こんにちは。E-Taroです。今回のテーマは「Pre-Certプログラムっていったい何?デジタルヘルスソフトウェアを巡る規制の新潮流」です。
Pre-Certとは、Precertificationのことを指しており、事前の(Pre-)認証(certification)という意味です。日本語に直すなら、事前認証プログラム、でしょうか。
では、誰が、何を、事前認証するかですが、米国食品医薬品局(FDA)が、デジタルヘルスソフトウェアに関する「あるもの」を事前認証する、というプログラムです。
医薬品や医療機器は、個々の製品について、使い方(適応症等)毎に承認されるのが通常です。
ですが、FDAのPre-Certプログラムは、個々の製品ではなく、「デジタルヘルスソフトウェアを扱っている企業」ごと認証する、という点が大きくことなります。「このデジタルヘルスソフトウェアは、FDAの認証を受けた企業Aが作ったものですので、安心して使ってくださいね」というような位置づけになるでしょう。このPre-Certプログラムで事前認証を受けた企業は、デジタルソフトウェア(スマホアプリ、ウェアラブルデバイスのソフトウェア、等々)を開発して世に出す上で、認証を受けていない企業に比べて非常に大きなアドバンテージを持つことになります。
どんな企業が認証を受けているのか、気になりますよね。既に3年前の2017年7月に、下記の9社がPre-Certプログラムへの参加が認められています。
- Apple
- Fitbit
- Johnson & Johnson
- Pear Therapeutics
- Phosphorus
- Roche
- Samsung Electronics
- Tidepool
- Verily
なぜ、医薬品や医療機器と異なり、デジタルソフトウェアに対してはPre-Certプログラムのように「企業ごと認証」するのでしょうか。勘の良い方は既にお気付きかと思いますが、「更新のスピードが桁違いに早い」点にあります。医薬品や医療機器の使い方は、どんなに早くても数か月から数年のスパンでしか更新(適応追加、適応拡大など)されないのが普通です。
一方、ソフトウェア更新は、数週間から早いと数日程度の間隔で更新される場合があります。ウイルス・マルウェア対策に連日のように更新される場合もあるでしょう。もちろん、ユーザーからの要望を受けて、ユーザーインターフェースを使いやすく微修正したり、バグの修正が必要なこともあります。スマホアプリを想像すれば、それは当然のことです。
そのため、事前審査は、ここのアプリの中身ではなく、各企業のソフトウェア設計・検証・メンテナンス能力や、リスク管理や透明性のような観点から、デジタルヘルスソフトウェアの開発で他社に優先すべき企業かどうか、という点に重きを置かれてFDAによる確認が行われることが考えられます。
そして、事前認証を通過した企業は、新しいデジタルヘルスソフトウェアをFDAに申請する際に、必要な資料や審査が簡略化されることで、審査に要する期間が短縮されることになることが予想されます。事前認証を受けていない企業の場合は、デジタルヘルスソフトウェアの審査だけでなく、企業としての適格性審査を受けなければならないということで、競争の激しいデジタルヘルス領域で遅れをとってしまうことになるのです。
今のところ、日本で同様の制度が作られるような話は聞いたことがありません。FDAの真似をすればいいということではありませんが、日本に既に存在する制度を活用したり更新する等して、いずれ直面するであろう「各企業のソフトウェア設計・検証・メンテナンス能力や、リスク管理や透明性」をどうやって担保するのか、制度を整えておかないと、「他の国では使えるソフトウェアが、日本では使えない」という、アップルウォッチの心電図アプリの悲劇が繰り返されることになります。
また、何でもかんでも医療機器とみなすのは違うでしょう。
それでは、また。
関連記事
参考
Digital Health Software Precertification (Pre-Cert) Program
https://www.fda.gov/medicaldevices/digitalhealth/digitalhealthprecertprogram/default.htm