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ICTを活用した「次世代型保健医療システム」の構築に向けて(平成28年10月19日)1.保健医療分野におけるICTの活用と本提言の考え方

ICTを活用した「次世代型保健医療システム」の構築に向けて(平成28年10月19日)

1.保健医療分野におけるICTの活用と本提言の考え方

(1)はじめに :一人ひとりの物語に寄り添ったICT

  • 「今日はどうしましたか?」
    医師からの一言で、診療が始まる。やってきた患者は、体の不調や痛みを訴える。医師は、患者の心身の状態や生活習慣をはじめ、様々な情報を把握しようとする。可能性のある病気を丁寧に比較検討しながら、目の前の患者の病気を特定していき、また、どのような治療が的確かを判断していくためである。
    ○ 「行ってきます」と言いながらその患者が自宅(会社)を出たのは、その1時間前である。自宅を出る前、彼(彼女)は「患者」ではなく、子であり、親(祖父母)であり、または地域や会社の一員であった。病院での治療が済めば、彼(彼女)は「患者」ではなくなり、もとの日常に戻っていく。
    一人ひとりには、日々の暮らしや生活習慣、家族や地域・仕事、そしてそれらが積み重なった人生や価値観がある。その中で、時に保健医療サービスを受ける。加齢や、体質・病気・ケガの内容によっては、日々の暮らしの中に保健医療サービスが常に入り込んでいることもあるだろう。
    いずれにしても、大切なことは、保健医療が、一人ひとりの「暮らし」の中で行われるということだ。
    ○ 保健医療のあるべき姿は、こうした個々人の心身の状況はもちろん、その暮らしや人生・価値観に寄り添った最適なものとなることである。我が国の保健医療関係者は、目の前の患者・国民に最善を尽くすというプロフェッショナリズムの下で、こうした保健医療を実現しようと取り組んできた。その中で、「この患者にはどういった処置や薬が合うのか」、「どのようにして副作用が出るのか」、「画期的な薬や医療機器、技術を実現したい」、「地域住民の健康は保たれているか」、「保健医療を支える社会システムをつくりたい」・・・という思いや問いを繰り返してきた。
    それに応えてきたのは、保健医療関係者それぞれの自己研鑽と経験そして研究であったといえる。
  • 今日、加速度的なテクノロジーの進化によって、ICTが社会課題の解決の現実的な手法として活用できるものとなってきた。健やかに暮らしたいという患者・国民一人ひとりと、保健医療を維持し、より良くしたいという保健医療関係者の力になっていくだろう。
  • 一方、保健医療分野で、様々なデータやネットワークというICT基盤が、患者・国民の思いや、保健医療関係者の問いに答えられるほどに、十分に整えられているだろうか。
    素晴らしい先進的・萌芽的な取組はあるものの、我が国全体でみると、必ずしもそうとはいえない。ICTは、質の良いデータが、つながり、活用されてこそ課題解決の力となる。しかし、後述するように、患者・国民の保健医療関係のデータは分散し、十分につながっていない。データそのものの質も十分ではないだろう。
    我が国の保健医療分野で、ICTをどのように活用していくのか、明確なビジョンと取組が必要となってくる。

