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ICH-E9 臨床試験のための統計的原則 IV. 試験実施上で考慮すべきこと

IV. 試験実施上で考慮すべきこと

4.1 治験モニタリングと中間解析

治験実施計画書に従って臨床試験が慎重に実施されているかどうかは、結果の信憑性に重要な影響を与える(ICH E6 参照)。慎重なモニタリングによって、実施上の問題の所在を早期に発見するとともに、問題の発生又は再発を最小限に抑えることが保証できる。

モニタリングには、製薬企業が依頼する検証的試験の性格を一般に左右するような二つの異なる型式が存在する。一方の型式は試験の質の監視と関係したものであり、もう一方の型式は試験治療の比較のために割付を明らかにすることを伴うものである(中間解析)。治験モニタリングにおける二つの型式はどちらも、異なるスタッフの責任を伴ううえ、異なる型式の試験データ及び情報へのアクセスを必要とすることから、このための異なる原則が、潜在的な統計的及び運営上の偏りの制御に適用される。

試験の質を監視するためには、治験モニタリングで、治験実施計画書が守られているか、集積されたデータが受け入れ可能か、予定している集積目標が達成されているか、計画時に用いた仮定は適切か、患者の試験への継続的参加に成功しているか、などをチェックする必要があろう(4.2節から4.4節を参照)。この型式のモニタリングは、試験治療効果の比較に関する情報へのアクセスを必要としないだけでなく、割付を明らかにしたデータを必要としないため、第一種の過誤への影響を与えるものではない。この目的での治験モニタリングは治験依頼者の責任であり(ICH E6 参照)、治験依頼者又は治験依頼者によって任命された独立したグループが行うことができる。この型式のモニタリングの期間は、通常試験実施施設が選択されたときに始まり、最後の被験者のデータが収集されクリーニングされたときに終了する。

治験モニタリングのもう一つの型式(中間解析)は、比較のため試験治療の結果の集積を必要とする。中間解析は、割付を明らかにして(キーコードの開示)試験治療グループにアクセスすること(実際の試験治療の割付、又は割付グループの同定)を必要とし、比較を行う試験治療グループ間の要約情報を必要とする。このため、ある種の偏りを防ぐ目的で、中間解析のための統計解析計画を治験実施計画書中(又は最初に解析を行う前に目的にあった改訂を行った場合、その改訂中)に含める必要がある。これに関しては4.5節と4.6節で議論する。

4.2 選択基準と除外基準の変更

選択基準及び除外基準は、被験者募集期間を通じて、治験実施計画書に明記されているとおり一定に保つべきである。ときには基準を変更することが適切な場合もある。例えば、長期にわたる試験において、その試験以外又は中間解析による医学知識の蓄積により、登録基準の変更が示唆される場合である。登録基準の違反が日常的に起こること又は募集率の低さが深刻であることが、登録基準の制限が強すぎたためであることをモニタリング担当者が発見することにより、登録基準の変更がなされる場合もある。登録基準の変更は割付を明らかにしない状態で行うべきであり、治験実施計画書の改訂に常に記述すべきである。治験実施計画書の改訂には、例えば、イベント発生率が異なることにより行われなければならない必要な被験者数の調整などの統計的変更の内容、又は修正された選択/除外基準に従った解析の層化など、予定した解析の修正を含めるべきである。

4.3 集積率

被験者の集積が長期にわたる試験では、集積率をモニターすべきである。もしそれが予定している水準を大きく下回る場合には、その理由を確認すべきであり、試験の検出力を保ち、選択的登録及びその他試験の質に関する別の側面についての懸念を和らげるための対応策をとるべきである。多施設共同治験では、個々の施設において、これらの配慮が適用される。

4.4 必要な被験者数の調整

長期にわたる試験では、通常、当初の計画で用いた被験者数の計算根拠となる仮定を確認するための機会があろう。この確認は、試験計画の詳細が予備的情報若しくは不確実な情報、又はその両方に基づいている場合、特に重要であろう。盲検下のデータを用い中間での確認を行うことにより、それまでの試験全体での、反応の分散、イベント発生率又は生存状況が予期していた状況と異なることが明らかにされる場合がある。その場合、適切に修正した仮定に基づいて被験者数の再計算を行うこととなるが、その正当性を明らかにし、治験実施計画書の改訂及び総括報告書に記録しなければならない。盲検性を維持するために行う手続きと共に、可能であれば、第一種の過誤と信頼区間の幅に対する被験者数の変更による影響を説明すべきである。被験者数の再見積もりが必要になる可能性がある場合には、そのことを可能な限り治験実施計画書に述べるべきである(3.5節参照)。

4.5 中間解析と早期中止

中間解析とは、試験が正式に完了する前に行われる有効性又は安全性に関する試験治療群間の比較を意図したすべての解析を指す。中間解析の回数、方法及び結果が試験の解釈に影響するため、実施するすべての中間解析は前もって慎重に計画し、治験実施計画書に記述すべきである。特別な状況では、試験開始当初には予定していなかった中間解析が必要となる場合がある。中間解析が必要となる場合、割付が明らかにされ試験治療を比較するデータにアクセスする前に、治験実施計画書の改訂に中間解析について記述しておくべきである。試験を継続すべきか中止すべきかの決定を目的として中間解析を計画する場合、統計的モニタリング計画を指針とする逐次群計画を用いるのが通常である(3.4節参照)。

このような中間解析の目的は、研究中の試験治療の優越性が疑いなく立証された場合、適切な試験治療の差を示す見込みのないことが判明した場合又は許容できない有害作用が明らかになった場合に試験を早期に中止することにある。一般に、有効性モニタリングのための棄却限界値は、安全性モニタリングのための棄却限界値よりも、試験を早期に中止するための証拠をより多く必要とする(つまり、より保守的とする必要がある)。治験実施計画とモニタリングの目的により、複数の評価項目が用いられる場合、それによる多重性にも注意を払う必要があろう。

