論文執筆において重要な要素の一つが、利益相反開示です。
英語では、COI (Conflict of Interest) と表現されます。COIはありません、とか、COIはこうなっています、とさらっと流されるアレですね。
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透明性と信頼
利益相反開示が重要な理由はシンプルで、「どんな立場の人が、どんな状況下で書いた論文なのか」を明確に示すためです。
極端な例でいうなら、企業が自分の製品を破滅に追い込むような研究結果を意気揚々と発表することはほとんどない、ということです。
もしそんな論文があったとしたら、発表するとほぼ時を同じくして承認取り消しのような事態になっていることでしょう。
もう少し微妙な例を挙げるなら、企業と長い付き合いのある研究者は、その企業に対して不利な研究を積極的に発表するでしょうか。
研究者としての使命と、企業とのお付き合いは全く別次元の話であるとしてきっぱり割り切れるかもしれませんが、傍から見るとよくわかりません。
そうした「よくわからないけど、何となく怪しい」という状況を回避したり緩和するために、利益相反開示が重要になってきます。
利益相反そのものは悪いことではありません。どんな立場、どんな状況なのかを偽りなく示すことが、論文の読者に対する誠実な対応となるとも言えるでしょう。
利益相反に当たるかどうか
著者の関係や活動が利益相反にあたるかどうかは、個人によって意見が異なる場合があります。
関係や活動があるからといって、論文の内容に問題のある影響があるとは限りません。
しかし、利益相反の認識は、実際の利益相反と同様に、科学に対する信頼を損なう可能性があります。
最終的には、著者の関係や活動が論文の内容に関連しているかどうかについて、読者が自分で判断できなければなりません。
この判断には、透明性のある情報開示が必要です。
著者の完全な開示は、透明性へのコミットメントを示し、科学的プロセスへの信頼を維持するのに役立ちます。
Individuals may disagree on whether an author’s relationships or activities represent conflicts. Although the presence of a relationship or activity does not always indicate a problematic influence on a paper’s content, perceptions of conflict may erode trust in science as much as actual conflicts of interest. Ultimately, readers must be able to make their own judgments regarding whether an author’s relationships and activities are pertinent to a paper’s content. These judgments require transparent disclosures.
An author’s complete disclosure demonstrates a commitment to transparency and helps to maintain trust in the scientific process.
金銭的な関係
金銭的な関係は、最も簡単に特定できます。
金銭的な関係とは、具体的に次のようなものです。
- 雇用関係
- コンサルタント関係
- 株式保有やストックオプション保有
- 謝礼の支払
- 特許保有
- 有償の専門家証言
これらは、潜在的な利益相反と判断されることが多く、ジャーナル、著者、科学そのものの信頼性を損なう可能性が高いものです。
また、個人的な関係、学術的な競争関係なども、利益相反とみなされる可能性があります。
Financial relationships (such as employment, consultancies, stock ownership or options, honoraria, patents, and paid expert testimony) are the most easily identifiable, the ones most often judged to represent potential conflicts of interest and thus the most likely to undermine the credibility of the journal, the authors, and science itself. Other interests may also represent or be perceived as conflicts, such as personal relationships or rivalries, academic competition, and intellectual beliefs.
スポンサーとの契約
著者は、営利・非営利を問わず、研究スポンサーとの契約により、著者が研究の全データにアクセスすることを妨げられたり、データを分析・解釈する能力や、時と場所を選ばずに独立して原稿を作成・発表する能力を妨げられるような契約を結ぶことは避けるべきです。
著者が自分の研究をどこで発表するかを指示する方針は、この学問の自由の原則に反するものです。
著者は、秘密裏に契約書をジャーナルに提供するよう求められることがあるかもしれません。
Authors should avoid entering in to agreements with study sponsors, both for-profit and nonprofit, that interfere with authors’ access to all of the study’s data or that interfere with their ability to analyze and interpret the data and to prepare and publish manuscripts independently when and where they choose. Policies that dictate where authors may publish their work violate this principle of academic freedom. Authors may be required to provide the journal with the agreements in confidence.
COI開示責任があるのは、Authorだけではない
COI開示責任があるのは、論文のAuthorだけではありません。
査読者、編集者、ジャーナルの編集委員など、査読・出版プロセスに関わるすべての参加者がCOI開示の責任を有します。
それぞれの立場から、論文の査読・出版プロセスにおける役割を果たす際に、自らの関係や活動を考慮し、適切な場所と方法で開示することが求められます。
Authors(著者)
Author(著者)は、自分の研究に偏りを持たせる可能性のある(あるいはそう見られるような)関係や活動をすべて開示する責任があります。
ICMJEは、著者の情報開示を促進し、標準化するために、情報開示フォームを作成しています。
ICMJEのメンバージャーナルは、著者にこのフォームの使用を義務付けており、ICMJEは他のジャーナルも同じフォームを用いることを推奨しています。
Peer Reviewers(査読者)
査読者は、原稿の査読を依頼される際に、査読を複雑にする可能性のある人間関係や活動があるかどうか尋ねられるべきです。
査読者は、原稿に対する意見に偏りが生じる可能性のある関係や活動を編集者に開示しなければならず、偏りが生じる可能性がある場合には、特定の原稿の査読から身を引くべきです。
査読者は、出版前の査読対象論文に関する知識を自分の利益のために利用してはなりません。
Editors and Journal Staff(ジャーナルの編集委員)
編集者は、検討中の論文に関連して利害関係を持つ可能性のある関係や活動を行っている場合、編集上の意思決定に関わることは控えるべきです。
編集上の判断に関与する他の編集スタッフも同様に、編集上の判断に関連するかもしれない自分の関係や活動について最新の情報を編集者に提供する必要があります。
そして、潜在的な対立を引き起こすような利害関係が存在する場合には、その意思決定から身を引かなければなりません。
また、当然のことですが、編集スタッフは、原稿を扱うことで得た情報を私的に利用してはなりません。
編集者は、自らの情報開示書とジャーナルスタッフの情報開示書を定期的に公開すべきであり、ゲスト編集者も同様です。
また、ジャーナルとしては、編集上の決定に関与する個人から提出された原稿の評価に関する方針に関しても明記する必要があります。
関連するガイダンス
- COPE - https://publicationethics.org/files/A_Short_Guide_to_Ethical_Editing.pdf
- WAME - http://wame.org/conflict-of-interest-in-peer-reviewed-medical-journals
参照
http://www.icmje.org/icmje-recommendations.pdf