リアルワールドデータやリアルワールドエビデンスが今後どこまで活用されることになるのでしょうか?
その鍵を握るのは、医薬品の承認審査にどこまで使えるのか、という視点です。
Table of Contents
有効性と安全性に関するエビデンスのためのリアルワールドデータ
安全性における活用
繰り返しになりますが、医薬品の有効性や安全性に関する情報は、規制当局が承認した段階ではかなり限定的です。
そのため、製品として世に出て、広く出てからの利用状況を監視し、治験で見つけられなかった重要な安全性に関するシグナルが出ていないかを継続的に追跡するという活動が行われています。
この監視活動には実質的な終わりはなく、製品が世の中にある限り半永久的に続くことになります。
実際、既に安全性監視目的でのリアルワールドデータの活用に関しては、ほぼ道筋が出来上がっており、データベースを活用した安全性関連情報の蓄積および解析が主流になるのは時間の問題でしょう。
有効性における活用
それでは、有効性についてはどうでしょうか。
ご想像の通り、有効性についてはまだまだ使用用途は限定的で、どこまで使えるのかも未知数というのが現状です。
安全性に関しては、シグナルを炙り出すという目的でリアルワールドデータを使うことに一定の意義がありますが、有効性に限っていえば、シグナルを炙り出すだけだと安全性ほどの意義は見出せません。
「効くかもしれない」というのは「危ないかもしれない」よりも弱いのです。
そのため、有効性に関するエビデンスをリアルワールドデータから生み出すためには、出てくるエビデンス(リアルワールドエビデンス)に対して、従来のRCTと同様の結論を導きだせる程度の「強さ」が求められることになります。
とはいえ、いきなり全くの新しい成分だったり、新製品に関する有効性のデータやエビデンスを作り出すためにリアルワールドデータを使う、というのは冒険的要素が大きすぎて、どの製薬会社も手を出せないでしょう。
そこで、現在、RCTの結果をRWEで再現できないか、というプロジェクトが進んでいます。
それが、RCT-DUPLICATE project です。
RCT-DUPLICATE project
RCT-DUPLICATE project の3つの目標
RCT-DUPLICATE project の前にも、いくつか、リアルワールドデータをもとにRCTの結果を再現できないかという試みは行われてきました。
RCT-DUPLICATE project は、それらの検証を、規制当局の意思決定目的に特化して普遍化することを目的に実施されている、ともいえるでしょう。
既存データを使った研究は、ともすれば恣意性が入ってしまうので信用に足らない、とみなされる恐れがあるため、それらも払拭する必要があります。
RCT-DUPLICATE project には、3つの目標が設定されています。
- リアルワールドエビデンスを作るための方法について、透明性をどのように担保するかを明確にする。
- 事前に定義しておくべきことや、主解析のために必要なパラーメータの事前登録に関する話ですね。
- 上の1で設定された方法に従ってリアルワールドエビデンスが作成された場合、どの程度の頻度で同じ結論に達するかを定量的に把握する。
- 事前に定義された内容に従ったとしても、研究というのは得てして結果に多少のぶれが生じるものです。そのぶれ幅を把握するということですね。
- リアルワールドエビデンスとRCTが同様の結論に達するか否かに影響のある要素を特定する。
- リアルワールドデータを使ってエビデンスを作るということが向かないタイプの研究もあるだろう、ということです。
- 結論から言って書いてしまいますが、プラセボ対象の研究の再現にRWDは向きません(プラセボは臨床では普通使われていないのでデータがない)。逆に、実薬対照試験の再現は得意なようです。
RCT-DUPLICATE project の対象となった試験:まず10試験
RCT-DUPLICATE project には、ClinicalTrials.govに登録されている臨床試験がいくつか対象となっています。
そのうち、既に emulation が完了している10試験について挙げていきましょう。
- リラグルチドの試験 "LEADER"
- ダパグリフロジンの試験 "DECLARE"
- エンパグリフロジンの試験 "EMPA-REG"
- カナグリフロジンの試験 "CANVAS"
- リナグリプチンの試験 "CARMELINA"
- リナグリプチンの試験 "CAROLINA"
- シタグリプチンの試験 "TECOS"
- サキサグリプチンの試験 "SAVOR-TIMI"
- クロピドグレルの試験 "PLATO"
- プラスグレル vs クロピドグレルの試験 "TRITON-TIMI"
RCT-DUPLICATE project で使われたリアルワールドデータ:上の10試験対象
RCT-DUPLICATE project で、RCTを再現または模倣するために用いられたデータはどのようなものでしょうか。
いずれも米国のデータであり、内容について詳しくは知らない方も少なくないかもしれませんが、次に挙げるような3つのデータが用いられました。
なお、それぞれのデータソースには、疾患に応じて得手不得手があるため、すべてのデータが均等に全試験に使われたわけではない点に注意しましょう。
- Optum Clinformatics (2004 – 2019)
- IBM MarketScan (2003 – 2017)
- Medicare Parts A, B, and D (2011 – 2017)
いずれのデータソースも、「死亡の原因(cause of death)」は不明という大きな制限がついているものです。
ですが、一定程度の再現が出来たので、データソースにすべてに情報が詰まっていないと使い物にならない、というのは暴論ということになりますね。
日本には使えるデータがない、と嘆いてばかりいないで、既存のデータからうまく推測するアルゴリズムを構築する、という方向の努力も必要になるでしょう。