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第1 はじめに
平成8年の薬事法改正により、医薬品の治験に関して GCP(Good Clinical Practice)が法制化され、平成9年に施行されたことにより、医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(平成9年厚生省令第 28号。以下「GCP 省令」という。)が制定されている。GCP 省令は、ICH(日米 EU 医薬品規制調和国際会議)により合意された ICH-GCP に基づくものであり、国際水準の臨床試験実施基準である。また、医療機器の治験に関しては、平成 14 年の薬事法改正により、GCP が法制化され、平成 17年に施行されたことにより、医療機器の臨床試験の実施の基準に関する省令(平成 17 年厚生労働省令第 36 号)が制定されている。
GCP 省令が治験に適用されることにより、治験の倫理性、科学性等に関する水準は従来と比較して大きく向上したが、医療機関等の実施体制が必ずしも十分ではなく、平成9年以降の治験実施件数は、それ以前よりも大きく減少することになった。
そのような状況を改善するため、平成 15 年 4 月に文部科学省と厚生労働省が共同で「全国治験活性化3カ年計画」を取りまとめ、計画に従った取組みを進め、その後、平成 19 年3月には「新たな治験活性化5カ年計画」を、平成 24 年3月には「臨床研究・治験活性化5か年計画 2012」を取りまとめ、継続して臨床研究・治験の活性化に取り組んできた。
一方で、医療法(昭和 23 年法律第 205 号)における臨床研究中核病院の位置付け、健康・医療戦略推進本部及び国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の設立、臨床研究法(平成 29 年法律第 16 号)の制定及び施行といった制度基盤・背景の変化、海外の臨床研究関係規制の改正、リアルワールドデータの活用と言った新たな開発手法の登場など、昨今の臨床研究・治験を取り巻く環境の大きな変化に伴い、臨床研究・治験の活性化施策も、それらを踏まえた検討を行うことが求められている。
今般、これらの状況を踏まえ、厚生科学審議会臨床研究部会において、今後の臨床研究・治験活性化施策について議論し、基本的考え方や今後の対応等について整理を行った。
第2 臨床研究・治験の推進に係る基本的考え方
「臨床研究・治験活性化5か年計画2012」の総括等を踏まえ、臨床研究・治験活性化の今後の方向性を整理するに当たり、現状の取組みや課題について議論し、臨床研究・治験の推進に係る次の五つの基本的考え方をⅠ.~Ⅴ.として整理した。
Ⅰ.「新薬・新医療機器等の開発」と「診療の最適化のための研究」のバランス
疾病の予防、早期診断、早期治療に対する国民の期待は高く、革新的な医薬品、医療機器等の研究開発の推進が引き続き必要である。また、質の高い医療の提供には、市販された医薬品同士を比較し診療ガイドラインの改善につなげることや、医薬品を用いない手術・手技に係る研究など、診療の最適化に係る臨床研究も重要である。こうした「新薬・新医療機器等の開発」と「診療の最適化のための研究」をバランス良く進めることが重要である。
Ⅱ.人材育成の強化と財政的リソースの効率化
研究開発の高度化等に伴い、研究実施に加え、研究開発を支える人材育成を強化するとともに、人材等のリソースをより一層効率的に活用する必要がある。我が国全体で必要とされる臨床研究・治験数も踏まえ、臨床研究中核病院とその支援先機関に求められる役割や体制を整理するとともに、研究者及び研究支援人材の質向上も含め、研究開発の効率性を高める必要がある。
Ⅲ.リアルワールドデータの利活用促進
質の高い診療・研究の実現や、特に高い資源投入が要求される開発後期の臨床試験規模の適正化等を図るため、欧米と同様、薬事分野をはじめとして、リアルワールドデータの利活用の促進が重要である。
Ⅳ.小児疾病・難病等の研究開発が進みにくい領域の取組み
既存の臨床研究中核病院や製薬企業等による取組みの下では、必要とされる研究開発がなかなか進まない疾病領域、すなわち小児疾病や難病等の重要な領域の臨床研究・治験に関しては、国として、領域を特定した取組みが必要である。
Ⅴ.国民・患者の理解や参画促進
