ビジネス全般

免疫アレルギー疾患政策研究事業(令和4年度厚生労働科学研究)

1.研究事業の目的・目標

【背景】

<アレルギー疾患>

国民の2人の1人が何らかのアレルギー疾患を有するという社会問題化している現状を踏まえ、平成 27 年に「アレルギー疾患対策基本法」が施行され、それに基づき、平成 29 年3月に「アレルギー疾患対策の推進に関する基本的な指針」が告示された。現在、厚生労働省では基本指針に基づき、総合的なアレルギー疾患対策を推進しており、アレルギー疾患の診療連携体制の整備、疫学や基礎研究、臨床研究の推進を実施し、世界に先駆けた革新的なアレルギー疾患の予防、診断及び治療方法の開発等を行うとともに、これらに資するアレルギー疾患の病態の解明等に向けた研究を推進するように努めているところである。

<リウマチ性疾患>

平成 30 年 11 月に報告された「リウマチ等対策委員会報告書」の中で、今後のリウマチ対策の全体目標として「リウマチ患者の疾患活動性を適切な治療によりコントロールし、長期的なQOL を最大限まで改善し、継続的に職業生活や学校生活を含む様々な社会生活への参加を可能とする」とされている。この目標を達成するために、「医療の提供等」、「情報提供・相談体制」、「研究開発の推進」について方向性を示し、報告書に基づいた今後の課題に対して取り組んでいるところである。

<免疫アレルギー疾患研究 10 か年戦略>

免疫アレルギー疾患の総合的な研究の推進のために、平成 31 年1月に「免疫アレルギー疾患研究 10 か年戦略」を発出した。戦略の目指すビジョンとして、産学官民の連携と患者の参画に基づいて、免疫アレルギー疾患に対して「発症予防・重症化予防による QOL 改善」と「防ぎ得る死の根絶」のために、「疾患活動性や生活満足度の見える化」や「病態の見える化に基づく層別化医療及び予防的・先制的医療の実現」を通じて、ライフステージに応じて、安心して生活できる社会を構築することを掲げており、3つの大きな戦略として、「本態解明(先制的医療等を目指す免疫アレルギーの本態解明に関する基盤研究)」「社会の構築(免疫アレルギー研究の効果的な推進と社会の構築に関する横断研究)」「疾患特性(ライフステージ等免疫アレルギー疾患の特性に注目した重点研究)」を掲げている。

【事業目標】

  • アレルギー疾患対策基本法リウマチ等疾病対策委員会報告書に基づく総合的な免疫アレルギー疾患対策を推進するために必要な科学的基盤を構築する。
  • 免疫アレルギー疾患研究 10 か年戦略のうち、当事業では戦略2「社会の構築」において、免疫アレルギー疾患領域における研究の現状を正確に把握し、疫学調査、研究者連携、臨床研究等を長期的かつ戦略的に推進する。

【研究のスコープ】

<アレルギー分野>

  • アレルギー疾患対策の推進に関する基本的な指針に基づき、アレルギー疾患の最新のエビデンスに基づく診療ガイドラインの策定、医療連携体制の整備に資する研究、10 か年戦略に基づく研究、および疫学研究を推進する。

<リウマチ分野>

  • リウマチ等疾病対策委員会報告書に基づき、リウマチ疾患分野の最新のエビデンスに基づく診療ガイドラインの策定、アンメットニーズの把握と解決に向けた研究、NDB(レセプト情報・特定健診等情報)を用いた疫学研究を推進する。

【期待されるアウトプット】

  • 最新のエビデンスに基づいた免疫アレルギー疾患の生物学的製剤の適正使用に基づいた診療ガイドラインの作成・普及によって、適正・効率的な医療を普及させる。
  • 診療連携体制の評価に関する研究によって、各都道府県の医療連携体制を評価するシステムを構築し、各地域で PDCA サイクルを回す環境を整備する。
  • 患者参画による研究を通じて患者のアンメットニーズを把握することによって、単に治療方針だけではなく、患者の QOL、ライフステージ毎に見られる特有の課題などを明確化させる。
  • 疫学研究を推進し、免疫アレルギー疾患における全国民のアレルギー疾患の有病率や複数のアレルギー疾患の合併率を永続的に調査するシステムを確立する。

