科学技術・イノベーション基本法
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第一章 総則
第一条(目的)
- この法律は、科学技術・イノベーション創出の振興に関する施策の基本となる事項を定め、科学技術・イノベーション創出の振興に関する施策を総合的かつ計画的に推進することにより、我が国における科学技術の水準の向上及びイノベーションの創出の促進を図り、もって我が国の経済社会の発展と国民の福祉の向上に寄与するとともに世界の科学技術の進歩と人類社会の持続的な発展に貢献することを目的とする。
第二条(定義)
- この法律において「イノベーションの創出」とは、科学的な発見又は発明、新商品又は新役務の開発その他の創造的活動を通じて新たな価値を生み出し、これを普及することにより、経済社会の大きな変化を創出することをいう。
- この法律において「科学技術・イノベーション創出の振興」とは、科学技術の振興及び研究開発の成果の実用化によるイノベーションの創出の振興をいう。
- この法律において「研究開発」とは、基礎研究、応用研究及び開発研究をいい、技術の開発を含む。
- この法律において「研究者等」とは、研究者及び技術者(研究開発の補助を行う人材を含む。)並びに研究開発又はその成果の普及若しくは実用化に係る運営及び管理に係る業務(専門的な知識及び能力を必要とするものに限る。)に従事する者をいう。
- この法律において「研究開発法人」とは、科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律(平成二十年法律第六十三号)第二条第九項に規定する研究開発法人をいう。
- この法律において「大学等」とは、大学(大学院を含む。)及び大学共同利用機関をいう。
第三条(科学技術・イノベーション創出の振興に関する方針)
- 科学技術・イノベーション創出の振興は、科学技術及びイノベーションの創出が我が国及び人類社会の将来の発展をもたらす源泉であり、科学技術に係る知識の集積が人類にとっての知的資産であることに鑑み、研究者等及び研究開発の成果を活用した新たな事業の創出を行う人材の創造性が十分に発揮されることを旨として、人間の生活、社会及び自然との調和を図りつつ、積極的に行われなければならない。
- 科学技術・イノベーション創出の振興に当たっては、広範な分野における各分野の特性を踏まえた均衡のとれた研究開発能力の涵かん養、学際的又は総合的な研究開発の推進、基礎研究、応用研究及び開発研究の調和のとれた発展、学術研究及び学術研究以外の研究の均衡のとれた推進並びに国の試験研究機関、研究開発法人、大学等、民間事業者その他の関係者の国内外にわたる有機的な連携について配慮されなければならず、また、自然科学と人文科学との相互の関わり合いが科学技術の進歩及びイノベーションの創出にとって重要であることに鑑み、両者の調和のとれた発展について留意されなければならない。
- 科学技術の振興は、科学技術がイノベーションの創出に寄与するという意義のみならず学術的価値の創出に寄与するという意義その他の多様な意義を持つことに留意するとともに、研究開発において公正性を確保する必要があることに留意して行われなければならない。
- イノベーションの創出の振興は、科学技術の振興によってもたらされる研究開発の成果がイノベーションの創出に最大限つながるよう、科学技術の振興との有機的な連携を図りつつ、行われなければならない。
- 科学技術・イノベーション創出の振興は、全ての国民が科学技術及びイノベーションの創出の恵沢をあまねく享受できる社会が実現されることを旨として、行われなければならない。
- 科学技術・イノベーション創出の振興に当たっては、あらゆる分野の科学技術に関する知見を総合的に活用して、次に掲げる課題その他の社会の諸課題への的確な対応が図られるよう留意されなければならない。
一 少子高齢化、人口の減少、国境を越えた社会経済活動の進展への対応その他の我が国が直面する課題
二 食料問題、エネルギーの利用の制約、地球温暖化問題その他の人類共通の課題
三 科学技術の活用により生ずる社会経済構造の変化に伴う雇用その他の分野における新たな課題
第四条(国の責務)
- 国は、前条に規定する科学技術・イノベーション創出の振興に関する方針(次条から第七条までにおいて「振興方針」という。)にのっとり、科学技術・イノベーション創出の振興に関する総合的な施策を策定し、及びこれを実施する責務を有する。
第五条(地方公共団体の責務)
- 地方公共団体は、振興方針にのっとり、科学技術・イノベーション創出の振興に関し、国の施策に準じた施策及びその地方公共団体の区域の特性を生かした自主的な施策を策定し、及びこれを実施する責務を有する。
第六条(研究開発法人及び大学等の責務)
- 研究開発法人及び大学等は、その活動が科学技術の水準の向上及びイノベーションの創出の促進に資するものであることに鑑み、振興方針にのっとり、科学技術の進展及び社会の要請に的確に対応しつつ、人材の育成並びに研究開発及びその成果の普及に自主的かつ計画的に努めるものとする。
- 研究開発法人及び大学等は、その活動において研究者等及び研究開発に係る支援を行う人材の果たす役割の重要性に鑑み、これらの者の職務及び職場環境がその重要性にふさわしい魅力あるものとなるよう、これらの者の適切な処遇の確保及び研究施設等(研究施設及び研究設備をいう。以下同じ。)の整備に努めるものとする。
