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Ⅰ.はじめに
今般の新型コロナウイルス感染症対応において、マイナンバーシステムをはじめ行政の情報システムが国民が安心して簡単に利用する視点で十分に構築されていなかったことや、国・地方公共団体を通じて情報システムや業務プロセスがバラバラで、地域・組織間で横断的なデータの活用が十分にできないことなど、様々な課題が明らかになった。こうした行政のデジタル化の遅れに対する迅速な対処や、データの蓄積・共有・分析に基づく不断の行政サービスの質の向上こそが行政のデジタル化の真の目的である。
また、行政のみならず、国民による社会経済活動全般のデジタル化を推進することは、日本が抱えてきた多くの課題の解決、そして今後の経済成長にも資する。単なる新技術の導入ではなく、制度や政策、組織の在り方等をそれに合わせて変革していく、言わば社会全体のデジタル・トランスフォーメーションが「新たな日常」の原動力となる。
社会のデジタル化を強力に進めるため、施策の策定に係る方針等を定める高度情報通信ネットワーク社会形成基本法(平成12年法律第144号。以下「IT基本法」という。)の全面的な見直しを行うとともに、デジタル社会の形成に関する施策を迅速かつ重点的に推進する新たな司令塔としてデジタル庁(仮称)を設置することが必要である。
この基本方針は、デジタル社会の将来像、IT基本法の見直しの考え方、デジタル庁(仮称)設置の考え方等について、デジタル・ガバメント閣僚会議の下で開催されたデジタル改革関連法案ワーキンググループにおける議論も踏まえ、政府としての方針を示すものである。
Ⅱ.デジタル社会の将来像
1.デジタル社会の目指すビジョン
国においては、これまで、データ利活用とデジタル・ガバメントを二本柱として、社会全体のデジタル化に取り組んできた。デジタル化は、国民生活の利便性を向上させ、行政機関や民間事業者等の効率化に資する、データの資源化と最大活用、安全・安心、ユニバーサルデザインを考慮した設計等を前提とした人に優しいデジタル化である必要がある。
さらに、近年のデジタル技術の進展は、一人ひとりの状況に応じたきめ細かいサービスを大きなコストをかけずに提供することを可能にしてきた。これにより多様な国民・ユーザーが、それぞれの状況に応じた、価値ある体験をすることが可能となってきている。
こうしたことを踏まえ、今般のデジタル改革が目指すデジタル社会のビジョンとして「デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会」を掲げ、これに向けた制度構築として、IT基本法の全面的な見直しを進める。このような社会を目指すことは、「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化」を進めるということにつながる。
2.デジタル社会を形成するための基本原則
このようなデジタル社会を形成するため、以下の基本原則を大方針として施策を展開することとする。これらの施策の在り方については、広く国民の意見が反映されるよう不断の検討を行っていくこととする。
① オープン・透明
標準化や情報公開による官民の連携の推進、個人認証やベース・レジストリ1等のデータ共通基盤の民間利用の推進、AI等の活用と透明性確保の両立、国民への説明責任を果たすこと等により、オープン・透明なデジタル社会を目指す。
② 公平・倫理
データのバイアス等による不公平な取扱いを起こさないこと、個人が自分の情報を主体的にコントロールできるようにすること等により、公平で倫理的なデジタル社会を目指す。
③ 安全・安心
デジタルで生涯安全・安心に暮らせる社会を構築すること、サイバーセキュリティ対策で安全性を強化すること、デジタル技術の善用、個人情報の保護、不正利用の防止を進めること等により、デジタル利用の不安を低減し、安全・安心なデジタル社会を目指す。
④ 継続・安定・強靱