国民・患者の臨床研究・治験への理解や参画が十分でないことも臨床研究・治験を進める上で課題となっているとの指摘がある。国民・患者に臨床研究・治験の周知を行うとともに、理解や参画を促す取組みが必要である。
第3 各項目の背景・課題及び今後の対応等
Ⅰ.「新薬・新医療機器等の開発」と「診療の最適化のための研究」のバランス
(1)背景・課題
疾病の予防、早期診断、早期治療に対する国民の期待は高く、革新的な医薬品、医療機器等の研究開発を推進することは重要である。
これまでも、医薬品・医療機器等の革新的シーズに対する研究費を補助するとともに、臨床研究中核病院の承認要件として医薬品、医療機器等に係る臨床研究の実施件数を設定するなど、新薬、新医療機器等の開発を推進してきており、引き続きこれを継続していく必要がある。
他方、質の高い医療の提供には、市販された医薬品同士を比較し診療ガイドラインの改善につなげることや、医薬品を用いない手術・手技に係る研究など、診療の最適化に係る臨床研究も重要であるが、これまで、このような研究については、支援が不十分ではないかとの指摘がある。このため、こうした「新薬・新医療機器等の開発」と「診療の最適化のための研究」をバランス良く進めるための方策について検討する必要がある。
(2)今後の対応等
「診療の最適化のための研究」については、現在どの程度、どのような形で実施されているのか、まずは現状を把握することとし、その結果等を踏まえて、対応の内容を検討する。
なお、臨床研究中核病院の承認要件における対応については、「臨床研究中核病院のあり方」の節にまとめて記載する。
Ⅱ.人材育成の強化と財政的リソースの効率化
(1)背景・課題
研究開発の高度化等に伴い、研究実施に加え、研究開発を支える人材育成を強化するとともに、人材等のリソースをより一層効率的に活用する必要がある。
臨床研究・治験を実施する医師や研究支援人材については、従来、CRC(Clinical Research Coordinator)や医師、倫理委員会委員等を対象とした研修の実施及び研修の質の標準化、e-Learning 体制の整備、生物統計に関する講座の設置といった取組みを行ってきたが、以下のような指摘がある。
- 育成人材の数と質のいずれについても未だ十分でない。
- CRC や生物統計家を含め、専門職種に対する処遇等が必ずしも充実していないため、人材が定着しない。
- 医歯学教育に係るコアカリキュラムにおいて研究に関する項目があるものの、研究課題(リサーチクエスチョン等)の設定、適切な研究手法を選択した上での計画立案、研究実施に至る流れを理解している医師・歯科医師の育成が十分でない。また、臨床研究の専門家を育成する枠組みが十分整備されているとは言えない。
- 同様に、看護教育をはじめとする医師・歯科医師以外の職種の教育においても、研究開発に関する育成が十分でない。
なお、臨床研究中核病院は、他の医療機関における臨床研究の実施を支援することが求められており、これまでも年間 15 件以上の支援実績を必要としている。
(2)今後の対応等
臨床研究中核病院とその支援を受ける医療機関の役割の分担を整理し、臨床研究支援に係る手順等を明確化するとともに、双方の臨床研究に従事する者の交流を促進することで、相互のニーズ理解を通じた医療機関連携の円滑化に取り組む。
これに関して、臨床研究の支援は、研究計画のデザインからモニタリング等の実施支援など多岐にわたる中、全ての事項について臨床研究中核病院が担当するのではなく、臨床研究中核病院とその支援先機関のそれぞれの役割の分担を明確化することによって限られたリソースを効率的に活用できるとともに、臨床研究中核病院とその支援先機関との連携をより円滑にできると考えられた。
また、支援を受ける医師・研究に携わる者がその役割を適切に果たせるよう、必要な研修事業を強化するなどの取組みを行う。
さらに、AMED や日本医師会における人材育成やリスクベースドモニタリングの導入などの業務の効率化に関する活動については引き続き積極的に推進する。また、医師の育成については、診療の合間に医師が受講しやすくなるよう、これまでに整備されてきた各 e-Learning の利便性を高めつつ、適切なリサーチクエスチョンの設定等を含め、海外における状況も踏まえ、内容の充実を図る。
CRC や生物統計家の処遇等については、特に非医療職の処遇について、臨床研究を支援する様々な専門職がある中で、給与体系が整備できておらず、例えば、そのような専門職の給与体系を整備してはどうかとの意見があった。このため、まずは実態を把握することとし、その結果等を踏まえ、対応を検討する。
