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医療DXの鍵!データホライゾンの独自技術とは?(特許第5203481号)

2025年8月25日

現代社会において、医療費の増加は避けて通れない大きな課題です。この課題に取り組む上で、「レセプト」という言葉を耳にされる方も多いのではないでしょうか。レセプトは、医療機関が診療行為に対する報酬を請求するために作成する明細書で、私たちの医療費の根幹をなす重要な書類です。しかし、このレセプトには、その本来の目的ゆえに、医療費の分析という観点から見るといくつかの構造的な課題が存在いたします。

レセプトは、医療機関が保険者に対して診療報酬を請求するための「請求書」として設計されています 1。そのため、個々の傷病ごとにいくらの医療費がかかったのか、という詳細な内訳を直接的に把握することが難しいという特性を持っています。例えば、風邪と高血圧で同時に受診した場合、診察料や検査料がどちらの病気によるものかをレセプト単体で区別することは困難です。このような特性は、複数の傷病が同時に治療されている場合や、一つの診療行為が複数の傷病に関連する場合に特に顕著に現れます 1

厚生労働省の資料からも、レセプトが分析のために設計されたものではないため、患者や傷病を特定することが困難であるなど、分析データとして多くの問題が存在するという指摘がなされています 2。また、他の医療情報システムを提供する企業も、レセプトデータには複数の病名が登録されており、通常、病名ごとの医療費分析が困難であると認識しています 3。レセプトが「請求書」であるというこの基本的な性質は、単なる事実以上の意味を持ちます。請求書は、提供されたサービスに対する対価を求めるものであり、そのサービスがどの「傷病」に対して行われたかという因果関係を明確に記録するようには設計されていないのです。この構造的な問題が、医療費の「見える化」を阻害し、結果として医療費適正化に向けた具体的な施策立案を難しくしている状況が長く続いていました。

この構造的な課題は、保険者や自治体が効果的な保健事業を計画・実行する上での障壁となっていました。傷病ごとの医療費が不明瞭であると、どの病気が医療費を押し上げているのか、どの治療が効果的でなかったのかといった評価が難しくなり、結果として医療費適正化の取り組みが手探りになりがちでした。このような状況が、データホライゾン社のような専門企業が介入し、新たな技術を開発する必要性を生み出した背景にあります。

データホライゾンの革新:レセプトの課題を乗り越える技術

このようなレセプトが抱える長年の課題に対し、株式会社データホライゾンは独自の革新的な技術を開発し、その解決に挑んでいます。彼らは、長年にわたりレセプトデータの分析に注力し、紙レセプトが主流だった時代から電子化技術を開発してきた経験を持っています 1。その核心となるのが、「医療費グルーピング技術」と「傷病管理システム(特許第5203481号)」という二つの特許取得済みの技術です 1

医療費グルーピング技術

この「医療費グルーピング技術」は、特許を取得した「医療費分解解析装置、医療費分解解析方法およびコンピュータプログラム」として知られています 1。この技術の最大の特長は、本来請求書であるレセプトでは把握が難しかった「傷病名ごとの適正な医療費の算出」を可能にすることです。さらに、現在治療中の傷病名のみを正確に抽出することもできるようになりました 1

従来のレセプトでは「傷病ごとの医療費が算出できない」という問題がありましたが 1、医療費グルーピング技術は、この問題を「傷病名ごとの適正な医療費算出」と「治療中の疾病の抽出」によって解決しています 1。これは、単に費用を分解するだけでなく、医療行為と傷病の複雑な関連性をデータベース化し、それに基づいて費用を「按分」(割り振り)するという高度な分析を行っていることを意味します 4。この技術は、傷病と医薬品、傷病と診療行為、診療行為と医薬品、診療行為と診療行為といった医療関連情報の詳細なリレーション(関連性)をデータベース化し、これに基づいて医療費を按分する機能を持っています。例えば、複数の傷病に対する診療行為や医薬品があった場合でも、それぞれの傷病に適切に医療費を割り振ることが可能になります 4。これにより、医療費の「全体像」ではなく「内訳」が明確になり、どの傷病にどれだけの費用がかかっているのかが「見える化」されるのです。

医療費グルーピング技術は、レセプトの「請求書」としての限界を、高度なデータベースと分析ロジックによって克服しています。これにより、レセプトデータが単なる支払いの記録から、医療費適正化のための「分析可能なデータ」へとその価値を変容させています。この技術がなければ、傷病ごとの医療費という重要な指標は、依然として不明瞭なままであったでしょう。この技術は、保険者や自治体が医療費の現状を正確に把握し、具体的な課題を見つけ出すための基盤を提供します。例えば、特定の傷病の医療費が突出していることが分かれば、その傷病に対する予防策や重症化予防策に重点を置くなど、より効果的な施策立案に繋がるものと考えられます。

