ビジネス全般

中長期の経済財政に関する試算(令和3年7月21日 経済財政諮問会議)

本試算は、経済財政諮問会議の審議のための参考として、内閣府が作成し、提出するものである。

本試算は、経済・財政・社会保障を一体的にモデル化した 内閣府の計量モデル(経済財政モデル)を基礎としている。

したがって、成長率、物価及び金利などはモデルから試算 されるものであり、あらかじめ設定したものではない。

試算の内容は、種々の不確実性を伴うため相当な幅を持って 理解される必要がある。

1.はじめに

政府は、骨太方針2021において、「経済あっての財政」との考え方の下、デフレ脱却・経済再生に取り組むとともに、財政健全化に向け、歳出改革努力を続け、あわせて歳入改革を進めていくこととした。この中で、財政健全化目標として、①2025年度の国・地方を合わせた基礎的財政収支(以下「PB」という。)黒字化を目指すとともに、②同時に債務残高対GDP比の安定的な引下げを目指すことを堅持することとした。

本試算は、経済再生と財政健全化の進捗状況を評価するとともに、今後の取組に関する検討に必要な基礎データを提供することで、経済財政諮問会議における審議に資することを目的としており、以下の経済シナリオ及び財政の想定の下、中長期の経済財政の展望を行っている。

2.経済に関するシナリオと想定

2022年度までの経済動向については、内閣府年央試算等に基づいている。2023年度以降については、過去の実績や足元の経済トレンドを基に、今後想定されるGDPや物価動向等の中長期的なマクロ経済の姿を、2つのケースで比較考量できるように示している。

(1)成長実現ケース

政府が掲げるデフレ脱却・経済再生という目標に向けて、政策効果が過去の実績も踏まえたペースで発現する姿を試算したものである。

具体的には、成長実現ケースでは次の前提を置いている。

  • 全要素生産性(TFP)上昇率が、日本経済がデフレ状況に入る前に実際に経験した上昇幅とペースで、足元の水準(0.4%程度)から1.3%程度まで上昇する。
  • 労働参加率が、平成30年度雇用政策研究会において示された「経済成長と労働参加が進むケース」の労働力需給推計を踏まえて推移する。
  • 外国人労働者が、国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口」における外国人数と、特定技能の在留資格に係る外国人労働者の「受入見込み数」を踏まえて推移する。

(2)ベースラインケース

経済が足元の潜在成長率並みで将来にわたって推移する姿を試算したものである。

具体的には、成長実現ケースとの主な前提の違いは次のとおり。

  • 全要素生産性(TFP)上昇率が将来にわたって0.7%程度で推移する。
  • 労働参加率が平成30年度雇用政策研究会において示された「経済成長と労働参加が一定程度進むケース」の労働力需給推計を踏まえて推移する。

3.財政面における主な想定

財政面では、次の想定を基に、2.で示した2つの経済シナリオとそれぞれ整合的な姿を示している。

  • 2021年度の歳出・歳入については、令和3年度予算等を反映している。
  • 2022年度の歳出については、物価・賃金の動向やこれまでの歳出効率化努力等を勘案し、結果として高齢化等を除く歳出について、これまで同様の歳出改革を続けた場合の半分程度の歳出の伸びの抑制を仮定して機械的に計算している。その上で、公的固定資本形成については、内閣府年央試算に基づき、名目値で実績期間の過去5年間の平均並みとの仮定を置いている。
  • 2023年度以降の歳出については、社会保障歳出は高齢化要因や物価・賃金上昇率等を反映して増加し、それ以外の一般歳出は物価上昇率並みに増加する。
  • 2022年度以降の歳入については、税収等はマクロ経済の姿と整合的な形で推移する。

4.経済再生と財政健全化の進捗状況と今後の展望

【進捗状況】

2020年度の経済成長率は、新型コロナウイルス感染症の影響で厳しい状況となり、実質▲4.6%、名目▲3.9%となった。2021年度については、感染拡大防止のために経済活動を抑制してきたこともあり、年度前半は緩やかな回復となるが、公的支出により経済を下支えする中で、ワクチン接種の促進等もあってサービス消費が回復に向かい、輸出や設備投資の着実な増加とあいまって、年度後半に回復ペースが速まり、実質3.7%程度、名目3.1%程度の経済成長が見込まれる。