医薬品・医療機器等の研究開発における国と企業の主な役割分担のイメージについては、参考1のように整理できると考える。こうしたイメージを踏まえつつ、アカデミアにおける民間資金の活用を一層促進する取組みを行う。
また、研究部門のうち採算性が必ずしも高くない部門における人材育成に対しては、病院経営の観点から、病院長をはじめ幅広い病院関係者の理解が得られない傾向にある。適切な理解を得ていくために、例えば、病院機能評価等の項目の中に、研究に関する評価項目を追加することについて検討を進める。
なお、我が国全体で必要とされる臨床研究・治験数及び拠点数も考慮した、臨床研究中核病院の承認要件における対応については、「臨床研究中核病院のあり方」の節にまとめて記載する。
Ⅲ.リアルワールドデータの利活用促進
(1)背景・課題
質の高い診療・研究の実現や、特に高い資源投入が要求される開発後期の臨床試験規模の適正化等を図るため、例えば臨床試験・治験で情報を収集すると極めて高い資源投入が求められるような困難な状況において質の高いエビデンスとして活用できるデータが示せる信頼性の高いレジストリを整備し、欧米と同様、薬事分野をはじめとして、リアルワールドデータの利活用の促進することが重要である。
これまで、臨床開発を効率化し、医薬品・医療機器等の開発競争力を強化するため、創薬や医療現場での活用を目的として、診療で得られるリアルワールドデータを収集・解析する体制・システムの整備(CIN:クリニカル・イノベーション・ネットワーク構想)に取り組んできた(平成26 年度~)。
今年度からは、医薬品の安全対策の高度化を目的として、電子カルテやレセプト等の情報を収集した医療情報データベースである MID-NETの本格的な運用が開始されている。その経験を踏まえ、CIN 構想の一環として、多機関からの医療情報の統合解析を可能にするデータの品質管理・標準化の手法を臨床研究中核病院に導入し、研究等への利活用を目指す取組みを行っている。
米国では、FDA がリアルワールドデータを医薬品の承認審査に活用できるかを評価・検討する際の考え方(フレームワーク)を公表するなど、海外においても関心が高まっている。
なお、リアルワールドデータを活用した医薬品開発についてどのように対応するか、医薬品医療機器総合機構(PMDA)が考え方を示すべきではないかとの意見があった。
(2)今後の対応等
リアルワールドデータについては、目的に応じて適切に利活用されるよう、配慮する必要がある。CIN 構想の今後の具体的な取組みについて、薬事申請への活用を含め、適切な利活用を想定した上で、専門領域ごとに、各国立高度専門医療研究センターが関連の病院等からデータを集約するなどして、各センターが構築する疾患登録システムのデータを充実させることが重要である。
また、各センターが有する疾患登録情報や、生体試料(バイオバンク)を有効に利活用する仕組みが必要である。
さらに、疾患登録システムについて、アカデミアにおける限定的な利用だけではなく、新薬等の開発にも利用されうるような取組みを一層進める必要がある。
これに関して、リアルワールドデータを活用するための基盤整備に当たっては、データの収集・管理等を取り扱う人材育成を進めるとともに、データの活用に当たっては、その特性を適切に把握するため、統計・疫学等の知識・経験がある者を積極的に参画させていくべきと考えられた。
なお、リアルワールドデータの利活用促進に関する臨床研究中核病院のあり方については、「臨床研究中核病院のあり方」の節にまとめて記載する。
Ⅳ.小児疾病・難病等の研究開発が進みにくい領域の取組み
(1)背景・課題
小児疾病・難病等、治験が進みにくい分野の臨床研究の推進については、従来、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和 35 年法律第 145 号)における希少疾病用医薬品等に係る指定制度や、診療報酬上のインセンティブの付与、AMED におけるプロジェクト管理の実施といった取組みを行ってきた。
特に、小児用医薬品については、アカデミアと製薬企業が連携して、我が国において優先的に開発すべき医薬品のリストの作成等を行い、製薬企業に対して開発要請を行うことにより、小児用医薬品の臨床試験が効率的に実施できる支援体制の構築に取り組んできた。
しかしながら、小児疾病や難病等については、依然として開発が進みにくい状況であり、引き続きこれを支援していく必要がある。