傷病管理システム(特許第5203481号)

データホライゾン社が特許を取得している「傷病管理システム」(特許第5203481号)は、レセプトに記載されている傷病識別情報、医薬品識別情報、および診療行為識別情報に基づいて、傷病の重症度を判定し、それを階層化できる画期的な技術です 1。この特許は、平成23年3月8日に出願され、平成25年2月22日に登録されています 8

このシステムの具体的な応用例として、糖尿病の重症化予防が挙げられます。糖尿病の患者さんを重症度ごとに階層化することで、将来の重症化を予測し、それぞれの病期に合わせた的確な保健指導を行うことが可能となります 1。例えば、糖尿病性腎症の患者さんを病期ごとに分類し、それぞれの病期における年間医療費の目安を提示することで、重症化予防の重要性を明確に示しています 8。具体的には、合併症なしから早期腎症期では年間約5万円、顕性腎症期では年間約25万円、腎不全期では年間約50万円、そして透析療法期に至ると年間約500万円もの医療費がかかるというデータが示されており、重症化が進むにつれて医療費が飛躍的に増加する現実が明確に把握できるようになります 8

傷病管理システムは、レセプトの情報を基に「重症度を判定し階層化」する点で、単なる医療費の分析を超えた価値を提供しています 1。特に、糖尿病性腎症の病期を具体的に階層化し、それぞれの病期における医療費の目安まで示すこと 8 は、保健事業の対象者をより細かくセグメント化し、個別最適化された介入を可能にします。これは、画一的な指導ではなく、患者一人ひとりの状態に合わせた「的確な指導」 4 を実現するための基盤となります。このシステムは、医療費の抑制だけでなく、患者の生活の質(QOL)向上にも貢献します。重症化を未然に防ぐことで、患者はより健康な状態で日常生活を送ることができ、社会全体の医療負担も軽減されることが期待されます。

また、レセプト情報には、病名コードが設定されていない「未コード化病名」、いわゆる「ワープロ病名」が約40万種類も存在すると言われています 4。これらの病名を正確に分析するためには、コード変換テーブルとその継続的なメンテナンスが不可欠であり、データホライゾン社はこれを常に実施することで、分析の精度を高く保っています 4。この「未コード化病名」の処理は、レセプトデータの「生々しさ」や「複雑さ」を乗り越え、実用的な分析を可能にするための、地道ながらも極めて重要な技術的貢献であると言えるでしょう。

データホライゾンの医療関連データベースの重要性

これらの高度な分析技術の基盤となっているのが、データホライゾン社が1996年から長年にわたり蓄積してきた膨大な医療関連データベースです 4。このデータベースには、約11万件に及ぶ傷病や診療行為の辞書データ、約580万件に及ぶ傷病と診療行為、医薬品のチェックデータベース、そして年間約8.5億件ものレセプト分析情報が含まれています 4

データホライゾン社の技術が高い精度と信頼性を持つ根底には、「1996年からのデータ蓄積」と「膨大なデータ量」があります 4。これは単なるデータ量だけでなく、その「質」と「継続的なメンテナンス」が重要です。特に、約40万種類の「ワープロ病名」をレセプト電算コードに変換し、常にメンテナンスしているという事実 4 は、彼らがデータの「クレンジング」と「標準化」にどれほど力を入れているかを示しています。この地道な作業こそが、分析結果の信頼性を担保し、医療費グルーピングや傷病管理システムの精度を支える生命線と言えるでしょう。

このような大規模かつ多様なデータベースを長期間にわたって構築・維持していることは、他社が容易に模倣できないデータホライゾン社の強力な競争優位性であると考えられます。このデータベースがあるからこそ、彼らの特許技術は実用的な価値を発揮でき、分析モデルの精度が向上し、より正確な予測や階層化が可能になります。このデータベースは、医療情報の「ビッグデータ」を有効活用し、国民全体の健康増進と医療費適正化に貢献する基盤となっています。長期間にわたるデータの蓄積は、経年的な変化やトレンドの分析を可能にし、より先を見越した保健事業の立案に繋がると考えられます。

保健事業の未来:PDCAサイクルの最適化

データホライゾン社の革新的な技術は、個別の医療費分析や傷病管理に留まらず、健康保険組合や自治体が行う各種保健事業全体のPDCAサイクルを最適化することに大きく貢献しています。PDCAサイクルとは、計画(Plan)、実行(Do)、評価(Check)、改善(Act)の繰り返しによって業務を継続的に改善していく手法です。

