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令和3年度介護報酬改定に関する審議報告―Ⅰ 令和3年度介護報酬改定に係る基本的な考え方

2021年9月2日

1.基本認識

(1)感染症や災害への対応力強化が求められる中での改定

  • 介護サービスは、利用者やその家族の生活を継続する上で欠かせないものであり、感染症や災害が発生した場合であっても、利用者に対して必要なサービスが安定的・継続的に提供されることが重要である。
  • 昨今の新型コロナウイルス感染症の感染拡大に際しては、各事業所において、大変な苦労を払いつつ、様々な工夫のもと、感染症対策を講じながら必要なサービス提供の確保に取り組まれている。ただし、高齢者は重症化するリスクが高い特性があり、介護事業所における感染も発生している。新型コロナウイルス感染症をはじめとする感染症への対応力を強化し、感染症対策を徹底しながら、地域において必要なサービスを継続的に提供していく体制を確保していくことが必要である。
  • また、近年、様々な地域で大規模な災害が発生しており、介護事業所の被害も発生している。災害への対応力を強化し、災害発生時に避難を含めた適切な対応を行い、その後も利用者に必要なサービスを提供していく体制を確保していくことが必要である。

(2)地域包括ケアシステムの推進が求められる中での改定

  • いわゆる団塊の世代の全てが 75 歳以上となっている 2025 年に向けて、国民一人一人が住み慣れた地域で安心して暮らし続けられるよう、医療、介護、介護予防、住まい及び生活支援が包括的に確保される「地域包括ケアシステム」を、各地域の実情に応じて構築していくことが重要である。
  • このような認識のもと、累次の制度改正を行うとともに、診療報酬改定と同時改定となった平成 30 年度介護報酬改定においても、地域包括ケアシステムの推進を図る観点からの見直しが行われた。
  • 2025 年が近づく中、更にその先を展望すると、いわゆる団塊ジュニア世代が 65 歳以上となる 2040 年には、高齢人口がピークを迎えるとともに、介護ニーズの高い 85 歳以上人口が 1,000 万人を超え、認知症の人の増加も見込まれるなど、介護サービス需要が更に増大・多様化することが想定される。こうした状況は都市部や中山間地域など、地域によって異なるため、地域の特性に応じた対応が求められる。
  • 令和元年度には「認知症施策推進大綱」が取りまとめられ、認知症の発症を遅らせ、認知症になっても希望を持って日常生活を過ごせる社会を目指し認知症の人やその家族の視点を重視しながら「共生」と「予防」を車の両輪として施策を推進することとされた。
  • また、令和2年の制度改正においては、地域共生社会の実現を目指す中で、地域包括ケアシステムの推進を図る観点から、地域の特性に応じた介護サービス提供体制の整備の推進、医療・介護の連携の推進、認知症施策の総合的な推進等を図る見直しが行われた。
  • 令和3年度からの第8期介護保険事業計画期間は、各地域において構築された地域包括ケアシステムを活用していく 2025 年を間近に控えた重要な3年間である。
  • 2025 年に向けて、2040 年も見据えながら、地域包括ケアシステムを各地域の特性に応じて構築・推進していくことが必要である。

(3)自立支援・重度化防止の取組が求められる中での改定

  • 介護保険は、介護が必要になった者の尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要なサービスを提供することを目的とするものであり、提供されるサービスは、要介護状態等の軽減又は悪化の防止に資するものであることが求められている。
  • 平成 30 年度介護報酬改定においても、自立支援・重度化防止に資する質の高い介護サービスの実現を図る観点からの見直しが行われた。プロセス評価やアウトカム評価の拡充など、サービスの質の評価の取組も進められた。
  • 令和2年の制度改正においては、介護予防・健康づくりの推進(健康寿命の延伸)を図る観点から、一般介護予防事業等の推進等を図る見直しが行われた。
  • また、平成 29 年の制度改正以降、累次の制度改正により、科学的に自立支援等の効果が裏付けられた介護の実現を図るため、介護関連のデータ(要介護認定情報、介護保険レセプト情報、リハビリテーションに関する情報(VISIT 情報)、高齢者の状態やケアの内容等の情報(CHASE 情報)、地域支援事業の利用者に関する情報(基本チェックリスト情報等))の利活用のための環境整備も進められている。
  • サービスの質の評価や科学的介護の取組も進めながら、質の高い、自立支援・重度化防止に資するサービスの提供を推進していくことが必要である。