併せて、既存の臨床研究中核病院や製薬企業等による取組みの下では、必要とされる研究開発がなかなか進まない領域、すなわち小児疾病・難病等の重要な領域の臨床研究・治験に関しては、国として、臨床研究中核病院の在り方の検討を含め、領域を特定した取組みが必要である。
(2)今後の対応等
小児用医薬品について、引き続き、小児用医薬品の臨床試験が効率的に実施できる支援体制の構築を推進するなどの取組みを進める。
難病等については、引き続き、CIN 構想の下で、製薬企業等のニーズを踏まえ、患者リクルート等に使いやすい疾患登録システムの構築等を支援するとともに、臨床試験におけるコントロール群として活用できる仕組みの整備などを進める。
特定領域の臨床研究の拠点については、国立成育医療研究センターや国立精神・神経医療研究センターなどの役割等について検討すべきとされ、拠点のあり方に関する議論の中でヒアリングを行った。
また、小児用医薬品について診療への導入をスムーズに進めるための枠組みを検討する。
なお、小児疾病・難病等の研究開発が進みにくい領域における臨床研究の拠点のあり方については、「臨床研究中核病院のあり方」の節にまとめて記載する。
Ⅴ.国民・患者の理解や参画促進
(1)背景・課題
国民の臨床研究・治験への理解と参画を推進するため、従来、臨床試験に関するポータルサイトの構築や、厚生労働省のウェブサイトにおける広報、臨床試験プロセスの一環として患者・市民の知見を参考にする取組み等2を通じて臨床研究・治験に係る普及啓発を図ってきている。
また、日本医師会においては、臨床研究・治験に関するパンフレットやイラストの作成、各種イベントにおける活動等を通じて、普及啓発が図られてきた。
しかしながら、国民の臨床研究・治験に関する理解は必ずしも十分とは言えないとの指摘がある。国民・患者の治験・臨床研究への参画を促す取組みを進めるとともに、データの質を確保したレジストリを構築するなどの臨床研究の実施に当たっては、患者会等の患者側のコミュニティが臨床研究・治験に関する理解を深めることも重要である。
さらに、国民が臨床試験に関する理解を深め、臨床試験を容易に検索し、参加しやすくする体制を整備することも有用である。米国では、患者が臨床研究に参加することを一元的にコーディネートする仕組みが存在している。
(2)今後の対応等
患者や市民を対象とした講習等については、引き続き、日本医師会や臨床研究中核病院などで積極的に実施していく。
また、研究における患者参画の取組みを継続しつつ、まずは、研究を実施する医師の理解の促進を図るなど、段階的に取組みを進める。
さらに、患者が臨床試験にアクセスすることをサポートするため、引き続き臨床試験ポータルサイト等の充実を図るほか、例えば、患者の希望に応じて臨床試験への参加について相談を受け、臨床試験実施機関との連絡調整等を行う新たな仕組みの整備を検討する。
これに関して、患者の参画促進に当たっては、これまでの取組みに加え、幅広い国民・患者の臨床研究・治験に関する理解を深めるとともに、意見発信についての教育・研修やそれを牽引するための患者会との協力等について、推進する方策を検討する。
Ⅵ.その他
(1)背景・課題
平成 30 年4月に臨床研究法が施行され、臨床現場においては、臨床研究法に対応するための体制の整備や研究者への研修等を行っている。
しかしながら、臨床研究法の施行により、臨床研究の実施に係る負担が一部増加しているとの指摘があり、引き続き必要な運用改善にしっかりと取り組むことが重要である。
例えば、研究計画の軽微な変更の範囲や適応外使用に関する考え方などについては、さらに検討を進め、必要な対応を行うべきという意見があった。
また、認定臨床研究審査委員会については、研究の実施に当たり、審査上の判断の質にバラツキがあり、その平準化についても検討すべきとの意見があった。
(2)今後の対応等
臨床研究の実施状況等について全国的に調査を行い、臨床研究法の施行による影響を見極めるとともに、必要な運用改善の内容について検討する。
認定臨床研究審査委員会の質の平準化については、平成 30 年度に実施した模擬審査といった取組みについて、来年度以降も、その範囲等を拡充しつつ実施する。
委員の研修については、一般の立場から意見を述べる委員を対象とした研修及び一般の委員からの意見発信を踏まえ意見集約を行う委員長向けの研修について検討する。
