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AR を用いた手術ナビゲーションシステムの技術的動向と医療機器としての考え方(Informative)

2021年8月5日

AR を用いた手術ナビゲーションシステムの技術的動向と医療機器としての考え方(Informative)

1. はじめに

2016 年現在、仮想現実(Virtual Reality, VR)や拡張現実(Augmented Reality, AR)は従来の限られた専門家向けに使われる技術から消費者向けの技術へと移り変わりつつある。製品のポータブル性能、画質・レンダリング性能、処理スピード、使い勝手等が向上する一方で、価格帯が下がり、より消費者にとって身近な技術となってきている。米コンサルティング会社の調査によれば、2020 年の市場規模は 1,500 億ドルになると予測される 1。また、2025 年における VR/AR のソフトウエアにおけるヘルスケア市場は、11.6 億ドルのビデオゲームの次で、5.1 億ドルの規模になるとされる 2。このように、当該分野は今後数年間で飛躍的に進歩することが見込まれるが、ここでは現状における技術応用で考えられる範囲について述べる。

2. 定義

VR と AR はバーチャルな(原物そのものではないが、本質的な部分を備えている)情報を用いるところに共通する技術がある。これらの技術は人の五感を仮想的に作り出すために用いられるが、多くの技術は視覚情報によっている。ここでは、視覚における当該技術について示す。

(1)VR:実空間で起こりうる事象をシミュレーションによって体験する感覚を与えることや、現実の世界に似た空間(仮想空間)にユーザを没入させて、あたかも実空間にいる感覚を与えることに用いられる技術をいう。コンピュータ上で作製された仮想空間内で、情報がやり取りされる。

(2)AR:実空間にバーチャルな情報を重畳表示することで、実空間では実際に見ることはできない情報を与える技術をいう。ユーザ自身とは別に計測等によって得られる情報をコンピュータに取り込み、実空間シーンに合わせて重畳表示する。

3. 医療施設において想定される VR/AR 技術の応用

VR は手術ロボット等、トレーニングを目的とした機器に用いられている。2000 年頃の技術は、仮想空間への入力デバイスもコンピュータ用のものであり、仮想空間内での現実感の創出が中心であった。近年では、医療機器や装具等、実機を計測する機能を有し、仮想空間に作製されたモデルに対して、実機を用いたトレーニングをするための技術として用いられている。例えば、手術ロボット用シミュレータは、実機と仮想空間との情報の連動性が高く、現実空間における情報により、仮想空間での応答が異なる仕様となっている。基本的には、仮想空間内のモデルを制御するため、当該技術により患者自身に直接的な危害が与えられるリスクはない。ただし、仮想空間内のモデルを動かす場合においても、デバイスをユーザが装着して情報伝達を行う場合に、ユーザが利用する環境等の制約によっては、危害を被ることも考えられる。特に、ユーザが見える範囲のほとんどが仮想空間の情報となるような没入感が高い場合においては、ユーザが現実空間における周辺の環境を把握しづらいことが考えられる。

AR は術中の情報確認用デバイスの技術として用いられることが研究上進んでいる。情報の重畳はハーフミラー、ヘッドマウントディスプレイ、タブレット型 PC等の画像重畳用デバイスを用いる、あるいは、実空間シーンへの直接的なプロジェクション等があげられる。現在の技術では、バーチャル情報を半透明に表示することで、実空間の周辺情報と明確な区別ができるものがほとんどであり、ユーザが現実と仮想との情報とを間違える可能性は低い。今後の技術革新によっては、バーチャル情報がユーザに現実の情報として見えるような表示が進むと考えられ、バーチャル情報と実空間シーンとの整合性の判断が難しくなることも予想される。