【期待されるアウトカム】

  • アレルギー対策基本法に基づいたアレルギー疾患の診療連携体制が整備され、すべての地域で標準的な医療が受けられる均てん化された社会の実装を目指す。
  • 層別化及び予防的・先制的医療の実現によって、有病率の低下など、疾患活動性のコントロールによる QOL の改善等、免疫アレルギー疾患の効率的な管理・治療を可能にする。
  • 疫学調査等により客観的指標を明確にし、各地域で確実な PDCA サイクルを回すことで免疫アレルギー疾患の診療連携や医療の質の向上を目指す。
  • 免疫アレルギー疾患のアンメットニーズに対する対策を講じることで、生活の質や治療等の改善を導出する。

2.これまでの研究成果の概要

<アレルギー疾患分野>

  • これまでのアレルギー疾患の疫学調査をまとめ、厚労省と日本アレルギー学会で運営しているウェブサイト「アレルギーポータル」にて公開された(「日本のアレルギー疾患はどう変わりつつあるのか」)(令和元年度終了課題)
  • 「食物経口負荷試験の手引き」が作成され、令和3年3月にアレルギーポータルに公開された。(令和2年度終了課題)
  • 免疫アレルギー疾患を有する者の治療と就労・就学との両立支援を目指した研究により、「アレルギー疾患・リウマチに罹患した労働者に対する治療と就労の両立支援マニュアル」が作成された。(令和2年度終了課題)
  • 免疫アレルギー疾患関連学会の若手研究者によるタスクフォース ENGAGE(TF-ENGAGE)が発足し、関連学会や国際学会との連携体制の構築がなされた。(令和2年度終了課題)

<リウマチ疾患分野>

  • 小児期発症のリウマチ性疾患における成人期の移行期医療の体制構築に向けた研究により、ライフステージ別の診療連携体制の基盤整備、及び移行期医療に関する診療の手引きが作成された。(令和元年度終了課題)
  • NDB による関節リウマチ患者の患者数の推計、最新のエビデンスに基づいた関節リウマチ診療ガイドラインが公開予定である。(令和2年度終了課題)

3.令和4年度に継続課題として優先的に推進するもの

アレルギー疾患の多様性、生活実態を把握するための疫学研究

令和3年度より、都道府県アレルギー疾患医療拠点病院を活用した全国のアレルギー疾患有病率調査を開始する予定であり、令和4年度には更に生活実態の調査等も検討しており、ウェブアンケートの準備や解析が必要である。また、1980 年から 10 年毎に実施している西日本小児アレルギー有病率調査を実施する予定であり、西日本の各都道府県の小児科医師に協力を依頼しており、アンケートの配布や回収、解析等が必要である。

免疫アレルギー疾患におけるアンメットニーズの把握とその解決に向けた研究

アレルギー疾患とリウマチ疾患について各 1 課題で研究を開始し、患者や保護者、メディカルスタッフからアンメットニーズについて情報を収集している。令和4年度では、アンメットニーズを解決するためのツール(パンフレットや ICT ツール等)を作成する予定であり、そのための開発や印刷、周知等に関する予算が必要である。

免疫アレルギー疾患 10 か年戦略の進捗評価と NDB を用いたアレルギー診療実態調査に関する研究

令和5年に免疫アレルギー疾患 10 か年研究戦略の中間取りまとめの予定となっており、令和4年度には、過去5年間の研究成果を用いたインパクト解析のフィージビリティスタディを公開するとともに、国内研究助成状況調査を行うために予算の増強が必要である。

食物経口負荷試験の均てん化の解決に向けた研究

令和3年度に負荷試験結果予測の初期予測モデルをもとに初期アプリを作成する予定となっているが、令和4年度にはそのアプリを用いて、多施設共同での症例データの集積を実施するため、臨床研究に関する予算の増強が必要である。

免疫アレルギー疾患における生物学的製剤の現状把握と適正な使用を目指す研究

令和4年度から、重症喘息に関するシステマティックレビューを開始するが、1年で終了させるために若手研究協力者を学会から多く募ることから人件費等に関する予算が必要である。