特定臨床研究の結果のうち、一定の信頼性が確保されている資料については、例えば、条件付き早期承認制度に基づき承認された品目の条件解除や、成人の効能を持っている医薬品の小児への適応拡大の薬事申請資料に用いるなどの活用ができないか検討すべきとの意見があった。
臨床研究法に基づいて実施された臨床研究の結果を薬事承認申請に活用できるよう、国際的な整合性等を踏まえつつ、実施された臨床研究の内容や実施体制などに応じて、必要な要件等について検討を進める。
また、国際共同臨床試験を各国規制当局への申請に耐えうるレベルで実施可能な体制整備が必要である。
第4 臨床研究中核病院のあり方
(1)背景・課題
我が国の臨床研究の拠点については、平成 23 年から「早期・探索的臨床試験拠点」を、平成 24 年から「臨床研究品質確保体制整備病院」を選定する事業を実施した。
平成 27 年 4 月からは、同事業を発展させ、日本発の革新的医薬品・医療機器の開発などに必要となる質の高い臨床研究を推進するため、国際水準の臨床研究や医師主導治験の中心的役割を担う病院として「臨床研究中核病院」を医療法上に位置付け、その体制整備等を進めている。臨床研究中核病院に対しては、質の高い臨床研究・治験の実施、人材育成、他施設支援等の役割が求められ、それに対応した要件を設定している。
そうした中で、臨床研究を取り巻く環境が変化し、研究開発の効率化やリアルワールドデータの利活用促進が重要となってきており、基本的考え方Ⅰ.~Ⅴ.も踏まえ、臨床研究中核病院の在り方を検討する必要がある。
また、臨床研究の実施及び支援については、領域や支援業務ごとに特化した機能を持つ医療機関もあることから、それらの位置付けの整理や活用についても検討すべきである。
特に、基本的考え方Ⅳ.のとおり、既存の臨床研究中核病院や製薬企業による取組みの下では、必要とされる研究開発がなかなか進まない疾病領域、すなわち小児疾病や難病等の重要な疾病領域の臨床研究・治験に関しては、国として、国立高度専門医療研究センターを整備するなど、疾病領域を特定した取組みを行っており、それらの領域に特化した拠点の在り方について検討する必要がある。
(2)中間とりまとめまでにおける議論
我が国全体で必要とされる拠点数については、米国の CTSA(Clinical and Translational Science Awards、現時点で約 60 施設が存在)の事例や現状の臨床研究中核病院、橋渡し拠点や予算事業における拠点整備を行ってきた医療機関の数を踏まえると、現状よりやや多い程度が一つの目安になるのではないかとの意見があった。これに対して、拠点の数のみではなく、実施されている研究数や研究の質等も踏まえて妥当性について議論すべきではないかとの意見があった。
拠点のあり方については、以下の意見があった。
- 拠点外への支援は必要だが、自拠点の臨床研究の数の要件を満たすことが優先され、他拠点の支援まで及んでいないのが現状である。
- 拠点の自立を強く求められるが、リソースが足りない。必要な機能を維持していくためには、予算面でどれだけ必要なのか検討していく必要がある。
- 拠点としての機能を維持しつつ、他施設を支援するための拠点の考え方を議論していく必要がある。
- 小児疾病・難病等の特定領域における臨床研究の拠点については、国立高度専門医療研究センターなどの役割等を検討する必要がある。
- これらの領域に特定した取組みのほか、他施設支援に当たっての役割として、臨床研究中核病院以外の病院でも、例えばデータセンターとして支援の一部を担うことが可能ではないかとの意見があった。
また、臨床研究中核病院の承認については、要件として特定臨床研究の件数があるが、特定臨床研究は、その研究のリスクにより分類されたものであり、特定臨床研究以外の質の高い研究も要件として含めることが必要ではないかとの意見があった。
(3)臨床研究中核病院に係る議論
臨床研究中核病院を含む拠点のあり方については、中間とりまとめにおいても、引き続き議論を行うこととされ、それを受け更なる議論を行い、臨床研究中核病院の役割の整理及び求める機能、それを踏まえた承認要件の見直し等について議論を進め、以下のとおりとりまとめた。
ア 臨床研究中核病院に求める役割
臨床研究中核病院は、日本発の革新的医薬品・医療機器の開発などに必要となる質の高い臨床研究を推進するため、国際水準の臨床研究や医師主導治験の中心的役割を担う病院として医療法上に位置付けられているが、昨今の臨床研究を取り巻く環境の変化等を踏まえ、中心的に担うべき具体的な役割を改めて整理し、以下の方向性に基づき更なる整備を求めていく必要がある。