社会の活力の維持・向上、カーボンニュートラル等環境との共生を通じたサステナビリティの確保、機器故障や事故等のリスクに備えた冗長性の確保・耐災害性の強化、分散と成長の両立によるレジリエンスの強化等により、継続的・安定的で、強靱なデジタル社会を目指す。
⑤ 社会課題の解決
制度・ルール等の再構築や、国・地方・民間の連携強化・コスト低減といった成長のための基盤の整備、公共施設のネットワーク整備やマイナンバーカード等の活用による災害や感染症に強い社会の構築、デジタル人材の育成、官民・地域横断的な活躍の促進等により、社会課題を解決できるデジタル社会を目指す。
⑥ 迅速・柔軟
「小さく産んで大きく育てる」という考え方に立ち、デジタルならではのスピードの実現、社会状況やニーズの変化に柔軟に対応できるシステムの形成、アジャイル発想の活用により費用を抑えつつ高い成果の実現、構想・設計段階から重要な価値を考慮したアーキテクチャへの組込み等により、迅速・柔軟なデジタル社会を目指す。
⑦ 包摂・多様性
アクセシビリティの確保、情報通信インフラの充実、高齢・障害・病気・育児・介護と社会参加の両立、多様な価値観やライフスタイルへの対応等により、包摂的で多様性のあるデジタル社会を目指す。
⑧ 浸透
国民にとり「お得」なデジタル化によるデジタル利用率の向上、デジタル技術を使う側・提供する側双方への教育を通じて「わかりやすい」「楽しい」デジタル化を進めること、国民にデジタル化の成果を実感してもらうこと等により、誰一人取り残さない国民全般に浸透するデジタル社会を目指す。
⑨ 新たな価値の創造
官民のデータ資源を最大限に活用することや、利用者視点での付加価値を生むイノベーションを促進し、経済や文化を成長させること等により、新たな価値を創造するデジタル社会を目指す。
⑩ 飛躍・国際貢献
国民が圧倒的便利さを実感するデジタル化を実現することや、デジタル化が進んでいない分野こそデジタル3原則の貫徹で一気にレベルを引き上げ、多言語による情報発信を行うことなども含め多様性のある社会を形成すること、デジタルの活用により地方が独自の魅力を発揮すること、自由や信頼を大切にするデータ・デジタル政策で世界をリードすること等により、飛躍し、国際社会に貢献するデジタル社会を目指す。
Ⅲ.IT基本法の見直しの考え方
1.IT基本法に係るこれまでの経緯
平成12年に制定されたIT基本法においては、インターネットなどの「高度情報通信ネットワーク」を整備し、国民がこれを「容易にかつ主体的に利用する機会」を有することで、産業の国際競争力の強化、就業の機会の創出、国民の利便性の向上といった「あらゆる分野における創造的かつ活力ある発展」がなされるとの考えの下、所要の施策を推進することとされた。
IT基本法の施行後、高度情報通信ネットワークの整備が相当程度進展し、大部分の国民が、パソコンやスマートフォン等を通じて、情報を入手、共有、発信している状況にある。
2.IT基本法の施行後の状況の変化・法整備の必要性
IT基本法の施行後、インターネットを通じて流通するデータの多様化、大容量化が進んでおり、IT基本法が重点を置いていたインターネットなどの高度情報通信ネットワークの整備に加え、データを最大限に活用していくことが、「あらゆる分野における創造的かつ活力ある発展」の実現のために不可欠となっている。
一方、多様・大量なデータ流通による負の側面も顕在化しており、デジタル技術の活用のみならず、悪用・乱用からの被害防止等も含め、必要なリテラシーを育むことの重要性が増している。
また、今般の新型コロナウイルス感染症への対応において、国、地方公共団体のデジタル化の遅れや人材不足、不十分なシステム連携に伴う行政の非効率、煩雑な手続や給付の遅れなど住民サービスの劣化、民間や社会におけるデジタル化の遅れなど、様々な課題が明らかになった。
この他にも、少子高齢化や自然災害といった社会的な課題に対応していくために、データの活用は緊要なものとなっている。
以上のような課題に的確に対応し、社会のデジタル化を強力に進めるため、施策の策定に係る方針等を定めるIT基本法の全面的な見直しを行い、デジタル社会の形成に関する施策を迅速かつ重点的に推進する新たな司令塔としてデジタル庁(仮称)を設置することとする。
