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1.背景と目的
臨床試験は、医薬品、医療機器及び再生医療等製品の有効性及び安全性に関する科学的エビデンスを構築するための強力な手段であり、製造販売承認を取得するにあたり有効性及び安全性を評価するためには、一般的に必要である。製造販売承認においては、有効性及び安全性の主要な根拠として提出された臨床成績を中心に、提出された資料(評価資料及び参考資料)に基づき、有効性及び安全性が総合的に評価される。製造販売承認のための臨床試験は、有効性及び安全性を示すことに焦点をあてていることから、一般的には注意深く選択された患者集団を対象に、適切な対照群が設定された比較試験として、適切に管理された環境で実施される。また、ランダム化は、被験者の選択的割付によって生じる可能性のあるバイアスを回避するために用いられ、試験治療の使用と効果との因果関係を確立する際の重要な要素が考慮されている。このように厳密な臨床試験を計画することで、対照との比較可能性及びデータの質が担保され、判断に誤りが生じるリスクが低くなる。
一方で、希少疾病のように患者数等の限界から比較試験の実施が困難な場合には、生存率を指標に非対照試験のデータと外部対照として自然歴を検討した観察研究からのデータを比較し、有効性及び安全性の主要な根拠として用いたり、臨床的に重大なイベントの発生を指標に、非対照試験データと当該試験の参加施設で同選択基準を満たした試験治療未使用例のデータと比較して評価することも例外的に行われてきた1)。それでもなお、患者数が極めて少ないために従来より行われてきた治験での開発が困難であるとの理由から、医薬品、医療機器及び再生医療等製品の開発がなされない又は開発の優先順位が低くなり、医療上のニーズが十分に満たされない疾患も存在する。そのため、上述したような例外的に行われてきた取組みを明示すること等の臨床開発での活用を行いやすくするための方策が必要とされる状況にある。
他方で、製造販売承認のための臨床試験は実際の医療環境と必ずしも同様な状況で行われるわけではない。臨床試験では有効性又は安全性の評価のために対象患者を限定せざるを得ないことにより、承認時における有効性及び安全性に関する情報が限定される一方、実臨床下では多様な患者に投与される。
そのため、医薬品及び医療機器の開発において、現在、以下のような実際の医療環境下で取得されたデータであるReal World Data(以下「RWD」という。)の利活用を試みる国際的な動きが活発化している。医薬品においては、医薬品規制調和国際会議(International Council for Harmonisation of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use、以下「ICH」という。)において、試験デザインやデータソースの多様化を踏まえ、2017年1月にGCPRenovationのReflection Paperが公開され2)、ICH E8(臨床試験の一般指針)の近代化とそれに続くICH E6(医薬品の臨床試験の実施基準)の改訂が提案されている 。 医 療 機 器 に お い て は 、 国 際的な医療機器規制当局フォーラムInternational Medical Device Regulators Forum(IMDRF)から、レジストリデータの利用に関する3つの規制当局向けガイダンス3)4)5)(基本要件(2016年)、レジストリデータ活用に関する方法論(2017年)、レジストリ評価ツール(2018年))が発行されている。
本邦では、これまでに、医薬品・医療機器・再生医療等製品の製造販売後の調査に医療情報データベースを利用した際の再審査/使用成績評価及び再評価の申請書に添付する資料の信頼性の確保、製造販売後の医薬品安全性監視における医療情報データベースの利用に関する基本的考え方、並びに医薬品、医療機器及び再生医療等製品の製造販売後データベース調査における信頼性担保に関する留意点について、省令、通知等が施行されている。
