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富山県のGMP査察体制及び査察方法等に関する調査報告及び提言

2021年6月1日

富山県の GMP 査察体制及び査察方法等に関する調査報告及び提言

2021 年5月 28 日
富山県 GMP 査察調査委員会
委員 清原 孝雄
委員 堀尾 貴将
委員 八坂 徳明

第 1 緒言

1. 本委員会設置の背景

2021 年3月3日、富山県は日医工株式会社(以下、「日医工」という。)に対し、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下、「薬機法」という。)第75 条第1項に基づき、製造業及び製造販売業についてそれぞれ 32 日間、24 日間の業務停止を命ずる行政処分を行った。

行政処分の理由は、製造業である富山第一工場において

  • 品質試験不適合品を、再造粒・再打錠や乾燥工程の追加など、製造販売承認書と異なる製造方法で適合品となるよう処理した
  • 品質試験等における不適合の結果について、GMP 基準において求められている原因究明や製造販売業者への報告等の適切な措置を実施しなかった

ことであり、
製造販売業としてこれらの行為を適切に管理・監督することができず

  • 製造販売承認書と異なる方法で製造された医薬品を製造販売した
  • 製品の適正な製造販売を行うために必要な配慮を怠った
  • 製品の品質管理を適正に行わなかった

ことである。

これらの不正行為については、日医工が法律事務所に依頼して行った調査の報告書によれば、2011 年頃から行われていた。一方、これらの違反の発見の端緒となったのは、2020 年2月 19 日~21 日に行われた、富山県と PMDA が合同で行った無通告の立入調査であり、2011 年以降 2020 年までに富山県が5回(非 GMP 調査(構造設備の確認のみなど)を除く)にわたり実施していた立入調査や数多く実施していた書面調査では、これらの不正行為を発見できていなかった。

このため富山県は、県の GMP 調査に問題があったかどうかを検証するため、また、抽出された課題について対応策を検討するため、外部の専門家により組織された富山県 GMP 査察調査委員会(以下、「本調査委員会」という。)に対し、調査及び提言を依頼した。

2. 調査及び提言の目的

本調査委員会は、結果として日医工の不正を長年発見することができていなかった富山県の GMP 調査に問題がなかったかを検証すること、並びに、富山県の現状の GMP 調査体制及び調査方法等に関する課題や問題点を特定し、GMP 調査体制及び調査方法等の改善策を提案することにより、行政当局による実効的な GMP 調査を通じた医薬品の適正な製造ひいては医薬品に対する信頼の確保を目的とし、調査及び提言を行った。

第 2 本調査委員会による調査

1. 調査期間

2021 年4月1日~2021 年5月 27 日

2. 調査の方法

富山県 GMP 調査手順書及び教育訓練計画書等、富山県の GMP 調査体制にかかる資料並びに実地調査の記録等の資料について、富山県くすり政策課に提出させ、調査を行った。

また、現在のくすり政策課長はじめ、くすり政策課員3名、及び過去3回の日医工に対する立ち入り調査において富山県の GMP 調査員として調査を行った8名(現在はくすり政策課員でない者も含む)に対し、2021 年4月6日~7日に計約 12 時間にわたりヒアリング調査を行った。

第 3 調査結果および提言

1. 富山県の GMP 調査について

(1) 富山県の GMP 調査体制の概要

ア 富山県の GMP 調査人員

富山県の GMP 調査は、すべて富山県厚生部くすり政策課指導係(以下、「指導係」という。)で実施されている。

指導係の体制は、2021 年4月1日時点において、係長1名及び係員7名(2020 年3月 31日までは6名)であり、教育訓練中の2名を除き、すべて GMP 調査員(下記ウ参照)である。このうち、係長は、基本的に GMP 調査を実施せず、調査報告書の確認の他、調査の年間計画の作成といった調査の総括などを行っている。なお、指導係の職員は、GMP 調査以外に、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器の製造業等の許可、医薬品等の承認、データベースの管理、GMP などに関する研修の企画・実施、法改正に対応するための検討・企画といった専門的な業務の他、県議会に係る調査、県の業務として実施するための予算を確保するための企画事務などの県の一般的な行政事務も行っている。

