ビジネス全般

地域医療基盤開発推進研究事業(令和4年度厚生労働科学研究)

1.研究事業の目的・目標

【背景】

少子高齢化等時代が変化する中、豊かで安心できる国民生活を実現するための医療政策において、地域の実情に応じた医療提供体制の構築、医療人材の育成・確保、医療安全の推進、医療の質の確保等の課題の解決が求められている。

【事業目標】

少子高齢化の進展や医療ニーズの多様化・高度化により、医療を取り巻く環境が大きく変化している中、豊かで安心できる国民生活を実現するため、効率的な医療提供体制の構築、医療の質の向上を目指し、新たな医療技術や情報通信技術等を活用することで、地域医療構想の策定や地域包括ケアシステム構築を推進するための地域医療の基盤を確立する。

【研究のスコープ】

① 地域の実情に応じた医療提供体制の構築
② 医療人材の養成
③ 医療安全の推進
④ 医療の質の確保等

【期待されるアウトプット】

① 地域の実情に応じた医療提供体制の構築

  • 地域医療構想を着実に進めるために必要な、地域医療の実態把握、効率性と質が両立する医療提供体制の特徴の定量化、在宅医療の体制構築に係る医療機能モデルの提示、多職種連携や医療介護連携を踏まえた政策提言、小児科医師偏在対策指標の見直しに関する政策提言等の研究成果が期待される。
  • 医師の働き方改革を着実に実行するために、勤務環境改善に取り組む医療機関の事例集、特定行為研修修了者の複数配置の効果に関する知見等の研究成果が期待される。
  • 医師偏在対策を着実に進めるために必要な、政策効果を評価する手法の精緻化、効果的な具体的施策の提示等の研究成果が期待される。

② 医療人材の養成

  • 将来の医療ニーズを踏まえて計画的に医療人材の養成を進めるために必要な、需給推計の数理モデル、研修の評価指標、国家試験の実施方法に係る提言等の研究成果が期待される。

③ 医療安全の推進

  • 医療安全を着実に進めるために必要な、標準的な医療安全教育プログラム、医療への患者参加、美容医療に係る医療安全に資する提言等の研究成果が期待される。

④ 医療の質の確保

  • 良質な医療を提供するために必要な EBM や ICT 推進に関わる提言、臨床指標の確立、遺伝子関連・染色体検査等の検体検査の精度管理に関する提言等の研究成果が期待される。
  • 外国人患者へ効果的に医療を提供するために必要な、自治体や医療機関向けの指針や体制整備に関する提言等の研究成果が期待される。
  • 歯科口腔保健を着実に推進するために必要な、歯科疾患や歯科保健医療に関する評価方法・評価指標等の提言や、歯科保健医療の効果的かつ具体的な推進方法の提言等の研究成果が期待される。

【期待されるアウトカム】

① 地域の実情に応じた医療提供体制の構築

  • 国が策定する医療計画策定指針に基づき、都道府県が地域医療構想を含む医療計画の策定を行い、各種指標に基づきPDCAサイクルを回すことで、効率的かつ効果的な医療提供体制の構築が期待される。
  • 医師が健康で充実して働き続けることのできる社会の実現に寄与することが期待される。
  • 特定行為研修修了者の効果的な配置により、修了者を活用した医療サービスの提供、タスク・シフト等がさらに推進されることが期待される。
  • 医師の偏在解消に寄与することが期待される。

② 医療人材の養成

  • 将来の医療ニーズを見据えながら、必要な医療人材の確保に寄与することが期待される。

③ 医療安全の推進

  • 患者の安全を最優先に考え、その実現を目指す「安全文化」を醸成し、医療が安全に提供され、国民から信頼される医療の実現に寄与することが期待される。

④ 医療の質の確保等

  • より効果的・効率的な医療の提供を実現し、さらなる医療の質向上に寄与することが期待される。
  • 引き続き増加する在留・訪日外国人が、安心して医療機関を受診できる環境の実現に寄与することが期待される。
  • 歯科口腔保健の推進に関する施策を総合的に推進し、生涯を通じた切れ目のない歯科保健医療提供体制の構築に寄与することが期待される。

2.これまでの研究成果の概要

① 地域の実情に応じた医療提供体制の構築

  • 「ドクターヘリの適正利用および安全運航に関する研究」において、ドクターヘリの安全な運用・運行のための基準を作成した。(平成 30 年度)
  • 「救急医療体制の推進に関する研究」において、法改正によって救急救命士が医療機関で業務を可能とする場合の利点や課題等について整理した。(平成 30 年度)
  • 「総合診療が地域医療における専門医や他職種連携などに与える効果についての研究」において、フィールド調査等により総合診療医が地域医療に与える影響や期待される役割を明らかにするとともに、総合診療医の必要医師数の算出方法の検討を行った。(令和2年度)

