応する体制の整備を推進し、さらに、保健福祉分野の行政機能の役割分担の整理により、平時からの充実した地域保健体制の整備につながる。また、災害時の保健活動における連携体制や人材育成体制を強化することにより、被災者への支援の充実につながる。

② 水安全対策分野

汚染物質や気候変動等の各種課題への対応の他、人口減少下における水道事業の効率的な運営への要請に対して、技術的な解決策等の提示を行うことにより、国民に対し安全・安心な水を安定して供給していくための体制の整備につながる。

③ 生活環境安全対策分野

最新の知見を踏まえた研究成果を元に衛生管理要領やガイドライン等を改正することにより、生活衛生関係営業及び特定建築物等の衛生環境の確保を進めるとともに、毎年開催している「生活衛生関係技術担当者研修会」などの場を通じて、各自治体の生活衛生担当者にも周知を行うことにより、生活環境安全衛生の確保につながる。

④ 健康危機管理・テロリズム対策分野

健康危機管理の要であるオールハザードによる情報集約やリスクアセスメント、多分野連携による健康危機管理センター、リスクコミュニケーションについてのモデルを構築するとともに、具体的な情報集約ツールである災害時保健医療福祉活動支援システム(D24H)を保健医療福祉調整本部における意思決定に活用するためのモデルを創出することにより、包括的で迅速かつ効率的な意思決定が可能な災害・健康危機管理体制構築に寄与する。また、CBRNEテロ・特殊災害やデュアルユース性のある公衆衛生研究における最新知見を集積することにより、公衆衛生・医療におけるハザードの未然防止、事前準備、対応体制の強化につながる。これらの包括的な災害・健康危機管理研究を通し、我が国の健康安全保障体制の強化につながる。

2.これまでの研究成果の概要

① 地域保健基盤形成分野

  • 東日本大震災の被災者の健康状況の把握と支援については、平成 23 年度からコホート研究を開始し、その結果を毎年省内関連部局や自治体に共有し、必要な支援に繋げてきた。平成 28 年度調査では、プレハブ仮設住宅での居住年数が長いものほど抑うつ・不安が強いことが明らかとなり、平成 29 年度調査では、復興公営住宅に転居した者で健康面や経済面での訴えが強いことが明らかになった。平成 30 年度調査では、大震災に起因する軽度身体的外傷と心理的苦痛の間に正の関連が認められた。
  • 大規模自然災害等の重大な健康危機発生時に公衆衛生対策を行う専門家チーム(DHEAT)について、活動要領を踏まえたシミュレーション訓練、応援派遣と受援体制等を評価した(令和元~2年度)。
  • 令和2年度には、統括的な役割を担う保健師の役割機能を整理するとともに、保健師活動指針の項目の取り組み状況を評価することで、保健師活動推進マニュアル案を作成した。
  • 令和元年度に終了した「災害対策における地域保健活動推進のための実務担当保健師の能力向上に係わる研修ガイドラインの作成と検証」では、自治体の実務担当保健師が災害時に果たす役割と能力、知識・技術・態度を明確にした。

② 水安全対策分野

  • 平成 30 年度に終了した「水道水質の評価及び管理に関する総合研究」では、水道水において新たに監視すべき項目を提案した。また、既存の方法より簡便かつ安全な水質検査方法を開発した。
  • 令和元年度に終了した「小規模水供給システムの安定性及び安全性確保に関する統合的研究」では、小規模水供給システムの維持管理手法について、今後作成予定の当該システム利用時及び維持管理が容易な浄水処理方法などに関する手引き案に盛り込む内容について提案した。また、小規模水道事業者向け水安全計画策定の考え方などの知見が得られた。
  • 令和2年度に終了した「水道事業の流域連携の推進に伴う水供給システムにおける生物障害対策の強化に関する研究」では、全国水道水源で発生するカビ臭原因物質産生藍藻類のライブラリーと遺伝子検査による簡易同定法を構築した。また、浄水場でのカビ臭原因物質の効率的な除去方法を提示した。更に異臭味の一つである生ぐさ臭の原因物質を特定した。