県職員は概ね3~4年で異動となり、同じ職務を5年以上継続することはまれである。指導係の職員も同様の人事異動の対象であり、ほぼ毎年一部の職員が入れ替わり、多い年には半数が入れ替わることもある。指導係に新規に配属された職員は、すぐに GMP 調査を行うことはできず、必要な知識や技術について研修を受け、他の調査員の調査に同行するなどして経験を積み、GMP 調査員の認定を受けてはじめて、調査員として GMP 調査を行うことができるようになる。過去に指導係に在籍した職員が別の職務を経たのち再び指導係に配属されることもあるが、GMP 調査員として復帰するためには再教育を受けることが必要である。例年、人事異動が行われる4月は GMP 調査員が少ない状況となり、2021 年4月1日時点において、指導係で調査業務経験が 3 年以上あるのは、係長及び復帰のための再教育中の係員を含め、4名である。

イ 富山県の GMP 調査の種類及び年間の調査数

GMP 調査は、薬機法において「書面による調査又は実地の調査」と定められている(同法第 14 条第7項)。実地調査は、製造販売承認又はその申請がされている医薬品を製造する製造業者の製造所に調査員が出向き、各種資料や製造設備の確認等を行う調査である。書面調査は、通常、調査員は製造業者の製造所には行かず、GMP 調査において確認が必要な資料を製造業者に提出させて行う調査である。実地調査は、調査員が2~4名のチームを組んで調査にあたる。

富山県下では、101 の製造所が製造業許可を有している。これらの製造所を対象とする年間の GMP 調査の件数は、過去5年の平均で 181.2 件、調査員1人当たりの年間の GMP 調査の件数は、36.5 件~69.0 件である。

ウ 富山県の GMP 調査員の教育訓練

富山県の GMP 調査員は、薬剤師の資格を有する県職員のうち、指導係に配属された職員が、「富山県 GMP 教育訓練手順書」に基づき所定の教育訓練を受けて認定される。また、その中から十分な知識・経験を有し、調査を主導的に実施することができる調査員として要件を満たす調査員を、リーダー調査員として認定している。各調査において、必ずリーダー調査員が参加し、調査を主導することとされている。2021 年4月1日時点において、指導係でリーダー調査員の認定を受けているのは、係長を含め4名である。

富山県の GMP 調査員の教育訓練の手順は、各都道府県において定める手順書の参考として厚生労働省が作成した「調査当局共通の手順書」に準じて定められている。また、実際の教育訓練の記録によれば、富山県における GMP 調査員の教育訓練は、厚生労働省が全国の調査当局の調査員向けに実施している統一研修の受講も含め、適切に実施されており、手順に従い GMP 調査員としての認定がされている。

(2) 富山県の GMP 調査の方法

富山県の GMP 調査は、県くすり政策課で制定した「富山県 GMP 調査手順書」に従って行われている。当該手順書は、厚生労働省が策定した「GMP 調査要領」に基づき、かつ、「調査当局共通の手順書」を踏まえて作成されており、GMP 調査を適切に行うために必要なものとして「GMP 調査要領」に示された事項を網羅している。

富山県の GMP 調査は、調査の頻度(製造管理及び品質管理の主な構成要素すべてを製造業許可の有効期間に一通り調査することができる頻度)、リスクを勘案した調査方法の決定(実地調査とするか書面調査とするか)、調査の目的に応じた調査基本方針の策定、チーム編成、調査計画の策定、講評、指摘事項書の送付等を含め、手順書に従い実施されている。

実際の調査においては、

書面調査:

調査対象品目に係る記録類確認(製造記録、試験記録、バリデーション計画書及び報告書等)
調査報告書及び指摘事項書作成
改善報告書(計画書)確認(追加資料等の提出依頼等含む)

実地調査:

日程調整、事前提出書類依頼・確認
実地調査(プラントツアー、手順書及び記録類確認)
調査報告書及び指摘事項書作成
改善報告書(計画書)確認(追加資料等の提出依頼等含む)

といった多様な作業が実施されており、調査内容及び調査結果については、調査報告書として詳細に記録されている。

開示を受けた調査の記録及びヒアリングからは、日医工に対する過去の調査において、偏った調査計画の立案や、調査計画に反する調査の実施、虚偽の調査結果の調査報告書への記載といった、恣意的又は不適切な調査が行われていたことを伺わせる事実は確認されなかった。また、調査の目的に合わない調査の実施や、明らかに調査すべきポイントの見落としといった、調査員の能力不足より調査の程度が不適当であったことを伺わせる事実は確認されなかった。