第七条(民間事業者の責務)
- 民間事業者は、振興方針にのっとり、その事業活動に関し、研究開発法人及び大学等と積極的に連携し、研究開発及びその成果の実用化によるイノベーションの創出に努めるものとする。
- 民間事業者は、研究開発及びその成果の実用化によるイノベーションの創出において研究者等及び研究開発の成果を活用した新たな事業の創出を行う人材の果たす役割の重要性に鑑み、これらの者の活用に努めるとともに、これらの者の職務がその重要性にふさわしい魅力あるものとなるよう、これらの者の適切な処遇の確保に努めるものとする。
第八条(国及び地方公共団体の施策の策定等に当たっての配慮)
- 国及び地方公共団体は、科学技術・イノベーション創出の振興に関する施策を策定し、及びこれを実施するに当たっては、基礎研究が新しい現象の発見及び解明並びに独創的な新技術の創出等をもたらすものであること、その成果の見通しを当初から立てることが難しく、また、その成果が実用化に必ずしも結び付くものではないこと等の性質を有するものであることに鑑み、基礎研究の推進において国及び地方公共団体が果たす役割の重要性に配慮しなければならない。
第九条(大学等に係る施策における配慮)
- 国及び地方公共団体は、科学技術・イノベーション創出の振興に関する施策で大学等に係るものを策定し、及びこれを実施するに当たっては、大学等における研究活動の活性化を図るよう努めるとともに、研究者等の自主性の尊重その他の大学等における研究の特性に配慮しなければならない。
第十条(法制上の措置等)
- 政府は、科学技術・イノベーション創出の振興に関する施策を実施するため必要な法制上、財政上又は金融上の措置その他の措置を講じなければならない。
第十一条(年次報告)
- 政府は、毎年、国会に、政府が科学技術・イノベーション創出の振興に関して講じた施策に関する報告書を提出しなければならない。
第二章 科学技術・イノベーション基本計画
第十二条(科学技術・イノベーション基本計画)
- 政府は、科学技術・イノベーション創出の振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、科学技術・イノベーション創出の振興に関する基本的な計画(以下この条において「科学技術・イノベーション基本計画」という。)を策定しなければならない。
- 科学技術・イノベーション基本計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。
- 一 研究開発の推進に関する総合的な方針
- 二 次に掲げる人材の確保、養成及び資質の向上並びにその適切な処遇の確保に関し、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策
- イ 研究者等
- ロ 研究開発に係る支援を行う人材(イに該当するものを除く。)
- ハ 研究開発の成果を活用した新たな事業の創出を行う人材
- ニ 研究開発の成果を活用した新たな事業の創出に係る支援を行う人材
- 三 研究施設等の整備、研究開発に係る情報化の促進その他の研究開発の推進のための環境の整備に関し、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策
- 四 研究開発の成果の実用化及びこれによるイノベーションの創出の促進を図るための環境の整備に関し、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策
- 五 その他科学技術・イノベーション創出の振興に関し必要な事項
- 政府は、科学技術・イノベーション基本計画を策定するに当たっては、あらかじめ、総合科学技術・イノベーション会議の議を経なければならない。
- 政府は、科学技術及びイノベーションの創出の進展の状況、政府が科学技術・イノベーション創出の振興に関して講じた施策の効果等を勘案して、適宜、科学技術・イノベーション基本計画に検討を加え、必要があると認めるときには、これを変更しなければならない。この場合においては、前項の規定を準用する。
- 政府は、第一項の規定により科学技術・イノベーション基本計画を策定し、又は前項の規定によりこれを変更したときは、これを公表しなければならない。
- 政府は、科学技術・イノベーション基本計画について、その実施に要する経費に関し必要な資金の確保を図るため、毎年度、国の財政の許す範囲内で、これを予算に計上する等その円滑な実施に必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
第三章 研究開発の推進等
第十三条(多様な研究開発の均衡のとれた推進等)
- 国は、広範な分野における各分野の特性を踏まえた多様な研究開発の均衡のとれた推進に必要な施策を講ずるとともに、国として特に振興を図るべき重要な科学技術の分野に関する研究開発の一層の推進を図るため、その企画、実施等に必要な施策を講ずるものとする。
第十四条(研究者等の確保等)
- 国は、科学技術の進展等に対応した研究開発を推進するため、大学院における教育研究の充実その他の研究者等の確保、養成及び資質の向上に必要な施策を講ずるものとする。
- 国は、研究者等の職務がその重要性にふさわしい魅力あるものとなるよう、研究者等の適切な処遇の確保に必要な施策を講ずるものとする。