3.検討の方向性
(1)何のためのデジタル化か
デジタル化は目的ではなく手段に過ぎない。デジタル化によって、多様な国民がニーズに合ったサービスを選択でき、国民一人ひとりの幸福に資する「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化」を進めることとする。
そのためには、データが価値創造の源泉であり、その流通、利用がデジタル社会の重要な礎であることを踏まえ、デジタル技術の善用により、データを効果的に活用した多様な価値・サービスの創出を可能とすることを旨とする。
これにより、社会課題の解決、持続的かつ健全な発展、国際競争力の強化にも資する。
(2)どのような社会を実現するか
① 国民の幸福な生活の実現
国民の幸福な生活を実現する「人に優しいデジタル化」のため、徹底した国民目線で、ユーザーの体験価値の創出を図る。
これにより、多様なサービスの価値が向上し、選択可能となり、生活の利便性向上や生活様式の多様化に資することで、国民がゆとりと豊かさを実感し、幸福な生活を実現していくことに寄与する。
また、国民の生活の場である地域社会においても、高度情報通信ネットワークの利用・データの活用により、個性豊かで活力に満ちた持続可能な地域社会を実現し、住民福祉の向上に寄与する。
そして、一人ひとりが安心して参加可能なデジタル社会の形成により、災害等に迅速・的確に対応可能な安全・安心な暮らしを実現することにも寄与する。
② 誰一人取り残さないデジタル社会の実現
人の多様性に尊厳を持つ社会を形成するため、「誰一人取り残さない」デジタル化を進めることとする。すなわち、誰もが参加でき、個々の能力を創造的・最大限に発揮できる、包摂性・多様性あるデジタル社会の形成を図る。
そのために、アクセシビリティの確保、年齢・地理的条件や経済的状況等に基づく格差の是正等によって、全ての国民が、公平・安心・有用な情報にアクセスする環境の構築を図る。
また、多様な環境にある全ての国民にデジタル社会に参加していただくためには、その意義と効用を伝え、その成果が国民に喜ばれるものでなければならない。このため、デジタル社会がもたらす価値について丁寧に説明し、デジタルリテラシー5の向上等を図ることによって、デジタル化の浸透を図る。
③ 国際競争力の強化、持続的かつ健全な経済発展の実現
「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化」によって豊かな人間社会を築くことに加え、我が国としての価値創造能力を高めていくことが、国民一人ひとりの幸せにも資する。
こうした観点から、我が国の国際競争力強化や、持続的かつ健全な経済発展のために、デジタル化によって、中小企業者その他の事業者のデジタル・トランスフォーメーションの推進、多様なサービス・事業の創出、労働者が能力を有効に発揮できる多様な就業機会の創出に寄与する。
また、データの多様化・大容量化や、IoT、AI、クラウドコンピューティングなどの技術進展を背景に、データの活用によって、「リアルタイム性」、「ダイナミック性」、「リモート性」を備えたサービスの創出を図っていくことが重要となっている。このことも踏まえ、データ活用のためのルール等の整備を図る。
さらに、デジタル社会の形成を促進する観点からの規制の見直しを図る。
(3)デジタル社会の形成に向けた取組事項
① ネットワークの整備・維持・充実
高度情報通信ネットワークは、デジタル社会におけるデータの活用に不可欠な前提となるものであることから、広く国民の利便性向上等を図るために、その整備・維持・充実を図る。
その際、IoTの利用を想定した整備や、主として災害発生時の利用を念頭においた整備にも留意するとともに、我が国を取り巻く国際的な通信インフラの多様化の状況に着目することとする。
② データ流通環境の整備
デジタル社会の形成に向けて、徹底した国民目線で、ユーザーの体験価値を創出していくためには、多様な主体によるデータの円滑な流通を可能とし、分野を跨ったデータ連携を進めていくことが重要である。
