Table of Contents
I. はじめに
1.1 背景と目的
医薬品の有効性及び安全性は、1996年5月1日にICHが採択した「医薬品の臨床試験の実施に関する基準のガイドライン(ICH E6)」に基づき、日本における臨床試験の実施基準として定められた「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」(平成9年3月27日厚生省令第28号)に従って実施される臨床試験によって示されるべきである。上記のICHガイドライン及び日本における関連通知において、臨床試験の計画と解析における統計学の役割は欠くことのできないものと認められている。医薬品承認の過程及びヘルスケア一般において臨床研究が重要な役割を果たしていることにより、臨床試験領域での統計的研究が増大していることから、臨床試験に関連した統計的な問題に関する簡潔なガイドラインが必要とされている。本ガイドラインは、日米EUの3極間で、主として、承認申請のための臨床試験(治験)に適用する統計的方法論の原則の調和を進めるために書かれている。
本ガイドラインは出発点として、CPMP(欧州医薬品委員会)ガイダンス文書'BiostatisticalMethodology in Clinical Trials in Applications for Marketing Authorisations for Medicinal Products’「医薬品市販認可のための申請に用いる臨床試験における生物統計方法論(1994年12月)」を利用した。また、厚生省(日本)の「臨床試験の統計解析に関するガイドライン(1992年3月)」、U.S. Food and Drug Administration (米国食品医薬品庁)の'Guideline for the Format and Content of the Clinical and Statistical Sections of a New Drug Application'「新医薬品申請書臨床の部及び統計の部の書式と内容に関するガイドライン(1988年7月)」も参考にした。統計的原則と方法論に関連したトピックは、他のICHガイドライン及びそれに基づいて作成された日本でのガイドライン等(作成中のものを含む)、特に以下のものにも記載されている。
関連する内容を含むガイドラインを、本文の各節で引用する。
- E1A:「 致命的でない疾患に対し長期間の投与が想定される新医薬品の治験段階において安全性を評価するために必要な症例数と投与期間について(平成7年5月24日薬審第592号)」(以下引用に際しては、ICHのトピックに合わせ「ICH E1A」という。)
- E2A: 「治験中に得られる安全性情報の取り扱いについて(平成7年3月20日薬審第227号)」(以下「ICH E2A」という。)
- E2B: 「個別症例安全性報告の伝達のためのデータ項目(以下「ICH E2B」という。)」
- E2C: 「市販医薬品に関する定期的安全性最新報告(PSUR)(平成9年3月27日薬安第32号)」(以下「ICH E2C」という。)
- E3: 「治験の総括報告書の構成と内容に関するガイドライン(平成8年5月1日薬審第335号)」(以下「ICH E3」という。)
- E4: 「新医薬品の承認に必要な用量-反応関係の検討のための指針(平成6年7月25日薬審第494号)」(以下「ICH E4」という。)
- E5: 「外国臨床データを受け入れる際に考慮すべき民族的要因についての指針(平成10年8月11日医薬審第672号)」(以下「ICH E5」という。)
- E6: 「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(平成9年3月27日厚生省令第28号)」、及び「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令の施行について(平成9年3月27日薬発第430号薬務局長通知) 」(以下「ICH E6」という。)
- E7: 「高齢者に使用される医薬品の臨床評価法に関するガイドライン(平成5年12月2日薬新薬発第104号) 」(以下「ICH E7」という。)
- E8: 「臨床試験の一般指針(平成10年4月21日医薬審第380号)」(以下「ICH E8」という。)
- E10: 「臨床試験における対照群の選択」(以下「ICH E10」という。)
- M1: 「規制目的のための医学用語の標準化」(以下「ICH M1」という。)
- M3: 「医薬品の臨床試験のための非臨床安全性試験の実施時期についてのガイドライン(平成10年11月13日医薬審第1019号)」(以下「ICH M3」という。)
本ガイドラインは、臨床開発のあらゆる場面で、治験依頼者が被験薬に関する臨床試験の計画、実施、解析及び評価を行う場合の方向づけを目的としている。また、本ガイドラインは、主として開発の後期の相の臨床試験について、承認申請書添付資料概要(以下「資料概要」という。)の作成を任せられた専門家、又は有効性及び安全性の証拠を評価することを任せられた専門家にも役立つであろう。
1.2 適用範囲と方向性
本ガイドラインは、統計的原則に焦点を合わせており、個々の統計的な手続き又は手法の使い方を扱うものではない。原則が正しく適用されていることを保証するために個々の手続きを積み重ねることは、治験依頼者の責任である。複数の臨床試験にわたるデータの統合も論じるが、本ガイドラインの主要な点ではない。データマネジメント又は臨床試験のモニタリング活動に関連した原則と手続きのうち、他のICHガイドラインで扱っているものはここでは触れない。
本ガイドラインは、科学の広い分野の人々から関心を持たれるべきものである。しかし、臨床試験に関連したすべての統計的業務に対する実際の責任は、適切な資格と経験のある統計家が果たすことが前提となっており、そのことは ICH E6にも示されている。試験統計家(用語集参照)の役割と責任は、医薬品開発を支える臨床試験に統計的原則が適切に適用されていることを、他の臨床試験専門家と共同して保証することである。したがって、試験統計家は本ガイドラインに明確に述べられた原則を実行するために十分な理論又は実地の教育及び経験を併せ持つべきである。