RWDの一つであるレジストリデータの活用については、「日本再興戦略」改訂2015(平成27年6月30日閣議決定)において、新たな臨床開発の手法の構築を進めることにより、国内開発を促進するため、疾患登録システムの構築等を行い、疾患登録情報を活用した臨床開発インフラの整備をするクリニカル・イノベーション・ネットワーク(以下「CIN」という。)の構築を進める旨が決定された。それ以降、個々の疾患レジストリの構築やCINの推進にあたり検討すべき事項の整備が進められ、レジストリを活用する産学協同の研究開発等の支援が行われている。
以上の背景から、国内外を問わずレジストリデータを承認申請等に活用する場合の基本的考え方を示すことを目的に、本基本的考え方を取りまとめた。本通知に示す基本的考え方は、レジストリのみから得られたデータ、レジストリからのデータに他のデータソースからの情報を連結させて補完したデータ等を活用する場合を想定している。
2.現状と課題
RWDのデータソースには、診療記録のデータ、レセプトデータ、疾患レジストリのデータ、医薬品、医療機器又は再生医療等製品の製品に関する製品レジストリのデータ、その他の健康状態に関連するデータソースからのデータ(家庭内機器やモバイルデバイス等からのデータを含む)が挙げられる。
「1.背景と目的」の項に記載のとおり、製造販売承認のための臨床試験は、通常、有効性及び安全性を示すことに焦点をあて、注意深く選択された患者集団を対象に、適切な対照群が設定された比較試験として適切に管理された環境で実施されデータが取得されるため、実際の医療環境下で取得されるRWDとデータの質が異なる。一方で、「1.背景と目的」の項に記載のとおり、製造販売承認のための臨床試験は、有効性又は安全性の評価のために対象患者を限定せざるを得ないことにより、有効性及び安全性に関する情報が限定される。そのため、後述する基本的考え方を参照することでRWDを有効性及び安全性を説明するためのデータソースとして使用可能になれば、例えば一般化可能性の観点からは、有益となる可能性がある。また、患者数が極めて少ない等の理由により開発自体が困難な疾患については、RWDが使用可能となることで開発が促進される可能性がある。
しかしながら、RWDを製造販売承認のために用いるためには、幾つかの課題が考えられる。例えば、RWDの多くは医薬品、医療機器及び再生医療等製品の有効性及び/又は安全性の評価に使う目的に最適化されたものではない。また、診療記録のデータ及びレセプトデータは、必ずしも研究目的のために収集や整理がなされたものではない。医薬品、医療機器及び再生医療等製品の製造販売承認の取得に際して、有効性及び/又は安全性の評価のためにRWDを活用するにあたっては、収集されたデータの品質についても考慮する必要がある。さらに、観察研究を有効性の説明に用いる際、特に後向きの観察研究を行う場合は、望ましい結果が得られるまで複数回にわたり試験デザインの要素を変えて計画や解析を行うことが可能である。したがって、結果の信頼性を保証するために、試験デザインや解析の透明性を示すことが重要である。
レジストリは、計画書に基づき評価したい情報を取得することや、手順を規定することで、データの品質を保証し、不十分なデータや欠測データを最小限にすること、必要であれば追跡情報を集めることが可能であり、医薬品、医療機器及び再生医療等製品の有効性及び/又は安全性の評価に活用の可能性があるデータソースである。レジストリは、医薬品、医療機器及び再生医療等製品の開発においては、従来、市場調査、臨床試験計画立案、臨床試験への被験者のリクルート、臨床試験の実施可能性を判断するための調査等、臨床試験の計画段階で主に用いられてきた。また、「1.背景と目的」の項に記載のとおり、希少疾病のように患者数等の限界から比較試験の実施が困難な場合には、自然歴データを用いた評価が承認申請等でも用いられてきた。今後はさらに、本基本的考え方を考慮の上で、レジストリデータを臨床試験の外部対照として用いたり、レジストリデータを臨床成績として用いることで、医薬品、医療機器及び再生医療等製品の承認申請に活用したり、医薬品、医療機器及び再生医療等製品の製造販売後における再審査/使用成績評価申請及び再評価申請等に活用したりすることで、開発が促進されることが期待される。
3.適用範囲