(2)「保健医療 2035」提言 :ICTが保健医療システムのパラダイムシフトの鍵に

  • ここで、我が国の保健医療が置かれた状況に視点を移したい。
    我が国は、世界に誇るべき保健医療水準を達成したが、人口減少等による経済成長の鈍化、世界で例のないスピードでの高齢化が進み、医療費の一層の増加が見込まれる。今後、医療・福祉ニーズが特に高まり、保健医療分野への資源の投入も必要となる。
    雇用の創出、人々の暮らしを支える新しいシステムやイノベーションなど、次の日本を支える新しい活力も生まれてくるだろう。
    しかしながら、需要拡大のみを想定して将来ビジョンなく資源を投入すると、その先の環境は厳しいものとなる。数年先を見越しただけの小手先の改革だけでなく、我が国の保健医療や社会保障制度の長所を継承しながら、長期的な社会変動へも対応できるような新しい社会システムを新生させていくことが求められている。
  • こうした背景の下、厚生労働大臣の懇談会でとりまとめられた報告書「保健医療 2035」(平成 27 年6月)では、負担増と給付削減による現行制度の維持のみを図るのではなく、①限られた財源をできる限り効果的・効率的に活用し、保健医療サービスの価値を最大化する(リーン・ヘルスケア)、②国民が健康づくりに主体的に関わり、必要なサービスを的確な助言の下で受けられる仕組みが確立した社会(ライフ・デザイン)など、新たな価値やビジョンを共有し、イノベーションを取り込みながら、保健医療システムの在り方そのものを変革(パラダイムシフト)し、我が国が国際社会にも貢献していく姿を提言した。
    この中で、「情報基盤の整備と活用」を、こうした新たな保健医療システムの「インフラ」の一つに位置づけている。
    すなわち、同報告書では、「2035 年においては、ICT等の活用により、医療の質、価値、安全性、パフォーマンスが飛躍的に向上していなければならない」、「膨大な保健医療データベースを活用し、治療の効果・効率性や医薬品等の安全対策の向上が実現され、国民が、その効果を実感できることが重要である」としている。
    今後、これをいかに達成していくかが、保健医療システムのパラダイムシフトの実現の鍵となるといってよい。

(3)ICTを保健医療分野で活用する意義 :保健医療関係者の力に

  • このように、ICTの技術革新を保健医療分野で活用することへの期待が大きいが、その意義について、あらためて確認しておきたい。

(ICTの意義)

  • ICTの進展により、現実の事象のデジタルデータ化や、関連システムの相互接続がなされ、データの双方向・多方向のやりとりや、膨大なデータの収集・分析が可能になった。
    その結果、ICTの活用により、ミクロレベルでは、時間・空間的な制約を超えて、社会資源の活用の効率化・合理化を図ることができ、生産性の向上につなげることができる。例えば、場所的な制約にとらわれないテレワークなどを想像すればよいだろう。
    さらに、マクロレベルでは、現実世界の大量・複雑な事象について、デジタルデータを適切かつ大量に収集・分析することで、これまで複雑すぎて解明できなかった現象の発生メカニズムや個々の要素の関連を明らかにできる。これにより、現実の事象のプロセスの分析・改善を講じることが可能になると期待される。ビッグデータによるマーケティング分析等への活用例などがわかりやすい。

(保健医療の特質)

  • 一方で、保健医療分野の特質についても考えてみたい。保健医療は「複雑系」の営みといえる。
    保健医療サービスの提供というミクロの場面についてみると、サービスの提供に必要な専門知識・領域も多岐で、疾病も複雑で複合的であり、患者一人ひとりに体質・年齢・生活習慣など個別性がある。また、健康管理、病気やケガの治療には大小の「不確実性」が伴ってくる。
    このため、保健医療サービスの提供には、高度の知識や経験、多職種の協働が求められるとともに、患者・国民と保健医療専門職との間の「信頼関係」が不可欠となる。
    さらに、保健医療分野全体を俯瞰してマクロとしてみれば、現場の保健医療専門職、研究機関、民間企業、行政、医療・介護保険者(以下「保険者」という。)、そして患者・国民といった多様な関係者、保健医療にかかわる施設・機器、保健医療サービスを費用面で支える医療保険制度など、様々な社会資源が複合的に関わり合いながら、サービスが提供されている。
  • とりわけ、我が国が世界に誇る保健医療水準は、目の前の患者・国民の治療・サービスに献身し、最善を尽くす保健医療専門職のプロフェッショナリズムや、優れた研究者らによる医学・疫学の発展、そして国民皆保険制度を維持する保健医療関係者の努力によって達成されてきた。
    今後、急速な高齢化による保健医療サービスの需要の拡大を、保健医療の現場で受け止めていかなければならない。また、こうした需要の拡大とともに、医療の高度化による医療費等の伸びを財政状況の厳しい医療保険制度等で引き続き受け止めていけるかが問われている。

(保健医療分野でICTを活用する意義)

