公衆衛生学 疫学

公衆衛生的な考え方ー公衆衛生学、疫学、予防医学ー

新型コロナウイルスの猛威に対応するにあたって、公衆衛生学や疫学の専門家がテレビや紙面に出てくることは珍しくない状況になりました。

手洗いうがいや、アルコールによる消毒、マスク着用など、以前から「予防」のために実践されていた方法も人々の生活の中に組み込まれています。

ですが、そもそも公衆衛生学も疫学も予防医学も、義務教育で習うものではありませんし、高校はもちろん大学に進学しても学部によっては一切触れることのない学問でしょう。

ということで、公衆衛生的な考え方の流れについて、疫学や予防医学との位置づけの違いについても簡単に触れながら書いてみます。

公衆衛生とは

公衆衛生の定義

1920年に、WHOのWinslowが述べた定義が有名です。

“The science and art of preventing disease, prolonging life, and promoting physical and mental health and efficiency through organized community efforts for the sanitation of the environment, the control of community infections, the education of the individual in principles of personal hygiene, the organization of medical and nursing service for the early diagnosis and preventive treatment of disease, and the development of the social machinery, which will ensure to every individual in the community a standard of living adequate for the maintenance of health."

(Charles-Edward A. Winslow, 1920)

The seeds of Public Health

日本語に翻訳すると次のようになります。

環境衛生のための組織化された地域社会の努力、地域社会における感染症管理、身の回りの衛生管理に関する教育、疾病の早期診断と予防治療のための医療・介護サービスの組織化、健康維持のための適切な生活水準を地域社会全員に保証する社会的仕組みの構築を通じて、疾病を予防し、寿命を延ばし、心身の健康と効率性を促進する科学と技術。

かなり長ったらしいのですが、キーワードを押さえれば理解しやすいでしょう。

キーワードは

  • 地域社会
  • 感染症管理
  • 衛生管理
  • 教育
  • 早期診断
  • 予防治療
  • 医療・介護
  • 社会的仕組みの構築

です。

医療は軽症から重症まで幅広く「患者さんを診て治療する」という側面が強いですが、公衆衛生の場合は「教育や仕組みを通じ、地域社会全体で、予防や早期治療を行う」という側面に重きが置かれています。