このため、データの標準化、データ連携基盤の整備、APIの整備・公開を図る。
③ 行政や公共分野におけるサービスの質の向上
デジタル社会の形成に当たっては、行政において、徹底した国民目線で、ユーザーの体験価値を創出していくことが重要であり、また、デジタル技術やAI等の活用により、人的資源を行政サービスの更なる向上に繋げられるよう、デジタル化を推進することで、行政の簡素化、効率化、透明性向上を図る。
また、多様な主体によるデータの円滑な流通によって、ユーザーの体験価値を高めていくためには、官民を含む社会全体でのデジタル化を円滑に進めていくことが求められ、このためにも行政のデジタル化は緊要である。
これらの観点から、(ⅰ)行政のデジタル化に重要な役割を果たすマイナンバー関連制度について、国民にとっての使い勝手の向上及び同制度の活用、(ⅱ)国や地方公共団体が保有する有用な情報のオープンデータとしての整備・公表、(ⅲ)デジタル社会における基幹的なデータベースとして多様な主体が参照できるベース・レジストリの整備を図る。
健康や教育といった公共分野におけるサービスは、国民一人ひとりの幸せに大きく関わるものであり、デジタル技術を活用して、その質の向上を図る。
④ 人材の育成、教育・学習の振興
デジタル社会の発展を担う専門的・創造的な人材が不足しており、その育成が急務であることから、人材の育成を図る。
また、国民一人ひとりがデジタル社会の中で豊かに生きていくために、デジタル技術の活用や、悪用からの被害防止など、デジタル社会に必要なリテラシーを育むための教育・学習の振興を図る。
⑤ 安心して参加できるデジタル社会の形成
国民一人ひとりが安心して参加できるデジタル社会を形成するためには、デジタル技術の悪用への対応や、災害時も機能するネットワーク環境が重要である。
このため、サイバーセキュリティ、個人情報の保護、信頼性のある情報の自由かつ安全な流通の確保や、災害対策の促進を図る。
なお、プライバシーやセキュリティの確保を通じて、国民の重要な情報資産を保護し、人々や企業間の信頼を醸成することで、信頼性のある情報の自由かつ安全な流通を確保し、データの国際的な流通を促すことが期待される。
(4)役割分担
① 官民が果たす役割
デジタル社会において、多様な国民がニーズに合ったサービスを選択でき、国民一人ひとりの幸せを実現するため、民間が主導的役割を担い、官はそのための環境整備を図ることを旨とする。
また、行政において、徹底した国民目線で、ユーザーの体験価値を創出していくためには、例えば、UI(ユーザー・インターフェース)に係る機能など民間企業に知見があると考えられるものについて、その知見を積極的に活用していくことを旨とする。
さらに、多様な主体によるデータの円滑な流通によって、ユーザーの体験価値を高めるためには、官民を含む社会全体でのデジタル化を円滑に進めることが求められ、そのために、国、地方公共団体、事業者が連携・協力していくことを旨とする。
② 国と地方公共団体の関係
デジタル社会の形成に当たっては、国及び地方公共団体において、相互に連携しつつ、情報システムの共同化・集約の推進など、デジタル技術の活用を積極的に推進するために必要な措置を講ずることとする。
地方公共団体が、全国的に統一して整備される基盤を活用して、地域の実情に応じた施策が行われることを可能とするような環境を国が整備することを旨とする。
(5)国際的な協調と貢献
デジタル社会の形成に当たり信頼性のある情報の自由かつ安全な流通の確保を図るため、我が国がグローバルなサイバー空間のガバナンスを先導することが重要である。
このため、データの世界的な流通に係る国際的なルール形成への主体的な参画、国際的な協調・貢献を積極的に行うことを旨とする。
(6)重点計画の策定
デジタル社会の形成のため、例えば以下の事項に関して政府が迅速かつ重点的に講ずべき施策について、施策の目標や達成期間を明記した「重点計画」を作成・公表することとする。
- ネットワークの整備・維持・充実
- データ流通環境の整備
- 行政や公共分野におけるサービスの質の向上
- 人材の育成、教育・学習の振興