4.令和4年度に新規研究課題として優先的に推進するもの

アレルギー診療の効率化、QOL 向上に資する研究

アレルギー基本的指針」では、国民が等しくアレルギー疾患医療を受けることができるように、医療従事者の知識の普及及び技能の向上を図るとされている。コロナ禍でオンライン研修や e ラーニングが急速に普及しているが、効果についての検証を行い、効率的で持続可能なアレルギー診療従事者への啓発方法・ツールを開発する必要がある。そして最終的には患者における症状コントロールや QOL への影響まで評価する。これらのアウトカムは各都道府県のアレルギー疾患医療提供体制の整備に活用される。

免疫アレルギー疾患における医療水準の向上や均てん化に資する研究

アレルギー基本的指針」「リウマチ等疾病対策委員会報告書」では免疫アレルギー疾患の罹患率低下や重症化予防及び症状の軽減を推進するためには、良質なエビデンスに基づく診療・管理ガイドラインの定期的な改訂が必要であるとされている。そのため、関連学会と連携した研究班の構築し、システマティックレビュー等による最新のエビデンスを探索し、診療・管理ガイドラインを作成することで、免疫アレルギー疾患の医療水準の向上、均てん化を目指す。

各都道府県におけるアレルギー疾患医療連携体制構築に関する研究

アレルギー疾患医療提供体制の在り方に関する検討会」では、各都道府県において、都道府県拠点病院を中心としたアレルギー疾患医療の連携体制について考え方を示し、都道府県にアレルギー疾患医療拠点病院の設置を推進している。都道府県によって、アレルギー診療提供の状況は様々であり、今後、かかりつけ医との連携構築していく上で、各都道府県のアレルギー疾患医療体制の現状を把握することが必要である。そこで、各都道府県の医療機関に対してアンケート調査を実施し、アレルギー疾患医療に関する情報(検査や治療等)を収集し、医療状況を把握するとともに、ICT 等による連携体制を整備する。

5.令和4年度の研究課題(継続及び新規)に期待される研究成果の政策等への活用又は実用化に向けた取組

  • アレルギー疾患の多様性、生活実態を把握するための疫学研究
    疫学研究は、経年的に同じ手法で調査することで、経時的変化を把握することも可能となる。
    また、疾患毎ではなく全てのライフステージ、年齢層での調査をすることで、我が国におけるアレルギー疾患の全体像を把握することが可能になる。
  • 免疫アレルギー疾患におけるアンメットニーズの把握とその解決に向けた研究
    免疫アレルギー疾患研究 10 か年戦略 戦略2-2に対応し、様々なアンメットニーズを見える化するツールを作成すること、患者満足度の高い医療を可能とし、職業生活・学校等を含め、安心して生活できる社会の構築を目指す。
  • 免疫アレルギー疾患 10 か年戦略の進捗評価と NDB を用いたアレルギー診療実態調査に関する研究
    10 か年戦略の推進は基本法やリウマチ等疾病対策報告書における研究の推進として極めて重要であり、全体像を把握しながら、総合的な研究の進捗評価を実施する体制を構築する。
  • 食物経口負荷試験の均てん化の解決に向けた研究
  • 免疫アレルギー疾患における医療水準の向上や均てん化に資する研究
    食物経口負荷試験の手引きや診療ガイドラインを用いて、更に多施設での検討を行うことで、安全性の高い、または医療の層別化を行い、連携を目指した医療水準の向上と均てん化に寄与する。
  • 免疫アレルギー疾患における生物学的製剤の現状把握と適正な使用を目指す研究
    近年増加している新規バイオ製剤の適正使用に関するデータの蓄積、層別化による適切な推奨は診療の質を向上し、医療の均てん化に寄与する。
  • アレルギー診療効率化、QOL 向上に資する研究
    アレルギー診療従事者の効果的な育成は各都道府県のアレルギー疾患医療提供体制の整備に活用される。
  • 各都道府県におけるアレルギー疾患医療連携体制構築に関する研究
    都道府県単位としたアレルギー疾患医療提供体制の整備において、現状を把握することは、今後の疾患対策の評価においても極めて重要であり、また医療提供体制の整備・連携において重要な役割を寄与する。

参照

令和4年度厚生労働科学研究の概要

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