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ICH-E9 臨床試験のための統計的原則 VII. 報告

2021年5月28日

VII. 報告

7.1 評価と報告

「I. はじめに」で述べたように、総括報告書の構成と内容は、ICH E3 での主題である。ICHガイドラインE3は、臨床とその他の資料を適切に統合する統計作業の報告について十分に網羅している。したがって、この節は比較的簡潔にとどめる。

試験の計画段階では、解析の主要な特徴は5節に述べたように治験実施計画書に明記すべきである。試験の実施が終了し、データが集積されて予備的な点検ができるようになると、やはり5節で述べたように、予定した解析の盲検下レヴューを実施することは有益である。

この解析前に行う検討では、試験治療を盲検化した状態で、例えば被験者又はデータを解析対象集団から除外することに関する判断を行うべきである。また、変数変換の可能性の検討と外れ値の定義、最近の研究で明らかになった重要な共変量をモデルに加えること、パラメトリック手法を用いるかノンパラメトリック手法を用いるか等について再検討して差し支えない。この時点で下された判断は、報告書に記述されるべきである。一般に盲検下での判断は偏りをもたらす可能性が小さいので、統計家が試験治療のコードを知った後での判断と区別しておくべきである。割付を明らかにして行った中間解析に従事した統計家及びその他のスタッフは、盲検下レヴュー又は統計解析計画の変更に参加すべきではない。また試験治療に由来する効果がデータ上明らかなことによって盲検が破れる可能性がある場合、盲検下レヴューには特別の注意を必要とするであろう。

提示と作表のより詳細な内容の多くは、盲検下レヴュー時、又はその前後までに固定すべきである。その結果、実際の解析時には、被験者の選択、データ選択と変換、データの要約と作表、推定と仮説検定を含むすべての解析内容についての完全な解析計画が存在することになる。データの妥当性の立証が完了したら、解析は事前に定められた計画に従って進めるべきである。事前の計画が守られればそれだけ結果の信憑性は増すことになる。

治験実施計画書、治験実施計画書の改訂、又はデータの盲検下レヴューに基づいて更新された統計解析計画に記述されている、予定した解析と実際の解析の間のどんな差にも特別な注意を払うべきである。予定した解析からの逸脱に対しては、慎重な説明を行うべきである。

試験に登録されたすべての被験者は、解析に含まれているかどうかにかかわらず、報告書で明らかにすべきである。解析から除外した理由はすべて記録すべきである。最大の解析対象集団には含まれるが治験実施計画書に適合した対象集団には含まれない被験者については、治験実施計画書に適合した対象集団から除外された理由も記録すべきである。同様にして、ある解析対象集団に含まれる被験者すべてについて、すべての重要な変数のすべての適切な時点での測定値も明らかにしておくべきである。

被験者又はデータの減失、試験治療の中止及び重大な治験実施計画書違反が主要変数の主な解析に及ぼす影響について、慎重に考慮すべきである。追跡不能、試験治療の中止、又は重大な治験実施計画書違反があった被験者は明らかにすべきであり、減失の理由、減失と試験治療及び結果との関係を含めた、記述的解析を行うべきである。

記述統計は報告書に欠くことのできない部分である。適切な表若しくはグラフ表示、又はその両方により、主要変数及び副次変数並びに主な予後変数及び人口統計学的変数の重要な特徴を明確に説明すべきである。試験の目的に関連する主な解析結果には、特別に慎重な記述的報告を行うべきである。有意性検定の結果を報告する際には、限界値を越えたかどうかではなく、正確なp値(例えば「p=0.034」)を報告すべきである。

臨床試験の解析の主たる目標は、その主目的から生じた問題に答えることであるべきだが、割付を明らかにした後の解析で、観察されたデータに基づいた新たな問題が生じるおそれがある。追加解析、そして恐らく複雑な統計解析がその結果として必要になるであろう。この追加解析は、治験実施計画書に予定していた解析の報告とは厳密に区別すべきである。