- 安心して参加できるデジタル社会の形成
Ⅳ.デジタル庁(仮称)設置の考え方
「デジタル庁」(仮称、以下単に「デジタル庁」という。)設置の考え方については、デジタル・ガバメント閣僚会議の下で開催されたデジタル改革関連法案ワーキンググループ作業部会でとりまとめられ、同ワーキンググループに報告された。以下はそのとりまとめ及びその後の検討の進捗の概要を整理したものである。
1.基本的考え方
デジタル庁は、デジタル社会の形成に関する司令塔として、強力な総合調整機能(勧告権等)を有する組織とする。基本方針を策定するなどの企画立案や、国、地方公共団体、準公共部門等の情報システムの統括・監理を行うととともに、重要なシステムについては自ら整備する。これにより行政サービスを抜本的に向上させる。
2.デジタル庁の業務
(1)国の情報システム
デジタル庁は、国の情報システムの整備・管理の基本的な方針を策定し、政府情報システムを①デジタル庁システム、②デジタル庁・各府省共同プロジェクト型システム、③各府省システムの区分に分類し直した上で、これらのシステムに関する事業を統括・監理し、情報システムの標準化や統一化により相互の連携を確保する。
国の情報システムに関する予算(令和2年度で合計約8千億円)については、デジタル庁に一括計上し、各府省に配分して執行する仕組みを目指すこととし、これを踏まえて、令和3年度から①デジタル庁システム及び②デジタル庁・各府省共同プロジェクト型システムの整備・運用等予算をデジタル庁に段階的に一括計上するとともに(令和3年度の一括計上予算は3千億円規模)、①デジタル庁システムについては自ら整備・運用を進める。
これらにより、政府情報システムの統合・一体化を促進し、民間システムとの連携を容易にしつつ、ユーザー視点での行政サービスの改革と業務システムの改革を一体的に進めることで、国民・事業者の更なる利便性向上を図る。
(2)地方共通のデジタル基盤
全国規模のクラウド移行に向けて、デジタル庁が、総務省と連携して、地方公共団体の情報システムの標準化・共通化に関する企画と総合調整を行い、政府全体の方針の策定と推進を担うほか、補助金の交付されるシステムについて統括・監理を行う。
これらにより、地方公共団体の情報システムのうち、住民に関する事務に係る情報システムで、相互に連携が行われているシステム(住民基本台帳、地方税等)について、人的・財政的負担の軽減と、サービスの利便性向上を図る。
(3)マイナンバー
デジタル庁がマイナンバー、マイナンバーカード、公的個人認証等のマイナンバー制度全般の企画立案を一元的に行う体制を構築し、市区町村等との連絡調整などの実施事務を担う総務省と連携して、令和4年度末にはほぼ全国民にマイナンバーカードが行き渡ることを目指し、マイナンバーカードの普及の加速化等を強力に推進する。
地方公共団体情報システム機構(J-LIS)については、マイナンバー関連業務に関する体制を抜本的に強化するため、以下の措置を講ずる。
- 全く新たな法人形態である、国と地方公共団体が共同で管理する法人へ転換し、デジタル庁と総務省で共管する。代表者会議に国の選定する者を加え、理事長の任免を国が認可するなど、国のガバナンスを抜本的に強化する。
- マイナンバー関連業務について、デジタル庁及び総務省による目標設定・計画認可に関する規定を整備する。目標等の実施に関して国が改善措置命令を行えるようにし、命令違反の場合は理事長の解任を求め、解任されない場合は国が解任するなど、法律上国の関与を明確化する。
- システム整備については、マイナンバー関係事務はもちろん、総合行政ネットワーク(LGWAN)、住基ネットも含め、トータル・デザインの下、抜本的な見直しを行う。また、カード管理システム、JPKIシステム設置運用経費(国負担分)については、国の業務システムを一括して統括・監理するデジタル庁に予算計上し、デジタル庁から法人へ支出する。これにより、デジタル庁が実質的にシステム企画及び調達に関与する。