- 国は、研究開発の円滑な推進にとっては第十二条第二項第二号ロに掲げる人材が、研究開発の成果の実用化によるイノベーションの創出の推進にとっては同号ハ及びニに掲げる人材が、それぞれ不可欠であることに鑑み、これらの人材の確保、養成及び資質の向上並びにその適切な処遇の確保を図るため、前二項に規定する施策に準じて施策を講ずるものとする。
第十五条(研究施設等の整備等)
- 国は、科学技術の進展等に対応した研究開発を推進するため、研究開発機関(国の試験研究機関、研究開発法人、大学等及び民間事業者等における研究開発に係る機関をいう。次条及び第十七条において同じ。)の研究施設等の整備に必要な施策を講ずるものとする。
- 国は、研究開発の効果的かつ効率的な推進を図るため、研究材料の円滑な供給等研究開発に係る支援機能の充実に必要な施策を講ずるものとする。
第十六条(研究開発に係る情報化の促進)
- 国は、研究開発の効果的かつ効率的な推進を図るため、科学技術に関する情報処理の高度化、科学技術に関するデータベースの充実、研究開発機関等の間の情報ネットワークの構築等研究開発に係る情報化の促進に必要な施策を講ずるものとする。
第十七条(研究開発に係る交流の促進)
- 国は、研究開発機関又は研究者等相互の間の交流により研究者等の多様な知識の融合等を図ることが新たな研究開発の進展をもたらす源泉となるものであり、また、その交流が研究開発の効果的かつ効率的な推進にとって不可欠なものであることに鑑み、研究者等の交流、研究開発機関による共同研究開発、研究開発機関の研究施設等の共同利用等研究開発に係る交流の促進に必要な施策を講ずるものとする。
第十八条(研究開発に係る資金の効果的かつ効率的な使用)
- 国は、研究開発の円滑な推進を図るため、研究開発の展開に応じて研究開発に係る資金を効果的かつ効率的に使用できるようにする等その活用に必要な施策を講ずるものとする。
第十九条(研究開発の成果の活用等)
- 国は、研究開発の成果の活用を図るため、研究開発の成果の適切な保護及び公開、研究開発に関する情報の提供等その普及に必要な施策並びにその適切な実用化及びこれによるイノベーションの創出の促進等に必要な施策を講ずるものとする。
第二十条(民間事業者の努力の助長)
- 国は、我が国の科学技術活動及びイノベーションの創出に係る活動において民間事業者が果たす役割の重要性に鑑み、民間事業者の自主的な努力を助長することによりその研究開発及び研究開発の成果の実用化によるイノベーションの創出を促進するよう、必要な施策を講ずるものとする。
第四章 国際的な交流等の推進
第二十一条(国際的な交流等の推進)
- 国は、国際的な科学技術活動及びイノベーションの創出に係る活動を強力に展開することにより、我が国の国際社会における役割を積極的に果たすとともに、我が国における科学技術及びイノベーションの創出の一層の進展に資するため、研究者等の国際的交流、国際的な共同研究開発、科学技術に関する情報の国際的流通等科学技術及びイノベーションの創出に関する国際的な交流等の推進に必要な施策を講ずるものとする。
第五章 科学技術に関する学習の振興等
第二十二条(科学技術に関する学習の振興等)
- 国は、青少年をはじめ広く国民があらゆる機会を通じて科学技術に対する理解と関心を深めることができるよう、学校教育及び社会教育における科学技術に関する学習の振興並びに科学技術に関する啓発及び知識の普及に必要な施策を講ずるものとする。
附 則
この法律は、公布の日から施行する。
附 則 (平成一一年一二月二二日法律第一六〇号) 抄
第一条(施行期日)
この法律(第二条及び第三条を除く。)は、平成十三年一月六日から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。
一 第九百九十五条(核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律の一部を改正する法律附則の改正規定に係る部分に限る。)、第千三百五条、第千三百六条、第千三百二十四条第二項、第千三百二十六条第二項及び第千三百四十四条の規定 公布の日
附 則 (平成二六年五月一日法律第三一号) 抄
第一条(施行期日)
この法律は、公布の日から起算して一月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
附 則 (令和二年六月二四日法律第六三号) 抄
第一条(施行期日)
この法律は、令和三年四月一日から施行する。ただし、次条及び附則第六条の規定は、公布の日から施行する。
第二条(施行前の準備)
政府は、この法律の施行の日(以下「施行日」という。)前においても、第一条の規定による改正後の科学技術・イノベーション基本法(次項において「新基本法」という。)第十二条の規定の例により、科学技術・イノベーション基本計画を定めることができる。この場合において、内閣総理大臣は施行日前においても、同条の規定の例により、これを公表することができる。
2 前項の規定により定められた科学技術・イノベーション基本計画は、施行日において新基本法第十二条の規定により定められたものとみなす。
第六条(政令への委任)
附則第二条から前条までに規定するもののほか、この法律の施行に関し必要な経過措置は、政令で定める。