本基本的考え方は、医薬品、医療機器及び再生医療等製品に関して、主として医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律に基づき申請又は届出する事項(承認申請、再審査申請/中間評価の調査申請/使用成績評価申請、再評価申請、条件及び期限付承認後の申請、添付文書改訂等(以下「承認申請等」という。))のための臨床成績に関する資料に、レジストリデータを活用する場合を対象とするものである。製造販売後における活用に際して、有効性の評価をレジストリを用いて説明したい場合には、本基本的考え方を参考とされたい。
「1.背景と目的」の項に記載のとおり、本基本的考え方は主にレジストリデータを活用する場合を想定しているが、過去に行われた治験のプラセボ群等のデータを活用する場合においても、参照可能な部分はあると考えられる。なお、診療記録等のデータを用いて承認申請等のための有効性及び安全性の評価を行う場合においても、本基本的考え方に準じることが可能な部分はあると考えるため、適宜参照した上で、医薬品医療機器総合機構(以下「PMDA」という。)が実施する対面助言を活用して事前に相談することが強く推奨される。
4.承認申請等にレジストリデータを活用する場合について
医薬品、医療機器及び再生医療等製品の開発において、レジストリデータを活用する場合の活用目的としては、例えば、以下の(1)~(5)のような場合が考えられる。そのうち、申請者(又は試験依頼者/自ら治験を実施する者)が、承認申請等のための臨床成績に関する資料において、有効性及び/又は安全性を説明するためにレジストリデータを活用する場合は、以下の(2)~(5)の場合と考えられる。
(1)臨床試験計画時における実施可能性の調査等にレジストリデータを活用
従来行われてきたものであるが、疾患レジストリは、市場調査、臨床試験計画立案、臨床試験への被験者のリクルート、臨床試験の実施可能性を判断するための調査等、臨床試験の計画段階において、有益である可能性が高い。特に希少な疾病においては、患者の数や疾患の情報を把握するために疾患レジストリデータは有益である可能性が高い。
疾病によっては、遺伝子型や表現型により、重症度や進行速度、異常を呈する臓器や症状が異なる等、各サブタイプの自然歴に差異がある、あるいは自然歴が十分解明されていない場合がある。レジストリデータを活用することで、各サブタイプの特徴、症状、進行の速度とパターンに関する情報が得られるのであれば、臨床試験における選択・除外基準、治療する疾患の病期、治療期間、データ収集の頻度、評価項目、目標症例数等を決定するのに役立つであろう。
(2)臨床試験においてレジストリデータを外部対照等として承認申請等における有効性及び/又は安全性の評価に活用
比較試験において、ランダム化は群間の比較可能性を担保し、それによって試験治療の割り付けにおけるバイアスの可能性を最小限に抑えるために重要な方法である。そのため、基本的にはランダム化比較試験が可能な疾患又は介入において、承認申請のための有効性及び安全性の主要な根拠となる試験としては、エビデンスの質を考慮すると、ランダム化比較試験を実施すべきである。
しかしながら、患者数が少ない希少疾病や患者数が少ない小児疾病を対象とする場合等のように、対照群を置いたランダム化比較試験が困難である場合がある。その場合に、レジストリデータを外部対照として活用することで、臨床試験の症例数が少数の場合でも、当該臨床試験に登録された患者背景に合わせた対照群を設定できる可能性が考えられる。また、外部対照として用いる場合の他に、臨床試験を治療群のみで実施する際の有効性の閾値等を設定するにあたり、臨床的意義のある設定根拠の一つとして、レジストリから得られた値を参考にすることも、考えられる。その場合に、患者個々のデータに基づき治験の対象となる患者と患者背景を合わせた集団の治療効果を推計することで閾値がより適切に設定できる可能性が考えられる。しかしながら、比較可能性等の試験デザインの観点並びにデータの完全性、正確性等の観点から、比較試験を実施する場合に比べてデータの質が異なる可能性があることで、有効性及び安全性の評価に影響を及ぼすことも考えられるため、留意が必要である。
臨床試験においてレジストリデータを外部対照等として承認申請等における有効性及び/又は安全性の評価に活用する場合に考慮すべき点については、5及び6の項を参照されたい。
(3)レジストリを臨床試験の補完又は代わりとして承認申請等における有効性及び/又は安全性の評価に活用