治験実施計画書には中間解析のスケジュール又は、例えばアルファ消費関数を用いる柔軟な方法を予定している様な場合には、少なくとも中間解析の方針について述べるべきである。より詳細な内容については最初の中間解析時までに治験実施計画書の改訂に示してもよい。中止の指針及びそれらの特質を治験実施計画書又はその改訂に明確に述べるべきである。早期中止が中止の判断に用いた変数以外の重要な変数に及ぼす影響と、それらの変数の解析方法についても考慮すべきである。この内容は、独立データモニタリング委員会が存在する場合には、その委員会により記述されるか又は承認されるべきである(4.6節参照)。予定した手順からの逸脱により常に試験結果の妥当性が損なわれる可能性がある。

試験に変更を加える必要性が生じた場合、変更により必要となる統計手法の変更のすべてを、できるだけ早い機会に治験実施計画書の改訂に明記すべきである。特にそのような変更が原因となるおそれがあるすべての解析及び推測への影響を議論しておかなければならない。選択した中間解析の方法が、全体の第一種の過誤の確率を制御していることを保証すべきである。

中間解析では、割付を明らかにしたデータと結果が必要となりうるため、内容が全く漏れない手順により実施しなければならない。試験に対するスタッフの態度の変化及び募集される患者の特徴の変化が起こり、試験治療の比較に偏りをもたらす原因となりかねないため、試験の実施に関係しているすべてのスタッフが、中間解析の結果を知ることがないようにすべきである。この原則は、中間解析の実施に直接関係している者を除く、治験責任医師に関係するスタッフ全員及び治験依頼者に雇用されているスタッフにも適用されるといってよい。治験責任医師には、試験の継続若しくは中止の決定、又は試験手順の変更の決定のみを知らせるべきである。

被験薬の有効性及び安全性を裏付けることを意図した臨床試験は、ほとんどの場合、予定した被験者数の集積が完全に完了するまで継続すべきである。試験は、倫理的な理由又は検出力が容認できない場合に限り、早期に中止すべきである。しかし、医薬品開発計画には、他の試験計画の立案など様々な理由から、比較のための試験治療データに治験依頼者がアクセスする必要性があることが認識されている。また、集積していく試験治療効果の比較に関して継続的なモニタリングが倫理的な理由から必要となるような、生命を脅かす重篤な結果に関する研究又は死亡に関する研究があるが、そのような試験は全体のごく一部であることも認識されている。どちらの状況でも中間統計解析の計画は、生じるおそれのある潜在的な統計的及び運営上の偏りに対処するため、割付を明らかにして試験治療の比較データにアクセスする前に、治験実施計画書又はその改訂の適切な箇所に記載すべきである。

被験薬に関する臨床試験では多くの場合、特に公衆衛生上意義のある試験の場合は、有効性若しくは安全性の一方、又はその両方の比較についてのモニタリングに対する責任は、外部の独立したグループに委ねられるべきである。このグループは、独立データモニタリング委員会、データ及び安全性モニタリング委員会、又はデータモニタリング委員会と呼ばれることがあり、その責任は明確にしておく必要がある。

治験依頼者が有効性又は安全性を比較するためのモニタリングの役割を担い、割付を明らかにした情報へのアクセス権を持つ場合、試験の完全性を維持し、情報の共有を適切に管理し制限するために特別の注意が払われるべきである。治験依頼者は、内部モニタリング委員会が文書で書かれた標準業務手順書に従っていること及び意思決定を行った会議の議事録が中間解析の結果とともに保持されていることを保証し記録に残すべきである。

適切に計画されていない中間解析はすべて(試験の早期中止の結論によらず)、試験の結果を損なう恐れがあるとともに導いた結論の信憑性を低下させる可能性がある。したがって、計画されていない中間解析は行うべきではない。もし予定外の中間解析を実施するならば、その解析の必要性及びどの程度割付を明らかにしたかを総括報告書に説明すべきであり、生じるおそれのある偏りの大きさ及び結果の解釈への影響を評価すべきである。

4.6 独立データモニタリング委員会の役割(ICH E6、1.25節及び5.52節参照)

独立データモニタリング委員会は、臨床試験の進行状況、安全性データ及び重要な有効性変数を何回かにわたり評価するとともに治験依頼者に試験の継続、変更、又は中止を勧告するために治験依頼者が設立できる。独立データモニタリング委員会は、文書で書かれた業務手順書を持つべきであり、すべての会議の議事録と中間解析の結果を保持すべきである。また、これらは試験完了時には審査可能な状態にしておくべきである。独立データモニタリング委員会の独立性は、比較を目的とした重要な情報の漏洩を管理すること及び臨床試験の情報にアクセスすることによる悪影響から試験の完全性を守ることを目的としたものである。独立データモニタリング委員会は治験審査委員会又は倫理委員会とは別の組織であり、統計学を含む適切な学識を持った臨床試験の専門家から構成されるべきである。

独立データモニタリング委員会に治験依頼者を代表する者が参加する場合、(例えば、主要な問題の採決に参加できるかどうか等)その役割を委員会の業務手順書に明確に定めるべきである。委員会に参加した治験依頼者のスタッフは割付を明らかにした情報に対しアクセス権を持つと考えられることから、業務手順書には治験依頼者の組織に対し試験の中間結果の開示を制限することについても述べるべきである。

参照

「臨床試験のための統計的原則」について

https://www.pmda.go.jp/files/000156112.pdf

-エビデンス全般, 統計学, 臨床試験, 規制

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