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1.研究事業の目的・目標
【背景】
労働災害の発生状況は、死亡災害において長期的に減少傾向にあるものの、休業4日以上の死傷災害は前年比で増加している。また、過重労働などによって労働者の尊い命や健康が損なわれ、深刻な社会問題となっており、「働き方改革実行計画」等を踏まえ、産業医及び産業保健の機能の強化等、職場におけるメンタルヘルス対策の取組を更に促進する必要がある。さらに、第 13 次労働災害防止計画(計画期間:平成 30 年度~令和4年度)を踏まえ、計画的に科学的な知見に基づいた制度改正や労働基準監督署を通じた必要な指導を行い、労働者の安全と健康の確保のための取組を推進する必要がある。
特に、「経済財政運営と改革の基本方針 2020」を踏まえ、多様な働き方で就業する者に応じた、安全衛生対策を検討していく必要がある。また「経済財政運営と改革の基本方針 2019」を踏まえ、サービス業で増加している高齢者の労働災害を防止するための取組を推進する必要がある。
このほか、ウィズコロナ・ポストコロナの「新たな日常」、「新しい生活様式」に対応した働き方としてテレワークの導入・定着が進んでおり、テレワークを常態的に行う労働者も増加傾向にあることから、オフィスでの勤務との違いを踏まえた労働者の心身の健康管理が求められている。これらの課題を解決するためには、本研究事業の効率的な実施を通じて科学的根拠を集積し、もって行政政策を効果的に推進していくことが必要不可欠である。
【事業目標】
現状分析、最新の工学的技術や医学的知見等の集積による、継続的な労働安全衛生法令の整備及び課題の抽出を行い、労働安全衛生法の改正、ガイドラインの策定等を通じて、更なる労働者の安全衛生対策につなげる。
【研究のスコープ】
- 職場における労働災害を防止するための労働者の安全と健康の確保
- 労働者の安全衛生を巡る諸外国の規制の状況・知見の収集
- 疾病を抱える労働者の治療と職業生活の両立の促進
【期待されるアウトプット】
労働安全衛生法令の施行状況並びに第 13 次労働災害防止計画に基づく取組の実施状況を踏まえた課題について、令和5年度を始期とする第 14 次労働災害防止計画の策定を視野に入れた、対策の検討のための必要な知見を得る。
- 「墜落による危険を防止するためのネットの構造等の安全基準に関する技術上の指針」(昭和51 年8月6日)(大臣公示)の改正
- 「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」に基づく適切なテレワークの導入を支援する資料の作成
- 防爆構造電気機械器具の型式検定制度について国際規格に基づく認証制度(IECEx スキーム)との整合性確保のための知見の収集
- 特殊健診結果等の国等による収集保存及び研究活用の制度設計をするための基礎資料の作成
- 労働安全衛生法に基づく歯科健診の対象となっている有害業務と歯科健診の実態調査を通じた、現状把握と近年の職場環境に適合した労働衛生対策に必要な知見の収集
- 治療と仕事の両立支援を受けた労働者の追跡調査と支援事例のデータベースの構築、それを利用した中小企業等の両立支援に関するリテラシー向上研修プログラム、臨床医向けの症状ごとの就業上の配慮事例集と教材の開発
【期待されるアウトカム】
エビデンスに基づく次期労働安全衛生法等の改正、社会情勢の変化に対応する第 14 次労働災害防止計画の策定、労働災害発生件数の減少 等
- 高齢者の労働災害防止の取組推進
- テレワーク、フリーランスの働く環境整備の推進
- 働き方改革実行計画に位置づけられている「病気の治療と仕事の両立」の推進
2.これまでの研究成果の概要
- 「農林水産業における災害の発生状況の特性に適合した労働災害防止対策の策定のための研究(平成 30 年度~令和2年度)」
- 農林水産業における各種事業体の労働安全衛生体制(労働安全衛生法、船員法等)の現状を確認した上で、行政組織間・産官学・地域連携の視点から労働災害・健康障害の要因と対策を明らかにしている。
- これを受けて、産官学連携を含む労働災害及び健康障害予防策のモデル事業を提言しており、当該提言は農林水産業における労働災害防止対策を検討する際の基礎資料としての活用が期待できる。
- 「じん肺エックス線写真による診断精度向上に関する研究(平成 29 年度~令和元年度)」