  • こうした保健医療分野における大量で複雑な事象について、現場の保健医療専門職、研究機関、民間企業、行政・保険者、そして患者・国民が、ICTを活用することで、それぞれの持つ力を最大限に発揮し、新たな価値を生み出していくことが期待できる。
  • 具体的には、
    • 保健医療の現場では、遠隔診療などにより、専門の医師がいない地域でも良質な保健医療サービスを提供したりすることで、医療の質や生産性の向上、保健医療専門職の負担軽減・働き方の合理化などが図られる
      さらに、地域や領域ごとの治療効果の把握・評価を通じた保健医療サービスの改善、効率的かつ科学的根拠に基づく個々人への最適な保健医療サービスを提供する
    • 医学研究の場面では、臨床研究の設計・実施の精密化や、症例数・施設数の大規模化、症例検索の効率化、信頼性・安全性の向上等によって、研究開発が促進される
    • 保険者では、個々人の健康状態などに合わせた効果的・効率的な健康づくりを行うとともに、地域の医療・介護提供体制に関する積極的な情報提供などを行うことを通じて、保険者としての自律性を高める
    • 一方、民間部門では、製薬やヘルスケア産業などで、より効果的なマーケティングや革新的な研究開発が可能となるなど、各個人に最適な健康管理を実現するようなヘルスケアサービスを創出したり、国際競争力の強化を高める
    • また、行政では、保健医療の質の評価や費用対効果分析などを通じた医療資源の適正な配置・分配、感染症・副作用等の発生の早期の把握や対応、医療安全対策の実施など、合理的な医療政策や迅速な危機管理対策を行う
    • そして、国民は、自らの健康状態を自らのポータルサイトを通して知ることができ、保健医療専門職のサポートを受けながら、予防的な健康管理を行うことが可能になるといったことが期待できる。
      こうしたことにより、我が国の保健医療が抱える課題を解決するとともに、保健医療サービスの質の向上・効率化を図り、保健医療システム全体の価値を向上させていくことができる。

(4)本提言の考え方:ICTを活用した「次世代型保健医療システム」の構築に向けて

  • 現在、ICTの技術革新は文明の転換を引き起こしつつあり、これを社会システムに取り入れていくのは、各国共通の課題である。
    急速な少子高齢化の中、保健医療システムを次世代に引き継いでいくためには、我が国において、ICTの技術革新を徹底的に取り入れ、限られた社会資源を効果的・効率的に活用し、保健医療サービスの質と、システム全体の持続可能性を高めていくことができる体制として「次世代型保健医療システム」が必要である。
    その際、最も大切なことは、冒頭で述べたように、保健医療が、患者・国民一人ひとりの暮らしや人生に寄り添った最適なものとなっていくよう、ICTが活用されていくことである。
  • 少子高齢化は、先進国はもちろんのこと、今後、各地の新興国にとっても決して無視していくことはできない課題であり、少子高齢化社会のトップランナーである我が国の取組は必然的に注目されることとなる。
    チャレンジングな課題であるが、我が国が「保健医療 2035」のビジョンを実現し、グローバルにその成果を発信すれば、国際社会に貢献していくことができるはずである。
  • 本懇談会は、厚生労働大臣の懇談会として、2015 年 11 月から開催され、計8回にわたって議論を行った。
    保健医療分野におけるICTの活用については、技術的基盤の在り方をはじめ、様々な視点での検討がなされているが、私たちは、上記のような背景の下、「保健医療 2035」のビジョンを踏まえ、「患者・国民にとっての価値」につながる保健医療の実現に向け、ICTをどのように活かしていくべきかという観点から議論を行ったものである。
    その成果に基づき、ここに提言をとりまとめ、ICTを活用した「次世代型保健医療システム」の構築に向けて必要な次の3点を提示することとする。

【提言内容】

  • ① 「保健医療 2035」のビジョンを踏まえ、ICTを活用して創出すべき「患者・国民にとっての価値」
    ―「基本的理念」と「4つの価値軸」
  • ② 「患者・国民にとっての価値」を創出していくための「次世代型保健医療システム」の考え方と基本的な姿
    ―「3つのパラダイムシフトとインフラ」
  • ③ 「次世代型保健医療システム」を着実に構築していくための方策
    ―「アクション」と「工程表」

参照

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