レジストリにおいて、評価対象となる医薬品、医療機器及び再生医療等製品が投与/使用されたデータが含まれている場合に、それらのデータを有効性及び/又は安全性の評価に用いることが可能な場合がある。例えば、国内既承認医薬品及び再生医療等製品において、既承認時に提出された臨床試験の組入れが一部の患者層に限られていたため、用法・用量の記載が臨床試験に基づき設定される又は添付文書において投与対象が制限されたものの、臨床現場では有効性及び安全性に大きな影響がないと考えられ使用されている場合に、適応拡大にかかる開発や添付文書の改訂等に際してレジストリデータを用いて有効性及び/又は安全性を評価する場合が考えられる。また、国内既承認医療機器において、小児・希少疾病や、国民の健康に重大な影響があり、迅速な対応が社会的に要請されている緊急性の高い疾病のため、適応拡大にかかる開発等に際して十分な被験者が確保できず、臨床試験の実施が困難な場合に、臨床試験の代わりにレジストリデータを用いて有効性及び/又は安全性を評価する場合が考えられる。
さらに、臨床試験で得られたデータに加えてレジストリから得られたデータを利用して、有効性及び/又は安全性を補足的に説明する場合等が挙げられるであろう。レジストリデータを活用することで、一般化可能性が高まる可能性がある一方、臨床試験を実施する場合に比べて、(2)に述べたように、データの質が異なる可能性があることで、有効性及び/又は安全性の評価に影響を及ぼすこと等も考えられるため、留意が必要である。
レジストリに評価対象となる医薬品、医療機器及び再生医療等製品のデータが含まれるときに、レジストリを臨床試験の補完又は代わりとして承認申請等における有効性及び/又は安全性の評価に活用する場合に考慮すべき点については、5及び7の項を参照されたい。
(4)条件付き承認を受けた医薬品及び医療機器、並びに条件及び期限付承認を受けた再生医療等製品における評価にレジストリデータを活用
条件付き承認を受けた医薬品及び医療機器、条件及び期限付承認を受けた再生医療等製品において、有効性及び/又は安全性の評価にレジストリデータを活用する場合に、例えば、以下のような活用方法が考えられる。レジストリ内で医薬品、医療機器及び再生医療等製品の使用例と非使用例とを比較して有効性及び/又は安全性を説明する場合、若しくは臨床上客観的な転帰(例えば、全死亡、腫瘍サイズ)のように、試験治療を知っていても評価に対する影響がほとんどない転帰を利用して、レジストリデータより有効性及び/又は安全性を説明する場合等が考えられる。
条件付き承認を受けた医薬品及び医療機器、条件及び期限付承認を受けた再生医療等製品において、有効性及び/又は安全性の評価に活用する際に考慮すべき点については、5~7の項を参照されたい。
(5)製造販売後における有効性及び/又は安全性の評価にレジストリデータを活用
製造販売後の有効性及び/又は安全性の評価にレジストリデータを活用する場合、活用方法として、例えば、実臨床下において疾患レジストリ内で医薬品、医療機器及び再生医療等製品の使用例と非使用例とを比較して有効性及び/又は安全性を説明する場合や、製品レジストリにおいて医薬品、医療機器及び再生医療等製品の有効性及び/又は安全性を説明すること等が考えられるであろう。なお、承認条件として付されている全症例を対象とした使用成績調査において、検討事項のすべての評価をレジストリを用いて行うことを考える場合には、当該レジストリに当該医薬品・医療機器・再生医療等製品が使用された全症例が登録されることを説明する必要がある。
製造販売後の有効性及び/又は安全性の評価に活用する際に考慮すべき点については、5~7の項を参照されたい。
5.一般的に考慮すべき点について
承認申請等にレジストリデータを活用する場合に、一般的に考慮すべき点は以下のとおりである。なお、以下の点は全ての状況で必要不可欠な点を示しているわけでない。
また、申請者は、個別品目の承認申請等における有効性及び/又は安全性の説明にレジストリデータを活用する場合、提出資料において、その活用目的、用いたデータソースの限界、データソースにおける制約が結果に与え得る影響を含め、活用方法が妥当であると判断した理由を提示する必要がある。
(1)個人情報の保護に関する配慮及び患者の同意
レジストリデータを承認申請等に用いる場合における個人情報の保護に関する配慮及び患者の同意については、「レジストリデータを承認申請等に利用する場合の信頼性担保のための留意点(仮)」を参照すること。
