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世界の製薬企業・医薬品売上高ランキング2024年版

2024年度における世界の製薬企業の医療用医薬品売上高トップ10と、世界の医療用医薬品製品の売上高トップ10についてランキング形式でご紹介します。

製薬企業ランキングでは、ファイザー社が4期連続で首位となり、買収や既存製品の成長などが順位変動に影響しました。

製品ランキングでは、キイトルーダが引き続きトップを維持し、新規参入したマンジャロやスキリージなどが大幅な売上増を示しています。

全体の傾向として、100億ドルを超える大型製品が増加しており、市場の拡大がうかがえます。

製薬企業ランキング

2024年度の世界の製薬企業売上高ランキングでは、大型買収や主力製品の成長が各社の順位を左右する結果となりました。トップ10の顔ぶれにも変化が見られます。

2024年度 2023年度 社名 医療用医薬品売上高(100万ドル) 増減率
1位 1位 Pfizer 63,627 7%
2位 4位 Merck 57,400 7%
3位 2位 Johnson&Johnson 56,964 4%
4位 3位 AbbVie 56,334 4%
5位 5位 Roche 54,576 5%
6位 6位 AstraZeneca 54,073 18%
7位 7位 Novartis 50,317 11%
8位 8位 Bristol Myers Squibb 48,300 7%
9位 11位 Eli Lilly and Company 45,043 32%
10位 9位 Sanofi 44,450 9%

トップ3の動向と戦略

1位:Pfizer (ファイザー) - 4期連続首位

  • 売上高: 636億2700万ドル (約9兆6312億円) / 前年同期比 +6.8% (実質 +7%)
  • 分析: 4期連続で首位を維持。コロナ禍でワクチン・治療薬により売上を急拡大させましたが、その需要減速を補う戦略が奏功しています。大きな要因の一つが、2023年12月に完了したがん治療薬大手Seagen(シージェン)の大型買収です。これにより、抗体薬物複合体(ADC)と呼ばれる有望ながん治療薬パイプラインを獲得し、がん領域を大幅に強化しました。シージェンの売上が通期で寄与したことが、コロナ関連製品の売上減少をカバーし、増収を確保する上で重要な役割を果たしました。今後、この買収効果を最大化し、がん領域でのリーダーシップを確立できるかが注目されます。

2位:Merck (メルク) - 2ランクアップ

  • 売上高 (医薬品・ワクチン): 574億ドル / 前年同期比 +7.1% (実質 +10%)
  • 分析: 大幅な増収により、前年の4位から2位へと躍進しました。この成長は、世界売上No.1医薬品である抗がん剤「キイトルーダ」の驚異的な伸長によって牽引されています。キイトルーダは売上高294億8200万ドル (約4兆4627億円) と、前年から約45億ドル (約6770億円) も増加 (+17.9%, 実質+21%) しました。多くのがん種への適応拡大が継続的に成功しており、同社の売上の大きな柱となっています。一方で、キイトルーダへの依存度の高さは、将来的な特許切れリスク(パテントクリフ)への備えという点で課題でもあり、次世代の成長ドライバー育成が急務です。

3位:Johnson & Johnson (ジョンソン・エンド・ジョンソン) - 1ランクダウン

  • 売上高 (医療用医薬品): 569億6400万ドル / 前年同期比 +4.0% (実質 +5.7%)
  • 分析: 医療用医薬品事業は堅調に成長したものの、メルクの力強い伸び率には及ばず、順位を一つ落としました。乾癬治療薬「ステラーラ」や多発性骨髄腫治療薬「ダーザレックス」などが売上に貢献していますが、ステラーラは米国でバイオシミラー(バイオ後続品)が登場し始めており、今後の売上への影響が懸念されます。同社は近年、コンシューマーヘルスケア事業を分社化(Kenvueとして独立)し、医療用医薬品と医療機器(メドテック)事業に経営資源を集中する戦略をとっています。