② 医療人材の養成

  • 「新たな臨床研修の到達目標・方略・評価を踏まえた指導ガイドラインに関する研究」において、新たな臨床研修の到達目標、方略及び評価が円滑に導入されるよう、「医師臨床研修指導ガイドライン」のブラッシュアップ案を作成し、併せて英訳版を作成した。(令和2年度)
  • 「保健師助産師看護師国家試験における現状の評価及び出題形式等の改善に関する研究」について、これまでの国家試験問題の妥当性評価等を行い、今後の保健師助産師看護師国家試験の出題形式や内容等の具体的提言を得た。

③ 医療安全の推進

  • 平成 30 年度に「医療安全における医療機関の連携による評価に関する研究」が実施され、複数の医療機関が連携して、効果的に医療安全評価を行うための「医療安全地域連携シート」および「「医療安全地域連携シート」活用実践ガイド」が作成された。
  • 「医療機器の保守点検指針の作成等に関する研究」において、平成 30 年度は、人工心肺装置及び放射線照射装置に関する保守点検及び研修に関する手引書の草案を作成した。令和元年度は、生命維持管理装置等のうち人工呼吸器及び血液浄化装置並びに放射線関連機器等のうちリモートアフターローディング装置及びガンマナイフ装置に関する保守点検及び研修に関する指針案を作成した。令和2年度は、除細動器及び閉鎖式保育器の指針案の作成に取り組んだ。
  • 「患者中心の歯科医療を行うための情報提供内容調査と提供方法構築の研究」(令和元年度終了)では、一般歯科診療所を対象に医療安全や診療に関する情報提供の現状を調査し、提供方法のあり方について検討するための基礎的知見を得た。

④ 医療の質の確保等

  • 「医療の質の評価・公表と医療情報提供の推進に関する研究」(平成 30 年度)において、参加病院団体等による意見交換会の開催や国内外の知見の収集等を通じ、今後の医療の質向上の進め方について検討を行った。また、医療機能情報提供制度についても、都道府県の運用状況等について情報収集を行い、今後の改善の方向性について検討した。
  • 「医療通訳認証の実用化に関する研究」(令和元年度に終了)にて、民間医療通訳資格の認証のあり方に関する基礎的知見が提供された。
  • 「外国人患者の受入環境整備に関する研究」(令和2年度に終了)にて本邦の外国人医療の現状と課題が分析され、「外国人患者受入れのための医療機関向けマニュアル」「地方自治体のための外国人患者受入環境整備に関するマニュアル」「訪日外国人の診療価格算定方法マニュアル」が取りまとめられた。
  • 「診療ガイドラインにおける画像検査の推奨度の決定基準についての研究(平成 30-令和元年度)」では、ガイドライン間で生じている画像検査の推奨度の違いを明らかにするべく、国内診療ガイドラインにおける画像検査推奨度決定に用いる手法等について調査し、診療ガイドラインに導入可能な画像検査の推奨度決定基準に含めるべき項目を明らかにした。
  • 「看護師の特定行為研修の修了者の活動評価のための研究」においては、特定行為研修修了者の効果を定量的に評価する指標についての調査の枠組みを策定した。

3.令和4年度に継続課題として優先的に推進するもの

  • 「医療の質の評価・公表と医療情報提供の推進に関する研究」
    参加病院団体等による意見交換会の開催や国内外の知見の収集等を通じ、今後の医療の質向上の進め方について検討を行っている。令和4年度には多くの医療機関から医療の質指標にかかる情報を収集する。
  • 「医療の質及び患者アウトカムの向上に資する、看護ニーズに基づく適切な看護サービス・マネジメント手法の開発」
    看護資源の適切な分配のためには、サービスの質保証と最適化というサービス・マネジメントの視点が重要であり、本研究において、医療の質及び患者アウトカムに影響する看護関連指標とその指標の基準値(ベンチマーク)の活用等に関する提言を得ることで、投入する看護資源と生み出される看護サービスの質の関係性を明らかにし、看護資源の分配の最適化の検討を推進する。令和4年度においては、前年度に抽出した看護関連指標について、特定の領域に偏在しないよう、対象医療機関を増やし広く臨床データを収集し解析をすることで、指標の妥当性と精度を高める。
  • 「地域の実情に応じた医療提供体制の構築を推進するための研究」
    令和5年度に各都道府県で医療計画を作成するに当たって、その評価のための指標を今年度中に作成する必要があるため、大規模データベースを用いた適切な指標の検討や集計等に必要なリソースが不足することとなる。また、医療計画の感染症事業についてもさらに検討を進める必要があるため、人員体制をより手厚くして推進する。
  • 「医師確保計画を踏まえた効果的な医師偏在対策の推進についての研究」
    令和5年度に各都道府県で医師確保計画を策定するために、国においてガイドラインを策定するが、このための基礎となるデータを作成する必要があり、そのための分析リソースを十分に確保して推進することが必要である。