以上の通り、富山県の GMP 調査は、都道府県が実施する GMP 調査として厚生労働省が定めた調査要領に従い、求められる能力を有する調査員により、適切に実施されており、都道府県が実施する一般的な GMP 調査として不適格なものではなかった。

しかしながら、日医工が 2011 年頃から実施していた不正を、県が過去に実施してきたGMP 調査では発見することができなかったことは事実である。特に、今回の日医工の違反行為は、標準的な手順に従って実施される通常の GMP 調査によって発見することは困難であったものと考えられる。

以下では、現状の GMP 調査の課題を分析した上で、今後の GMP 調査が実効的に行われるための改善策を検討する。

2. 現状の GMP 調査に関する課題

現状の GMP 調査に関する課題として、事業者からの申請に基づく調査であるという調査の目的・性質上の限界(下記(1))、GMP 調査の調査方法のあり方の課題(下記(2))、富山県の GMP 調査体制上の課題(下記(3))に加え、GMP 調査に関する制度的な課題(下記(4))が見受けられた。

(1) 申請に基づく調査の限界

通常の GMP 調査は、医薬品の製造販売承認の要件のひとつである、医薬品の製造所における製造管理又は品質管理の方法が厚生労働省令(GMP 省令)で定める基準に適合しているかを、製造販売業者の申請に基づいて調査するものである。そのため、申請に基づく通常のGMP調査は、製造販売承認の要件を満たすかどうかを確認することを目的として行われ、承認の内容と試験方法や製造方法に齟齬があるかどうかや、不適切な逸脱処理を行っていないかどうかといった、事業者の製造管理又は品質管理における問題点を洗い出すことを目的としては行われていない。

こうした調査の目的に応じ、通常の GMP 調査では、製造販売承認の要件を満たす上で、必要な資料、構造設備、体制が整っているかどうか、つまり、適切に医薬品を製造することができるシステムが整っているかどうかを確認することに主眼が置かれている。そのため、調査の実施においては、基本的に事業者側が準備した書面をもとに、適宜質問や照会をしながら調査を行い、実地調査におけるプラントツアーにおいても、基本的に事業者側の案内に応じた調査が行われている。製造記録や試験記録等が、実際に行われた製造や試験結果を記録した正確なものであるかについては、無作為にピックアップして調査を行うことにより信頼性を確認しているものの、全ての記録を悉皆的に調査するわけではない。

以上のような、申請に基づく通常の GMP 調査の目的及び当該目的に応じた GMP 調査の方法を前提にすると、実地調査が行われたとしても、悉皆的な調査により事業者による隠蔽行為が明らかになることや、GMP 管理外の書類といった、事業者として当局に見せることを想定していない資料が発見されることは、想定しにくいものと考えられる。

(2) 調査方法等に関する課題

GMP 調査の調査項目は、厚生労働省が定める GMP 調査要領等に基づき、GMP 省令に定める基準に照らし、調査手順書において網羅的に設定されている。GMP 調査員は、限られた調査時間の中で、これらの全ての調査項目について確認することが求められるため、各項目についての調査の深度は浅くなりがちである。また、調査の過程において、違和感のある事項があっても、重要な指摘事項が存することが明らかでない限り、深掘りした調査を行うための時間及びリソースの余裕はない状況である。

特に、後発医薬品の承認に際して行われる GMP 調査は、年に 2 回の承認時期に合わせて、数多くの調査申請が行われる(過去5年の当該承認時期当たりの平均調査件数は 34.7 件であり、当該 GMP 調査の標準的事務処理期間は 60 日とされている。)。GMP 調査が長引き、承認の予定時期までに完了することができなければ、当該医薬品の上市は少なくとも半年遅れることとなり、企業活動に重大な影響を与えることになりかねないため、調査員は、時間的なプレッシャーの中で GMP 調査を行っている状況にある。この点も、深掘りした調査を行う余裕のなさに拍車をかけているといえる。

GMP 調査において、様々な関係者にヒアリングを行うなど多角的に情報を得ることは、事業者側が当局に示すことを想定していない情報を得ることや、情報の不整合など不審な点を覚知するのに有用であると考えられる。しかしながら、現在、GMP 調査に際して行われている事業者に対する各種の照会は、事業者側が指定する担当者(例えば、製造管理については製造責任者、品質管理については品質管理責任者など、担当業務による指定がされることが多い)に対して行われるに留まり、調査員が任意に担当者を指定してヒアリングを行うことはされていないため、事業者側が事前に想定し準備した回答以外の情報を得る機会に乏しい。