これらの取組を通じて、マイナンバー制度による情報連携及びマイナンバーカード・マイナポータルの利用により、国民が行政手続をオンラインでワンストップに行うことができ、行政からもプッシュ型で各種サービスの提供が可能となるとともに、公平・公正な負担と給付が行われる社会を実現する。
また、マイナンバーを利用した行政機関間の情報連携の履歴(いかなる行政機関が、何の事務のために、いかなる行政機関から、いかなる情報の提供を受けたのか)は、国民がマイナポータルで確認できることから、デジタル庁において、情報連携の範囲を拡大させるとともに、マイナポータルの使い勝手の向上を図る。
(4)民間のデジタル化支援・準公共部門のデジタル化支援
IT基本法の全面的な見直しを行い、国・地方・事業者のデジタル化に向けた役割を規定するとともに、デジタル社会の形成に関し国が定める重点計画で具体的な施策と達成時期等を明記する。さらに、業種を超えた情報システムの相互連携のための標準の整備・普及や行政手続・規制の見直し・合理化等を進めることにより、民間のデジタル化を促進する。
これらにより、中小企業を始めとする企業の生産性・付加価値の向上や、新たな産業分野における重複投資の排除と成長の加速化を図る。
また、医療、教育、防災など、生活に密接に関連していることから国民からの期待が大きい分野において、デジタル庁が、情報システムに関する整備方針を関係府省と共同で策定・推進し、当該情報システムの整備を統括・監理する。さらに、緊急的な整備が必要な情報システムについては、デジタル庁と各府省が共同で整備する。また、デジタル化促進のために必要な規制・制度上の課題の洗い出しとその見直しを関係府省と連携して推進する。
これらにより、様々な民間サービスの開発・提供が進められる上で必要な環境整備を図ることで、サービスの多様化及び質の向上を図る。
(5)データ利活用
デジタル庁は、法人番号など法人や個人を一意に特定し識別するID制度や、電子署名、商業登記電子証明書などの情報とその発信者の真正性などを保証する制度の企画立案を、関係法所管府省と共管し、ユーザー視点で改革・普及を進める。
また、制度所管府省、地方公共団体とともにベース・レジストリとして整備すべき情報の明確化とその整備を担う。
これらにより、行政手続を一度で完結できるようになり(ワンスオンリーの実現)、国・事業者の利便性向上を実現する。
(6)サイバーセキュリティの実現
デジタル庁が作成する情報システムの整備・管理の基本的な方針において、サイバーセキュリティに関する基本的な方針を示すこととし、当該部分については、サイバーセキュリティ戦略本部と緊密に連携して作成する。
デジタル庁にセキュリティの専門チームを置き、デジタル庁が整備・運用するシステムの検証・監査を実施するとともに、内閣サイバーキュリティセンター(NISC)がその体制を強化しつつ、デジタル庁が整備・運用するシステムを含めて国の行政機関等のシステムに対するセキュリティ監査等を行う。
これらにより、国民の重要な情報資産を保護する。
(7)デジタル人材の確保
デジタル庁を含め政府部門においてデジタル改革を牽引していく人材を確保するため、ITスキルに係る民間の評価基準活用により採用を円滑に進める等、優秀な人材が民間、自治体、政府を行き来しながらキャリアを積める環境を整備する。
令和3年度前半に「政府機関におけるセキュリティ・IT人材育成総合強化方針(平成28年3月29日サイバーセキュリティ対策推進会議(CISO等連絡会議)・各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議決定)」を改定し、デジタル人材の採用計画や育成・キャリアパスの策定のための基本的な考え方、研修の充実・強化方策を新たに示すとともに、この改定を踏まえ、各府省において「セキュリティ・IT人材確保・育成計画」についても、速やかに改定することとする。
また、デジタル人材の採用について、採用募集活動を強化し、令和3年度から、デジタル庁を中心に各府省において国家公務員採用試験の総合職試験(工学区分)や一般職試験(電気・電子・情報区分)等の合格者の積極的な採用に努めるとともに、民間企業等における実務経験を有する人材を確保するため経験者採用試験を活用するものとする。