4.令和4年度に新規研究課題として優先的に推進するもの

① 地域の実情に応じた医療提供体制の構築

  • 「かかりつけ医機能の強化に資する研究」
    かかりつけ医機能が地域医療の中で医療の質にどのように貢献するか明らかにする。また、諸外国の政策や我が国の好事例の分析を通して、かかりつけ医機能の強化に有効な具体的な支援策を明らかにしていく。
  • 「医療機関へのアクセスとインフラ整備も含めた医療提供体制の構築のための研究」
    地方都市において、医療機能の分化・連携を進めて行くに当たって、医療機関へのアクセスのためのインフラ整備を含めた都市整備についてはほとんど知見がなく、医療機関配置の最適化をまち作りと一体的に推進するための知見を明らかにする。
  • 「医療機関における薬剤師の業務構造変革に資する研究」
  • 「潜在看護職員の復職に係る実態把握及び支援方策の検討のための研究」
  • 「持続可能な救急医療提供体制の構築のための研究」
  • 「大規模災害時における地域連携をふまえたさらなる災害医療提供体制強化に資する研究」
  • 「入院外医療の提供体制の構築のための研究」
  • 「NCD を活用した効率的かつ質の高い医療提供体制の整備に資する研究」
  • 「NDB を活用した歯科医療提供体制の評価指標の確立のための研究」

② 医療人材の養成

  • 「保健師助産師看護師国家試験におけるコンピュータの活用の推進のための研究」
    ICT の進展等の近年の社会的状況や災害等の非常時への対応を踏まえた保健師助産師看護師国家試験の実施に向けた体制整備を推進する。

③ 医療安全の推進

  • 「病院薬剤師を活用した医薬品に係る医療安全の推進に資する研究」
    医療機関で働く薬剤師不足の要因や既存の支援策等の効果について、調査・解析し、検証し、エビデンスに基づいた効果的な支援策に資する基礎資料を作成する。
  • 「院内の医療安全管理体制の質の向上に資する研究」
    医療安全については 2000 年頃より様々な取り組みが進められているが、医療安全の評価指標を求めるニーズもあり、実用にむけて研究されることが期待されている。医療安全を評価する指標について先進的な取り組みを収集し、検証をおこなう。
  • 「医療機関における安全管理体制の構築のための研究」
  • 「患者参加を促進する医療安全の質の向上に資する研究」
  • 「医療安全に係る諸制度の運用に資する研究」
  • 「美容医療サービスのさらなる質の向上に向けた研究」
  • 「医師から医療関係職種へのタスク・シフト/シェアの安全性評価のための研究」
  • 「新たな放射線医療に対応する適切な放射線防護の基準設定のための研究」

④ 医療の質の確保等

  • 「外国人患者の効果的な受入環境整備に向けた研究」
    これまでの研究により、基本的な体制整備方針は成果として取りまとめられたが、地域における拠点的な医療機関の役割や位置づけ、診療報酬など効果的な医療機関への支援方法等に関してはエビデンスが不足しており、効果的な外国人医療施策のための研究を行う。
  • 「特定分野における次世代の医療情報標準規格の策定のための研究」
    次世代の医療情報標準規格HL7 FHIR 等)等を用いて、特定分野における標準規格を策定する。
  • 「公衆衛生向上の観点から死因究明により得られる情報を活用する方策についての研究」
  • 「看護職及び特定行為研修修了者による医行為の実施状況についての調査研究」
  • 「特定行為にかかる効果指標を用いた活動実態調査研究」
  • 「医療機器の安定供給のための体制整備に資する研究」
  • 「適切な医薬品開発環境・安定供給及び流通環境の維持・向上に関する研究」
  • 「『遺伝子関連・染色体検査』の精度管理のための研究」
  • 「歯科口腔保健施策の推進のための歯科疾患実態調査の効率的・効果的な実施方法等の確立のための研究」
  • 「看護・歯科等分野における医療情報標準化の推進のための研究」
  • 「希少疾患・難病の特定分野における診療ガイドライン等の評価に資する研究」
  • 「救急時等における医療情報の利活用のための研究」