また、GMP 調査を行う際は、県がそれ以前に行った GMP 調査の調査結果も参考にし、調査すべき要点などを特定した調査計画を立てている。しかしながら、調査結果の記録は、細かな製造方法の手順や管理値なども記載する詳細なものである一方、記載すべき事項は形式的に決められており、調査において気づいた点があっても、それが違和感に留まり、深掘りした調査なしでは指摘事項に至らないものであれば、記載されることはないため、次回以降の GMP 調査に活かし切れていない。

さらに、日医工に対する過去(無通告の立ち入り調査の直前)の GMP 調査において、医薬品の回収につながる「安定性モニタリングが計画通りに実施されていない事例」、「安定性モニタリングで逸脱処理が適切に行われていない事例」及び「変更管理に関する品質部門の評価が適切に記載されていない事例」が発見され、日医工に対して指摘が行われていたが、いずれも「軽度の指摘事項」として、日医工が提出した改善計画書を確認することにより適合と評価しており、具体的な改善の確認は、次回以降の GMP 調査に持ち越されていた。

(3) 調査体制に関する課題

上記 1.(1)イのとおり、富山県の年間の GMP 調査の件数は、過去5年の平均で 181.2 件、調査員1人当たりの年間の GMP 調査の件数は、36.5 件~69.0 件である。事前の調査計画の策定なども含めた GMP 調査に要する時間を考慮すると、余裕をもって調査を実施できる調査数を大きく超えていると考えられる。

また、GMP 調査に関連する業務のあり方についても、課題が見られた。GMP 調査員が作成する調査報告書は、例えば、実地調査に関する報告書については、図表等のない文章のみで記載された、製造や清掃の詳細な作業内容や管理値などに関する記載を含む 30 頁程度に及ぶ大部なものであり、こうした報告書の作成が、GMP 調査員の業務上の大きな負担となっている。さらに、この報告書は、指導係の全員が順次確認し決裁を取る運用とされており、大部の報告書を、自ら担当していない調査についても読み込む作業についても、GMP 調査員の業務上の大きな負担となっている。

このほか、各調査員は、GMP 調査以外にも、OTC 医薬品の承認審査業務、GMP 対象外の製造所の調査業務、製造業等の許可業務などを行っている。また、業許可台帳、製造販売承認台帳等の書類整理といった事務作業についても、各調査員が行っている状況である。こうした業務負担については、調査員(年度当初から調査員として認定され、年間を通じて調査を実施できる調査員)の時間外勤務が、2020 年度の平均で 720 時間、中には 800 時間を超えている者もいることを踏まえると、明らかに過多であると考えられる。

このような状況に鑑みて、くすり政策課では、毎年指導係の人員増を要求しているが、県庁内の薬剤師職の人員は限られており、大幅な増員はされていない。また、薬剤師職の県庁職員の数を増やすため、薬学部がある大学への積極的なリクルート活動などの新卒採用に力を入れるほか、通年で人員の募集が行われているが、毎年採用人数が要求定員に満たない状況が続いている。これには、県庁職員の初任給が、ドラッグストア勤務等の薬剤師免許を要する他の職種に比して高いものではなく、薬剤師免許保持者にとって魅力に欠けるなどの原因が考えられる。

加えて、GMP 調査員は、県職員としての人事異動のローテーションに組み込まれており、十分な経験が蓄積すると考えられる3年を経過しても1~2年で、あるいは3年を経過する以前に異動することになる。そのため、時期によっては、調査経験が豊富ではない調査員や、教育訓練中の調査員の数が多くなることもある。

(4) 制度的な課題

ア 製造販売業者による管理に関する課題

薬機法上、製造販売業者は、製造業者の製造管理及び品質管理の方法を管理・監督し、流通する医薬品の品質を確保する責務を負っている。すなわち、製造販売業者は、医薬品の製造を製造業者に委託することができるが、製品の品質を確保するため、GQP省令6に基づき、製造業者における製造管理及び品質管理の方法について管理・監督する義務を負っている。

日医工の事例においては、不適切な製造を行った製造業者としての GMP 上の問題があったが、不適切な製造が行われた医薬品が流通したことについて、製造販売業者による品質管理にも問題があったものと考えられる。例えば、GQP 省令上、製造販売業者は、製造業者の製造管理及び品質管理が適正に実施されていることを定期的に確認することが求められているが、こうした確認が形式的なものにとどまっていなかったか、実効的な製造業者に対する監査等が行われていたかについては、十分な検証が必要である。

