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国立大学付属病院が直面している危機

国立大学付属病院が、経営危機に直面しています。

全国各地で高度な医療を提供し、医師の育成も担う国立大学付属病院の多くが経営難に陥り、赤字となっている状況です。

適切な対応がなされない場合、高度医療の地域格差拡大や、地域によっては高度医療の崩壊が懸念されます。

国立大学付属病院経営の現実

国立大学付属病院経営の現実を見てみましょう。

2024年度の現金収支は、42病院のうち8割近い32病院が赤字となる見込みで、2023年度の22病院から大幅に増加したもようです。赤字分は大学本部からの借り入れなどで対応する病院が多いとされています。

国立大学病院長会議によると、2024年度の経常損益は全体で約250億円の赤字になったそうです。減価償却費などが例年と同様とみなして推計されたもので、2023年度に初めて赤字に転落し、2年連続の赤字となりました。

新型コロナウイルスの感染拡大に伴って支給されていた補助金がなければ、2020年度から赤字になっていたという状況です。

病院経営危機の原因

このような経営危機に陥っている主な原因としては、以下の点が指摘されています。

  • 高度な医療の多くは利幅が少ない構造にあること。
  • 資材費や人件費の増加が続いていること。特に診療経費や人件費の増加が経営を圧迫しており、マスク、手袋といった消耗品や薬代などが高騰。
  • 手間がかかり、病院側の利幅が数万円(あるいは赤字)になる治療や、消耗品の利用により「やればやるほど赤字になる」場合もあること。
  • 高齢化によって患者数は増え収入は増加しても、支出の伸びがそれを上回っていること。
  • 2004年度に国立大学が国から独立した法人となったことに伴い、国立大病院が約1兆円の負債を国から継承し、借金返済を続けていること。
  • 法人化で経営の自由度は高まった一方で、研究や教育にかかる経費の基盤となる国からの交付金が約3割減ったこと。

病院の努力と限界

こうした厳しい経営状況のため、病院側は様々な努力をしていますが、限界が近づいています。

古い施設や機器の継続利用

老朽化した施設の建て替えを遅らせ、古い医療機器を使い続けてしのいでいます。例えば、筑波大学付属病院では築約50年の外来診療棟の建て替えめどが立たず、当時の約3倍に患者数が増えたためカーテンで仕切って診察室を増やしたり、狭い廊下で車椅子の患者が壁にぶつかるなど弊害が出たりしています。MRIなど数億円の医療機器を耐用年数を超えて使う病院は珍しくなく、「いつ壊れてもおかしくない古い機器を使っている」という声もあります。

共同購入

経費を抑えるために、国立大病院全体で消耗品や医療機器を共同購入し、2016年から合計約25億円の節約につなげました。価格の安い後発医薬品の活用を促すシステムを導入したり、ベッド数を減らしたりした病院も多いです。

しかし…

しかし、そうした努力にもかかわらず、医師や看護師などの雇用を減らす病院も出始めています。

経営のことだけを考えるなら、高度医療には消極的になり得るとの意見も出ています。一方で、高度な医療を担う国立大病院が撤退した場合、高度医療の提供がその地域から失われることを意味します。

このままでは、国立大病院は業務を縮小せざるを得なくなり、地域医療が崩壊するかもしれないという懸念があり、「このままでは犠牲になるのは患者だ」との声も上がっています。患者に十分な医療サービスを提供できなくなる恐れがあります。

この危機への対応が求められていますが、経営改善の抜本策は見当たらない状況です。また、高齢化に伴って国全体の医療費は右肩上がりで、診療報酬を安易に引き上げられない中で、診療報酬全体の見直しの中で高度な医療を提供し続けられる仕組みを模索する必要があるとされています。

さらに、人間ドックなどの保険外収入を増やし、リユース製品の活用といった病院側のさらなる自助努力も不可欠だという声も出てきています。

まとめ

2025年4月23日に開催された中央社会保険医療協議会(中医協)総会では、2026年度診療報酬改定に向けた議論**における論点の一つとして、医療機関の経営状況などに関するデータが提示されました。

「物価や賃金の上昇に応じた診療報酬の引き上げ」を巡るこの議論は、このような国立大学付属病院を含む医療機関の厳しい経営状況と密接に関連していると考えられます。

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