4. 手術ナビゲーションシステムにおける AR 技術の応用

手術ナビゲーションシステムは 1990 年代より市販されてきた歴史があり、現在国内外の多くの施設で術中の術者の判断材料として利用されている。手術ナビゲーションシステムは術中に術者が術式、術具の位置姿勢の誘導や手術部位や周辺の位置関係の確認することを目的として適用される画像支援システムをいう。一般的な手術ナビゲーションシステムの精度を考える上で、計測器、画像、それ以外の要因にわけて誤差の推定が行われる。基本的に術中の計測は光学式位置計測装置で高精度を保ち、ナビゲーションに用いる画像は術中に患者の姿勢を保ったまま、術中画像を撮像し、計測データと画像とにずれが生じないようレジストレーションすることで、システム精度を維持するように工夫されている。また、システム機能には、器具の位置検出機能や器具の対象までの誘導機能が搭載されることが多い。

本ガイドラインの対象は本文中の 2 項に示した。本ガイドライン内での手術ナビゲーションシステムでは、画像を用いること、レジストレーション機能を有することは必須条件であるが、光学式位置計測装置を用いない場合についても想定している。これまでに精度が十分に検証されている位置計測装置を使用しない場合、精度に関わる要因を洗い出し、目標とする性能を達成しうるかについて評価が求められる。なお、当該システムの要件には、器具の位置検出機能や器具から対象への適切な誘導機能を有することを必須としない。カメラ画像ベースの計測ではシステムの結果に応じて医師自身の空間的情報を増強することで判断支援がなされることも考えられ、器具の位置検出を必要としない場合がある。

5. AR 手術ナビゲーションシステムの医療機器としての考え方

医療機器のリスクマネジメントを行う上で、医師と医療機器の関与・責任の程度を示すことは重要である。手術ナビゲーションシステムの医療機器としての位置づけを考える上では、ナビゲーション・ロボット審査分類マトリクス案の考え方(厚生労働省/次世代医療機器評価指標作成事業/ナビゲーション医療(手術ロボット)整形外科分野及び第二分野(軟組織対象)審査 WG 報告書 3)を参考にするとよい。このマトリクスは、画像や位置情報を呈示するナビゲーションを利用して治療器具等を稼働させる機器を対象としている。当該マトリクス(図 1)では、横軸及び縦軸に設定した「A.医療作用(手技)装置」と「B.生体情報取得装置」をそれぞれ 4 段階評価(1.医師が主体、2.医師が積極的、3.医師が消極的、4.機器が主体)して、医師と医療機器の関与・責任の程度を 16 分割し、対象とする開発機器をマッピングすることにより、機器の分類を行うよう促している。実用化技術や開発技術のマトリクスへのマッピングについては、経済産業省/医療機器開発ガイドライン策定事業/ナビゲーション医療分野(手術ロボット)開発 WG 報告書 4を参考にするとよい。当該報告書では、既存製品、実用化及び開発段階の機器の分類が例示されているため、開発を目指す製品と比較することにより、医療機器としての医療行為への積極的な関与の度合いについて、客観的に把握することができる。

手術ナビゲーションシステム単体では、現在のところ、医師の判断補助としての情報呈示が主な用途であり、機器自体が積極的に治療行為・手技に介入することはないと考えられている。そのため、多くの機器はマトリクスの A1 又は A2 に分類されることが予想される。AR 技術を用いる場合、従来の手術ナビゲーションシステムの他に必要となる評価項目の存在の有無を対象機器毎に検討するべきである。例えば、医師は AR 技術によって示される情報の正常性やその必要性を確認又は認識した上で判断すると考えられることから、呈示される情報の評価項目を選定する必要がある。

<参考資料>

  1. Augmented/Virtual Reality Report 2016, Digi-Capital
  2. Profiles in Innovation “Virtual & Augmented Reality: Understanding the Race for the Next Computing Platform”, Goldman Sachs Global Investment Research, Jan 13, 2016
  3. 厚生労働省次次世代医療機器評価指標作成事業/ナビゲーション医療(手術ロボット)整形外科分野及び第二分野(軟組織対象)審査 WG 報告書 http://www.dmd.nihs.go.jp/jisedai/index. html
  4. 経済産業省医療機器ガイドライン策定事業/ナビゲーション医療(手術ロボット)開発 WG 報告書.http://www.aist.go.jp/aist_j/aistinfo/report/entrust/iryoukiki/2006/

参照

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