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1. はじめに
アステラス製薬が、米バイオ医薬品企業のアイベリック・バイオを約59億ドル(約8000億円)で買収することを発表しました。この買収は、アステラス製薬がこれまで行った買収の中でも過去最高額となります。アイベリック・バイオは、眼科領域に特化し、老化などによって引き起こされる難病「加齢黄斑変性」に対する新薬候補「ACP」を開発しています。すでに米食品医薬品局(FDA)に薬事承認を申請しており、承認が下り次第、早期の販売を見込んでいます。
このような買収が行われる背景には、製薬業界全体でのM&A活発化があります。新型コロナウイルス下で医療機関が逼迫し、治験の参加者集めが難しくなる中、新薬候補の獲得に競争が起きているためです。また、アステラス製薬の主力薬である「イクスタンジ」が特許切れを迎え、収益減少が予想されることから、新薬候補の獲得が急務となっていました。
製薬業界におけるM&A活発化は、今後も続く可能性があります。経済活動の回復に伴い、買収価格の高騰や競争が激化することも考えられます。今後の動向に注目が集まります。
2. アイベリック・バイオについて
アイベリック・バイオは、2007年に設立された米バイオスタートアップ企業です。同社は眼科領域に特化し、難病である「加齢黄斑変性」に対する核酸医薬品「ACP」の開発に取り組んでいます。
ACPは、老化によって引き起こされる加齢黄斑変性に対して効果をもつ画期的な医薬品です。この疾患は視力低下や失明を引き起こすことがあり、高齢者にとって重大な問題となっています。アイベリック・バイオのACPは、核酸医薬品という新しい治療アプローチを用いており、期待される効果が大きな注目を浴びています。
現在、ACPは米食品医薬品局(FDA)に薬事承認を申請しており、早期の承認と販売開始を目指しています。FDAはACPを優先審査に指定しており、8月19日を目標として審査を終了させる予定です。アイベリック・バイオの技術と研究成果に対する期待は高まり、承認が下り次第、患者への提供が始まる見通しです。
アステラス製薬によるアイベリック・バイオの買収により、新たな眼科領域の新薬候補がアステラス製薬のパイプラインに加わることになります。この買収によって、より多くの患者に対して効果的な治療手段が提供される可能性が期待されています。
3. アステラス製薬の買収の意図
アステラス製薬がアイベリック・バイオを買収する背景には、同社の買収の意図があります。アステラス製薬は、主力薬である「イクスタンジ」の特許切れによる収益減少を補うため、新薬候補の獲得を目指しているのです。
イクスタンジは、アステラス製薬の主力商品であり、前立腺がんの治療に用いられています。しかしながら、特許の切れる2027年ごろからは、競合他社による後発薬の登場が予想され、イクスタンジの売上が減少する可能性があります。
このような状況を受けて、アステラス製薬は新たな収益の柱を確保するために、アイベリック・バイオの買収を決定しました。アイベリック・バイオが開発中のACPは、眼科領域に特化した新薬候補であり、アステラス製薬のパイプラインにおいて大型のポテンシャルを秘めたものとなります。
アステラス製薬は、ACPが年間売上高10億ドルを超える「ブロックバスター」になると期待しています。イクスタンジの特許切れによる収益減少を補うだけでなく、アイベリック・バイオの買収により新たな成長エンジンを手に入れることで、アステラス製薬は将来の成長に向けて力強いステップを踏み出すことができるでしょう。
4. 製薬業界のM&A活発化
近年、製薬業界全体でM&A(合併・買収)が活発化しています。この傾向は、様々な要因によるものですが、特に新型コロナウイルスの流行や新薬候補の獲得競争が背景にあります。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、医療機関は一時的に逼迫し、臨床試験(治験)の参加者募集や新薬の開発が困難になりました。このような状況下では、製薬会社は新薬開発におけるリソースの制約や不確実性に直面しました。しかし、感染状況の収束が見えてきた現在、製薬業界は再び注目を浴びています。
製薬企業は、新薬候補を獲得するために積極的にM&Aを行っています。新型コロナウイルス関連の医薬品やワクチンの需要が高まった一方で、他の治療領域における新薬の販売は予想を下回るケースもあり、経営に不透明な部分が生じました。そのため、資金力を取り戻した製薬企業が、有望なバイオベンチャー企業を買収しようと奪い合う構図が形成されています。
このような背景から、製薬業界全体でM&Aが活発化しており、将来的な成長と競争力を確保するための重要な手段となっています。製薬企業は、新薬パイプラインの強化や市場拡大を目指して、戦略的な買収を進めています。
製薬業界は依然として不確実な要素が存在するものの、経済活動の正常化に伴い、M&Aが今後も活発化し続けることが予想されます。新たな技術や新薬候補の獲得を通じて、製薬企業は成長とイノベーションを追求し、医療の進歩と患者への貢献を目指していくでしょう。
5. まとめ
アステラス製薬がアイベリック・バイオを約59億ドルで買収し、眼科領域の新薬候補を獲得したことが分かりました。アイベリック・バイオは、加齢黄斑変性に対する新薬候補を開発しており、アステラス製薬はその薬剤が年間売上高10億ドルを超える「ブロックバスター」になると期待しています。製薬業界全体でM&Aが活発化しており、新型コロナウイルス下での影響や新薬候補の獲得競争が背景にあるとされています。今後も製薬業界のM&A活発化が続く可能性があります。