- CAD(Computer aided detection/diagnosis)を用いたじん肺の CT 画像の評価はじん肺の病型判断に有用であるという成果が得られた。
- 「中小企業等における治療と仕事の両立支援の取組促進のための研究(平成 31 年度~令和3年度)」
- 両立支援に関するコンサルテーションチームを設置、研究に参加する中小企業や医療機関の両立支援実務、組織運営のコンサルテーションを行っている。
- 「医療機関における治療と仕事の両立支援の推進に資する研究(令和2年度~令和3年度)」
- 臨床医向けの両立支援診療の映像教材・啓発資料を作成した。
3.令和4年度に継続課題として優先的に推進するもの
- リスク回避行動の分析と行動支援のためのデバイス、教育等の利用推進のための研究
- 「経済財政運営と改革の基本方針 2019」を踏まえ、サービス業で増加している高齢者の労働災害を防止するための取組を推進する必要があるところ、リスク回避の認知過程の特性とリスク回避行動の促進を支援するデバイスの検討等により、高齢者の労働災害防止の取組促進に資する。
- フリーランスの業界団体における安全衛生対策と意識に関する調査研究
- 「経済財政運営と改革の基本方針 2020」を踏まえ、多様な働き方で就業する者に応じた、安全衛生対策を検討していく必要があるところ、「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(令和3年3月 26 日策定)に示されるフリーランスについて、種々の業界・業種にわたる団体、プラットフォームの状況を包括的に示し、自主的な安全衛生対策のグッド・プラクティス事例を示す。
4.令和4年度に新規研究課題として優先的に推進するもの
- 墜落による危険を防止するためのネットの経年劣化等を含めた安全基準の策定に資する研究
- 防網(安全ネット)の強度、耐久実験等を実施し、強度及び耐久性から基準、使用方法、耐久年等を分析する。
- 治療と仕事の両立支援を受けた労働者の追跡及びデータベース構築のための研究
- 治療と仕事の両立支援を受けた労働者の追跡等により支援の実際と課題を分析するとともに、治療と仕事の両立支援の実績のある医療機関の患者データを活用し、支援事例のデータベースを構築する。
- 特殊健康診断等のデータ保存及び利活用の推進のための研究
- 特殊健康診断結果等の収集と長期保存及びデータの活用推進に向け、システムの仕様を作成し、簡易版のシステムを構築するなど検証を行う。
- 労働安全衛生法に基づく歯科医師による健康診断の効果的な実施のための研究
- 法定の歯科健診の対象となる酸取扱い業務等の有害業務に関しては、業種や工程などの最近の情報が不足しており、また歯科健診実施状況(項目・記録など)を把握するため実態調査を行う。
- テレワークの常態化による労働者の筋骨格系への影響や生活習慣病リスクに関する研究
- テレワークによる身体活動の減少や、エルゴノミクスへの配慮が十分でない環境(自宅の机、椅子、長時間同じ姿勢での作業等)が、労働者の筋力や関節等に及ぼす影響やこれに伴う生活習慣病リスクについて実態把握を進め、その改善策について検討を行う。
5.令和4年度の研究課題(継続及び新規)に期待される研究成果の政策等への活用又は実用化に向けた取組
- 「墜落による危険を防止するためのネットの経年劣化等を含めた安全基準の策定に資する研究」については、「墜落による危険を防止するためのネットの構造等の安全基準に関する技術上の指針」(昭和 51 年8月6日)(大臣公示)の改正ための基礎資料とする。
- 「治療と仕事の両立支援を受けた労働者の追跡及びデータベース構築のための研究」については、両立支援を受けた労働者の追跡調査から、支援を継続する上での課題とその対策について分析するとともに支援事例のデータベースを構築して支援対象者の特性(疾患、治療内容、業種、必要な配慮事項)を明らかにし、「事業場における治療と仕事の両立支援ガイドライン」見直しのための参考資料、両立支援施策の検討資料とする。
- 「特殊健康診断等のデータ保存及び利活用の推進のための研究」については、特殊健診結果等の国等による収集保存及び研究活用の制度設計をするための基礎資料とする。
- 「労働安全衛生法に基づく歯科医師による健康診断の効果的な実施のための研究」については、労働安全衛生法に基づく歯科健診の内容と対象業務を整理し適切な実施につなげるための基礎資料とする。