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2040年、日本の医療はどう変わる? 未来図と課題

2040年を見据えた新たな地域医療構想の議論が活発に進められています。入院医療だけでなく、外来や在宅医療、さらには医療と介護の連携強化も視野に入れ、2024年末には具体的な方針がまとめられました。現在、これを受けて国会では医療法などの改正に向けた審議が行われています。

この大きな変化の先に、日本の医療はどのような姿になっているのでしょうか? 2040年の医療提供体制の展望と課題について、考えてみます。

2040年の医療を取り巻く環境:人口構造の変化と医療需要

2040年に向けて日本の人口構造が大きく変化することが、まず大前提となります。これは確定した未来です。

少子高齢化の加速

医療・介護の担い手は不足する一方、高齢者人口は増加。特に大都市圏では高齢者が増え、全国の入院需要は2040年にピークを迎えると予測されています。

地域差の拡大

過疎地域や一部地方都市では人口自体が減少し、65歳以上人口も減少します。これらの地域では逆に入院患者数が減る可能性があります。外来医療需要は、すでに多くの地域でピークを過ぎ、日本全体でも2025年を境に減少に転じると推計されています。

医療機関の経営難

患者確保の難しさ、物価や賃金の高騰により、経営が立ち行かなくなる医療機関が増える可能性があります。特に病院では、地域の需要に応じた病床機能の転換や、スケールメリットを求めたM&A、医療法人の大規模化などが進むと予測されます。

医療提供体制の変化:淘汰と再編、そして新たな連携

こうした環境変化の結果、医療提供体制も大きく変わらざるをえません。時代の流れ、社会構造の変化に合わせた適応(組織としての進化)が求められます。

基幹病院の集約化

高度急性期医療を担う地域の基幹病院(大学病院本院・分院、地域医療支援病院など)は、現在の約450施設強から300施設程度に減少する可能性があります。

中小病院の役割変化

残る多くの病院は、増加する高齢者救急や在宅医療の受け皿としての役割が中心になると考えられます。

地域医療の担い手不足

医療従事者自身の高齢化も進み、2040年までに約265市区町村で診療所がなくなる可能性も指摘されています。地域によっては訪問診療や介護サービスの維持も困難になり、国民皆保険制度の維持自体が難しくなる可能性も示唆されています。公的医療保険の範囲や財源確保についての議論が急務です。

人材確保と報酬体系

医療界の人手不足は深刻化します。他産業への人材流出を防ぎ、医療の質を維持するため、業務に見合った給与水準を維持できる診療報酬体系への見直しが必要です。

診療報酬はどう変わるべきか?

医療機関の進化に合わせて、診療報酬体系の見直しも当然ながら必要になります。様々なステークホルダーを考慮した診療報酬の設計が、よりいっそう重要になるでしょう。

急性期医療の集約化と経営基盤強化

手厚い看護配置が必要な高度急性期・急性期医療を集約・重点化し、人的資源を集中させることで、1施設あたりの手術件数を増やし、若手医師の育成や経営安定化を図るべき、との意見もあります。

評価指標の転換

従来の設備や人員配置といった「ストラクチャー評価」中心から、提供された医療・ケアの適切さを評価する「プロセス評価」や、それによって患者が得た効果を評価する「アウトカム評価」中心へと移行する必要性も検討されています。ただし、患者選別を招かないよう、慎重な議論が必要です。

地域医療構想と新たな仕組みづくり

人口減少が進む中、従来の「構想区域」のあり方も見直しが迫られます。

広域連携とオンライン診療

人口減少が進む地域や離島・僻地では、圏域を超えた議論やオンライン診療(看護師などが患者のそばでサポートするDtoPwithNなど)の活用が不可欠になります。

サテライト診療所の活用

撤退した医療機関の建物を活用し、中核病院の医師が交代で勤務する「サテライト方式」も有効な選択肢です。医師を派遣する病院への報酬・補助金など、自治体によるしっかりとした支援制度設計が求められます。

補助金頼りの限界

人口減少地域での新規開業支援補助金だけでは、長期的な医療提供体制の維持は困難です。医師の良心に頼るのではなく、中核病院に医師を集め、そこから地域へ計画的に医師を派遣する持続可能なシステム構築が必要だと猪口会長は指摘します。これには、自治体、医療提供者、住民間の十分な協議が不可欠です。

病床再編と中小病院の重要性

病院の老朽化に伴う建て替えも、病床再編を加速させる要因となります。

都道府県の役割強化

地域の実情に合わせて、どの病院にどの機能を担ってもらうか、都道府県が調整役としての責任を一層強く負うことになります。

中小病院の役割

高齢者救急の受け皿や、急性期病院の後方支援(在宅療養中の患者や介護施設からの受け入れなど)を担う中小病院の重要性はますます高まります。急性期病院と後方支援病院が連携し、地域全体で「面」として医療を提供する体制が求められます。

医師の未来:「何をしたいか」が問われる時代へ

2040年、医師の働き方や求められる資質も変化します。

総合診療能力の重要性

高齢化に伴い、専門領域にとらわれず患者を総合的に診られる医師のニーズが高まります。専門医育成と並行して、総合診療能力を持つ医師を増やすことが重要です。

処遇改善と働き方改革

負担の大きい診療科へのなり手不足に対応するため、業務負担に応じた処遇改善の動きが広がる可能性があります。

DX・AIの活用

カルテ入力などバックヤード業務の効率化のため、AIなどのデジタル技術活用が進むでしょう。

まとめ:未来を見据えた議論を急げ

2040年の医療は、人口減少、高齢化、人手不足、財政問題といった大きな課題に直面します。医療提供体制の大幅な再編・効率化を迫られる未来は、もうすでに到来しています。

基幹病院の集約化、中小病院の役割変化、オンライン診療の活用、地域内・地域間での連携強化、そして評価制度や報酬体系の見直しなど、取り組むべき課題は山積しています。

こうした将来に備えるために、理想の未来像から逆算して今やるべきことを考える「バックキャスト」での検討が不可欠です。診療報酬・介護報酬の同時改定は2040年までにあと2回しかありません。私たち国民一人ひとりも、他人事と捉えず、日本の医療の未来について関心を持ち、議論に参加していく必要があるのではないでしょうか。

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