偶然により、多少とも予後に重要な意味を持つが、共変量として事前に定めていなかった基準となる時点の測定値に関して、試験治療グループ間の予期しないバランスのくずれが起こる可能性がある。このバランスのくずれに対処するには、それを考慮する解析を追加し、予定した解析と本質的に同じ結論に達することを示すことが、最善である。しかし両者が同じ結論に達しない場合には、バランスのくずれが結論に与える影響を議論すべきである。

一般に、予定していない解析は最小限にとどめるべきである。予定外の解析は、試験治療の効果が何か別の要因に応じて変化する可能性があると考えられる場合に実施される例がよくみられる。その場合、被験者集団の中で試験治療効果が特に有益な部分集団を明らかにする試みがなされるであろう。よく知られているように、予定していない部分集団別解析を拡大解釈することは潜在的に危険なことであり(5.7節を参照)、慎重に避けるべきである。試験治療が被験者のある部分集団に何の利益もないと思われる場合、又は有害作用があるように思われる場合にも同様の問題が生じるが、それらの可能性について正しい評価を行うべきであり、したがって常に報告すべきである。

最後に、臨床試験の結果の解析、解釈及び提示には統計的判断が下されるべきである。このためには、試験統計家は総括報告書に責任を持つチームの一員であるべきであり、総括報告書を承認する存在であるべきである。

7.2 臨床データベースの要約

報告されているすべての臨床試験での安全性及び有効性の証拠を、全体的に要約して総合することは、承認申請の要求事項である(EUでの「専門家報告書(Expert Report)」、米国での「総合要約報告書(Integrated Summary Reports)」、日本での「資料概要」)。これは、適切であれば、結果の統計的結合を伴ってもよい。

要約の中には、以下のような多くの領域において特定の統計的興味が発生する。一連の臨床試験プログラムにおいて試験治療を受けた集団の人口統計学的及び臨床的特徴を記述すること。適切な(通常、比較を伴う)試験の結果を考慮にいれて有効性に関する主要な問題に答えること及び治験が相互に補強しあう、又は矛盾しあう程度を際立たせること。

承認申請の根拠となるすべての治験を結合したデータベースから利用できる安全性情報をまとめること及び安全性に関する潜在的な問題を確認すること。臨床プログラムの設計段階では、特に試験を通じてよく結合される測定値に対して、後になって一連の試験の解釈が容易になるように測定値を統一して定義し収集するよう、慎重な注意を払うべきである。

薬物治療、医療歴及び有害事象の詳細を記録するために、共通の辞書を選んで使用すべきである。主要変数と副次変数を共通して定義することはほとんど常に有益であり、メタアナリシスのためには必須である。主要な有効性変数の測定方法、ランダム化時/登録時から評価を行うまでの期間、治験実施計画書違反例と逸脱例の取り扱い及び恐らく予後因子の定義についても、そのようにしない妥当な理由がない限り、矛盾なく保つべきである。

いくつかの試験を通してデータを結合するために用いた統計手法はすべて、詳細に記述すべきである。結合の際には、試験を選択することに伴う偏りの可能性、結果の一様性及びばらつきの様々な原因を適切にモデル化することに注意を払うべきである。また、用いた仮定及び試験の選択に対して結論がどの程度変わり易いかを探索すべきである。

7.2.1 有効性データ

一つ一つの臨床試験は、常にその目的を果たせるだけの十分な規模で行うべきである。

本質的に同一であるような主要な有効性の問題を扱っている一連の臨床試験を要約することで、更なる有益な情報が得られるであろう。そのような一連の試験の主たる結果は、通常は推定値と信頼限界を中心とする表又は図として、比較可能な同一形式で提示すべきである。これらの推定値を結合するためのメタアナリシス技法の使用が有用な補足となる例がよくみられる。なぜならば、メタアナリシス技法は試験治療効果の大きさに関するより精度の高い包括的な推定値を与え、試験の結果の完備した簡潔な要約を与えるからである。