5.令和4年度の研究課題(継続及び新規)に期待される研究成果の政策等への活用又は実用化に向けた取組

① 地域の実情に応じた医療提供体制の構築

  • 「かかりつけ医機能の強化に資する研究」
    「医療計画の見直し等に関する検討会」や「社会保障審議会医療部会」におけるかかりつけ医機能の強化に向けた議論の材料として活用する。
  • 「潜在看護職員の復職に係る実態把握及び支援方策の検討のための研究」
    国家資格におけるマイナンバー制度の利活用の議論において、当該制度を利用することにより把握される潜在看護職員への働きかけ等の方策の議論の材料となる。
  • 「大規模災害時における地域連携をふまえたさらなる災害医療提供体制強化に資する研究」
    都道府県が面的な災害医療提供体制を整備することが出来るよう、研究成果である地域連携BCP 策定マニュアルや自治体向けの受援マニュアルを全国に普及する。
  • 「医療機関へのアクセスとインフラ整備も含めた医療提供体制の構築のための研究」
    医療機関の再編を行う際に障壁となり得る医療アクセス等の課題及びその対応策等について、先行事例や知見を収集し周知することで、地域における医療機関再編を含む効率的な医療提供体制構築のための議論に活用される。

② 医療人材の養成

  • 「保健師助産師看護師国家試験におけるコンピュータの活用の推進のための研究」
    国内外でのコンピュータを活用した資格試験等の実施に関する調査や保健師助産師看護師国家試験の実施方法についての提言により、ICT の進展等の近年の社会的状況や災害等の非常時への対応を踏まえた保健師助産師看護師国家試験の実施方法・体制の見直しに寄与する。

③ 医療安全の推進

  • 院内の医療安全管理体制の質の向上に資する研究
    医療安全を評価する指標について先進的な取り組みを収集・検証をおこない、医療安全対策の立案等において実装可能な指標の開発につなげる。
  • 「病院薬剤師を活用した医薬品に係る医療安全の推進に資する研究」
    医療機関で働く薬剤師不足の要因や既存の支援策等の効果について、調査・解析し、検証し、エビデンスに基づいた効果的な支援策に資する基礎資料を作成する。
  • 「新たな放射線医療に対応する適切な放射線防護の基準設定のための研究」
    新規の放射性医薬品・診療機器等についての放射線防護に関する安全管理基準等を提言し、医療機関で放射線医療を実施する際に遵守すべき放射線防護規定に関する検討に活用し、必要に応じて省令改正や通知発出等を行うことで、適切な医療提供体制の構築に反映させる。

④ 医療の質の確保等

  • 「外国人患者の効果的な受入環境整備に向けた研究」
    拡充したマニュアルや作成されたツールを厚労省 HP で公開し都道府県や医師会等に周知することで、医療機関や自治体の効果的な体制整備に寄与する。また研究成果である外国人患者受入体制整備に関する提言を、医療機能情報提供制度の当該項目の見直し、診療報酬での加算に反映させるための基礎資料、予算事業など厚生労働省の外国人医療政策へと活用する。
  • 「医療機器の安定供給のための体制整備に資する研究」
    安定供給に支障を来す可能性が高い医療機器の類型化や課題の整理、企業・行政向けマニュアルを策定することで、企業・行政双方の安定供給に向けた対応の円滑化につながり、医療現場において必要な医療機器が途切れなく供給される体制構築に寄与する。また、本研究で分析・検討した結果を、診療報酬改定及び医療機器基本計画における施策検討のための基礎資料とする。
  • 「希少疾患・難病の特定分野における診療ガイドライン等の評価に資する研究」
    希少疾病・難病等の指針・診療ガイドライン等を評価するための手法、診療ガイドライン等の質の向上のための方策等を提案することで、希少疾病・難病等の指針・診療ガイドライン等の評価方針、方法等の検討に役立てる。
  • 「特定分野における次世代の医療情報標準規格の策定のための研究」
    次世代の医療情報標準規格(HL7 FHIR 等)等を用いて、特定分野における標準規格を策定することで、医療機関への円滑な普及、我が国における保健医療情報の標準化の推進に繋がる。
  • 「救急時等における医療情報の利活用のための研究」
    救急時等において医療機関間での医療情報の利活用による救急診療への有用性の検証や、検査処置等の効率化、医療の質の向上等につながるエビデンスを創出することで、今後の情報連携の普及等につながる施策検討のための基礎資料とする。
  • 「看護職及び特定行為研修修了者による医行為の実施状況についての調査研究」
    看護師の特定行為研修制度の内容の見直しを医道審議会保健師助産師看護師分科会看護師特定行為・研修部会において検討するにあたり、本研究結果を検討のための基礎資料として活用することが想定される。制度内容の見直しの検討により、制度の適正化、医療の質の確保の推進に寄与する。

参照

令和4年度厚生労働科学研究の概要

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