イ 公益通報制度の活用に関する課題

不適切な製造管理や品質管理を含む製薬企業の法令上の問題は、規制当局に対する公益通報が端緒となって発覚することも多い。日医工の事例においても、GMP 上の問題点を認識していた従業員は存在し、当該従業員からの公益通報があれば、より早期の段階で問題の端緒を把握することができた可能性がある。

製薬企業の従業者にとって、公益通報を活用しやすい環境となるよう、当局として周知等を行うことが重要であるが、富山県では、特に医薬品の製造等に係る不正行為に関する通報窓口や、公益通報制度に関する周知の徹底はなされていなかった。

3. GMP 調査等に関する改善策

上記2で挙げた課題を踏まえ、富山県における今後の GMP 調査が実効的に行われるための改善策(下記(1)~(4))を提言するとともに、製薬企業により医薬品の適切な製造管理及び品質管理が行われることを確保するための制度の見直しに関する検討事項(下記(5))を提案する。なお、特に、制度の見直しに関する検討事項については、富山県に留まらず、厚生労働省及び他の都道府県を含めて、望ましい制度のあり方について議論が尽くされることが期待されるものである。

(1) 無通告査察等の実施

申請に基づく GMP 調査には、上記 2(1)のとおり限界があることから、事業者からの申請に基づく調査ではなく、事業者が法令を遵守しているかどうかを確かめる目的で、薬機法第69 条に基づき無通告で行う調査の機会を充実させることが、違反行為の発見に繋がると考えられる。

事業者に事前に準備の機会を与えず無通告で行う調査は、不適切な製造等に関する手がかりをつかむ上で極めて効果的である。実際に、日医工の問題事例の把握に至る端緒となったのは、無通告の立ち入り調査(無通告査察)の実施によるものである。

調査員のリソースや申請等に基づく調査数との関係で、無通告査察を多数回実施することが困難である場合は、既に富山県において一部実施しているように、申請等に基づく実地調査の機会に、一部薬機法 69 条に基づく無通告の調査も併せて実施するという手法(以下「組み合わせ調査」という。)も考えられ、このような調査の機会をより増やしていくことが重要である。

(2) 実効的な調査手法の導入

ア 課題を特定した調査の実施

現状の実地調査では、厚生労働省が定めた GMP 監視指導要領などに基づき、網羅的な調査項目について調査が行われており、特定の項目を深掘りする調査は行われていない。しかしながら、隠された不適切な事例を発見するには、課題を特定して徹底的に深掘りする調査を行うことが不可欠と考えられる。そのためには、調査項目を網羅的に全て確認しなければならないとする取扱いを改めることを含め、GMP 監視指導要領や、GMP 調査手順の見直しを検討すべきである。

イ 多角的なヒアリングの実施

現状の GMP 調査では、事業者側が指定する担当者のみからの一元的な情報しかヒアリングができていない状況にある。隠された不適切な行為を発見するためには、事業者側が当局に示すことを想定していない情報を含め、多角的に情報を集め、相互の整合性を確認することが効果的であると考えられる。そのための手法としては、GMP 調査の現場において、調査員が、事業者側が指定した者以外の担当者(例えば、各部門の責任者等)を抜き打ちで指名した上で、ヒアリングを実施することが有用と考えられる。日医工の事例において、不適切な処理を主導していた部門以外に、当該問題点を認識し疑問を抱いていた部門や職員も存在していたことも踏まえれば、各部門の担当者に対し、当該部門の管理状況や業務における懸念点等についてヒアリングを実施することは、問題の端緒の把握につながる調査となりうる。

ウ 調査技術の向上

県において無通告査察や組み合わせ調査を充実させるためには、GMP 調査技術が蓄積している PMDA のノウハウを活用し、調査技術の向上を図る必要がある。PMDA との同行調査や、模擬査察等の機会を増やし、特に違反事例の確認のために薬機法 69 条に基づき行われる、特定の事項を徹底的に深掘りする調査に用いられる実効的な調査手法を取り入れ、隠蔽された不正行為を発見する調査に繋げていくことが重要である。

