ビジネス全般

ステークホルダー間の連携体制の構築(アジャイル・ガバナンス)

アジャイル・ガバナンスのプロセスを実践するためには、マルチステークホルダー間でゴール設定やシステムデザイン、評価等に関する連携が必要となる。以下では、政府と企業によるガバナンスに、それぞれ関連するステークホルダーが関与できるようにするための仕組みの例を挙げる。

政府の政策決定への参加機会の確保

データへのアクセス

政府の政策決定に個人・コミュニティが関与する前提として、各人がより多くの正確な情報にアクセスできるようにすることが重要である。そのため、いわゆるオープンデータ(一定のルールの範囲内で、誰でも自由に二次利用が可能な信頼できるデータ)の促進を政府がリードすることが重要である。

政府によるオープンデータの取組

平成28年の官民データ活用推進基本法の制定により、国及び地方公共団体のオープンデータに関する取組が加速している。現在、デジタル庁が整備・運営する情報ポータルサイト「データカタログサイト」が公開され、誰でも自由に利用可能な公共データやその活用事例などが集約されている。また、行政機関が保有するデータの棚卸が行われ、利用可能な公共データの一覧が公表されているほか、地方公共団体のオープンデータの整備を促進するための支援なども行われている。

規制の設計への関与

いかなる規制も、制定時点での社会状況を前提としているものであるが、そのような規制によってイノベーションが妨げられないよう、イノベーションを起こそうとする者と規制当局との間で、規制の在り方について対話の機会を設けることが非常に重要である。現在、日本では、以下のような制度が用意されている。

① 規制のサンドボックス

産業競争力強化法に基づき、IoT、ブロックチェーン、ロボット等の新たな技術の実用化や、プラットフォーム型ビジネス、シェアリングエコノミーなどの新たなビジネスモデルの実現が、現行規制との関係で困難である場合に、新しい技術やビジネスモデルの社会実装に向けて、事業者の申請に基づき、規制官庁の認定を受けた実証を行い、実証により得られた情報やデータを用いて規制の見直しにつなげる制度である。

② グレーゾーン解消制度

産業競争力強化法に基づき、事業者が、現行の規制の適用範囲が不明確な場合においても、安心して新事業活動を行い得るよう、具体的な事業計画に即して、あらかじめ規制の適用の有無を確認できる制度である。

③ 新事業特例制度

新事業活動を行おうとする事業者による規制の特例措置の提案を受けて、安全性等の確保を条件として、「企業単位」で規制の特例措置の適用を認める制度である。

政策決定への関与

デジタル技術の進展に伴い、個人やコミュニティによる政治的意思決定への参加方法も多様化できるようになっている。伝統的な「一人一票」という手法や、「力のある者によるロビイング」といった方法を超えて、より実質的にステークホルダーの声を公共政策に反映させることが重要である。

社会課題や行政サービスの問題を、市民の自主的な参加と技術を組み合わせて解決する手法は、シビックテック(Civic Tech)とも呼ばれ、このような新しい形の市民参加は、デジタル技術の発達によって既に国内外の多くの地域で考案・実用化されつつある。

一例として、Civic Techの促進に取り組む一般社団法人Code for Japanと兵庫県加古川市は、2020年10月にスマートシティ促進に関する協定を締結し、加古川市スマートシティ構想の策定に向けて、市民参加型デジタルプラットフォーム「Decidim(デシディム)」を国内で最初に導入した。Decidimは、オンラインで多様な市民の意見を集め、議論を集約し、政策に結びつけるという参加型民主主義の実現のためのオンラインツール(フリーソフト)であり、バルセロナやヘルシンキなどでもすでに活用されている。

デジタル臨調とデジタル原則

デジタル社会を実現し、その恩恵を多様な個人や事業者が享受することができるようにするためには、デジタル改革と、規制・制度、行政や人材の在り方まで含めた本格的な構造改革が必要である。こうした問題意識の下、2021年11月に、内閣総理大臣を会長とする「デジタル臨時行政調査会」が創設され、デジタル改革、規制改革、行政改革といった構造改革に係る横断的課題の一体的な検討や実行を強力に推進していくこととなった。そこでは、以下の5つの原則が示されている。

① デジタル完結・自動化原則

書面、目視、常駐、実地参加等を義務付ける手続・業務について、デジタル処理での完結、機械での自動化を基本とし、行政内部も含めエンドツーエンドでのデジタル対応を実現すること。国・地方公共団体を挙げてデジタルシフトへの組織文化作りと具体的対応を進めること。

② アジャイルガバナンス原則(機動的で柔軟なガバナンス)