トップ10圏内の注目企業

  • 4位 AbbVie (アッヴィ): 主力製品「ヒュミラ」のバイオシミラー影響に直面する中、「スキリージ」や「リンヴォック」といった免疫疾患領域の新製品群で売上をカバーする戦略が進行中です。
  • 5位 Roche (ロシュ): 医薬品事業と診断薬事業のシナジーを強みとし、がん領域を中心に安定した地位を築いています。多発性硬化症治療薬「オクレバス」なども好調です。
  • 6位 AstraZeneca (アストラゼネカ): がん領域(「タグリッソ」「イミフィンジ」など)や循環器・代謝・腎疾患領域でバランスの取れたポートフォリオを持ち、新興国市場でも強みを発揮しています。
  • 7位 Novartis (ノバルティス): ジェネリック医薬品事業(サンド)を分離し、革新的医薬品への注力を鮮明にしています。心不全治療薬「エンレスト」や乾癬治療薬「コセンティクス」などが主力です。
  • 8位 Bristol Myers Squibb (ブリストル マイヤーズ スクイブ): 抗がん剤「オプジーボ」や抗凝固薬「エリキュース」が売上の中心ですが、特許切れを控える製品もあり、セルジーン買収で獲得したパイプラインの成功が鍵となります。
  • 9位 Eli Lilly and Company (イーライリリー): 2ランクアップでトップ10入りを果たしました。これは、2型糖尿病治療薬「マンジャロ」や「ジャディアンス」、そして肥満症治療薬としても期待されるGLP-1関連薬の爆発的な売上増によるものです。アルツハイマー病治療薬の開発にも注力しており、今後の成長期待が高い企業の一つです。
  • 10位 Sanofi (サノフィ): アトピー性皮膚炎・喘息治療薬「デュピクセント」が業績を牽引していますが、同製品への依存度が高い点が課題です。ワクチン事業も同社の強みの一つです。

市場全体のトレンドと今後の展望

2024年度のランキングは、以下のトレンドを反映しています。

  • M&Aによる成長加速: ファイザーによるシージェン買収のように、特定の治療領域強化やパイプライン拡充を目的とした大型M&Aが、企業の成長戦略において依然として重要な手段となっています。
  • 特定領域への集中と競争激化: がん、免疫疾患、糖尿病・肥満といった領域では、革新的な医薬品が次々と登場し、市場の成長を牽引する一方で、企業間の競争も激しさを増しています。
  • コロナ禍からの移行: 新型コロナウイルス関連製品の需要は落ち着きを見せ、各社はそれ以外の主力製品や新薬で成長を確保する戦略にシフトしています。
  • パテントクリフへの対応: 主力製品の特許切れ(パテントクリフ)は常に大手製薬企業の課題であり、M&Aや自社開発による次世代製品の育成が不可欠です。

今後も、画期的な新薬の開発動向(特にアルツハイマー病や肥満症などアンメットメディカルニーズの高い領域)、大型製品の特許切れとバイオシミラーの動向、そしてM&A戦略が、世界の製薬企業ランキングを変動させる要因となるでしょう。イーライリリーのような急成長企業がさらに順位を上げるのか、あるいは新たな企業がトップ10に食い込んでくるのか、注目が集まります。

製品ランキング

ランキング概要:トップ交代はならずも、変動続く

2024年度の世界医薬品売上高ランキングは、前年度に引き続き大きな変動を見せました。トップ10のうち7品目の順位が入れ替わるというダイナミックな市場環境が浮き彫りになりました。

2024年度 2023年度 製品名 販売会社 売上高 増減率
1位 1位 キイトルーダ Merck 29,482 18%
2位 2位 エリキュース BMS/Pfizer 20,699 9%
3位 4位 オゼンピック Novo Nordisk 17,450 25%
4位 6位 デュピクセント Sanofi 14,144 22%
5位 5位 ビクタルビ Gilead 13,423 13%
6位 8位 ジャディアンス Boehringer Ingelheim/Eli Lilly 12,383 16%
7位 13位 スキリージ AbbVie 11,718 51%
8位 10位 ダラザレックス/ダラキューロ Johnson&Johnson 11,670 20%
9位 25位 マンジャロ Eli Lilly 11,540 124%
10位 7位 ステラーラ Johnson&Johnson社/田辺三菱製薬 10,754 -5%
12位 9位 オプジーボ 小野薬品工業/BMS 10,141 1%
14位 3位 ヒュミラ Abbvie 8,993 -38%

不動の王者:キイトルーダ(メルク)

1位:キイトルーダ(ペムブロリズマブ) - 米Merck

  • 概要: 免疫チェックポイント阻害剤と呼ばれるタイプの抗がん剤。多様ながん種に対して適応を持ち、単剤療法だけでなく併用療法でも広く使用されています。
  • 強さの理由: 発売以来、継続的な適応拡大戦略が奏功し、対象となる患者層を広げ続けています。早期がんから進行がんまで、多くのがん治療のキードラッグとしての地位を確立しており、売上を伸ばし続けています。2期連続のトップ獲得は、その圧倒的な存在感を示しています。

かつての王者の後退と、次世代エースの台頭

14位:ヒュミラ(アダリムマブ) - 米AbbVie

  • 概要: 関節リウマチ、乾癬、クローン病など、多岐にわたる自己免疫疾患に使用される抗TNFα抗体製剤。長年にわたり世界売上高トップの座に君臨していました。
  • 後退の理由: 2023年に米国市場で特許保護が切れ、バイオ後続品(バイオシミラー)が一斉に参入したことが最大の要因です。価格競争の激化により、売上が大幅に減少し、前年の3位から14位へと大きく順位を落としました。これは、大型バイオ医薬品が直面する「パテントクリフ」(特許の崖)の典型例と言えます。