例外的な状況下ではあるが、全体的な仮説検定を行うメタアナリシス手法が、有効性の十分な全体的証拠を与える最も適切な方法、又は唯一の方法となる場合もある。このような目的でメタアナリシス技法を用いる場合には、メタアナリシスを実施するための研究計画を前もって準備すべきである。

7.2.2 安全性データ

安全性データの要約では、潜在的な毒性を示すいかなる徴候に対しても徹底的に安全性データベースを調べることが重要であり、裏づけるパターンを探索してその徴候を追跡することが重要である。医薬品のあらゆる人体曝露に関する安全性データを結合することが、重要な情報源となる。なぜならば、そのようにして被験者数が多くなることによりまれな有害事象を検出し、恐らく有害事象のおおよその発現数を推定する可能性が最も高くなるからである。しかし、このようなデータベースからの有害事象発現データは、比較するグループを欠いていることから評価が困難であり、この困難さを克服するためには比較試験からのデータが特に有益である。それぞれの対照薬について十分なデータを提供するため、共通の対照薬(プラセボ又は特定の実対照薬)を用いている試験の結果は結合し、別々に提示すべきである。

データの探索から判明した毒性を持つ可能性を示す徴候はすべて報告すべきである。これらの潜在的有害作用がどれだけ現実に起こりうるかの評価には、多数の比較の実施によって生じる多重性の問題を考慮すべきである。評価には、有害事象の発生に曝露期間若しくは追跡期間又はその両方が潜在的に関連しているかどうかを探索するため、生存解析手法を適切に使用すべきである。確認された有害作用に関連するリスクは、リスクと利益の関係を正しく評価するために適切に定量化すべきである。

参照

https://www.pmda.go.jp/files/000156112.pdf

医薬審 第1047号 平成10年11月30日

各都道府県衛生主管部(局)長 殿

厚生省医薬安全局審査管理課長

「臨床試験のための統計的原則」について

近年、優れた新医薬品の地球的規模での研究開発の促進と患者への迅速な提供を図るため、承認審査資料の国際的ハーモナイゼーション推進の必要性が指摘されている。このような要請に応えるため、日・米・EU三極医薬品規制調和国際会議(ICH)が組織され、品質、安全性及び有効性の3分野でハーモナイゼーションの促進を図るための活動が行われている。

別添の「臨床試験のための統計的原則」(以下「本ガイドライン」という。)は、ICHにおける合意に基づき、臨床試験における統計的原則について記載したものであり、臨床試験から得られる結果の偏りを最小にし、精度を最大にすることを目標としている。特に、計画段階から試験統計家が参加すること、治験実施計画書の作成に当たっては解析方法等について妥当性も含め事前明記すること等が強調されており、多施設共同試験における施設の捉え方及び施設当たりの症例数の設定に関する考え方、総合評価変数を用いる際の留意点等についても記載されている。また、検証的位置づけの試験を行う際の有意水準(第一種の過誤)については従来明確にされていなかったが、規制上の観点から、本ガイドラインの施行に伴い、原則として片側仮説を検証する場合は2.5%、両側仮説の場合は5%とすることとした。これらについては、ガイドラインの該当個所及び関係する質疑応答を参照されたい。

本ガイドラインは、本通知の日以降施行し、これに伴い、「臨床試験の統計解析に関するガイドライン(平成4年3月4日薬新薬第20号)」(以下「旧ガイドライン」という。)は廃止する。ただし、治験実施計画書の作成にかかる事項については、既に治験実施計画書が作成され、実施されている臨床試験もあることから、このような場合に配慮し、臨床試験の実施に先立って治験実施計画書が確定される日が平成10年12月31日以前の場合は、被験者数の決定方法も含め旧ガイドラインを参考とした事項があっても差し支えないが、そのような場合であっても、治験実施計画書の改訂又は統計解析計画書の作成を含め、本ガイドラインの趣旨に添って適切と考えられる事項については可能な限り適用することとされたい。

以上の点を御了知の上、貴管下関係者に対し周知方ご配慮願いたい。

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