財政面では、PB11赤字対GDP比については、2020年度は、感染症に対応するための補正予算による歳出増などから10.5%程度となる見込みである。2021年度は、前年度補正予算の繰越し等の影響を含め6.8%程度となる見込みである。この結果、公債等残高対GDP比については、2020年度は209.2%程度、2021年度は211.0%程度となる見込みである。

【今後の展望】

成長実現ケースについては、新たな成長の原動力となるグリーン、デジタル、地方活性化、子ども・子育てを実現する投資の促進やその基盤づくりを進め、潜在成長率が着実に上昇することで、実質2%程度、名目3%程度を上回る成長率が実現する。この結果、名目GDPが概ね600兆円に達する時期は、感染症の経済への影響を見極める必要があるが、2024年度頃と見込まれる。また、消費者物価上昇率は、2025年度以降2%程度に達すると見込まれる。
財政面では、PBは、歳出改革を織り込まない自然体の姿で2025年度に対GDP比で0.5%程度の赤字となり、PB黒字化の時期は2027年度となる12。引き続き、デフレ脱却と経済再生への道筋を確かなものとし、民需主導で質・量ともにより高い成長を実現していく中で、歳出・歳入両面の改善を続けることが重要である。公債等残高対GDP比は、試算期間内において、安定的な低下が見込まれる。なお、長期金利の上昇に伴い、低金利で発行した既発債のより高い金利による借換えが進むことに留意が必要である。

一方、ベースラインケースについては、経済成長率は中長期的に実質1%程度、名目1%台前半程度となる。また、消費者物価上昇率は、0.7%程度で推移する。
財政面では、PB赤字対GDP比は、2025年度に1.3%程度となり、試算期間内のPB改善は緩やかなものにとどまる。公債等残高対GDP比は、試算期間内は概ね横ばいで推移する。

(付録)主要な前提

経済成長率及び物価上昇率等については、2019年度までは2019年度(令和元年度)国民経済計算年次推計等、2020年度は「2021年1-3月期四半期別GDP速報(2次速報値)」等、2021年度及び2022年度は「令和3(2021)年度内閣府年央試算」(2021年7月6日経済財政諮問会議提出)等による。

(1)マクロ経済に関するもの

成長実現ケース

① 全要素生産性(TFP)上昇率

日本経済がデフレ状況に入る前に実際に経験した上昇幅とペース(1982年度から1987年度までの、5年間で0.9%程度の上昇ペース)で、足元の水準(0.4%程度)から1.3%程度まで上昇。

② 労働力
<労働参加率>

性別・年齢階層別労働参加率が、平成30年度雇用政策研究会(2019年1月15日)において示された「経済成長と労働参加が進むケース」の労働力需給推計を踏まえ推移(例えば、25-44歳女性の労働参加率は、2020年度の80%程度から2030年度の89%程度まで徐々に上昇。

また、65-69歳男性の労働参加率は、2020年度の62%程度から2030年度の68%程度まで、65-69歳女性の労働参加率は、2020年度の40%程度から2030年度の49%程度まで徐々に上昇。)。

<外国人労働者>

国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口」を踏まえ、外国人数が増加(2019年の244万人から2030年に315万人)。

それに加え、「特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針」(2018年12月25日閣議決定)で示された「受入見込み数」を踏まえ、新制度に基づく34.5万人程度の外国人労働者の受入れ拡大に伴って労働力人口が増加。

③ 世界経済等
<世界経済成長率(日本からの輸出ウェイト(主要10ヵ国)を勘案した実質成長率)>

2023年度から2025年度の間は、IMFの世界経済見通し(2021年4月)に基づく成長率(年率3.3~3.5%程度)で推移し、それ以降は3.3%程度で横ばい。

<物価上昇率(日本からの輸出ウェイト(主要10ヵ国)を勘案した物価上昇率)>

2023年度から2025年度の間は、IMFの世界経済見通し(2021年4月)に基づく上昇率(年率1.9~2.0%程度)で推移し、それ以降は2.0%程度で横ばい。

<原油価格>

2023年度以降、世界銀行の商品市場見通し(2021年4月)に基づく上昇率(平均1.6%程度)で推移。

ベースラインケース

上記「成長実現ケース」との違いは次のとおり。

① 全要素生産性(TFP)上昇率

将来にわたって0.7%程度(2002年1月以降(第14循環以降)の平均)で推移。

② 労働力

<労働参加率>

性別・年齢階層別労働参加率は、平成30年度雇用政策研究会(2019年1月15日)において示された「経済成長と労働参加が一定程度進むケース」の労働力需給推計を踏まえ推移(例えば、25-44歳女性の労働参加率は、2020年度の80%程度から2030年度の88%程度まで徐々に上昇。また、65-69歳男性の労働参加率は、2020年度の62%程度から2030年度の64%程度まで、65-69歳女性の労働参加率は、2020年度の40%程度から2030年度の45%程度まで徐々に上昇。)。