あわせて、国家公務員採用試験について、令和4年度以降の実施に向けて総合職試験に新たな区分(「デジタル」(仮称))を設けることや、出題などに関する検討を人事院に要請する。
これらにより、行政と民間のデジタル人材が効果的に連携して業務を進める組織文化を醸成する。
3.デジタル庁の組織
(1)デジタル庁の機能及び位置づけ
以上のように、デジタル庁に求められる機能として、
- 各府省等に対する総合調整権限(勧告権等)を有する強力な司令塔機能
- デジタル社会の形成に関する基本方針を策定するなどの企画立案を行う機能
- 政府全体のシステムを企画立案し、統括・監理するとともに、自らが予算を計上し、重点的なシステムの整備・管理等の事務執行をする機能
が挙げられる。
このため、各府省に対する十分な総合調整権限を有する組織とするため、内閣直属の組織とし、あわせて、事務執行の機能を付与することとする。
その上で、一定期間後の見直し規定を置き、状況に応じて柔軟に機能・組織を見直すこととする。
(2)デジタル庁の体制
組織は、長を内閣総理大臣とし、長を助けデジタル庁の事務を統括するデジタル大臣(仮称)(以下単に「デジタル大臣」という。)、副大臣、大臣政務官を置く。デジタル庁の所掌事務に関する重要事項についてのデジタル大臣への進言及び庁務の整理を職務とするデジタル監(仮称)(特別職。内閣情報通信政策監(政府CIO)の後継)を置くとともに、デジタル審議官(仮称)(次官級)、局長級、審議官級、課長級の職を置く。
また、デジタル社会推進会議(仮称)(議長は内閣総理大臣とし、全ての国務大臣等で構成)を置き、デジタル社会の形成のための施策の実施の推進、関係行政機関相互の調整を行う。
組織規模は、各府省からの振替や新規増員により所要の定員を確保し、非常勤の採用も含めて発足時の実人員は500人程度とする。
(3)円滑な業務遂行のための措置
① 計画・戦略に即した総合的な施策の推進
デジタル庁は、デジタル社会を形成するための新たな基本法(前掲Ⅲ)に基づいて定める重点計画やデジタル・ガバメント実行計画(令和2年12月25日閣議決定)、ベース・レジストリをはじめとするデータ整備やトラストなどのデータガバナンスのルール整備等を柱とするデータ戦略など、デジタル社会の形成に資する基本的な計画・戦略等も踏まえて、業務を実施する。
② 柔軟な運営体制
デジタル庁内での権限と責任を明確にするためにCTO(最高技術責任者)やCDO(最高データ責任者)等を置き、官民問わず適材適所の人材を配置する。
また、デジタル庁において、UIやUX(ユーザーが製品やサービスを通じて得られる経験や体験)などの観点から、利用者視点での行政サービスを推進できる体制を構築する。
さらに、既存の組織文化にとらわれることなく、プロジェクトごとの官民共同でのチームの組成や、地方も含めたリモートワークの実施など、柔軟かつ魅力的な執務環境の整備に取り組む。
③ 国と地方の連携
デジタル庁は、情報システムに関する国と地方公共団体の連携を強化するため、現場の業務や技術面から検討に参加する全国の地方公共団体職員との「共創プラットフォーム」を立ち上げ、地方公共団体職員と直接対話をするなど、地方公共団体の意見を丁寧に聞きながら、自治体システムのあるべき姿を共働して創り上げる。
④ 予算
各府省・地方公共団体のデジタル化を迅速に進めるため、ガバメント・クラウドの構築、自治体システムの標準化・共通化、ベース・レジストリの整備、データ連携基盤の構築、情報システムのUI/UX改善等のために必要となる費用について、適切に措置する。
⑤ デジタル化に即した業務改革の推進
政府のデジタル化の効果を最大限に発揮するためにも、抜本的な業務改革(BPR)及び制度そのものの見直しに取り組む必要がある。このため、デジタル庁は、情報システムの統括・監理に加えて、各府省による業務改革の取組を支援する。
(4)発足時期
令和3年9月1日にデジタル庁を発足させることとし、次期通常国会に必要な法律案を提出する。
また、デジタル庁の発足を円滑に進めるため、内閣官房にデジタル庁の設置に向けた準備室を立ち上げる。