(2)活用するレジストリデータの信頼性
レジストリデータの活用目的に応じて、収集されたデータの信頼性が担保されている必要がある(「レジストリデータを承認申請等に利用する場合の信頼性担保のための留意点(仮)」参照)。特に4.(2)~(5)に示したもののうち、レジストリデータを承認申請等における有効性及び安全性の主要な根拠として用いる場合には、有効性/安全性の評価指標に関するデータだけでなく、有効性及び/又は安全性の評価結果に影響を与える可能性が高いと考えられる因子に関するデータの信頼性が相応に担保されている必要がある。
申請者(又は試験依頼者/自ら治験を実施する者)は、承認申請等を目的として、個別品目の有効性及び安全性の主要な根拠としてレジストリデータを活用する場合、レジストリの活用目的によりデータの信頼性を担保するために必要な事項が異なることから、当該レジストリデータの信頼性について、PMDAが実施する対面助言を活用して事前に相談することが推奨される。
(3)活用するレジストリデータの適切性
活用目的に応じて、使用するレジストリを検討する際には、用いる医薬品、医療機器及び再生医療等製品の開発に対して、誤った解釈・結論を導く可能性のあるレジストリデータを使用することがないよう留意し、当該レジストリを選択した妥当性を説明する必要がある。選択肢として複数のレジストリが存在する場合は、選択したレジストリを用いることの妥当性について、当該レジストリを選択した理由及び候補として検討した他のレジストリに関して選択しなかった理由を提示し、用いるレジストリの妥当性を説明することは重要である。また、「2.現状と課題」の項に記載のとおり、レジストリデータを有効性の説明に用いる際には、特に後向きの観察研究においては、望ましい結果が得られるまで複数回にわたり試験デザインの要素を変えて計画や解析を行うことが可能であることから、当該観点からの適切性を説明する必要がある。
前向き及び後向きの観察研究を使用するいずれの場合においても、活用目的を考慮して使用の可否を判断することが重要である。
外国のレジストリデータを利用する場合には、「外国で実施された医薬品の臨床試験データの取扱いについて」(平成10年8月11日付け、医薬発第739号、ICH E5ガイドライン)を参考に、そのレジストリデータを日本人へ外挿することの妥当性等についても検討する必要がある。
申請者(又は試験依頼者/自ら治験を実施する者)が承認申請等を目的として、個別品目の有効性及び安全性の主要な根拠としてレジストリデータを活用する場合、その活用目的を踏まえ、使用の計画や承認申請における臨床データパッケージでの当該レジストリデータの位置づけの妥当性について、PMDAが実施する対面助言を活用して事前に相談することが強く推奨される。
(4)レジストリを構築する者(レジストリ保有者)との早期からの協議
レジストリの活用では、レジストリの構築段階から承認申請等への利用を想定して構築されたレジストリを活用する場合と、承認申請等への利用が想定されていなかったレジストリを承認申請等に活用することを検討する場合が考えられる。
医薬品、医療機器及び再生医療等製品の承認申請等でレジストリデータを活用することを検討している申請者(又は試験依頼者/自ら治験を実施する者)は、早い段階から、承認申請等での利用が可能なレジストリの調査を行う等して、レジストリ保有者と利用にあたっての課題の抽出や取り得る対応等について早期から協議することが重要である。
既存のレジストリを用いるのか、新規に構築されるレジストリを用いるのかを考慮し、PMDAが実施する対面助言を活用して事前に相談することが推奨される。
6.臨床試験においてレジストリデータを外部対照等として承認申請等における有効性及び/又は安全性の評価に活用する場合に考慮すべき内容について
4.(2)に記載のとおり、ランダム化比較試験が困難な場合等には、レジストリを外部対照に用いる場合が考えられる。レジストリから得られた自然歴データを、臨床試験の外部対照として用いる場合、外部対照として用いられるデータは、ランダム化されて得られたものではなく、また、患者の選択方法や追跡、試験治療の曝露や評価項目の定義・測定方法及び測定間隔によるバイアスが生じるため、治療効果の推定・群間比較にあたってバイアスが生じる可能性があることから、以下の点を考慮する必要がある。