③ 生活環境安全対策

  • レジオネラ症対策では、平成 28~30 年度の研究により、公衆浴場における遊離塩素濃度等の水質基準の見直しやレジオネラ属菌の標準的な検査方法の策定に資する知見を収集し、この成果を踏まえ、「公衆浴場における衛生等管理要領等」の改正案の提案がなされた。
  • 建築物環境衛生管理対策では、平成 29~令和元年度の研究により、建築物衛生法の対象となる特定建築物の範囲、建築物環境衛生管理基準の検証に資する根拠データの収集、実態と導入に当たっての課題の明確化、対策の提案を行い、得られたデータ等は令和2年度に立ち上げた「建築物衛生管理に関する検討会」において基準の改正の要否を検討するにあたり重要な基礎資料として活用している。

④ 健康危機管理・テロリズム対策分野

  • 各種テロに関して、諸外国の最新知見の分析及び国内の対応の脆弱性を評価すると共に、各種テロに関する専門家、行政担当者等で構成される国内外のネットワークづくり・専門家間での情報共有を推進した。
  • CBRNE テロに関する厚生科学研究を集約し、医療従事者等が利用可能なアウトリーチツールをまとめた。
  • 化学テロへの対応については、特に大規模イベントに関連して、医薬品備蓄の搬送・使用のシミュレーション訓練を実施するとともに、解毒剤自動注射器の活用のための研修資料を作成した。
  • 大規模イベントに関連した国際シンポジウムを開催し、課題の検討や国際連携を推進した。
  • 保健医療福祉の連携体制、情報集約体制を強化するための事案検証や好事例の収集を通し、体制整備のための基礎資料を作成した。

3.令和4年度に継続課題として優先的に推進するもの

① 地域保健基盤形成分野

  • 実践を踏まえた災害時健康危機管理支援チーム(DHEAT)の質の向上、構成員、受援者の技能維持に向けた研究
    • COVID-19感染拡大を含む被災地方公共団体の保健医療分野の指揮調整機能の円滑な実施のための応援を行うDHEATについて、災害時の応援・受援の実務者である地方公共団体の保健衛生関係者が習得すべき知識等を整理し、能力の向上を図るため、優先的に推進する必要がある。

② 生活環境安全対策

  • 旅館及び公衆浴場における伝染性の疾病の範囲の設定のための研究
    • 伝染性の疾病にかかっている者に対する旅館業法に定める宿泊拒否や公衆浴場法に定める入浴拒否について、伝染性の疾病の範囲を定めるため、広域における実態調査を行う必要がある。

4.令和4年度に新規研究課題として優先的に推進するもの

① 地域保健基盤形成

  • 「DHEAT 及び IHEAT 等の役割の検討と連携体制の再構築に向けた研究」
    • 新型コロナウイルス感染症等に係る対応人材(IHEAT:Infectious disease Health Emergency Assistance Team)の行政支援リーダーと DHEAT との共通項を整理したうえでDHEAT に求められる機能を情報共有システムを踏まえて再整理する。
  • 「地方衛生研究所と保健所の役割機能の整理及び感染症健康危機対応の強化に向けた研究」
    • 地方衛生研究所(地衛研)は自治体における病原体検査の主要な担い手であり、保健所との連携不足から対応の遅れを生じることもあり、外部精度管理を含む保健所と地衛研の包括的な連携体制を構築する。
  • 「ICT 活用による保健師活動評価手法開発及び統括保健師による活用のための研究」
    • ICT 等の普及とともに、統括保健師の業務として ICT 等の活用を踏まえた保健活動の体制整備や人材育成の企画及び評価の方法を明示する。
  • 「自治体における災害時保健活動マニュアル策定及び活用推進のための研究」
    • 自治体内において、被災直後から指揮命令系統が明確になり保健活動を行うことができるよう、災害時保健活動マニュアルの作成し推進を図る。
  • 「保健所における感染症対策担当保健師の役割機能に向けた研究」
    • 新型コロナウイルス感染症の感染拡大において、平時からの取組により有効に体制整備された事例を明らかにし、今後も新たな感染症が発生した際に有効な市町村との協働、マニュアル整備等平時から取り組むべき事項について整理する。

② 水安全対策分野

  • 「水道水及び原水における化学物質等の実態を踏まえた水質管理の向上に関する総合研究」
    • 水道水質基準は常に最新の科学的知見を収集し継続的に見直しを行う必要があり、検出実態、毒性評価、監視・低減化法などその基礎となる知見をまとめる。