公衆衛生の目的と活動

公衆衛生の目的は「地域集団の構成員全体の健康を、保持および増進する」点にあります。

そしてその目的達成のための活動(公衆衛生活動)は、大きく「公的機関による活動(保健行政)」と、「民間企業や地域住民による自主的な活動」の2つに大別されます。

公衆衛生というと保健行政のような行政主導で実施される活動が頭に浮かびやすいかもしれませんが、必ずしも公的機関のみが実施しているわけではありません。

予防医療との関係

公衆衛生とは「疾病を予防し、寿命を延ばし、心身の健康と効率性を促進する科学と技術」ですから、当然ながら予防医療は欠かすことのできない重要な要素です。

言い換えるならば、予防医療は、公衆衛生の目的達成のために必要不可欠な医療です。

予防には、一般的に一次予防、二次予防、三次予防の3段階があるとされます。

一次予防

健康の保持

普段の食生活や運動習慣などの改善や維持等による、健康の保持増進です。

また、健康に関する正しい知識の普及や、教育活動も一次予防に含まれます。

江藤先生
誤った健康情報に対する注意喚起や取り締まりなども、一次予防と言えそうね。
特異的予防

ワクチン接種、手洗いうがい、消毒、アレルゲン除去、医薬品の予防的投与・服用、事故防止のための施策、職業病防止のための対策、公害を防ぐための施策など、様々です。

江藤先生
「予防」という言葉で一般的に連想されるのは、この「特異的予防」でしょうね。ワクチンとか、手洗いうがいとか。

二次予防

早期発見

定期的な健康診断、学童対象の集団検診、人間ドックなどの検査は、早期発見を目的とした二次予防の取り組みです。

診断までいかないにしても、何らかの異常をシグナルとして検出し、より詳しい検査が必要な場合に受診を促すという、スクリーニングは二次予防に該当します。

早期治療

早期治療は、「治療」という意味では予防ではないのでは、という考えもあるかもしれません。

ですが、それ以上ひどくなる状態を「予め防ぐ」という意味では、予防のための取り組みとも捉えられます。

自覚症状はないのに治療されている、という状況は往々にして見受けられますが、公衆衛生では二次予防に位置付けられます。

三次予防

合併症や後遺症の予防

何らかの疾患にかかってしまった後も、その状態が悪化しないような予防の取り組みは重要です。

疾患によっては、その後の管理さえしっかりと行えれば、日常生活に復帰して仕事や学業、その他の社会活動を行える場合も少なくないためです。

リハビリ

入院や手術などの後は、すぐに元の生活に復帰するのは簡単ではないでしょう。

そうした状況で、特に何もせず自然回復を待つ場合と、復帰のための訓練、いわゆるリハビリテーションを実施するかで復帰までの時間は変わる可能性があります。

復帰までの時間が長くなると、それだけその後の生活に影響が出ることも考えられるため、リハビリもそうした事態を「予め防ぐ」という意味で予防の一つと考えられます。

ヘルスプロモーション(健康増進)

ヘルスプロモーションとは

ヘルスプロモーションとは「ひとびとが自らの健康をコントロールし、改善することができるようにするためのプロセス」とされます。

ヘルスプロモーションは「健康増進に関する第一回国際会議」にて定義され、オタワ憲章として知られています。

オタワ憲章の3つの戦略
  1. enabling:ひとびとが主体性を発揮できるよう、個人の能力を高める
  2. advocacy:政治・経済・文化・環境を含めて、健康のための条件を整える
  3. mediation:社会のすべての部門が協力して、活動や関心の調整を行う
活動方針
  1. 健康を重視した公共政策づくり
  2. 支援的環境づくり
  3. 地域活動の強化
  4. 個々人の能力開発
  5. ヘルスサービスの方向転換(治療から予防へ)

公衆衛生活動の進め方

公衆衛生活動は、大きく4つの過程「疫学的分析」「対策立案」「実施」「評価とフィードバック」からなります。

疫学的分析

問題設定

着目している地域や集団において、何が問題なのかを明確に表現します。

要因に関する情報収集

問題が設定されたのちにするのは、その問題を引き起こしているとされる「要因」についての情報収集です。

問題を引き起こす要因がすでに明らかな場合、文献調査で済むこともありますが、そうでない場合の方が多いでしょう。

疫学研究の実施

要因が未知であったり、あるいは要因についての情報が不足している場合、疫学研究が必要になります。

患者数の調査であったり、患者さんや医療専門家を対象としたアンケート調査、聞き取り調査などが該当します。

国勢調査も記述疫学の一つですね。

国勢調査のように、ある時点の情報収集で事足りる場合もあれば、目的次第では数年などの期間追跡が必要な場合もあります(乳幼児の成長に関する研究等)。

ありのままの状態を観察するだけで済む場合もあれば、何らかの介入を行って因果関係についてのより詳細な情報が必要なこともあるでしょう。

公衆衛生の観点から、次の「対策立案」に必要な情報が揃うまで「疫学的分析」のサイクルは回り続けることになります。

もちろん、すべての情報が揃うまで待つという悠長なことを言ってはいられない場合もありますから、研究は続きながら対策立案や実施まで進むことも珍しくないでしょう。

対策立案

前述の一次予防、二次予防、三次予防のどれに位置付けられるのかを考えます。

また、対策に必要となる資源(医療資源、保健資源、福祉資源、行政資源、その他)の見積もりも進めます。

当然ながら、公衆衛生活動は同時に複数の課題に対処しなければならないことが常ですから、優先順位付けも行う必要があります。

実施

立案されたプランをもとに実施される段階です。

外部環境の変化に対応しながら、プラン通りに実施できているかを監視する必要があります。

評価とフィードバック

いかに評価とフィードバックをタイムリーに行えるかは、公衆衛生活動の成功の鍵を握るともいえるでしょう。

公衆衛生活動の目的は「疾病を予防し、寿命を延ばし、心身の健康と効率性を促進する」点にありますから、対策立案のフェーズで設定された目的がどの程度達成されているか、プラン通りに進んでいるかを確認して、軌道修正が必要であればプランの修正も検討する必要があります。

まとめ

公衆衛生と疫学、予防医療についての関係を見てみました。

公衆衛生は社会全体からみた実践的な要素が強く、疫学は知識の拡充、予防医療は個々の医学的処置、というようにその視点が微妙に異なっています。

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