承認申請に含まれる個々の臨床試験の計画と実施に関するすべての重要事項についての詳細及び臨床試験において使用する統計解析の主要な特徴は、試験開始前に作成された治験実施計画書(プロトコル)に明記すべきである。治験実施計画書中の手続きの遵守状況及び主要解析の事前での計画状況がどの程度であったかが試験の最終結果と結論の信頼性に寄与することになる。治験実施計画書及びその作成後の改訂は、試験統計家を含む責任者全員から承認を受けるべきである。試験統計家は、治験実施計画書及びそのいかなる修正もが、すべての重要な統計的問題を、必要ならば専門用語を用いて、明確かつ正確に扱っていることを保証すべきである。
本ガイドラインにまとめられている原則は、主として、有効性の検証的試験として実施されることの多い開発の後期の相の臨床試験に当てはまるものである。検証的試験では、主要変数として有効性以外にも安全性に関する変数(例えば、有害事象、臨床検査変数又は心電図の読み取り結果)、薬力学変数又は薬物動態変数(検証的な生物学的同等性試験の場合)を採用してもよい。更に、検証的な知見の一部は複数の試験を統合したデータから導かれることもあり、このような場合でも本ガイドライン中の原則の一部は適用できる。
最後に、医薬品開発の初期の相は主として探索的な性質の臨床試験からなるが、統計的原則はこれらの臨床試験にも当てはまる。したがって、本ガイドラインの趣旨は、可能な限り臨床開発のすべての相において適用されるべきである。
本ガイドラインに述べられている原則の多くは、偏り(用語集参照)を最小にし、精度を最大にすることを目的としている。本ガイドラインでは、「偏り(バイアス)」という用語を、「臨床試験の計画、実施、解析及び結果の解釈と関連した因子の影響により、試験治療の効果(用語集参照)の推定値と真の値に系統的な差が生じること」という意味で用いる。偏りを低く抑えるためには、偏りの潜在的な原因を可能な限り明らかにすることが重要である。偏りの存在により、臨床試験から妥当性のある結論を導くことが困難になるおそれがある。
偏りの原因が治験実施計画にある場合がある。例えば試験治療の割付が不適切で、リスクの低い患者が一方の試験治療に系統的に割付けられる場合がそうである。偏りの原因は、臨床試験の実施や解析の際に生じることもある。例えば、治験実施計画書違反及び個々の被験者の結果を知った後で被験者を解析から除外することは偏りの原因となり得るものであり、試験治療効果の正確な評価に影響を及ぼすおそれがある。偏りが起こる理由は明確にはとらえられない場合があり、偏りの影響は直接測定できないため、試験の結果と主要な結論の安定性を評価することは重要である。安定性(ロバストネス)とは、データ、仮定及び解析方針についての様々な制限に対して全体の結論がどの程度変わり易いかに関連した概念である。安定性は、異なる仮定又は異なる解析方針に基づいて解析を行った場合でも、試験治療の効果と試験の主要な結論は大きく影響されないことを意味している。試験治療の効果と試験治療の比較における不確実さに関する統計的指標の解釈には、p値、信頼区間又は推測に偏りが与えうる影響を考慮に入れるべきである。
臨床試験の計画と解析においては、頻度論的立場からの統計手法に基づく方法が主流になっていることから、本ガイドラインは仮説検定や信頼区間を議論する場合、主として頻度論的手法(用語集参照)を念頭に置いている。これは、他の方法が適切でないと主張するものではない。ベイズ流の手法や他の手法の使用も、それらの使用の理由が明らかであり、異なる仮定の下でも結果として得られる結論が十分に安定している場合には検討することができる。
参照
https://www.pmda.go.jp/files/000156112.pdf
医薬審 第1047号 平成10年11月30日
各都道府県衛生主管部(局)長 殿
厚生省医薬安全局審査管理課長
「臨床試験のための統計的原則」について
近年、優れた新医薬品の地球的規模での研究開発の促進と患者への迅速な提供を図るため、承認審査資料の国際的ハーモナイゼーション推進の必要性が指摘されている。このような要請に応えるため、日・米・EU三極医薬品規制調和国際会議(ICH)が組織され、品質、安全性及び有効性の3分野でハーモナイゼーションの促進を図るための活動が行われている。
別添の「臨床試験のための統計的原則」(以下「本ガイドライン」という。)は、ICHにおける合意に基づき、臨床試験における統計的原則について記載したものであり、臨床試験から得られる結果の偏りを最小にし、精度を最大にすることを目標としている。特に、計画段階から試験統計家が参加すること、治験実施計画書の作成に当たっては解析方法等について妥当性も含め事前明記すること等が強調されており、多施設共同試験における施設の捉え方及び施設当たりの症例数の設定に関する考え方、総合評価変数を用いる際の留意点等についても記載されている。また、検証的位置づけの試験を行う際の有意水準(第一種の過誤)については従来明確にされていなかったが、規制上の観点から、本ガイドラインの施行に伴い、原則として片側仮説を検証する場合は2.5%、両側仮説の場合は5%とすることとした。これらについては、ガイドラインの該当個所及び関係する質疑応答を参照されたい。
本ガイドラインは、本通知の日以降施行し、これに伴い、「臨床試験の統計解析に関するガイドライン(平成4年3月4日薬新薬第20号)」(以下「旧ガイドライン」という。)は廃止する。ただし、治験実施計画書の作成にかかる事項については、既に治験実施計画書が作成され、実施されている臨床試験もあることから、このような場合に配慮し、臨床試験の実施に先立って治験実施計画書が確定される日が平成10年12月31日以前の場合は、被験者数の決定方法も含め旧ガイドラインを参考とした事項があっても差し支えないが、そのような場合であっても、治験実施計画書の改訂又は統計解析計画書の作成を含め、本ガイドラインの趣旨に添って適切と考えられる事項については可能な限り適用することとされたい。
以上の点を御了知の上、貴管下関係者に対し周知方ご配慮願いたい。