7位:スキリージ(リサンキズマブ) - 米AbbVie

  • 概要: 乾癬やクローン病などに用いられる抗IL-23抗体製剤。
  • 躍進の理由: アッヴィ社は、ヒュミラの特許切れを見据え、スキリージを次世代の主力製品と位置づけ、積極的に開発・販売戦略(育薬)を進めてきました。高い治療効果と利便性(投与間隔の長さなど)が評価され、前年比50.9%増という驚異的な成長を達成。見事にトップ10入り(前年12位→7位)を果たし、ヒュミラの穴を埋める存在へと成長しています。年間売上高100億ドル超えは、大型製品としての地位を確立した証です。

糖尿病・肥満治療薬市場のニューヒーロー

9位:マンジャロ(チルゼパチド) - 米Eli Lilly

  • 概要: 2型糖尿病治療薬。血糖値を下げるホルモンであるGLP-1とGIPの両方の受容体に作用する、世界初の「デュアル作動薬」です。
  • 急成長の理由: 従来のGLP-1受容体作動薬を上回る強力な血糖降下作用と、顕著な体重減少効果が臨床現場で高く評価されています。特に体重減少効果への期待から、適応外使用も含めて需要が急増していると考えられます。前年比123.5%増という爆発的な伸びで、一気に16ランクアップして9位にランクイン。イーライリリー社の新たな成長ドライバーとなっています。(※同様の作用機序を持つ薬剤は肥満症治療薬としても承認・開発が進んでいます)

競争激化の中で順位を落とす実力派

12位:オプジーボ(ニボルマブ) - 小野薬品工業 / 米Bristol Myers Squibb

  • 概要: キイトルーダと同じ免疫チェックポイント阻害剤(抗PD-1抗体)。世界に先駆けて登場し、がん免疫療法の時代を切り開いた薬剤の一つです。
  • 順位低下の理由: 売上自体は前年比1.0%増と堅調に推移していますが、キイトルーダをはじめとする競合薬の適応拡大や、他の領域(糖尿病薬など)の薬剤の急成長により、相対的に順位を下げる結果となりました(前年9位→12位)。依然として重要な抗がん剤であることに変わりはありませんが、競争環境の激しさを物語っています。

市場全体のトレンド:「ブロックバスター」の大型化が加速

今回のランキングは、個々の製品の浮沈だけでなく、市場全体の大きなトレンドも示唆しています。

  • 製品の大型化: 年間売上高100億ドル(現在の為替レートで約1.5兆円超)を超える「ブロックバスター」と呼ばれる超大型製品は、2023年度の9製品から13製品へと4製品も増加しました。同様に、50億ドル超の製品も25製品から32製品へと7製品増加しています。これは、革新的な新薬が特定の疾患領域で大きなシェアを獲得し、巨額の売上を生み出す傾向が強まっていることを示しています。
  • 重点領域: 抗がん剤(キイトルーダ、オプジーボなど)、自己免疫疾患治療薬(スキリージなど)、そして糖尿病・肥満治療薬(マンジャロなど)が引き続き市場を牽引しています。特にGLP-1関連薬の市場拡大は目覚ましいものがあります。
  • バイオシミラーの影響: ヒュミラの事例は、バイオ医薬品の特許切れが市場に与えるインパクトの大きさを示しています。今後、他の大型バイオ医薬品も同様の状況に直面する可能性があり、各社の製品ライフサイクルマネジメント戦略がますます重要になります。

まとめ

本記事では、2024年度の世界製薬企業・医療用医薬品売上高をランキング形式でご紹介しました。

企業別では、ファイザーがシージェン買収も寄与し4期連続首位を維持。メルクは主力のがん治療薬「キイトルーダ」の驚異的な伸びで2位に躍進しました。イーライリリーも糖尿病・肥満治療薬「マンジャロ」等の急成長を背景に9位へ順位を上げました。

製品別では、メルクの「キイトルーダ」が2期連続で売上トップ。イーライリリーの「マンジャロ」(9位)とアッヴィの乾癬治療薬「スキリージ」(7位)が大幅増収でトップ10入りを果たしました。一方、かつての王者「ヒュミラ」はバイオシミラーの影響で14位へ後退しました。

全体として、大型買収や主力製品の成否がランキングを大きく左右し、100億ドルを超える大型製品が増加する市場拡大の傾向が見られます。

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