なお、以下の点は全ての状況で必要不可欠な点を示しているわけでなく、また、各々の点について、どの程度の厳密さが必要かについては状況による。
承認申請、製造販売後の調査等における評価で用いるのか、また、外部対照や補足的説明に用いるのか等、活用目的により必要とされるデータの範囲が異なることから、活用に当たってはPMDAが実施する対面助言を活用することが強く推奨される。
(1)レジストリの患者集団
臨床試験の外部対照とする集団については、疾患の重症度、罹病期間、前治療等、結果に影響を与える可能性のある因子が、新たに実施する臨床試験の治療群と類似している必要がある。したがって、レジストリの中で収集されている患者層には、臨床試験の対象となる患者(選択・除外基準により選択される患者)層ができるだけ多く含まれていることが望ましい。
外部対照を用いた比較の妥当性を説明するために、レジストリから臨床試験の選択・除外基準に基づき抽出された患者集団と、臨床試験において試験治療を受けた集団で、患者背景が同様である等、有効性及び/又は安全性の評価への影響を最小限にしていることを説明する必要がある。そのため、事前に統計解析計画を策定し、患者の抽出条件を明確にした上で、有効性及び安全性を評価するにあたって恣意的なデータ抽出でないこと、評価すべき患者層が含まれていること等を説明する必要がある。
また、結果として得られた集団の患者背景が類似しているかについての観点に加えて、レジストリと臨床試験で登録条件に違いがある場合は、当該条件の違いによる影響が軽微であり、レジストリの患者集団が検討している治療の評価に際して適切な集団であることを確認することが必要である。
さらに、用いたレジストリについて、臨床試験の対象集団を代表する活用目的に即した悉皆性を有するレジストリであることを説明する必要がある。その際、臨床試験及びレジストリの患者の分布についても説明する必要がある。
外部対照との比較にあたり、レジストリデータの収集時期と臨床試験の実施時期が大きく異なり、疾患の定義や診断基準が変更されていたり、治療体系が異なるような場合には、有効性及び/又は安全性の比較可能性を困難にする可能性があることに留意する必要がある。
そのほか、臨床試験のプラセボ群のデータと自然歴のデータを併せて評価する場合も考えられるが、上述したように結果に影響を与える可能性のある因子に関する収集されたデータの類似性や、後述する(5)に述べる疾患の診断基準や治療体系等の観点を含め、プラセボ群のデータと自然歴のデータを併せて評価することの妥当性を十分に説明する必要がある。
臨床試験と同時期にレジストリのデータを収集する場合、臨床試験の評価対象の患者集団と、レジストリから臨床試験の選択・除外基準に基づき抽出された患者集団との比較に際しては、レジストリのデータは何らかの要因で臨床試験への参加が困難であった患者の割合が高くなる等の可能性があるため、比較可能性が十分説明可能であるのかについても考慮する必要がある。
(2)評価項目
臨床試験の外部対照としてレジストリデータを用いる場合、レジストリにおいて収集される評価項目が明確に定義されていない又は評価方法が統一されていない場合等には、臨床試験で収集される評価項目との比較が困難となる。そのため、臨床試験で用いられる評価項目が、レジストリデータにおいても臨床試験と同様の基準で収集されているのか等、評価項目の妥当性について十分に説明する必要がある。なお、評価項目が主観的評価である場合等では、臨床試験では二重盲検比較試験としての実施や、評価者トレーニングを行う等、バイアスを軽減する方策が検討される。レジストリデータを外部対照とする場合、主観的評価に関して、評価者トレーニング等のバイアスを軽減する方策を行ったとしても、治療に対する意識や心理状態等により、被験者や測定者によるバイアスが生じる可能性があり、臨床試験からのデータとレジストリからのデータとの比較に影響を与える懸念があるため、評価が困難となる可能性が高い。そのため、評価項目の妥当性について慎重に検討する必要がある。
(3)評価期間
