これまで、健康・医療・福祉、農業、港湾物流などの分野において官民が協力してメーカー・ベンダーの枠を超えた様々なデータの連携・分析・活用を可能にする連携基盤を構築するなど、データプラットフォームの構築に取り組んできた。データ連携を通じ、分野内、さらには分野の枠を超えて活用可能なデータを最大限活用するとともに、5Gなどの新技術を組み合わせることにより、これまでにない革新的なソリューションの導入が可能となる。そうした技術を基に、今般の感染拡大で浮き彫りとなった課題、社会的ニーズに対応する官民サービスの導入を促進する観点からも、当該技術の基礎となるデータを円滑に連携させ、次世代の社会インフラの基礎となるデータプラットフォームの社会実装を加速化する。
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(1) 5Gと交通信号機との連携によるトラステッドネットの全国展開
5Gについては、本年から商用サービスが開始されているが、現実に全国に極めて多数の基地局を配し、稠密なネットワークを構築した際の安定的な通信の確保のためのアーキテクチャ構築が課題となっている。
他方、我が国では、全国で約20.8万基の交通信号機が設置されているが、通信機能を有して集中制御されているものは全体の3割程度にすぎず、またその通信も電話線を用いたものがほとんどであるため、その高度化が急務となっている。
これらの課題を解決するため、警察庁及び総務省が連携して、交通信号機に5Gアンテナ等を設置し、平時や災害時での活用も見据えたスマートシティのトラステッドな情報ハブとして活用するための、ネットワークアーキテクチャの研究開発とリファレンスアーキテクチャの策定を行う。アーキテクチャ適用による社会実装に向け、本年度は昨年度の研究開発の状況を踏まえた小規模実証を行い、来年度の大規模実証に繋げる。
① 交通信号機を活用した5Gネットワークのアーキテクチャ策定
交通信号機を活用した5Gネットワーク整備の全国的な運用を目指し、ネットワークアーキテクチャ設計を行うとともに、電波伝搬のフィールド評価試験、5Gネットワークを使った信号制御に最適な機器配置の実証や携帯電話等の通信と交通管制用の通信が混在した場合でもセキュアな通信を確保するための試験を行う。また、異なるキャリア間での5Gスライス共用やAIによるネットワーク制御についても検討を行う。
② 5Gネットワークの活用による交通信号制御の高度化
交通信号機の集中制御のエリアの拡大、交通信号制御の高度化等を図るため、本年度の小規模実証で交通信号機に5Gアンテナ等を設置しモデルシステムを構築の上検証を行うとともに、信号柱への5Gアンテナ設置に関する制度設計、AIを活用した交通信号制御の更なる高度化も視野に入れ検討を行う。
③ 交通信号機に設置した5Gの公共インフラとしての活用
交通信号機は、誰もがその場所を認識している公共インフラであり、様々な公共サービス拠点としての活用ポテンシャルを有している。このため、交通信号機に設置した5Gの公共インフラとしての活用に向け、官民連携した5Gネットワークの社会的な利活用が図られるよう、データの保有主体間のデータ連携機能の在り方を含めた、交通事故防止、防災、健康・医療・介護、産業振興などの様々な観点から活用方策についての検討等を行う。
これらにより、交通信号機を核とした社会インフラの抜本的な改善及び次世代社会システムの速やかな全国展開を図るとともに、地域の安心・安全の向上を目指す。
(2) スマートフードチェーン構築及び農業データ連携基盤の利活用促進
高齢化や人口減少が進む中、我が国の食関連産業の安定的かつ持続可能な発展に向けた競争力強化や生産者の所得向上を実現するためには、DXを推進し、多様な情報の利活用に基づいた食料生産、加工・流通等の展開が不可欠である。そこで、平成31年4月から本格運用を始めた農業データ連携基盤(以下「WAGRI」という。)の活用等により、あらゆる生産者にとって日常的なデータ活用が可能となる環境を整備するための取組を推進する。
① WAGRIの機能拡張及びスマート農業の社会実装
WAGRI等を最大限活用し、世界で最も先駆的なスマート農業を実現するための取組を推進する。平成30年より実施しているWAGRIの機能を川上から川下まで拡張し、農作物・食品の生産・流通・消費・輸出に至るまでの様々なデータを収集・活用することを通じて、国内外の市場や消費者のニーズに機動的に対応するスマートフードチェーンシステムの構築については、システム全体の開発完了を待つことなく、公開可能な機能について順次社会実装する。なお、スマートフードチェーン構築に際しては、港湾における農水産品の輸出拠点機能強化の取組との連携を図る。