自施設で行う臨床研究の推進・多施設共同研究の推進
- 自施設で行う臨床研究・治験については、多施設共同研究・多施設共同治験を含め、一層の推進を図っていくことが求められる。
- また、既存の取組みの下では、研究開発が進まない領域の臨床研究・治験に関しては、これまでの臨床研究中核病院の取組みのみならず、そのような領域の臨床研究を主として行う拠点についても臨床研究中核病院として整備を進めて、そのような機関を中心とした多施設共同研究を推進していく必要がある。
他施設で行う臨床研究の支援の推進
- 他施設で行う臨床研究の支援については、更に実効的な支援が発展していくよう、推進していく必要がある。
- リソースの問題等があることから、学術性・専門性が高く、集約的に実施することで我が国全体としての研究の質の確保に資する支援業務については、臨床研究中核病院の役割として重点的に評価するなど、支援機能の分類を進めていくべきと考えられる。
多施設共同治験・臨床研究事務局等の研究の連携支援
- 既存の取組みの下では、研究開発が進まない領域の臨床研究を主として行う臨床研究中核病院においては、治験・臨床研究に係るネットワーク形成等を通じ、当該領域に係る全国の研究者を支える仕組み作りを求めていく必要がある。
先進医療の相談窓口、患者申出療養の申請対応に関する体制
- さらに、他の施設と連携して行う臨床研究に関連して、患者申出療養の申請機関の役割や先進医療の相談に係る役割など、研究の実施及び支援が適切に行えることを前提としたこれらの基盤についても、適切に位置づけていくべきと考えられる。
また、その他の意見として、リアルワールドデータの収集体制の整備など、今後の研究開発及び医療における実用化等において重要となる取組みに関して、試行的取組みを行う機関として、臨床研究中核病院を活用していくべきという意見があった。
イ 臨床研究中核病院の承認要件の見直しについて
アで示した具体的な役割及び「中間とりまとめ」のまとめたⅠ.~Ⅴ.の内容を踏まえ、以下の点に注目し、本部会として臨床研究中核病院の承認要件の見直し案を別添1のとおりまとめた。
- 臨床研究及び医師主導治験の実施、論文については、計上すべき件数の見直しや、プロトコール論文や筆頭著者の所属に関する取扱いなどについて、考え方の整理を行った。
- 研究の支援業務については、臨床研究中核病院においてより積極的に行っていくべきと考えられる、学術性・専門性が高く、集約的に実施することで我が国全体としての研究の質の確保に資する支援業務を位置づけるとともに、その内容を踏まえ、要件として求める支援業務の範囲や支援実績の計上方法について検討を行った。
- 患者申出療養の申請機関としての役割や、先進医療の相談機関、リアルワールドデータの収集体制の整備など、今後の研究開発の実用化等において重要となる取組みに関し、適切な評価の設定が可能か、考え方の整理を行った。
- 上記の業務を行うに際し必要な、既存の人員要件などの確認すべき事項について、考え方を整理した。
なお、これまでの議論において、求めていくことが必要ではないかとされたものの、具体的な指標が定まらない以下のような項目については、今後の見直しにおける要件化を見据え、各拠点における活動状況の適切な把握を行うものとして、定期的な報告を求めることとした。
・診療の最適化に係る研究の実施状況、論文状況
・薬事承認等の研究成果の実用化に結び付いた事例
・リアルワールドデータの研究利活用のための体制整備や利活用事例
ウ 臨床研究中核病院に係る継続的な取組みの評価について
臨床研究中核病院として承認された後の研究実施及び支援の継続的な取組みについて適切に確認・評価するための方策について、別添2のとおり整理した。
第5 おわりに
臨床研究部会では、第8回から第 11 回の4回にわたり、臨床研究・治験の活性化に関する今後の方向性について議論し、中間とりまとめとして、今後の対応などを取りまとめた。さらに、第 13 回から第 16 回までの4回にわたり、中間とりまとめを踏まえた臨床研究中核病院のあり方について議論を行い、承認要件の見直し案などを取りまとめた。
今後は、本議論により整理された方向性を踏まえ、各関係者による対応を行うとともに、実施した対応に関する適切な進捗の報告を臨床研究部会において確認・適宜議論することで、更なる推進に向け継続的な取組みを進めていく必要がある。
別添1
準備中
別添2
準備中