評価項目によっては長期間の評価が必要となる場合があり、前向きにデータを収集する場合は、レジストリにおいて活用目的に即した適切な期間のデータを収集できる体制が整っていることが必要になる。前向き及び後向きのいずれにおいても、患者毎の評価時期の違いが、比較可能性を大きく損なう場合や、データ収集の質が一貫性を欠いている場合、外部対照としての比較が困難となる場合もある。したがって、レジストリと臨床試験において、評価方法と評価時期が比較可能となるようにあらかじめ規定することが可能な場合には、データ活用の可能性が高まる。また、外部対照として用いる場合に、ベースラインをどのように規定するのかについても、事前に規定しておく必要がある。
(4)統計手法
評価に用いるデータの特徴を十分に吟味した上で、その統計手法についてもあらかじめ十分に検討し、活用目的に応じて最も適切な統計手法を選択する必要がある。また、事前に統計解析計画書を策定して、用いる統計手法と有効性がある(又は安全性の懸念がない)と判断する基準を統計解析計画書に明記すべきである。その際、欠測データの取扱いについても統計解析計画書に記述すべきである。さらに、感度分析の手法を用いる等により、想定され得るバイアスが、結果とそれに基づく有効性評価に与える影響の程度を検討することが重要である。なお、選択した統計手法については、その選択の妥当性を説明できるようにする必要がある。
(5)自然歴の観察研究のタイプ(前向き、後向き)
レジストリが新たに構築される、あるいは既存のレジストリの仕組みを利用して前向きにデータが取得される場合には、以下のような観点を総合的に考慮することで、レジストリを使用できる可能性が高い。
- 比較したい評価項目や患者に関する他のデータが、収集可能である
- 疾患の定義、重症度分類及び治療体系について、標準的な最新のものが一貫して使用可能である
- 統一された医学用語や測定方法を用いることが可能である
- 計画書や手順書が事前に作成可能である
- 評価が患者間で一貫したスケジュールで行われることが可能である
- 担当医師に標準的な手順(臨床評価等)が提供可能である
- 収集される情報の項目が患者間で一貫して収集可能である
- 発症時期、前治療歴、治療経過、使用薬剤、基礎治療等の情報が収集可能である
特に後向きにデータを使用する場合には注意が必要であるが、有効性及び/又は安全性の評価に影響を与えうる以下のような要因があり、評価への影響が大きい場合は、レジストリの使用が制限される又は困難となる。
- 収集されるべき評価項目や患者に関する他のデータが、収集されていない場合
- 医療用語が時間とともに変化又はデータ収集が行われた施設間で一貫性なく用いられ、統一した用語を適用することが困難な場合
- 患者毎の評価時期の違いにより、比較可能性を大きく損なう場合
- レジストリに含まれる患者と臨床試験の対象とする患者に乖離がある場合 (例えば自然歴研究では重症の罹患患者のみであるが、臨床試験の対象は軽症を含む場合等)
- 患者の記録が疾患又は症状の発症、診断根拠、重症度及び治療経過等を特定するのに十分ではない場合
7.レジストリデータに含まれる医薬品、医療機器及び再生医療等製品等のデータを承認申請等における有効性及び/又は安全性の評価に活用する場合に考慮すべき内容について
(1)レジストリデータに含まれる医薬品、医療機器及び再生医療等製品のデータを承認申請等における有効性及び/又は安全性の評価に活用する場合の活用事例
4.(3)~(5)で述べたとおり、以下に示す例のように、レジストリに評価対象となる医薬品、医療機器及び再生医療等製品等のデータが含まれる場合、レジストリデータを用いることで、その製品の有効性及び/又は安全性を評価することが可能となる場合がある。なお、有効性及び/又は安全性を評価する際には、これまでに実施された臨床試験成績及び用いる予定のレジストリデータからのエビデンスを総合的に考慮することが重要である。
- 国内既承認医薬品及び再生医療等製品で、既承認時に提出された臨床試験成績が一部の患者に限られたため、承認の範囲が制限されている又は使用上の注意(効能又は効果に関連する注意若しくは用法及び用量に関連する注意等)において注意喚起がなされているものの、臨床現場において使用されている実態があること等により、レジストリデータを用いて承認申請又は添付文書改訂の可能性を考える場合
- 国内外で既に承認された医療機器で、初回承認時に提出された臨床試験成績は一部の患者や疾患に限られるものの、臨床現場においては、その製品の作用機序を考慮して他の患者層(例えば、小児等)に対しても使用されている実態があること等により、レジストリデータを用いて、これらの患者層に対する承認申請又は添付文書改訂の可能性を考える場合