都道府県がこうした調査技術の向上の機会を得られるよう、PMDA の同行調査や PMDAからの講師の派遣等を積極的に行うことができる仕組みの構築が望まれる。

(3) 調査の効率化

GMP 調査に係る作業の効率化の一環として、調査の報告書の作成作業を効率化することを検討すべきである。例えば、リスクベースアプローチの考え方を取り入れ、リスクが低い製造所の構造設備に関する調査の結果、特に問題がなかった場合は、簡潔な調査結果のみを記載し、事業者から提出を受けた構造設備の図面等を別紙として添付するといった簡易な形式にすることも考えられる。

また、報告書を、書類の決裁の形式で指導係の全員が順次確認することにより、レビュー及び情報共有を兼ねるという現状の方法も否定されないが、より効率的な方法についても検討すべきである。例えば、報告書のレビューは上長等の少数の担当者で行い、情報共有については、定期的な短時間の打ち合わせの機会を設け、調査担当者からポイントや留意点をブリーフィングする方法により行うといったことも考えられる。

(4) GMP 調査体制の見直し

上述した通り、富山県の GMP 調査体制は、調査数に対して逼迫した状態にあり、今後、より実効的な GMP 調査を行うためには、GMP 調査員を調査数に見合った数にすることが必要である。

県庁内の薬剤師職員の数が限られているのであれば、

  • 県全体の業務を見直し、必ずしも薬剤師職でなくても行うことができる業務を他種の職員に代替させ、薬剤師職員は薬剤師職であることが要求される専門的な業務を中心に従事させること
  • 薬剤師職員だけでなく、理系の大学又は専門学校卒業相当の知識を有する事務職員を、GMP 調査員とすること
  • 薬剤師職の応募・採用数を増やすため、薬剤師職の給与水準を上げること

などが考えられる。もっとも、いずれも、既存の職員の人事のあり方をも含めた人事システム全体の見直しが必要となるため、短期的には実現が難しい場合には、当面の代替策として、GMP 調査員の資格を必要としない業務を切り分け、当該業務を行う人員を配置することにより、GMP 調査員の GMP 調査以外の業務に係る負担を軽減することが考えられる。

また、GMP 調査について、一定(例えば 3 年以上)の経験を有する者が、GMP 調査員の少なくとも過半数を構成するよう、人事異動に際しての調整を行うことが、経験の浅い調査員の監督や教育の観点から望ましい。

(5) 制度の見直し

ア 製造販売業者による管理の徹底

薬機法上、製造販売業者は、製造業者の製造管理及び品質管理の方法を管理・監督し、流通する医薬品の品質を確保する責務を負っている。今後、製造販売業者が当該責務を十分に果たすことを確保するため、製造販売業者による製造業者の実地での監査の実施を含め、製造業者の管理を徹底するよう、GQP 省令の改正や、GQP 省令の適用に関する運用の改善について、規制当局としての検討が行われるべきである。

その際、規制当局による GMP 調査に際して、製造販売業者による監査記録を閲覧できるようにする等、製造販売業者による製造業者の管理をより活かす仕組みも含め、官民の調査リソースを最大限に活用し、医薬品の製造管理及び品質管理の適正を確保する方策を検討すべきである。

イ 後発医薬品の承認制度の見直し

上記 2.(2)のとおり、後発医薬品の承認に係る GMP 調査申請が一時期に多数の事業者から集中して行われるという実態を踏まえ、後発医薬品の承認に係る GMP 調査の申請時期や、申請書類の内容、GMP 調査の方法について、より合理的なあり方がないかどうかについて、検討が行われるべきである。

ウ 通報の積極的な収集

上記 2.(4)イのとおり、製薬企業等の従業員からの公益通報が積極的に行われることにより、問題の端緒を早期に発見できる可能性がある。

従業員から規制当局への企業の法令違反等に関する通報については、通報を受けた行政機関等が通報者の秘密を保持して調査をすることや、通報された企業が従業員に対する解雇やその他の不利益な取り扱いを行うことを禁じるなど、通報者が不利益を被ることから保護する「公益通報者保護制度」がある。

規制当局として、製薬企業等の従業員に対し、GMP 違反を含む薬機法等の違反についての通報専用の窓口を設けることや、公益通報者保護制度に関する情報の周知を徹底するなど、従業員が公益通報を活用しやすい環境の整備に取り組むべきである。

参照

富山県GMP査察調査委員会報告書

https://www.pref.toyama.jp/1208/kusuri/gmp/kekka.html

富山県の GMP 査察体制及び査察方法等に関する調査報告及び提言

https://www.pref.toyama.jp/documents/19750/toyamagmpsasataukekka.pdf

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