一律かつ硬直的な事前規制ではなく、リスクベースで性能等を規定して達成に向けた民間の創意工夫を尊重するとともに、データに基づくEBPM(Evidence-based policy making:証拠に基づく政策立案)を徹底し、機動的・柔軟で継続的な改善を可能とすること。データを活用して政策の点検と見直しをスピーディに繰り返す、機動的な政策形成を可能とすること。

③ 官民連携原則

公共サービスを提供する際に民間企業のU(I ユーザーインターフェイス)・UX(ユーザーエクスペリエンス)を活用するなど、ユーザー目線で、ベンチャーなど民間の力を最大化する新たな官民連携を可能とすること。

④ 相互運用性確保原則

官民で適切にデータを共有し、世界最高水準のサービスを享受できるよう、国・地方公共団体や準公共といった主体・分野間のばらつきを解消し、システム間の相互運用性を確保すること。

⑤ 共通基盤利用原則

ID、ベース・レジストリ等は、国・地方公共団体や準公共といった主体・分野ごとの縦割りで独自仕様のシステムを構築するのではなく、官民で広くデジタル共通基盤を利用するとともに、調達仕様の標準化・共通化を進めること。

企業のガバナンスに関する対話の機会の確保

企業の透明性とステークホルダーとの対話の重要性については、コーポレートガバナンス・コードでもその重要性が指摘されている(6.1.2参照)。開示の充実と、企業価値の向上との間に正の相関関係が認められるとする実証的な研究も複数存在する。企業の経営者としては、ステークホルダーとの対話に基づいてガバナンスを設計・運用していくことが、ステークホルダーからの信頼獲得ひいては企業価値の向上につながるとの認識の下で、積極的に開示と対話に取り組むべきである。

プライバシーコミュニケーションの質を向上させるための企業の取組

昨今では、単にプライバシーポリシーを公表するだけでなく、分かりやすくプライバシーポリシーを説明することが各社で試みられており、データの取扱いや安全措置などについて解説するページを開設している企業も見られる。経済産業省が策定した「DX時代における企業のプライバシーガバナンスガイドブック」では、企業がステークホルダーの信頼を獲得するために、プライバシーに関わるガバナンスを構築する際に取り組むべきことを示している。

また、政府としては、こうした開示の指針となるようなガイドライン等を、ステークホルダーの意見に基づいて策定していくことが求められる。

アルゴリズムの開示に関する欧州委員会のガイドライン

EUは、「ビジネスユーザーのためのオンライン仲介サービス等の公正性及び透明性の促進に関する規則」において、対象となるオンラインプラットフォームが、ランキングの根拠となる主要なパラメーターや、そのパラメーターが相対的に重要である理由などを開示することを求めている。これを受けて欧州委員会が公表しているガイドラインでは、主要なパラメーターの抽出にあたっての一般的な原則などを示すとともに、具体的な開示項目の例を紹介している。

官民の垣根を越えた知の共有

教育機会と人材交流

アジャイル・ガバナンスを実践するためには、技術・ルールメイク・組織マネジメントなど様々な専門知識を持つ個人が協働して、ガバナンスの仕組みを構築していく必要がある。そのためには、個人が様々な専門知識を深めると共に、他の専門領域に対しても学びを広げられるような教育機会の確保が重要である。また、マルチステークホルダーによるガバナンスを実践するためには、一人ひとりが様々なステークホルダーの立場を理解することが重要であり、官民の垣根を超えた人材交流が重要となる。

ステークホルダー間の交流機会の確保

マルチステークホルダーによるアジャイル・ガバナンスを実装するためには、異なるステークホルダーが一堂に会して政策のアイディアを交換し、実装に向けた動きを生み出せるようなイベントが、様々な主体によって開催されることが望ましい。

RegTechの分野における官民交流

規制対応に技術を用いるRegTechの分野では、マルチステークホルダーによるハッカソン(エンジニアやデザイナーなどが集まってチームを作り、特定のテーマについて一定の期間内でアプリケーションやサービスを開発するイベント)の事例が多くみられる。例えば、英国の金融行為規制機構(Financial Conduct Authority:FCA)は、従来のラウンドテーブルやカンファレンスに代わる、マルチステークホルダーによる新たな規制関連の課題解決のアプローチとして、ハッカソン形式を取り入れた試みを2016年より実施している。2020年には、このアプローチは国際的な政策形成の場にも持ち込まれ、開催国であるサウジアラビア王国・BIS Innovation HubがG20 TechSprint 2020を共催した。

金融業界においては、このようなTechSprintと、イノベーターに実証実験の場などを提供するデジタルサンドボックス、そして規制に関する実証実験を行う規制のサンドボックスを相互に関連させて運用し、アジャイルに市場やガバナンスを再構築する体制が標準的になりつつある。

参照

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