- 医薬品、医療機器及び再生医療等製品等において、承認申請資料として使用できる臨床試験成績が存在するものの、レジストリデータを有効性及び/又は安全性の補足説明に用いる場合(例えば、臨床試験に含まれる患者が限定されている場合等)
- 条件付き承認された国内既承認医薬品において、製造販売後に当該医薬品の有効性、安全性の再確認等のために必要な調査を、レジストリデータを用いて行い、中間評価の調査申請を行う場合
- 条件付き承認された国内既承認医療機器において、製造販売後に当該医療機器の有効性、安全性の再確認等のために必要な調査を、レジストリデータを用いて行い、使用成績評価申請を行う場合
- 条件及び期限付承認された国内既承認再生医療等製品において、製造販売後に当該再生医療等製品の有効性、安全性の再確認等のために必要な調査を、レジストリデータを用いて行い、承認申請を行う場合
- 医薬品、医療機器及び再生医療等製品において、製品の使用集団のレジストリデータを用いて、製造販売後の調査に用いる場合
- 臨床試験では設定が困難な評価項目(例えばイベントの発現頻度に対する症例数の限界のため設定が困難な評価項目)や、長期間の評価が必要となるため臨床試験では評価困難な評価項目のデータをレジストリから収集し、承認申請等に活用する場合
(2)評価対象の患者集団
レジストリデータから患者集団を抽出する際には、そのデータの活用目的に応じて適切な患者集団を抽出する必要がある。抽出する情報としては、患者背景情報としての年齢、性別、疾患の重症度等の情報に加え、評価に影響を与える可能性のある治療や使用薬剤等のように、有効性及び安全性評価に重要な影響を与える可能性のある因子の情報が挙げられる。
例えば、レジストリデータを主要なデータとして活用する際には、6.(1)と同様に、事前に統計解析計画を策定し、患者の抽出条件を明確にした上で、有効性及び安全性を評価するにあたって恣意的なデータ抽出でないこと、評価すべき患者層が含まれていること等を説明する必要がある。また、抽出に際しては、6.(5)に述べたように、レジストリに入力された各項目の定義や医学用語や測定方法に関しても評価に用いる妥当性等を説明する必要がある。
医療機器において、レジストリデータを臨床試験の代わりとなる主要なデータとして有効性及び/又は安全性の評価に用いる際には、抽出する患者背景情報について、上述の情報に加えて、各医療機器の特性等に応じて評価に必要と想定される製品情報(製品名やサイズ等の製品を特定できる情報や使用個数等)も必要になることに留意すること。
(3)評価項目
レジストリデータから特定の評価項目を抽出するにあたり考慮すべき点は、基本的には6.(2)と同様である。各項目の定義や評価方法が活用目的に照らして十分な程度統一されているか、各施設においてその定義や評価方法に則って検査・治療の情報がレジストリに登録されているか、有効性及び/又は安全性を評価するために適切な評価時期のデータが含まれるか等、データの活用目的に応じて適切な評価項目が選定されたことを説明する必要がある。なお、欠測データがある場合には、有効性及び安全性に対する評価への影響の程度を説明する必要がある。
(4)評価期間
考慮すべき点は、基本的には6.(3)と同様であり、その製品の特徴や目的に応じて、治療後のフォローアップにおける評価が必要となる場合がある。例えば、治療後、時間経過とともに効果が期待されるような製品等があげられる。このような場合、レジストリにおいてデータを継続してフォローして収集できる体制が整っていることが重要である。患者毎の評価方法が活用目的に照らして十分な程度揃うように、評価時期やフォローアップのタイミングの幅があらかじめ規定されていることが望ましい。
(5)統計手法
考慮すべき点は、6.(4)に記載したとおりである。
8.おわりに
本通知は、現時点の考え方を示したものであり、本通知の内容は必要に応じて更新されうる。今後、レジストリの活用経験の蓄積、医療情報通信技術の進歩等により、現時点で認識されている様々な課題も解決されていくものと思われる。今後はこれらの状況変化に的確に対応するとともに、レジストリの活用がさらに進むことを期待する。