また、農業の担い手のほぼ全てがデータを活用した農業を実践する社会を早期に実現するため、WAGRIを活用した先端技術の生産現場への導入・実証について取組を推進する。特に、気象情報や土壌情報などのオープンデータの利活用に加えて、生産システムや経営管理ソフト等の間でのデータ連携を更に推進する必要があり、そのための環境整備を推進する。その際には、国内におけるスマート農業の社会実装に加えて、海外展開も視野に入れた検討を行う。
② ルール整備を通じたデータ利用等の推進(農業情報標準化の更なる推進及び農業分野におけるAI・データに関する契約ガイドラインの普及推進)
データを活用した農業を推進するためには、関連する情報の相互運用性・可搬性の確保に資する標準化が不可欠である。そのため、令和2年5月には粗飼料生産における飼料作物名や農作業名に係る個別ガイドラインを新たに策定するとともに5つの個別ガイドラインを改訂した。今後も、農業分野におけるICTシステムの普及状況、有識者等の意見を踏まえた個別ガイドラインの策定・改訂をはじめとするデータ項目の標準化を更に推進する。
熟練農業者等の技術・ノウハウの流出防止を図りつつ、データやAIの利活用を推進するため、農業者からのデータの提供とデータを受領する農機メーカー、ICTベンダー等によるデータの利用に関する契約の考え方やひな形を内容とする「農業分野におけるAI・データに関する契約ガイドライン」を令和2年3月に策定した。農業生産におけるデータ利活用を推進するためには、農業者及び技術者双方がノウハウ保護に共通理解を持つことが重要であり、同ガイドラインの普及に取り組む。
③ 水産業データ連携基盤の構築
我が国の水産業について、適切な資源評価・資源管理を推進しつつ、生産者の所得向上を実現することで持続的な産業とするためには、令和2年12 月に稼働予定の水産業データ連携基盤を最大限に活用し、資源評価を行うために必要な漁獲情報など公的機関が保有するデータや民間が保有するデータを相互に利活用できる環境を整えることが重要であるため、水産分野におけるデータ利活用に際してのノウハウ保護など、関係者が留意すべき事項を整理する。また、関連する情報の相互運用性・可搬性の確保に資する標準化について、水産分野におけるICT システムの普及状況、有識者等の意見を踏まえつつ検討を行う。
④ 農林水産施策のデジタルトランスフォーメーション
これらの取組に資するとともに、様々なデータを活用して新たな価値を創造し、提供できるデータ駆動型の経営を実現するため、農林水産施策のDX を推進する。具体的な取組としては、農林水産業の現場と農林水産省が切れ目なくつながり、行政手続にかかる農林漁業者等の負担を大幅に軽減し、経営に集中できるよう、法令や補助金等の手続をオンラインでできる農林水産省共通申請サービス(eMAFF)の構築や、徹底した行政手続の簡素化の促進、農林漁業者等との直接的な情報提供・収集、農林水産分野における用語・データ形式の統一(データの標準化)、関係情報の二次利用可能な形での公開(オープンデータ化)、デジタル地図を用いた農地情報の一元的管理や効果的な活用方法を検討し、実行する。
(3) 健康・医療・福祉分野のデータに基づくくらし改革と働き方改革
社会保障給付費の増大(20年間で約5割増)という大きな社会課題を解決しながら、活力ある超高齢社会を実現することが必要であり、そのために、様々な機関に散在している個人の健康状態や生活状況に関する情報を、安全な状態で時系列に把握・管理し、個人の状況に合った健康生活の維持や医療・福祉サービスの実現を目指す。
① リスクの早期発見、予防
疾病・介護予防に加え、感染予防にも役立つ平時からの健康状態把握を可能にし、リスクの早期発見・予防を徹底する。このためには、病気になった時や介護が必要になった時だけでなく、長年の暮らしぶり・就労の状況や、日々の生活の中で収集されるデータ(個人が計測したバイタル情報や、食事・運動量・睡眠状況等)を、個人情報の保護に十分留意しながら積極的に活用し、予防効果を最大化できるアーキテクチャづくりを早急に進める。
② 健康・医療・福祉関連サービスの効果向上と働き方改革
新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受け、オンライン診療等をはじめ、ITを活用したサービスの高度化が求められている。特に、感染者以外で医療等サービスを必要とする人にとっても遠隔での診療・相談対応等は重要である。個人の置かれている状況を踏まえつつ、本人や家族にとって必要なサービスを提供できる環境を整備する。情報を効率よく収集・連携していかすこと、サービス効果を見える化すること等で、サービスの利便性向上とともに、現場の負荷軽減と、働き方改革も実現する。