③ 生活環境安全対策

  • クリーニング業における衛生管理手法の検証研究
    • クリーニング業の新たな業態(コンビニを取次店とするもの、非対面のもの等)について、衛生面及び消費者保護の観点から検証し、衛生管理手法の確立につなげる。
  • ICT を活用した建築物衛生管理手法の検証研究
    • 建築物衛生法に定める空気環境や飲料水等の定期的な測定・検査の手法等について、ICTの進展を踏まえ、自動計測で得られた結果が現在手動で実施しているデータと同等以上の水準か等を検証し、適正な衛生管理の維持・向上につなげる。

④ 健康危機管理・テロリズム対策分野

  • 「健康危機時の行政の効果的なクライシス・リスクコミュニケーションについての研究」
    • 世界保健機関に指摘された、危機時のコミュニケーションの体制について好事例を収集、分析し、組織体制及び手順に関するモデル案等の作成・検証を行う。
  • 「CBRNE テロリズム等に係る健康危機管理体制の国際動向調査及び国内体制強化に向けた研究」
    • CBRNE テロリズムに関する国際動向を適確に把握し国内施策に反映するための科学的知見を整理し、必要な国内施策について提言する。
  • 「災害時の保健・医療・福祉及び防災分野の情報集約及び対応体制における連携推進のための研究」
    • これまでの研究を踏まえ、保健医療福祉調整本部の標準モデルの実社会での運用や災害時保健医療福祉活動支援システム(D24H)の活用モデルを作成・検証する。
  • 「健康危機管理センターと多分野連携体制の推進のための研究」
    • 多領域連携を組み込んだ健康危機管理センター(公衆衛生緊急オペレーションセンター)の体制等を検討し、オールハザードアプローチや保健医療福祉調整本部の研究班と連携し、オールハザードで対応可能なモデル案を提言する。
  • 「東京 2020 大会を踏まえた大規模イベント等の公衆衛生・医療に関するリスクアセスメント及び対応の標準化に向けた研究」
    • 東京 2020 大会におけるマスギャザリング対策を総括し、公衆衛生・医療に関するリスクアセスメント及び対応の標準モデル案を作成し、大阪万博に活用する。

5.令和4年度の研究課題(継続及び新規)に期待される研究成果の政策等への活用又は実用化に向けた取組

① 地域保健基盤形成

  • 災害時健康危機管理支援チーム(DHEAT)に関する研究については、DHEAT 出動の成果や課題を整理し、DHEAT の役割等を周知しつつ、DHEAT として派遣される職員の研修や受入れ側の訓練を通じた人材育成や体制整備を図る。

② 水安全対策分野

  • 「水道水及び原水における化学物質等の実態を踏まえた水質管理の向上に関する総合研究」では、化学物質(農薬を含む)、微生物等に関する水道水質基準等の見直し等に資する知見が得られる見込みである。

③ 生活環境安全対策

  • 建築物環境衛生管理対策では、自動計測で得られた結果と現在手動で実施しているデータ比較を行った研究成果を根拠データとして活用し、ICT の進展に即した特定建築物の衛生管理手法の向上を目指す。
  • 特定建築物における室内空気中化学物質の実態を把握することで、保健所、医療機関等において、特定建築物の衛生管理において適切な対応ができることを目指す。
  • クリーニング業、旅館業及び公衆浴場業等の生活衛生関係営業については、適切な衛生基準を定め、生活衛生関係営業の衛生水準の向上につなげる。

④ 健康危機管理・テロリズム対策

  • 最新の科学的知見に基づく国内のテロに対する健康危機管理施策のための基礎資料として活用するとともに、医療従事者等に最新の科学的知見を還元し、今後のテロ対応に生かす。
  • 国及び自治体等において、公衆衛生緊急事態発生時の効果的なクライシス・リスクコミュニケーションの体制確保のための基礎資料として活用する。
  • 東京 2020 大会等の経験をもとに大規模イベント時の健康危機管理体制のモデルを創出し、知見を還元することにより、本邦におけるマスギャザリング対応の強化や次世代の健康危機管理人材の育成に資することが期待される。
  • 自治体等における健康危機管理センター構築、健康危機管理における多領域連携の今後のあり方の検討の基礎資料として活用する。
  • 保健医療福祉調整本部の標準モデルの実社会での活用、災害時保健医療福祉活動支援システム(D24H)の本部における意思決定への活用が期待され、災害時の情報集約、意思決定が迅速化・効率化することが期待される。

参照

令和4年度厚生労働科学研究の概要

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