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ウイルスの発見
当然といえば当然ですが、ウイルスの発見は細胞微生物の発見よりも歴史的に後になります。
そして、歴史上初めて発見されたウイルスはタバコモザイクウイルスです。
1892年、ロシア出身の微生物学者であるドミトリー・イワノフスキー氏が、細菌や真菌が通過できない素焼きフィルターをタバコモザイク病の感染因子は通過できることを発見しました。
1892年時点では、タバコモザイクウイルスという概念は存在しておらず、タバコモザイク病、という病名だけが存在していました。
タバコモザイク病とは?
タバコモザイク病は、タバコモザイクウイルスによる植物の感染症です。
ヒトや動物への感染症ではなく、植物における感染症というのがポイントですね。 農業を営んでいる方であれば常識ですが、感染症は動物だけのものではなく、植物においても起きるものです。 考えてみれば当たり前のことですが、日常生活では感染症というと人間あるいは動物を思い浮かべるのが大多数だと思います。 みんな自己中心的ですから。 ということで、タバコモザイク病ですが、これはタバコなどの葉にモザイク状の斑点ができる病気を指します。 この病に罹ると、葉の成長が悪くなってしまいます。 タバコモザイクウイルスには病原性の異なる多くの系統があり、異なる系統が同時には増殖しません(ただし、現在はこれらの系統は別種とされることが多いです)。 このことから、弱毒株をワクチンのように用いて強毒株による被害を防ぐ方法も試されていたりします。 |
タバコモザイクウイルス
1898年、ドイツの農学者アドルフ・エドゥアルト・マイヤー氏の共同研究者マルティヌス・ベイエリンク氏が「タバコモザイクウイルスは化学的毒素とは異なる液体中の未知の分子である」ことを示しました。
イワノフスキー氏によって細菌や真菌が通貨できない何らかの病原性因子の存在が明らかになり、ベイエリンク氏によってそれは化学的毒素とは異なる未知の分子ということが明らかになった、ということですね。
もし私が当時この話をリアルタイムで聞いていたら、身の毛もよだつ思いがしたことでしょう。化学的毒素とは異なる未知の病原因子が見つかったということですから。
そして、これらがウイルス学の起源ともいわれています。歴史的な発見が立て続けに起こったのですし、振り返れば、当時のトレンドだったとも言えるかもしれません。
ウイルス=ヴェノム+ポイズン
さて、今でこそ「ウイルス=感染するもの」が常識となっていますが、常識となる前には、「ウイルス=感染するもの」を証明した人がいたわけです。
忘れがちですけれどね。忘れちゃだめですよ。
世の中の常識は、常識となる前は非常識どころか認知すらされていないのが普通ですから。
ということで、「ウイルス=感染するもの」を最初に証明したのはベイエリンク氏でした。
ベイエリンク氏は、細菌濾液(細菌を除去した感染葉の溶液)が、1つの植物から別の植物に感染を移すことができることを明らかにしました。
そして、ベイエリンク氏は、この感染因子をラテン語の 「毒(venom、venenum、ヴェノム)」 と 「有毒分泌(poisonous secretion、ポイゾナスセクリーション)」 から 「ウイルス(virus)」 と呼ぶことにしたそうです。
ウイルスとノーベル賞
1946年には、感染の原因が溶液そのものではなく、それに含まれる粒子にあることを示したことで、米国の生化学者ウェンドル・メデス・スタンリーがノーベル賞を受賞しました。
光学顕微鏡は真核細胞や細菌の細胞を観察するのに十分でしたが、ウイルスは非常に小さいため、電子顕微鏡が発明された1931年以降、10年以上経過するまで、ウイルスの写真を撮影することはできませんでした。
ウイルスは地球のバイオマスの膨大な割合を占めているため、地球上の生物の生態や進化に大きな影響を及ぼしています。
ちなみに、海洋中の全核酸(RNA及びDNA)の94%はウイルス由来であると推定されています。
少々正確性を書く表現を許すなら、海に存在するDNAやRNAのほとんどは、ウイルスまたはその死骸とも言えるでしょう。
直径24 nmの小さなバクテリオファージMS 2は、細菌リボソームとほぼ同じ大きさである。
ウイルスの大きさや形には大きなばらつきがありますが、細菌が小型化し、次に真核生物の細胞が小型化します。
ウイルスの構造と分類
ウイルスは、その構造とゲノムの性質(DNAかRNAか、一本鎖か二本鎖か)に基づいて分類されます。
DNAのDはデオキシリボースを表し、RNAのRはリボースを表します。
主な違いの1つは、DNAとRNAの両方を構成するリボース分子です。
リボースのRNAバージョンは特定の場所に酸素原子を含んでいるのに対し、DNAではその酸素原子を含んでいません。
なお、構造の差異は、これだけではありません。
RNAは一般に一本鎖であり、 DNAは通常二本鎖です。
ところが、1本鎖DNAゲノムをもつウイルスもあれば、2本鎖RNAをもつウイルスも存在するのです。
「え?」と驚いたアナタはよくわかっています。DNAは2本鎖、RNAは1本鎖である、というのが常識ですよね。
ですが、そうした教科書の知識、固定概念に囚われすぎてしまうと、かえって科学の発展の妨げになってしまうかもしれません。
悩ましいですね。
ウイルスが細胞を乗っ取ると?
ウイルスが細胞に感染し、その細胞をある意味で乗っ取るとどうなるでしょうか?大きく分けて2つの経路を通ります。
溶菌サイクル
最初にご紹介するのは溶菌サイクルです。
溶菌サイクルでは、ウイルスは宿主細胞にウイルスを複製させます。無理やり自分の分身を作らせるわけですね。
その後、新たに複製されたウイルスを放出するために開きます。
この経路により、ウイルスによる感染症が増えます。
ウイルスは生命か?で触れた「自分の複製を作る」ためのサイクルです。
溶原サイクル
次にご紹介するのは溶原サイクルです。
溶原サイクルでは、ウイルスが宿主のゲノムに組み込まれるか、あるいはプラスミド(小さな環状のDNA断片)としてゲノムと共存することになります。
このサイクルは宿主を直接死滅させるわけではありません。
ですが、ある種のウイルスでは、宿主ゲノムからウイルスゲノムが切り出され、溶菌サイクルに入るとういこともあります。
まずは相手に取り入って(取り込まれて)、その後、自分の分身を増やしていくというなんとも賢いやり方だと唸ってしまいますね。
まとめ
ということで、ウイルスとは何なんでしょうか。
いまのところ、「ウイルスとは、適切な代謝を受けず、病原性を示す可能性のある偏性細胞内寄生体である」という表現が端的でわかりやすい表現かもしれません。
少し表現を変えるなら「ウイルスとは、細胞内寄生体であり、宿主を利用して核酸を複製し、核酸の指示に従ってタンパク質を合成するもの」です。
この続きはまた別の機会に考えてみましょう。奥が深い世界です。気長にいきましょう。