(4)介護人材の確保・介護現場の革新が求められる中での改定

  • 少子高齢化が進展する中、足下の介護人材不足は厳しい状況にあるが、2025 年以降は生産年齢人口の減少が顕著となり、地域の高齢者介護を支える人的基盤の確保が大きな課題になることが見込まれる。
  • 介護人材の確保に向けて、介護報酬において、これまで累次にわたる処遇改善を行ってきたことに加え、令和元年 10 月からは経験・技能のある職員に重点化を図りつつ、更なる処遇改善を行っているほか、多様な人材の確保・育成、離職防止・定着促進・生産性向上、介護職の魅力向上など総合的な人材確保対策を講じてきている。
  • また、介護現場の生産性向上は喫緊の課題であることから、平成 30 年度に「介護現場革新会議」において基本方針が取りまとめられ、業務の切り分けや介護助手等の取組を通じた、人手不足の中でも介護サービスの質の維持・向上を実現するマネジメントモデルの構築、テクノロジーの活用、介護業界のイメージ改善と人材確保・定着促進を図る必要性が共有された。
  • 令和2年の制度改正においては、持続可能な制度の構築・介護現場の革新を進める観点から、介護人材確保及び業務効率化の取組の強化等を図る見直しが行われた。
  • 足下の介護人材不足や将来の担い手の減少を踏まえ、総合的な介護人材確保対策や生産性向上をはじめとする介護現場の革新の取組を一層推進していくことが必要である。

(5)制度の安定性・持続可能性が求められる中での改定

  • 介護に要する費用に目を向けると、制度創設から 20 年が経過する中で、その費用は大幅に増加している。少子高齢化が進展し、介護ニーズが増大する一方で、生産年齢人口の減少が顕著となることが見込まれる中、制度の安定性・持続可能性を高める取組が引き続き求められる。
  • 令和2年の制度改正においては、持続可能な制度の構築を進める観点から、給付と負担に関する必要な見直しを行うこととされている。
  • 必要なサービスはしっかりと確保しつつ、サービスの適正化・重点化を図り、制度の安定性・持続可能性を高めていくことが必要である。

2.令和3年度介護報酬改定の基本的な考え方

(1)感染症や災害への対応力強化

  • 第1の柱は、感染症や災害への対応力強化である。感染症や災害が発生した場合であっても、利用者に必要なサービスが安定的・継続的に提供される体制を構築することが求められる。
  • このため、感染症や災害に対して、日頃からの発生時に備えた取組や発生時における業務継続に向けた取組を、介護報酬や運営基準等による対応、予算による対応等を組み合わせ、総合的に推進していくことが必要である。

(2)地域包括ケアシステムの推進

  • 第2の柱は、地域包括ケアシステムの推進である。認知症の人や、医療ニーズが高い中重度の高齢者を含め、それぞれの住み慣れた地域において、尊厳を保持しつつ、必要なサービスが切れ目なく提供されるよう取組を推進することが求められる。
  • このため、在宅サービスの機能と連携の強化、介護保険施設や高齢者住まいにおける対応の強化を図るほか、認知症への対応力向上に向けた取組の推進、看取りへの対応の充実、医療と介護の連携の推進が必要である。また、ケアマネジメントの質の向上と公正中立性の確保や、都市部、中山間部など地域の特性に応じたサービスの確保に取り組んでいくことが必要である。

(3)自立支援・重度化防止に向けた取組の推進

  • 第3の柱は、自立支援・重度化防止に向けた取組の推進である。高齢者の自立支援・重度化防止という制度の目的に沿って、サービスの質の評価やデータ活用を行いながら、科学的に効果が裏付けられた質の高いサービスの提供を推進することが求められる。
  • このため、リハビリテーション・機能訓練、口腔、栄養の取組を連携・強化させながら進めていくこと、ストラクチャー、プロセス、アウトカムの評価をバランス良く組み合わせながら、介護サービスの質の評価を推進していくこと、介護関連データの収集・活用と PDCA サイクルの推進を通じた科学的介護の取組を推進していくことが必要である。また、寝たきり防止等、重度化防止の取組を推進していくことが必要である。

(4)介護人材の確保・介護現場の革新

  • 第4の柱は、介護人材の確保・介護現場の革新である。足下の介護人材不足や将来の担い手の減少を踏まえ、喫緊かつ重要な課題として、介護人材の確保・介護現場の革新に対応していくことが求められる。
  • このため、介護職員の更なる処遇改善に向けた環境整備や、介護職員のやりがい・定着にもつながる職場環境の改善に向けた取組を推進していくことが必要である。また、人材確保対策とあわせて、介護サービスの質を確保した上での、テクノロジーの活用や人員基準・運営基準の緩和を通じた業務効率化・業務負担の軽減を推進していくことが必要である。文書負担軽減や手続きの効率化による介護現場の業務負担軽減を推進していくことも必要である。

(5)制度の安定性・持続可能性の確保

  • 第5の柱は、制度の安定性・持続可能性の確保である。保険料・公費・利用者負担で支えられている介護保険制度の安定性・持続可能性を高め、費用負担者への説明責任をよりよく果たし、国民の共同連帯の理念に基づく制度への納得感を高めていくことが求められる。
  • このため、サービス提供の実態などを十分に踏まえながら、評価の適正化・重点化や、報酬体系の簡素化を進めていくことが必要である。

参照

令和3年度介護報酬改定に関する審議報告―Ⅲ 今後の課題

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