③ 世界経済等

<世界経済成長率(日本からの輸出ウェイト(主要10ヵ国)を勘案した実質成長率)>

2023年度以降、IMFの世界経済見通し(2021年4月)に基づく成長率(年率3.3~3.5%程度)を年率0.8%pt程度(注)下回る成長率(年率2.5~2.7%程度)で推移する。

(注)IMFの世界経済見通しの予測における50%信頼区間を考慮

(2)税制

  • 国の一般会計税収については、2019年度は決算、2020年度は決算概要、2021年度は予算を反映。
  • 「所得税法等の一部を改正する法律」(令和3年法律第11号)等を踏まえ、改正後の税制が継続するものと想定。
  • 「東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法」(平成23年法律第117号)、「東日本大震災からの復興に関し地方公共団体が実施する防災のための施策に必要な財源の確保に係る地方税の臨時特例に関する法律」(平成23年法律第118号)を踏まえ、復興特別税の実施、個人住民税均等割の税率引上げを反映。

(3)歳出

  • 国の一般会計歳出については、2019年度は決算、2020年度は決算概要、2021年度は予算を反映。
  • 2022年度については、物価・賃金の動向やこれまでの歳出効率化努力等を勘案し、結果として高齢化等を除く歳出について、これまで同様の歳出改革を続けた場合の半分程度の歳出の伸びの抑制を仮定して機械的に計算している。その上で、公的固定資本形成については、内閣府年央試算に基づき、名目値で実績期間の過去5年間の平均並みとの仮定を置いている。
  • 2023年度以降の期間については、「全世代対応型の社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律」(令和3年法律第66号)を反映した上で、社会保障歳出は高齢化要因や物価・賃金上昇率等を反映して増加、それ以外の一般歳出は物価上昇率並みに増加する(実質横ばい)と想定。社会保障・税一体改革等を踏まえ、消費税率引上げ後に、社会保障制度改革の実施などにより一定の歳出増が、各年度において社会保障の充実・安定化と財政健全化の両立が図られつつ段階的に生じることを想定。
  • なお、社会保障歳出は、将来の人口動態、マクロ経済の動向などを基に、経済財政モデルにおいて内生的に推計されるものであるが、政策的要因その他の外部要因による変動も大きく、相当の幅をもって理解される必要がある。
  • 2020年度については、地方公共団体の補正予算のうち、東京都と大阪府の補正予算を計上。

(4)東日本大震災復旧、復興のための歳出及び財源に関する想定

  • 歳出については、「平成28年度以降の復旧・復興事業について」(2015年6月24日復興推進会議決定)、「平成28年度以降5年間を含む復興期間の復旧・復興事業の規模と財源について」(2015年6月30日閣議決定)、「令和3年度以降の復興の取組について」(2020年7月17日復興推進会議決定)等を基に、2020年度までの事業規模が31.3兆円程度、2021年度からの5年間の事業規模が1.6兆円程度となると想定。
  • 財源は、「平成23年度第3次補正予算及び復興財源の基本方針」(2011年10月7日閣議決定)や「今後の復旧・復興事業の規模と財源について」(2013年1月29日復興推進会議決定)、「平成28年度以降の復旧・復興事業について」(2015年6月24日復興推進会議決定)、「平成28年度以降5年間を含む復興期間の復旧・復興事業の規模と財源について」(2015年6月30日閣議決定)、「令和3年度以降の復興の取組について」(2020年7月17日復興推進会議決定)等を踏まえ、復興特別税や歳出削減、税外収入等により、総額32.9兆円程度が確保されると想定。
  • 東京電力に求償される除染・中間貯蔵施設事業に係る歳出および当該歳出に対する東京電力による支払いについては、「原子力災害からの福島復興の加速のための基本指針」 (2016年12月20日閣議決定)に基づき、総額を5.8兆円程度と想定し、これまでの執行・支払状況も踏まえ、歳出・歳入パターンを想定。

参照

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