近年、ICT技術革新が、科学の研究手法や研究成果の公開、共有方法を大きく変革しつつある。特に、この技術革新は研究データへのアクセスを容易にし、新たな研究手法としての「機械判読可能なデータ形式による二次利用可能な研究データの公開(オープンデータ)」や、「第三者とのデータ共有、交換(研究データシェアリング)」を可能とした。
欧米をはじめとする諸外国の政府関係機関では、この新しい可能性を後押しする取り組みを始めている。公的資金を用いた研究成果(論文、研究データ等)を広く社会に公開するオープンサイエンスの取り組みは、科学界だけではなく産業界を含む社会全般に対し、研究成果への広く容易なアクセスとその利用を可能とし、効果的な科学研究の推進とその活用によるイノベーションを視野に入れている。
研究コミュニティにおいてもオープンデータ、研究データシェアリングの取り組みが、科学研究のやり方を変え、研究活動に大きく貢献する可能性を認識し、議論に取り組み始めている。
一方で、産業界ではビッグデータが注目を集め、大量データの収集、蓄積、分析によって新しい価値を創出する機会を手に入れることが、競争優位の鍵となりつつある。これは、科学界においてデータ駆動型科学研究手法による革新的なイノベーション創出の期待を高める効果を産んでいる。
このように世界規模で研究環境が大きく転換しつつある状況において、諸外国の政府関係機関、研究コミュニティ、産業界、社会といった様々なステークホルダーは、研究データシェアリング、オープンデータ、データ駆動型科学研究手法に関する枠組みの議論や具体的取り組みを急速に活性化しつつある。そうした中、わが国はまだ国としての取り組み姿勢が明確でなく、世界情勢に対し大きな遅れをとっている。
わが国の研究者にとって研究環境を世界最高水準のものとしていくことは、他国の研究者との競争に勝つための必須条件であり、惹いては、産業競争力の維持にも欠かせない。同時に他国の研究者と共同してグローバルな課題にチャレンジする為にも、研究データシェアリングという新たな研究プロセス、手法を導入することが必要である。その上で、対象研究データが持つ特性と状況に応じ、データの公開制限、非公開を可能とするよう、わが国としてのデータ公開判断基準をしっかりと議論することが重要である。 その為、政府関係機関は海外の先行事例に学びつつ、研究データシェアリングを活用した科学技術政策を立案、実行していくことが急務である。この政策は、研究者や研究コミュニティが自ら進んでデータシェアリングに参加できる意識の醸成、必要な人材の育成・確保、インフラ整備や公的資金の使途の変革等の様々な課題に柔軟に対応することが求められる。 本書では、わが国の研究環境を整備し、科学技術研究の更なる発展と研究開発力向上に貢献するため、データシェアリングに関連する議論の活性化を促し、研究者のデータ共有意識を高めていくために、提言を行うものである。
参照
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わが国におけるデータシェアリングのあり方に関する提言