データホライゾン社は、レセプトや特定健診のデータを活用し、データヘルス計画の立案支援から、糖尿病性腎症の重症化予防や多受診の適正化指導といった保健事業の実施、さらにはその効果の評価・見直しまで、PDCAサイクル全体を包括的に支援しています 7。彼らが提供するのは、単なる「データ分析ツール」ではなく、「保健事業のPDCAサイクル全体の支援」という包括的なソリューションです 10。これは、彼らの技術が、医療費の「現状把握」だけでなく、「未来予測」と「具体的な介入策の立案・実行・評価」までを一貫してサポートできることを意味します。

具体的には、計画段階(Plan)ではデータヘルス計画の立案支援やポテンシャル分析を行い、実行段階(Do)では重症化予防指導や受診行動適正化指導などを実施します。評価段階(Check)では保健事業の効果測定を行い、改善段階(Act)では計画の再検討を支援します 10。彼らのサービスは、広島県呉市での先進事例をモデルに、多くの保険者のニーズを取り入れて開発されており、保健事業の効果(アウトカム)を可視化することに重点を置いています 10。特に、「効果(アウトカム)の見える化」 10 は、保健事業の投資対効果を明確にし、次なる改善へと繋げる上で極めて重要です。

医療費グルーピング技術と傷病管理システムによって得られた詳細なデータと情報が、PDCAサイクルの各段階で具体的な意思決定を可能にしています。例えば、傷病ごとの医療費や重症度階層化のデータが「Plan」の根拠となり、重症化予防対象者の抽出が「Do」の対象を明確にし、その後の医療費や重症度変化の追跡が「Check」と「Act」の評価指標となる、というように、技術とPDCAが密接に連携しています。このPDCAサイクルの最適化は、限られた医療資源を最も効果的に配分し、国民の健康寿命の延伸と医療費の適正化という、社会全体の大きな目標達成に貢献します。データに基づいた科学的なアプローチにより、保健事業はより効率的かつ効果的なものへと進化し、結果として持続可能な医療制度の実現に寄与するものと考えられます。

おわりに

これまで見てきたように、株式会社データホライゾンは、レセプトが抱える構造的な課題に対し、「医療費グルーピング技術」と「傷病管理システム(特許第5203481号)」という二つの革新的な特許技術で、その解決策を提供しています。これらの技術は、単に医療費を「見える化」するだけでなく、傷病の重症度を詳細に分析し、個々の患者さんに合わせたきめ細やかな保健指導を可能にするものです。

彼らの長年にわたるデータ蓄積と、その質を維持するための継続的な努力は、これらの技術の精度と信頼性を支える強固な基盤となっています。そして、これらの技術が統合されることで、健康保険組合や自治体が行う保健事業のPDCAサイクルは飛躍的に最適化され、より効果的な医療費適正化や重症化予防が実現できるようになりました。

データホライゾン社の取り組みは、「健康に暮らせる未来を創る」という彼らのビジョン 11 を実現するための重要な一歩です。医療データの持つ可能性を最大限に引き出し、それを社会全体の健康増進と持続可能な医療制度の構築に結びつける彼らの貢献は、今後ますますその重要性を増していくことでしょう。このような技術の進化が、一人ひとりの健康な生活と、より良い社会の実現に繋がっていくことを期待しています。

引用文献

  1. 株式会社データホライゾン - Go!ひろしま | 広島県, https://www.pref.hiroshima.lg.jp/go-hiroshima-database-kigyo/go-data-01024.html
  2. 医療の質の変化を反映した価格の把握手法に関する研究 ―レセプトデータ(悉皆)による試算― - ESRI Research Note No, https://www.esri.cao.go.jp/jp/esri/archive/e_rnote/e_rnote070/e_rnote065.pdf
  3. 健診・レセプトデータ分析システム | 株式会社ニューテック, https://www.newtech-soft.co.jp/service/system/
  4. 技術・データベース|健康に暮らせる未来を創る 株式会社データ ..., https://www.dhorizon.co.jp/technology.html
  5. J-GoodTech [株式会社データホライゾン] | Appeal, https://jgoodtech.smrj.go.jp/ja/web/JC0000000018075/jpn
  6. 健康に暮らせる未来を創る 株式会社データホライゾン, https://www.dhorizon.co.jp/
  7. データヘルス計画のことならデータホライゾン, https://www.dhorizon.co.jp/datahealth/index.html
  8. データヘルスを支える ICT技術, https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/kenko/151006/shiryo_02.pdf
  9. ヘルスケア分野におけるデータの分析とは? | Yellowfin BI, https://yellowfin.co.jp/blog/7-jpblog1-what-is-the-analysis-of-data-in-the-healthcare
  10. サービス紹介|健康に暮らせる未来を創る 株式会社データホライゾン, https://www.dhorizon.co.jp/service/index.html
  11. 会社案内|健康に暮らせる未来を創る 株式会社データホライゾン, https://www.dhorizon.co.jp/company/index.html

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