③ IoT・AIと、地域リソースを活用した、高齢者等生活支援サービスの実現
日々の生活の中で収集できるデータを効率よくコストをかけずに収集するため、IoTの活用を促進する。そのためには、年齢や、疾病・障害の有無、収入の多寡等に関係なく、全国民がIoTを活用できるインクルーシブなデジタル環境を整備するとともに、収集したデータを基に、AIを活用して、よりよいサービスに繋げるためのデータ連携基盤を構築する。
また、国民一人一人が、自身の生涯の健康情報を一元的に把握できるようにし、個人のくらし改革に繋げるとともに、地域リソースを活用した持続的な連携体制の構築、地域社会での各種サービスの高度化を実現する。
(4) サイバーポートによる港湾の生産性革命
我が国貿易の99%以上(重量ベース)を取り扱い、国民生活や企業活動を支える役割を担う港湾においては、輸送に関わる各種手配や実輸送において「人」が重要な役割を果たしている。その生産性の向上に加えて、デジタル強靱化による安全性や緊急事態への対処力向上にも不可欠な情報公共インフラとして、「港湾関連データ連携基盤」の社会実装に向けた取組を加速する。
港湾関連データ連携基盤を核に、港湾を取り巻く様々な情報が有機的に繋がる事業環境である「サイバーポート」を実現することで、AI技術等を活用して我が国の港湾の生産性を飛躍的に向上させる。また、同基盤を活用したデータ連携を通じて、遠隔・非接触の業務環境を提供し、安全性・セキュリティの高い港湾物流の実現に貢献する。
① 港湾関連データ連携基盤を核とした港湾の事業環境(サイバーポート)の実現
全国の物流事業者や港湾管理者が保有する、港湾情報や貿易手続情報の連携や利活用により港湾物流の生産性向上等を実現する港湾関連データ連携基盤について、令和2年中に構築を行い、連携・受入テストの後、令和3年度よりシステムを稼働する。
同基盤の稼働に向けて、港湾の電子化(サイバーポート)推進委員会で利用規約等の検討を行うとともに、利用者の拡大や運営体制確立に向けた取組を加速する。
さらに、同基盤の港湾管理及び港湾インフラ分野への拡張及び連携を視野に入れた新たな検討体制を令和2年度の早期に立ち上げる。
これらの取組を一体的に進めることにより、我が国港湾全体を電子化し、港湾関連データ連携基盤を核とする港湾の事業環境であるサイバーポートを実現する。
② ヒトを支援するAIターミナルの実現
コンテナ船の大型化に伴うコンテナの荷役時間の増加やゲート処理に伴う車両の滞留により、コンテナターミナル周辺における渋滞が深刻化している。このため、港湾関連データ連携基盤とCONPASが連携し、搬入票の電子化によるゲート処理の効率化と安全性・セキュリティ向上の両立を図るなど、CONPASの令和2年度内の本格運用に向けた取組を進める。
このほか、①コンテナ蔵置場所の最適化、②熟練技能者の暗黙知の継承、③荷役機械の遠隔操作化・自働化、④コンテナダメージチェックの効率化、⑤外来トレーラーの自働化等の「ヒトを支援するAIターミナル」の実現に向けた取組を進め、令和5年度中に、コンテナ船の大型化に際してもその運航スケジュールを遵守した上で、外来トレーラーのゲート前待機をほぼ解消することを目指す。
(5) 運転免許業務及び警察情報管理システムの合理化・高度化による国民の利便性向上
運転免許証は、国民生活に密着したライセンスとして広く普及しており、運転免許証の交付、更新などの手続に関しては、今般の新型コロナウイルス感染防止の観点から、運転及び更新可能期間の延長措置等を実施しているところであるが、より一層国民の利便性向上や負担軽減が求められている。
他方、運転免許の管理等を行う運転者管理システムをはじめとする警察情報管理システムについては、警察庁及び都道府県警察が個別にシステム整備を行っており、同じ仕組みを複数構築運用するなど整備・維持に係るコストの増大などの課題がある。
これらの課題を解決するため、警察庁が警察庁及び都道府県警察が活用する共通基盤を整備し、共通基盤に警察庁及び都道府県警察のシステムを移行して、他のシステムとの連携も含めた警察情報管理システム全体の合理化・高度化に取り組む。これにより、システムの機能の合理化・高度化による国民の利便性向上や負担軽減を図るとともに、行政手続の処理の効率化や警察情報管理システムの整備・維持に係るコストの大幅な削減に取り組む。
参照
- 世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画(令和2年7月17日閣議決定)
- 第1部 世界最先端デジタル国家創造宣言
- 第2部 官民データ活用推進基本計画
- 官民データ活用推進基本計画に基づく施策の推進
- 施策集